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開拓都市2


  ハレンが宿へ戻ると既にキリも帰っており酒場となっている宿の一階で食事を取っていた。


「おお!帰ってきたかお帰り、お先にやらせて貰ってるよ」

「ああ……見ればわかるさ、オススメは?」

「このエールと、腹は減ってるか?それなら腸詰めの盛り合わせだ」

「ならそれで」

「よしきた。おーいオヤジさん!!」


 ハレンはキリに促されて席に着く。キリが注文してくれたので手持ち無沙汰に辺りを見渡す。


「良い宿だろう?」

「そうだな、客層も悪くなさそうだ」

「そりゃあそうよここは紹介がなきゃ使えねぇんだ」


 ハレンはそんなに自身のことを気に入ったのかと少し目を丸くした。


「よかったのか?ほぼ初対面の人間を」

「いいっこなしだぜそれはよぉ、ま、俺は人を見る目は自信があってね」

「そうか期待に添えるよう頑張るとしよう」

「そうしてくれ、んでその時はどうぞご贔屓に……」

「もちろんだ」


 そんな他愛の無い話をしていればすぐにエールと腸詰めの盛り合わせが運ばれてきた。ハレンは店主に金を払い早速エールを一口飲み、すぐさま腸詰めを齧り再びエールを呷る。


「うまいな、ここらで作った物か?」

「エールはそうだ。腸詰めは……あんたが齧ったのは違ぇな。そりゃあ東大陸産だ。交易船がやられたからこれからは貴重だぞ」

「ふむ、ならば味わっておかなければな、店主追加を頼む!」


 そうして飲んでいくうちに話どんどん盛り上がっていった。特に今日までの苦労話はお互いに自然と熱が入る。


「というわけで、新たな取り引き先の確保ができたってことよ」

「ほう、しかし売るものはどうするんだ?」

「それが問題なんだよ、仕入れの予定がパアになったしよ。まぁ、それはなんとかなるがそっちはどうなんだ?今後」

「冒険者ギルドへの登録は終わった。コツコツ仕事をしていくさ」

「つっても時間がかかるぜ?今日聞いた話じゃ渡航制限のためにEランク以下は船に乗れねぇってよ」

「……それは困るな。正攻法では時間がかかる。……そういえば受付では聞いてなかったがここは特進制度が使えるのか?」

「んぁ……ああ、使えるハズだ」


 冒険者ギルドにおける特進制度とは登録している冒険者のランクと実力に大きな差がある時に適用される制度であり元々は冒険者ギルド設立当初に既に相当な実力者でありながらギルドに登録していなかった高レベルプレイヤーなどを受け入れるために作られたものだ。

 現在では一部のギルドマスターにのみ使用が許された。余り適用されることの無い制度だが、この都市のギルドマスターにはその権限があるようだ。良いことを聞いたと思わずハレンは破顔する。


「なら、竜を持ち込めばイケるだろう?どこまで上げてくれるかな?」


 キリは二つの理由で目を丸くした。一つはハレンがそんな笑い方をするとは思わなかったこと。もう一つは竜を狩ったと言ったことだ。竜を狩れるのならばその竜の種類にもよるがFやGランクどうこうの話では無く、Cランクに手が届く範囲だからだ。


「ハレン、あんた本当に竜を?」

「ん?ああ、言ってなかったか。そもそも村に来たきっかけだったんだ。傷を負った竜が飛んできた方向を目指して歩いてな、それで村を見つけたんだ」

「……その話が本当なら明日朝早くから冒険者ギルドに行った方がいい」


 キリはハレンが嘘を言っているようには見えず。驚くと共に少し声を小さくしながら忠告した。


「もしかしたらだが、その竜が今回街を襲った竜かもしれねぇ」 

「……そうなのか?」


 つられてハレンの声も小さくなった。


「俺も冒険者じゃねぇから竜の見分けはつかねぇよ。けど、そもそも竜はそう数多い存在じゃねぇのは知ってる。それに一週間くらい前にこの街の筆頭とも言える冒険者が追跡に行ったハズだ」

「……見たな。今日」

「あの人達帰ってきたのか!?」

「おそらくな」


  行商人として何か計画をたてているのかキリは腕を組んで考え込む。ハレンはそれを邪魔することなく新たなツマミと酒を注文した。

 そこからあまり時間をおかずにキリは真剣な面持ちでハレンに告げた。


「竜のことは隠して置いた方がいい」


 なぜわざわざそうしなければいけないのかハレンは理解できなかった。


「いまじゃあ竜を殺せるヤツが少なくたなったんだ」


 ハレンの疑問にキリは答えようとしたのだがやはりハレンはキリが言っていることが解らなかった。いや、言葉の意味は解るのだがなぜそうなったのか何が起きたのかという部分が欠落していた。


「……どういうことだ?」


 ハレンは戸惑いを隠せなかった。この世界がただのゲームであった頃なら竜を狩るのが一人前の証った。少なくともプレイヤーの半数ができたしNPC であってもできる者はいた。少なくとも全員をバラバラに配置すれば各都市に一人は置ける程度には、キリはそれが少なくなったと言ったのだ。


「お前が知らないのもムリはない……そもそもこの新大陸には情報が来ないからな、知ってるのは俺みたいな商人かお偉いさんだけだ」


 そこまで言うとキリはエールをあおり話を続けた。


「今から半月ほど前だこの世界に魔物が溢れた。みんなモンスターパニックって呼んでる。前兆は無かったよあらゆる国に、都市に、村に大量の魔物が押し寄せた。しかもただの魔物じゃねえ有名所で言えば怪鳥、竜の巣、幽霊船団、大森鹿、鯨竜、砂鰐とか、討伐されたハズの魔物も現れた。ヤツらは世界を蹂躙したんだ。いくつもの国が滅んだペルネサが一夜にだぞ!」


  一息にそこまで話すとキリは嗚咽を浮かべエールを机に叩きつけた。

 しかし、ハレンは意外にも冷静でいられた。想像だにしていなかったからだろうか現実味が無いのもその助けになったのかもしれない、脳裏に浮かぶのはかつて自身も挑み下した魔物の数々それらが一度に暴れだしたのなら国が滅ぶのも当然だろうという考えすら浮かんだ。

 ペルネサについても覚えがあった。バルトリアと同じ西大陸にある国だ。北西部と南部という離れた距離にあり国として関わりは無かったが、ペルネサがプレイヤーが作った最大の国家ということもありその上層部、王や大臣なんかをしていた者達とは個人的な繋がりがあった。


(キリはペルネサの出身か)


 もしかすればキリは国の滅ぶ姿を見たのかもしれない、そしてバルトリアは無事なのか、自身の知らぬところで滅びていないか、そう思えばハレンの寒気にも似た感覚を覚え身が震えた。


「……それで、なぜ竜のことを黙れと?むしろ言った方が昇級も早そうだが」

「ん、そうかもしれねぇ、けどそうしたらお前はこの大陸から出られなくなる。ほぼ間違いなくな」


(なるほど、戦力確保のためか、貴重な実力者を有することで他のギルドに対し優位となるか。……知りもしないギルドの駆け引きに使われるのは確かに面倒だな)


「わかった。公言しないようにしよう」

「それがいい、幸い人材不足から昇級は簡単になってる。お前ならギルドに目をつけられない速度だとしてもすぐに渡航許可も手に入るだろう」

「……他にこの世界で何が起きた?」

「俺が知ってるのはこれくらいだ。あとは、すでに幾つかの大物は狩られたってことと対処が間に合わなかった所もあるってことだ」

「三大国は?」

「フロット王国、アレント帝国、聖国のことか?それなら無事らしい、無傷じゃあないがな」

「そうか……」

(フロットが無事ならバルトリアも無事か?特にボス級の魔物もいないしな……。しかしそうか、ペルネサが滅んだか)


 ハレンは目をつぶり友人達へ黙祷を捧げた。


(ゲーム内時間で60年近くの付き合いか、何人か生きていればいいが)


 そこからはハレンがペルネサについて質問しキリがそれに答える形となった。

 懐かしそうにそして、楽しそうに語るキリの姿を見てペルネサが彼らにとっても良い国だったのだろうと今更ながらハレンは知った。


 次の日ハレンは忠告どおりに竜のことは隠してギルドにはゴブリンの討伐の証である耳だけを納め冒険者としての第1歩を迎えた。


「それでは頑張って下さい」


 昨日使った窓口の男は今日も空いていた。名前はハルオという。毎日会うためすっかり顔馴染みなってわかったことだがこの男なかなか優秀な男だった。説得したのかあるいは権限があるのか知らないが冒険者をはじめてまだ2週間しか経っていないにもかかわらずハレンはFランクに昇級できた。

 もっとも大抵3週間ほど欠かさず仕事をすれば昇級できるのがGランクだが少しでも急ぎたいハレンにとってはとてもありがたかった。


「ひぃ、ふぅ、みぃ……ふむ、さっさとEにあげるか?」


 昇級の仕組みとして基本的に仕事の完遂回数で昇級できるのがF、特定の魔物の討伐がE、その両方を合わせたのがDそれ以上はギルドからの指名依頼の達成というものだ。

 すでに十二分な実力があるハレンはすでにEランクに手を掛けていた。


「よう、嬢ちゃん順調か!?」

「もちろんだ。すぐに追い付く」

「この前はうちのもんが悪かったね」

「気にしないでくれ」


 キリは冒険者のなかではソコソコ有名らしく、キリと付き合いのあるハレンは開拓村の出身だと思われたこと、それに見た目がよかったからだろう。想像よりも余所者扱いされることは少なく、比較的簡単に他の冒険者と打ち解けることができた。

 村には週一で行っておりライルとミアはその度に凄まじい成長を見せている。この前は二人のために剣を用意し振らせてみたが体幹がしっかりしているのでそこまで不恰好になることなく振れていた。この調子ならすぐに冒険者になれるだろうというのがハレンの見立てだ。

 順調な冒険者生活を送っていたがある日突然、開拓都市の英雄、ハレンが初めて冒険者ギルドに来た時に見た男レリックとそのパーティーが次の依頼を吟味していたハレンに話しかけた。


「はじめまして、君がハレンさんであっているかな?」

「……たしかレリック、さんだったか」

「そうだよこっちは僕のパーティーメンバー」

「おう」

「どうも」

「よっ!」

「はじめまして」

 爽やかな笑顔で話しかけてきたレリックは目当ての人物であるとわかるとパーティーメンバーを紹介した。

 

(右から鎧を着こんだ髭面の大男のダン、とんがり帽子と杖が特徴の魔術師のルリ、どこでも素足の小柄なスカウトのスズ、おっとりした聖職者のララか)

「流石は開拓都市の英雄御一行、バランスのいいパーティーだな」

「ありがとう、自慢のパーティーさ」

「それで、私に何の用が?」


 彼らから特に接点などなかったので挨拶もソコソコにハレンは聞いた。レリックは普段どおりだと言えるのかもしれない笑顔だが、そのパーティーメンバーからの値踏みするような視線が気になった。


「ああ、だがここじゃあなんだろ、場所を移そうと思うんだけど、どうかな?」

「人前では駄目なのか?」

(何を狙っている?)

「うーん、僕は構わないんだけどね。その……村に行ったんだ」

「そうか、わかった場所を変えよう」

 (あの村のことだな、これは狙いがあるというより気遣いか)

「ありがとう、それじゃあついてきてくれ部屋は確保している」


 レリック達についていけば、何があったのかと冒険者達の好奇の視線が刺さった。

 ギルドの2階に部屋を用意したようで階段を上がってすぐの部屋に通された。


「率直に聞こう。ライルとミアをしっているかい?」

「もちろんしっている」

 

 椅子に腰掛けてすぐにレリックは切り出した。

 何でもハレンが初めて冒険者ギルドに来た時に見た男達、レリック達が一度村に訪れそのときにお墨付きとスカウトされたほどらしい。

 その時にライル達がハレンの名を出して断ったので直接ハレンに確認したかったようだ。


「アイツらは輝くもん持ってる。俺達はそこを見込んだ」

「魔術の才能があるかはわからないけれど今から鍛えれば十分使えるようになるハズよ」

「それにアンタは西大陸に行くのが目的なんだろう。アイツらの面倒を見きれるのかい?」

 ダンとルリ、スズがレリックに続ける。彼らはハレンの想像よりもライルとミアを気に入ったようだ。


「ふむ」

(確かに国に帰る時期によっては足手まといになるのは事実。今ではなくてもゆくゆくはコイツらに任せるのも手か?)

「どうだい?君が言えば彼らも、不満は言うかもしれないが、了承はするだろう」

「……いや、悪いが断らせて貰う」

「……なぜかな」

「なに、一度引き受けた仕事だ途中で放り投げては私の沽券に関わるのでね」

「置いていくのにかい?」

「連れていくさ、多少ムリをしてでもな」

「……そうかい」


 第三者がいれば部屋の温度が何度も下がったと錯覚したであろう。重くなった空気はレリック達の肌をヒリつかせる。ダンやスズなんかは既にそれぞれの武器へと触れている。ハレンは自然体で椅子に座っているがその手は腰置かれていた。


「わかった。じゃあこれはお詫びといってはなんだけど個人的な依頼だ」


 変わらない笑顔でレリックが空気を変えた。彼のパーティーメンバーからも先程の殺気は感じられない


「依頼だと?」

「ああ、僕たちと戦ってくれないか?」

 

 


  


 

  

 

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