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開拓都市3


 ハレンは彼の提案を受け入れることにした。依頼に勝敗は関係ないこと、そして報酬として渡航の口利きをしてくれることが決め手だ。

 ギルドに併設された訓練場には野次馬と化した冒険者が集った。


「すまない、騒ぎにするつもりはなかったんだ」

「……構わない」


 苦虫を噛み潰したような表情でありながらそう告げたハレンにレリックも苦笑いを浮かべるも木剣を構え直すと同時にその表情は真剣なものとなる。一方でハレンはというと。


(どの段階で負けるべきか)


 負ける算段をかんがえていた。

 ここで勝利することもハレンならばできる。しかし、そんな目立つことをすれば注目を浴び渡航が難しくなるかもしれない、そう思えば勝つ気も失せるというもの。だがここであまりにも無様な負け方をすれば昇級に影響がでるかもしれない。ちょうど良い塩梅で負けを演じる必要がハレンにはあった。


(数発打ち合って木剣を弾かせるか)


「二人とも準備はいいか?」

 

 ダンが立会人として二人に確認をし、問題ないことを判断すると手を振り下ろし始めの合図をした。


「始め!!」


 合図と共に飛び出したのはハレン。最初に自身が攻めることで観客に自身が上級相手でも恐れないことを印象付けるためだ。

 両手で振り下ろされた木剣はレリックに受け止められカーン音をたてた。

 ハレンはそのまま木剣を滑らせ突きを放つ。レリックは鍔でそれを弾くとハレンの体勢が左に倒れたそこにレリックは右下からの逆袈裟切り。ハレンは身体を捻りギリギリで避けるも長い髪が数本巻き込まれた。ハレンは身体を捻った勢いのまま前へと進みレリックと距離を取る。


「良く避けたね」

「たまたまだろう」

「そうかい?」


(もしや大抵の相手はあの一合で決着がついたのか?失敗したか)


 次に先手を取ったのはレリックだ。剣を上段から真っ直ぐ振り下ろす。ハレンが後ろに躱すと足をすくうように横に薙ぐ、ハレンが上に飛んだ所にすかさず回し蹴り。ハレンは咄嗟に木剣の腹で受けた。

 冒険者達から感嘆の声が上がる。野次馬のつもりが思っていたよりもしっかりとした試合に彼らは見いっていた。


「やっぱり強いね想像以上だ。でも、うん大体わかった」

「ほう?」

「……瞬歩」

 

 観客の冒険者達のうち何人が今の動きを目で追えたのだろうか、ほとんどの冒険者は突然レリックが消えたように見え、そしてハレンの後ろを取ったというのが後からわかったという状態だ。

 最初とは比べ物にならないスピードに流石Cランクとの声が聞こえる。


「僕のわがままに付き合ってくれてありがとう」


 ハレンの首もとに木剣をピタリとくっ付けたままレリックは感謝を告げた。

 

「……大したことはない、報酬もあるしな。それにお前も想像以上の強さだな」


 特に木剣を特に気にせずハレンは答えた。並みのCランクでは出来ない動き、後ろの男もまたランク不相応の強さを持つことにこの時初めて気づいた。思わず逆手で握っていた自身の木剣をダンに渡し。挨拶をしてハレンは依頼を受けに窓口へと向かった。


「どうだった直接ヤッて」


 ハレンから渡された木剣を片付けたダンがレリックに問いかける。立会人として間近で試合を見ていたダンは二人の動きを把握していた。

 

「強いよ少なくとも一対一で勝てる人はこのギルドにいないだろうね。最後完璧に後ろを取れたと思ったんだけどね」

「実際に取れたんじゃないんですか?」

「あー後ろには行けたんだけどね」

「ララ、あの女咄嗟に木剣を持ち変えて後ろに回ったレリック対応しようとしたんだ」

「ですがレリックさんの木剣がハレンさんの首もとに」

「途中で動きを止めたっぽいんだよね。見逃された。悔しいなぁ」

「まぁ、向こうも思わずって感じだし今回は引き分けか?」

「完全に手の上で踊らされただけでしょ」

「ルリは厳しいなぁ」


 レリックは図星をつかれ笑うことしかできなかった。

 思い返すは試合中のハレンの動きせいぜいDランク上位くらいの強さかと思えば自身では強さの底が見えそうにない。


「DいやCかな」

(僕が推薦すればCにあげてくれるだろうか)

「……アンタの考えはなんとなくわかるけどその言い方は誤解生むわよ?」

「え、なにが?」

「突然胸の大きさ語り出すのかと思ったぜ」

「えっ!?いや違っ!」

「レリックさん、そういうのは」

「いや!ホントにちがくて」

「うわ~レリックのスケベ」

「スズまで!?」


 ひとしきり笑いあった後スズが聞いた。


「うちらなら勝てる?彼女に」

「……正直わからない、けど勝ってみせる。だろ?」

「そうだな」

「当たり前よ」

「頑張りましょう」

「だね!」


 ダンが、ルリが、ララがそしてスズがリーダーに答える。彼らは開拓都市の英雄。その目に迷いは無かった。



(はぁ、ついつい身体が動いてしまった)


 ハレンは窓口で適当な討伐依頼を見繕いそれをこなしながら一人、脳内反省会の最中だった。


(有望株との知己を得られたのはいいがあれでは目立つだろうに、何より彼らに実力を悟られた。ギルド長に告げ口するようなタイプではないように思えるが、…………うかつだった。)


 流れ作業のように野犬を見つけては狩る。せめて苦しまぬようにと心ここに非ずで首を落とす姿は見る人によっては一生もののトラウマになるだろう。そんな状態でも返り血の一滴すらついていないのは見事と言える。


(……瞬歩、冒険者の間ではメジャーな技だったか。詠唱ありであの速度……微妙だな)


 ハレンによるあの技の評価は辛辣だった。この世界では魔術師だけでなく、戦士などの近接職や弓や銃を扱う遠距離物理職も攻撃や防御に魔力を使う。その為、攻撃であれば大規模な威力を持たせるために詠唱として技名を口に出すことが多い。魔力操作に重要なイメージをしやすくなるからだ。

 今回レリックが使ったのは移動の技だが詠唱をすることでその効果を引き上げている。

 ちなみにハレン、ゲールはゲーム時代から一貫して詠唱は好んで使わない、詠唱をすれば隙となるし何をするか相手にばれることがあるからだ。

 無論威力や効果は詠唱付きよりも下がるがゲールはそれを誤差とした。実際ゲーム時代でもメリットデメリットは好みで蹴りのつく部分があった。

 

(個人的に彼らは信用できると判断していいだろう。ああは言ったが何かあれば頼るようにアイツらには言っておくか)


 16匹ばかり狩りその首をアイテムボックスに入れとしへと戻る少し足取りは重かった。


(酒でも飲むか)


 夜の予定が決定した。

 

──────


 同刻、魔物の代名詞とも言えるゴブリンが集まっていた。


「コレデゼンブカ?」


 昔は豪華絢爛であったことを感じさせる玉座に座っているのは紅い大剣を持った一匹のゴブリン。そして問いに頷きで答えたのは分厚い盾を持ちと鎧を着たゴブリン。そのタイプはもう一匹いた。

 玉座から見下ろされガタガタと震えているのもゴブリンだった。


「ナニカイウコトハ?」

「グルゥグルッ」

「グラッグウ」

「キクニタエン」


 ガタガタ震えているゴブリンと玉座回りにいるゴブリンに違いがあることは明白だった。

 玉座回りにいるゴブリンは言葉を扱うのはもちろんのこと目を引くのはその体躯だ。おおよそゴブリンとは思えない筋骨隆々な身体。腕の太さは震えているゴブリンの胴回りと同じくらいだ。


「ツイホウシロ」


 玉座に座るゴブリンの一声で震えていたゴブリン達は追い立てられた。これは裁判だった。人間社会を模倣するように犯罪をおかしたゴブリンを罰する。

 彼らが見えなくなると玉座のゴブリンは深く息をつき傍らにある紅い大剣を撫でた。


「そろそろ頃合いですね」


 突然響いたのは男の声。いつから居たのか先ほどまで震えたゴブリンが居た場所に黒いローブを着こんだ誰がが立っていた。


「ヒサシイナ、ワガトモヨ」

「あっはっは、2週間かかそこらでしょう」

「ナンノヨウダ?」

「言いましたよね?頃合いだと」

「……カテルノカ?」

「それはあなた次第ですね」


 古い友人との関係を思い起こさせる気軽なやり取り、いっそ尊さすら感じる。その相手がゴブリンという点を覗けば。

 彼らの関係は何も友人というわけではないただ、互いの利害が一致したから協力しているだけだ。


「シングンハイツニスル?」

「二週間後、それまでに兵を整えてください」

「ワカッタ」

「期待していますよ。紅き王よ」

 

 ローブの男に見送られ、さっそくとばかりに玉座のゴブリンは紅い大剣を持ち同族達のいる広場へ向かった。

 見送ったローブの男は薄ら笑いを歪ませ既に見えなくなった玉座のゴブリンにありったけの侮蔑に満ちた目を向ける。


「ゴブリンごときが、私と友人だとでも?気色の悪い、まぁいい大人しく命令にしたがっている間は好きに思っていろ」


 ローブの男は周囲を見渡し無人の空間に問いかける。


「ギギはいるか?」

「なんですかい」


 ローブの男の影が揺らめいたかと思えば形が変わりおおよそ人のものとは思えない姿が浮かぶ。声はどこか軽薄そうな印象を与えた。


「あの冒険者についてわかったことは?」

「いやぁなんもわからなかったんですよ。なかなか警戒心が強いヤツってことはわかりましたがね」

「……仕事を達成できなかったということか」

「いやいや、俺じゃなけりゃあ速攻でバレて殺されしたよ」

「実力はあると?」

「それはもう間違いなく」


 彼らが話しているのはハレンのことだった。彼らにとって目標としている地域に突如現れた異物。ちょっとやそっとで崩れる計画を立てたつもりはなかったが高レベルの冒険者や兵士ならばひっくり返されるかもしれないと彼らは警戒していた。

 影の声には実感が籠っていた。事実、影は今日のハレンとレリックの試合を見ていた。もちろんその場で見たことが全てではないことも理解していた。ローブの男も影を信用しているのかそれ以上質問することもなく思案に耽る。

 影はしばらく伸びたり縮んだりと好き勝手に動きまわり少ししてしびれを切らしたように逆に質問した。


「旦那から見てどうだったんだい?」

「……。」

「旦那ぁ」

「……なんだ?」

「はぁ、聞いててくださいよ。旦那から見てどうだったんですかい?」

「底が見えん。警戒が必要だ」

「おおっ!思ったよりも高評価」

「ふんっ、敵を過小評価するバカになったつもりはないぞ」

「またまたぁ。旦那は他のヤツを見下す癖があるからなぁ」


 からかうようにグニョグニョ動く影を忌々しそうに睨み付けるも、思うところがあるのかローブの男は何も言わなかった。それを見てさらに影は調子に乗ったがローブの男の咳払いを受け動きを止めた。


「ともかく、計画は今まで通りだ。しかし手は打っておく、働いて貰うぞ」

「任せてくださいよ!なんでもやるぜぇ」


  一瞬日が陰ったかと思えばそこには誰も居なかった。それこそ最初から何もなかったかのように。

 ここはゴブリン達の住み家。かつては巨大な国の首都だった場所。最初にここにたどり着いたゴブリンはやがて大きな勢力を作り上げ近隣の群れを吸収し巨大化、まさにゴブリンの王国を築いたのだ。

 その正体は『双子星』最初の大型イベント[ゴブリン•キングダム]、初のレイドイベントでありその後も多く開催されるキングダム系のイベントの源流となったものだ。

 ゲーム時代ではゴブリンの討伐数は1万を超え時折発生したプレイヤー達の前線拠点への襲撃イベントでは多くのプレイヤーとゴブリンが入り乱れた。当時はプレイヤーの実力も低くとあるトッププレイヤーが最も苦労したイベントと語ったこともある実績もあった。

 ゲーム時代とは違い繁殖を続けたゴブリン達の数は今では2万を上回り、ローブの男が介入した結果ゴブリンの質も上がっている。ほとんどのゴブリンがホブへと進化を果たし武器も石製から鉄製の物へ、一部は鎧を纏っている。立派なゴブリンの軍隊といえるその牙が開拓地を襲うべく動き出した。


――――――――

(少し飲みすぎたか)


 キリは途中で仕事があるからと退席したがハレンは1人で酒を楽しんだ。そのうちにすっかり夜は更けり、街を散歩しながらゲーム時代から変わらずそこにある月をハレンは眺めていた。

  

 

  

 

 


 

 

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