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開拓村4


 ハレンがライルとミアの二人を弟子にとってから早くも12日過ぎていた。二人は毎朝、早くからハレンのもとへやって来るようになり、いつしか村の周囲の見回りまで着いてくる。

 さすがのハレンもゴブリンを討伐しようとする時には一度家に帰らせ終わったら迎えに行くという風にしていたが、二人の熱意は凄まじくこのままではゴブリン退治にまで着いてこようとする雰囲気だった。


「師匠っ!今日はどこまで歩くんだ?」

「今日は昨日見つけた木に登るとしよう」

「ああ、だから今日は破れてもいい服を着てこいって言ったんですね」

「そうだ」


 子供の成長とは凄まじいもので訓練を初めて一週間そこらだというのに二人の体力はみるみる伸びていった。最初の森歩きでは二人とも次の日、筋肉痛で動けなかったにも関わらず今ではライルはもちろんのことミアも背負われることなくハレンの後ろを歩いた。ハレンも少しずつ歩く道の難易度を上げたりしたのだが子供の成長にはかなわなかったようで、最近では歩く意外にも走ったり跳んだりするようになった。

 観察力も向上したようでハレンの一挙手一投足を見逃すまいとまばたきすら忘れて穴の空くように見つめてくる二人にそういうことではないと、逆にハレンがまいるほどだった。既にキズ付けた木ではもの足りず草木の種類や鳥の種類、歩いた歩数なども完璧に頭にいれていた。元々の才覚があったのだろう特にミアの成長が著しく、木に生る果実の数を覚えていたこともあった。

 変わったのはライルとミアの二人だけではない、村民のハレンを見る目も変わっていた。最初は村長の命の恩人ということで感謝され丁寧に扱われていたもののどこか余所者であるといった接し方でもあった。しかし、二人を連れて歩く姿をみて少しずつ村の一員として認められたのだ。

 当のハレンが気にしてはいなかったがその雰囲気を感じとってライルとミアは自身のことのように喜んだ。


「そういえば師匠、そろそろ行商人さんが来るんじゃないですか?」

「あーそういえばそうだな、母ちゃんがそろそろ塩とかの備蓄が心配だって言ってし」

「ふむ、そもそも行商人は何日間隔でで来ていたんだ?」

「んーと、週一ですね」

「先々週、というか師匠が来る前日に帰ったんだ。んでそのときに街がヤベーから来週はこれないかもって多めに商品置いてってくれて」

「それで、先週こなかったから今週来ると」


 ハレンの質問に二人は同時に頷き答えた。


 (今週来るのなら街での計画を立てておくか、結局ここが開拓村であることしかわからなかったし、たしか村長達もその街の出身だと言っていたな。街で周辺の国が何かわかれば国に帰る予定も立てられるのだが)


 歩きながら考えを巡らせ始めたハレンを見て二人はヒソヒソ、話だす。

 

「でた師匠のクセ」

「他の人からしたら何も考えて無いように見えるんだよね」

「……二人とも、木登りには時間制限をつけようか」

「ヤベッ聞こえてた!?」

「ごめんなさい~!?」


 結局木のてっぺんまで十秒の制限を付けられ二人は涙目になりながら木を登るハメになった。日が落ちるまでにはなんとかノルマを達成し、少しボロボロになった服でハレンより先に二人は村へと戻っていた。


「身体が痛ぇ」

「高いところ嫌いになりそう」

「落ちても受け止めるから安心しろってなんだよ」

「というか師匠は軽いジャンプでてっぺん越えるのおかしいって」


 口々に今日の訓練の反省もとい愚痴をいいながら村に着くと広場は賑わいをみせていた。二人はその光景に見覚えがある。


「「行商人(さん)だ!!」」


 村には娯楽が少ない、そもそも娯楽を楽しむ時間がない、そんな村での生活で数少ない楽しみは狩人が狩りを成功させてきた時に行われる飲み会やこの行商人がやってきたときだ。


「師匠も戻ればよかったのに」

「ゴブリン退治だって言っていたし少ししたら帰ってくるでしょ」

「それもそうか、面白いもん売ってるかな?」

「どうだろう、というか今は私たちじゃあ交換してもらえる物がないし、お母さんにたのむの?」

「うーん、この前拾った木の種じゃダメかな……?」

「ムリ」


 二人は興奮しながら広場に駆け寄る。やはりそこにいたのはほぼ毎週来ていた行商人だった。行商人は二人を見つけると笑顔で手を振る。


「おお!坊主と嬢ちゃんじゃねぇか元気にしてたか!」

「もちろんだ!」

「お久しぶりです!」

「おうおう!元気で結構。……ん?なんかボロっちいな母ちゃん達服作って無いのか?」

「ちげぇよコレは訓練の結果だ!」

「最近村に来た人に稽古をつけて貰ってるんです!」


 二人がそういうと行商人は感心したようで感嘆を漏らした。しかし、疑問もわいたようで怪訝な顔をしながら二人に聞いた。


「先々週まではいなかったよな?ここに誰か案内した記憶もねぇしどっから来たんだ?というかそもそもソイツ冒険者か?」


 聞かれた二人は一瞬顔を見合せ少し誇らしげに答えた。


「なんだ、村長から聞いて無かったのか。そうだよ、おっちゃんが帰った後に来たんだ」

「ゴブリン退治に出て命の危険が迫った村長を助けてくれた人なんです。たしか冒険者ではないって言ってました」

「そうかぁ、まぁ、信頼出きるならいいんだけどよ。結局どっから来たんだ?」

「さあ?本人もわかんねぇって言ってたぜ」

「突然気づいたら山のなかに居たんですって」


 村長を助けたと聞いたときは笑顔だっった行商人はハレンがどこから来たのかわからないと知り眉をひそめた。


「そいつは、本当に大丈夫なのか?まぁ言っちゃあなんだがこの村に盗むもんは無いしそういった心配はないかもだけどよ」

「大丈夫ですよ。そもそも師匠がここに来たのは街までの道を教えてほしいからだそうですし」

「道かぁということは俺が連れてくことに何のか……。というか師匠って呼んでるのかよ」


 師匠某を信頼できるのか街へ連れて行って良いのか商人としての考えと子供達が懐いている様子とで行商人は頭を抱えてウンウン悩みだした。ライルとミアは師匠が街まで行けるようにここで行商人を説得するべきだとアイコンタクトし行商人にハレンの良いところを口にする。


「師匠は厳しいけど俺達のことしっかり考えてくれてんだ!」

「師匠は最初、疲れて寝てしまった私たちを背負って帰ってくれたんてます!」


 やんややんやと囃し立てる二人に驚きながら行商人はわかったと告げた。


「そのお師匠さんがいい人なのはわかったからそこまでにしてくれ、ほら干し葡萄やるからよ」

「やったー!」

「ありがとうございます!」


(まぁ、悪いやつではなさそうか?村長の家に居るだろうし直接会ってから考えるか)


 干し葡萄を口にいれ静かになった二人を見ながら行商人はそう考えた。行商人としての勘はそのお師匠さんが危険だとはささやかないので大丈夫だろうと当たりを着けつつも、人を見なければ決めはしないというのは商人としての基本だ。


「そういえば、馬車そんなにキズありましたか?」

「ん?ああ、ソレかよく気づいたな。街で色々あってなそん時についたんだ」

「街が荒れたんだっけ、なにがあったんだ?」

「それはだなぁ」


 行商人が話をしようとしたときだった遠くにみたことがない人影が映りこみ、思わず行商人はその人影に指を指し二人に尋ねる。


「あの人かい、噂のお師匠さんは?」

「えっ?ああ!そうですあの人です!」

「おーい!師匠ー!」


 手を振る二人にハレンは手を振り返した。少したってハレンが行商人の所にくると行商人は驚いた。


(師匠って、女の子かよ……)


「初めましてこの村に行商やらせて貰ってるキリと申します」

「初めまして、あなたがそうでしたか、この村でお世話になっているハレンと言います」

「話はこの二人から聞いてますよ。街にいきたいんですって?」

「はい、街に行って冒険者になろうかと」


 (おいおい本当に冒険者じゃないのかよ)

「そうでしたか、ではその旨また後で村長お宅に伺いますんでその時に」

「わかりました。キリさん、よろしお願いいたします」

「師匠、初対面とかだと丁寧だよな」

「……お前もいずれ覚えるんだぞ」

「マジ?」

「依頼主に馴れ馴れしくするつもりか?」

「……頑張ります」

「はっはっはっ、ホントに師弟なのか!」


 二人のやり取りをみて思わずキリは笑いだす。会ってから1月も経っていないというのに既に二人の関係が完成していたからだ。


「話以上に仲が良いんですね!坊主よかったな」

「そりゃ師匠と俺の仲だからな」

「……そうですね。彼らも良い子ですから」

「よし!あんたなら信用できそうだ。気軽にキリって呼んでくれよ俺もその方が楽だ」

「ならそうさせて貰う、そっちもハレンで良い」

「おう!俺はもうしばらくここに居るから先に村長ん所行っててくれ」

「わかった。お前達ももう家に帰っておけ」

「わかりました」

「はーい」


──────


 その日の夕食はキリも混じっての食卓だった。といっても会話の多くはハレンに対して街までの道のりの説明だった。歩き辛い所や坂、川といった具合だ。しかし、道の複雑さとは裏腹に距離自体は対したことが無いようでそれこそ急げば1日で、日が昇ってから沈むまでに街と村を行き来出きるようだった。

 その為話題は街自体に移るのも時間の問題であり、切り出したのはハレンだった。


「そうだ。街が荒れたと聞いたが一体何が?」

「ん?ああ、その話か。村長達には話したっけ?」

「いや、オラは聞いてねぇ」

「あたしもだよ」

「そうだったか、なら話そう。あれは先々週、こっちに来る前だ」


 キリは佇まいを変えて話し始めた。

 途中脱線した部分を省くとこういった話だった。

 どうやら街の周辺で一時、大量にモンスターが現れたそうで冒険者はその対応にてんやわんや、いままでになかった事件なので街の防衛に住人まで駆り出されたとのこと実際に街の近くの村で滅びたところもあったそうだ。

 幸いにもモンスターの規模の割には被害は少なく平穏を取り戻したと思ったのもつかの間、次は竜が街を襲ったのだという真っ赤な赤竜で比較的若い個体じゃなければ街も滅んだという。


 (あの時の竜か?)


 その話を聞いてハレンが真っ先に思い出したのはこの世界が現実となった日に狩った竜だった。


 (アレで街が滅びかけたということは余り戦力がない?……いや、出払っていただけの可能性の方が高いか)


「それでよう、なんと同じような事件が東西両大陸でも起きてらしいんだ」

「ちよっとまて、あるのか東大陸が!」


 急に前のめりになり質問するハレンに驚きつつもキリは肯定した。


「あ、ああもちろんだ。もしやアンタ東大陸出身かい?」

「そうだ。そうか、あるのか……。バルトリア王国を知っているか?もしくはアステラ王国は?」

「すまねぇ、東大陸については知らねぇんだ。でもアステラについては知ってるぜ、あそこも混乱したようだが今は持ち直したって話だ」

「いや、構わないそれだけ聞ければ十分だ」

(プレイヤーが作った国があるのならアイツらも来ているってことだろう。ならバルトリアもあるはずだ。モンスターによる混乱で滅んではないハズ、そんな国作りはしてないが……。心配だ)


「一端話を続けるぞ?」


 キリはハレンに確認をとり再び話す。


「そんで世界中大混乱したみてぇでな大陸間船がいま止まってるんだ」

「そりゃやべえな物資の補給が無いと」

「こっちの生産だけじゃ足りないんだったかい?」

「……そういえばここはどこだ?」

「そうなんだよ、こっちも大陸向けの商品がだぶつくかも知れなくてなぁ……。ここか、ああ気づいたら居たんだったか、ここは通称新大陸、アンタが東大陸から来たんならちょうど真反対だな。ここは西大陸と新大陸の玄関口みてぇな所だ」

「新大陸、聞いたことなかったな」

「まあ、しょうがねえだろここも最近出来たばっかだしよ」


 その言葉に村長達も頷いた。ハレンとしては聞き慣れない情報が多く受け入れるのには少し時間を要した。


「まぁ、街に行けばもう少し詳しいこともわかるだろう、冒険者ギルドもあるしな、明日は昼前に出発する。もう休んどけ」

「……そうさせて貰う。お休みなさい」


 キリに促されハレンはその場を後にする。村長達は不安そうに見ていたがキリが話しかけ、新たな会話に花を咲かせた。


──────

(船か、暫くは運航しないとしたらやはり冒険者が一番だな、こういう時に便利だ昔頑張って整備したかいがあるというものだな)


 ベットで一人ハレンは昔を懐かしみながら今後に思いを馳せていた。新大陸、かつてゲーム内でも聞いたことの無い土地、ゲームでのマップ制覇率は全プレイヤー平均で50% に届いていなかったことを考えればそれもあり得る話ではあるがハレンとしては現状帰れるかどうかの瀬戸際であり、悩みの種となった。


(アイツらには明日話してそれからは冒険者業に支障が出ない範囲で来てやるとしよう)


 ハレンは目を閉じ眠りについた。

 

 

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