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2/17

開拓村


 翌日目が覚めたゲールは軽く身体をほぐし昨日小さく切り分けまとめて焼いておいた竜の肉の一片を齧り砦を発った。

 今日は人里が見つかるようにと、願掛けし再び木々を切り倒しながら竜が来た方向へと歩き出す。

 途中木の倒れる音につれられた巨大な熊を殴り倒し、見つけた小川で魚を獲り、2回夜が明け山を8つ越えた辺りだった。

 ゲールはゴブリンを見つけた。


(あのゴブリン手製の石斧をもっているな)


 ゴブリンはどこにでもいるということでスライムと同等クラスに有名な魔物だがスライムと違って社会性を有する魔物というのが特徴だ。人とは比べ物にならないがゴブリン同士で群れゴブリンにとっての国を作ることもある。

 何より群れの長、つまり王を殺された時新たな王に従うといったこともある。魔物としては高度な知能を備えた亜人とも言われる種族だ。

 さて、そんなゴブリンだがゲールが見つけたゴブリンは手にする道具がゴブリンの中でも発達したものだった。ゴブリンが作る道具は基本的木製でありたまに先端が削られているというのが常なのだが、稀に石製、さらには鉄製の道具を使用している群れもある。

 そういった群れは大抵優秀な長を有している。そして、大抵そういったゴブリンとして優秀な長は 人里を狙う。大きくなった群れを養うには洞穴では大きさが足らず、森での狩猟では食料も足りなくなるらだ。村を襲い家を手に入れ家畜を食らいそれもなくなれば新たな村を襲う。それがゴブリンの習性だ。

 

(近くに村があってもおかしくない)


 ゲールはそう判断した。ゲールがまず周囲の地形を確認していると、ゴブリンの死体が転がっていた。その数は1つではなくさらには複数の地点でも確認できた。


(思っていたよりゴブリンの死体の数が多いい。相当大きな群れを作ったか。……既に村を占領してないといいが)


 幸いゲールの不安は外れた。ゴブリンの死体があった地点から逆算した所の近くに向かう途中でおそらく村人だろう人間を見つけたからだ。


「はっはっはっはっ!!」

 

 しかし、その男はゴブリンから逃げている最中だった。

 ゲールは腰の剣をアイテムバックへとしまい砦で見つけた古ぼけた斧を手に取ると、男にもっとも近かったゴブリンを手始めとして上から襲い頭を割る。

 急に現れた乱入者に男とゴブリン達は驚き動きを止める。


「うおっ!?」


 どうやら驚きのあまり足を絡ませ転んだ男を尻目にゲールは手にしていた小石を最後尾のゴブリンに向かって手首の動きだけで投げつける。それと同時にゲールは駆け出し手近にいたゴブリン2匹の喉を切り裂く、放たれた小石はゴブリンの右目を貫きゴブリンは倒れた。

 1匹、逃げ出したゴブリンがいたが既に遅くゴブリンが取り落とした手製の槍をゲールは投げ逃げたゴブリンを木に縫い付けた。

 他にゴブリンがいないことを確認するとゲールは男に向き直り。


「無事ですか?」


 声を掛けた。

 幸い男には転んだ時に出来た怪我しかなく命に別状はなかった。しかし、足を挫いたようで仕方なくゲールは男を背負い男の案内で山を降りた。


「じゃあずっと森のなかを?」

「そうですね。といっても数日ですけど」

「いやいや数日でも凄いじゃないかオラなんて1日で根を上げちまうよ」

「慣れの問題ですよ。貴方こそゴブリン退治だなんてよくやりますね」

「オラ達にとって生きるか死ぬかだからなぁ村を襲われるわけにはいかねえよ」


 なぜ森のなかにいたのかなどを答えながら歩いているとやがてゲール達は遠目に村を見つけた。


「あそこがオラの村だ!他の奴らも村に戻れてるといいんだが」

「囮をわざわざしたんです。大丈夫ですよ」


 実際ゲールの言う通りだった。村に近付くと何人かの男達が村の周囲を見張っており最初ゲールを見つけ警戒するもその背居る男を見ると顔を笑わせ村に向かって何事か叫び、数人の男を連れて走ってゲール達のもとへ来た。


「無事だったか!!」

「すまねぇ俺がへまをしちまったばっかりに!!」

「そのお嬢ちゃん誰なんだ!?」


 男達は思い思いに声を掛け男の無事を喜ぶと同時に当然ゲールについて質問する。


「この人はオラの命の恩人よ!お前ら失礼の無いようにな!」

「そうだったのか!村長をありがとよ!」

「ずっと背負ってきたのか見かけによらないんだなぁ!」

「どうも……あはは」


 背負った男が村長ということに驚きつつ村人達に詰め寄られるゲール。解放されたのは村長の妻が泣きながらやって来た後だった。


───────


「すまないねぇウチのバカどもが、アンタもずっと背負われてるんじゃないよ!」

「痛いっ痛いって、叩かないでくれよ」

「いえ、私は気にしてませんから」


 村の中へ案内されたゲールは男の、改め村長の家へと招かれた。

 話を聞くところによるとどうやらここは最近作られた開拓村であるらしく人口も54人と小規模だ。


「そうだ!まだ恩人さんの名前を聞いて無かったな何て言うんだい?」

「ああ、ハレンといいます」


 ゲールはあらかじめ考えておいた名前を告げる。

女の名前でゲールは不味いと思ったことと、何より国に帰ったとき元帥が他国を渡り歩いたと知られれば不要な懸念を他国に与えることにるからだ。


「ハレン、いい名前じゃない!」


 幸い村長の奥さんは疑うことも無く受け入れた。


「それで何でこんな辺鄙な所に来たんだい?」


 奥さんは続けてゲール改めてハレンに聞いた。


「それは……」

「何でも気づいたら森の中にいたそうだ」


 ハレンが答える前に村長が奥さんの質問に答えた。


「気づいたら?」

「そうなんです。嘘だと思うのは百も承知ですが真実でして、私も何がなんだかわからないことが多くて」

「ふぅん、まあアンタが悪い奴って感じもしないしそんな嘘つく必要もないしねぇ」


 奥さんは少し怪訝な顔をするがひとまずは信じることにしたのかハレンの言い分を飲み込んだ。


「じゃあ帰るところあるのかい?」

「それは……」

「そう!だから暫くはオラ達の家に泊めてやりてぇんだ。どうかな?」

「えっ!?」


 村長の言葉に驚いたのはハレンだった。ハレンとしては街までの道を聞くだけの予定だったからだ。


「アンタがいわなくてもアタシが言ってたさ!何せアンタの命の恩人だろう?ほっぽりだす何て言ってたらアタシがアンタをほっぽりだしてたさ」

「オラはそんな不義理じゃあないさ!」

「……しかし、それでは迷惑じゃ」


 心配を口にするハレンにたいして2人は笑みを浮かべて答えた。


「そんなわけないでしょうよ」

 

 と奥さんが

 

「それに今街が荒れているみたいでな、村に来る行商人が暫くこれそうに無いんだ。街までの道は複雑でね口で説明仕切れる気がしねぇし、アンタには申し訳ねぇが人がすくねぇ村だから人を出す訳にもいかんくてなぁ」

「……なら、お世話になります。力仕事とか魔物関係者で何かあれば教えて下さい、こう見えて自信はあるので」

「勿論よ!ハレンさんの強さはオラが一番知ってんだからよ」

「アンタも働くんだよ」

「いてっ」


 ハレンが気負いしないようにだろう村長夫妻は調子よさげに少しふざけた。


(懐かしいな)


 ハレンはその光景に懐かしさを覚えた。ゲーム内時間で40年ほど前、まだソロプレイをメインにしていたときだ。ゲールとして訪れた小さい集落を思い出す。ハレンはその集落を基盤に仲間が出来、国を作るに至ったのだ。


「ひとまずはハレンさん。オラについて来てください部屋に案内しますよ」

「アタイは食事の用意に戻るよ、食えないものはあるかい?」

「いえ、何でも食べます」

「ならよかった」


 台所に向かう奥さんを見送りハレンは部屋へと案内される。家自体は大きい訳ではないが村長の家だから客室が用意されていた。


「申し訳ねぇ、普段は使わない部屋でしてね。それに少し狭いかもしれねぇけど、好きに使って下さい、また飯ん時に呼びに来るけど何か質問はあるかい?」

「いえ、あ、服なんかの予備ってありますか?勿論お金は払います」

「ああ、アイツのお古でよければ何枚かあったハズだ用意しとくよ」

「ありがとうございます」

「それじゃあまた後で」


 そう言い残し村長は階段を降りて行った。ハレンはそれを確認すると扉を閉め部屋を調べる。

 木でできたベットに机と椅子、そしてタンスというとてもシンプルな部屋だ。


(これなら問題ないな)


 ハレンは腰のマジックバックを外し椅子に掛ける。鉢金を外し籠手や脛当、胸当て、鎖帷子なども外しタンスにしまう。


(やっとゆっくり腰を落ち着けそうだ)


 ハレンは椅子ではなくベットの縁に腰かける。ひとまずは人里へたどり着くことが出来た安心感からか、ハレンはどっとした疲れを実感する。


(……さすがに疲れが溜まっていたか)


 重くなっていく身体に堪えきれずベットに倒れる。


(食事の時間まで少し……眠ろう)


 落ちてくる目蓋に任せて目を閉じる。


(少し……だけ、少……し)


 そのままハレンは寝息をたてた。


──────


「ハレンさん、食事の用意出来ましたよ!」


 暫くして村長がハレンを呼びに来る。


「ハレンさん!」


 しかし、村長が何回も呼び掛けてもハレンからの返事はなくさすがに村長も心配して扉に手を掛ける。


「ハレンさん!?入りますよ?」


 村長が扉を開け部屋に入るとそこにはベットで眠るハレンの姿があった。

 装備を外し緩めた服の隙間からは綺麗な肌を覗かせる。女としては高めな身長をしているが寝ている姿はあどけない子供のようだった。

 村長の脳裏には今日の出来事が思い浮かんだ。木々の中から落ちて来た姿は最初、新たな魔物だと思った。しかし、すぐに目に入ったのは濡れ鴉のような艶やかな髪、そして自身を一瞥する切れ長で金色の目はとてもこの世の者とは思えなかったが、確かに人のモノだった。微笑みを浮かべたときにキラリと光る犬歯が頭をよぎる。


(何日か遭難してたらしいけど……いい匂いだったなぁ)


 背負われたときのことを思いだし悦に浸っていた村長の頭を奥さんが木のスプーンで叩く


「見とれてんじゃないよ」

「……ぐっ、悪かったよ」

「全く、これだから男ってのは」

「オラはお前一筋さ」

「ならさっさと下に行ってな!」

「よしきた」


 駆け出す村長に呆れた視線を送りながら奥さんは部屋へと入りハレンにタオルケットを掛けようとしたところでハレンは目を覚ます。


「……奥さんでしたか」

「おや、悪いね起こしちゃっかい?」

「いえ、こちらこそすいません。少しだけの予定だったのですがつい」  

「ならよかった。食欲はあるかい、なんだったら寝てていいんだよ?」

「いただきます。食事は大切ですから」

「なら先に下に行ってるよ」

「ありがとうございます」


 奥さんが部屋を後にするとハレンはゆっくり立ち上がり背伸びを1つ。


(……少し無用心だったか?)

 

 窓がしっかりと閉まっていることを確認し、装備などはそのままにハレンも部屋を後にする。一階に降りればテーブルの上にはパンと野菜のスープ。しっかりとした食事にハレンひ頬をほころばせる。


「あ、あーキタカ、ハレンさん」

「すいません、お待たせしましたか」

「……いや、そういうわけじゃあないんだけどよぉ」

「ハレンちゃん、コイツの言うことは気にしないで大丈夫だよ。ほらおいで、ここ座んな」


 奥さんは自身の隣にハレンを招く。ハレンは素直に隣に座り数日ぶりのパンとスープに舌鼓を打った。


「うまいかい?」

「はい、とっても」

「ならよかった。スープはおかわりあるから好きなだけ食べな」

「ありがとうございます」

「なら、オラももう一杯」

「アンタの分は無いよ!」

「そんなぁ……」


 と言いつつもしっかり村長のおかわりのスープを取りにいく奥さん。賑やかな食卓をハレンは楽しんだ。


──────


 (少し食べすぎたか)


 あの後スープだけでなくパンのお代わりもご馳走してくれた奥さん達に感謝しつつ少し重くなったお腹を抱えてハレンは部屋へともどった。


 (明日は村の案内をしてくれるのか、仕事が何かあればよいが……。さすがにずっとただ飯食らいは申し訳ない)


 ハレンは服を脱ぎ、奥さんが用意してくれた手拭いと盥と水を使い軽く身体を拭う。


(男だったらもう少し警戒されたであろうし、結果オーライという奴か?)


 ハレンは改めて己の身体を確認する。


(身長、体重共に前より減ったな)


 かつての身体を思いだし少し落胆しつつもハレンは身体を拭いて奥さんが用意してくれた服へと着替える。


(魔術がかかってない服に着替えるなんていつぶりだ?……ふむ、胸元は少し大きいな、まあ問題はないか)


 以前ゲールが身に付けていたものは下着から全て魔術的な強化などが掛けられた特別な品ばかり一方ハレンとして今着ているものは量産すらされない服、ハレンは着なれない感覚を覚えた。


(ハレンとしての生に慣れなけばな、……少なくとも生活水準は)

 

 硬いベット身を預けハレンは目を閉じ眠りに落ちた。 


 

 


 開拓村

 翌日目が覚めたゲールは軽く身体をほぐし昨日小さく切り分けまとめて焼いておいた竜の肉の一片を齧り砦を発った。

 今日は人里が見つかるようにと、願掛けし再び木々を切り倒しながら竜が来た方向へと歩き出す。

 途中木の倒れる音につれられた巨大な熊を殴り倒し、見つけた小川で魚を獲り、2回夜が明け山を8つ越えた辺りだった。

 ゲールはゴブリンを見つけた。


(あのゴブリン手製の石斧をもっているな)


 ゴブリンはどこにでもいるということでスライムと同等クラスに有名な魔物だがスライムと違って社会性を有する魔物というのが特徴だ。人とは比べ物にならないがゴブリン同士で群れゴブリンにとっての国を作ることもある。

 何より群れの長、つまり王を殺された時新たな王に従うといったこともある。魔物としては高度な知能を備えた亜人とも言われる種族だ。

 さて、そんなゴブリンだがゲールが見つけたゴブリンは手にする道具がゴブリンの中でも発達したものだった。ゴブリンが作る道具は基本的木製でありたまに先端が削られているというのが常なのだが、稀に石製、さらには鉄製の道具を使用している群れもある。

 そういった群れは大抵優秀な長を有している。そして、大抵そういったゴブリンとして優秀な長は 人里を狙う。大きくなった群れを養うには洞穴では大きさが足らず、森での狩猟では食料も足りなくなるらだ。村を襲い家を手に入れ家畜を食らいそれもなくなれば新たな村を襲う。それがゴブリンの習性だ。

 

(近くに村があってもおかしくない)


 ゲールはそう判断した。ゲールがまず周囲の地形を確認していると、ゴブリンの死体が転がっていた。その数は1つではなくさらには複数の地点でも確認できた。


(思っていたよりゴブリンの死体の数が多いい。相当大きな群れを作ったか。……既に村を占領してないといいが)


 幸いゲールの不安は外れた。ゴブリンの死体があった地点から逆算した所の近くに向かう途中でおそらく村人だろう人間を見つけたからだ。


「はっはっはっはっ!!」

 

 しかし、その男はゴブリンから逃げている最中だった。

 ゲールは腰の剣をアイテムバックへとしまい砦で見つけた古ぼけた斧を手に取ると、男にもっとも近かったゴブリンを手始めとして上から襲い頭を割る。

 急に現れた乱入者に男とゴブリン達は驚き動きを止める。


「うおっ!?」


 どうやら驚きのあまり足を絡ませ転んだ男を尻目にゲールは手にしていた小石を最後尾のゴブリンに向かって手首の動きだけで投げつける。それと同時にゲールは駆け出し手近にいたゴブリン2匹の喉を切り裂く、放たれた小石はゴブリンの右目を貫きゴブリンは倒れた。

 1匹、逃げ出したゴブリンがいたが既に遅くゴブリンが取り落とした手製の槍をゲールは投げ逃げたゴブリンを木に縫い付けた。

 他にゴブリンがいないことを確認するとゲールは男に向き直り。


「無事ですか?」


 声を掛けた。

 幸い男には転んだ時に出来た怪我しかなく命に別状はなかった。しかし、足を挫いたようで仕方なくゲールは男を背負い男の案内で山を降りた。


「じゃあずっと森のなかを?」

「そうですね。といっても数日ですけど」

「いやいや数日でも凄いじゃないかオラなんて1日で根を上げちまうよ」

「慣れの問題ですよ。貴方こそゴブリン退治だなんてよくやりますね」

「オラ達にとって生きるか死ぬかだからなぁ村を襲われるわけにはいかねえよ」


 なぜ森のなかにいたのかなどを答えながら歩いているとやがてゲール達は遠目に村を見つけた。


「あそこがオラの村だ!他の奴らも村に戻れてるといいんだが」

「囮をわざわざしたんです。大丈夫ですよ」


 実際ゲールの言う通りだった。村に近付くと何人かの男達が村の周囲を見張っており最初ゲールを見つけ警戒するもその背居る男を見ると顔を笑わせ村に向かって何事か叫び、数人の男を連れて走ってゲール達のもとへ来た。


「無事だったか!!」

「すまねぇ俺がへまをしちまったばっかりに!!」

「そのお嬢ちゃん誰なんだ!?」


 男達は思い思いに声を掛け男の無事を喜ぶと同時に当然ゲールについて質問する。


「この人はオラの命の恩人よ!お前ら失礼の無いようにな!」

「そうだったのか!村長をありがとよ!」

「ずっと背負ってきたのか見かけによらないんだなぁ!」

「どうも……あはは」


 背負った男が村長ということに驚きつつ村人達に詰め寄られるゲール。解放されたのは村長の妻が泣きながらやって来た後だった。


───────


「すまないねぇウチのバカどもが、アンタもずっと背負われてるんじゃないよ!」

「痛いっ痛いって、叩かないでくれよ」

「いえ、私は気にしてませんから」


 村の中へ案内されたゲールは男の、改め村長の家へと招かれた。

 話を聞くところによるとどうやらここは最近作られた開拓村であるらしく人口も54人と小規模だ。


「そうだ!まだ恩人さんの名前を聞いて無かったな何て言うんだい?」

「ああ、ハレンといいます」


 ゲールはあらかじめ考えておいた名前を告げる。

女の名前でゲールは不味いと思ったことと、何より国に帰ったとき元帥が他国を渡り歩いたと知られれば不要な懸念を他国に与えることにるからだ。


「ハレン、いい名前じゃない!」


 幸い村長の奥さんは疑うことも無く受け入れた。


「それで何でこんな辺鄙な所に来たんだい?」


 奥さんは続けてゲール改めてハレンに聞いた。


「それは……」

「何でも気づいたら森の中にいたそうだ」


 ハレンが答える前に村長が奥さんの質問に答えた。


「気づいたら?」

「そうなんです。嘘だと思うのは百も承知ですが真実でして、私も何がなんだかわからないことが多くて」

「ふぅん、まあアンタが悪い奴って感じもしないしそんな嘘つく必要もないしねぇ」


 奥さんは少し怪訝な顔をするがひとまずは信じることにしたのかハレンの言い分を飲み込んだ。


「じゃあ帰るところあるのかい?」

「それは……」

「そう!だから暫くはオラ達の家に泊めてやりてぇんだ。どうかな?」

「えっ!?」


 村長の言葉に驚いたのはハレンだった。ハレンとしては街までの道を聞くだけの予定だったからだ。


「アンタがいわなくてもアタシが言ってたさ!何せアンタの命の恩人だろう?ほっぽりだす何て言ってたらアタシがアンタをほっぽりだしてたさ」

「オラはそんな不義理じゃあないさ!」

「……しかし、それでは迷惑じゃ」


 心配を口にするハレンにたいして2人は笑みを浮かべて答えた。


「そんなわけないでしょうよ」

 

 と奥さんが

 

「それに今街が荒れているみたいでな、村に来る行商人が暫くこれそうに無いんだ。街までの道は複雑でね口で説明仕切れる気がしねぇし、アンタには申し訳ねぇが人がすくねぇ村だから人を出す訳にもいかんくてなぁ」

「……なら、お世話になります。力仕事とか魔物関係者で何かあれば教えて下さい、こう見えて自信はあるので」

「勿論よ!ハレンさんの強さはオラが一番知ってんだからよ」

「アンタも働くんだよ」

「いてっ」


 ハレンが気負いしないようにだろう村長夫妻は調子よさげに少しふざけた。


(懐かしいな)


 ハレンはその光景に懐かしさを覚えた。ゲーム内時間で40年ほど前、まだソロプレイをメインにしていたときだ。ゲールとして訪れた小さい集落を思い出す。ハレンはその集落を基盤に仲間が出来、国を作るに至ったのだ。


「ひとまずはハレンさん。オラについて来てください部屋に案内しますよ」

「アタイは食事の用意に戻るよ、食えないものはあるかい?」

「いえ、何でも食べます」

「ならよかった」


 台所に向かう奥さんを見送りハレンは部屋へと案内される。家自体は大きい訳ではないが村長の家だから客室が用意されていた。


「申し訳ねぇ、普段は使わない部屋でしてね。それに少し狭いかもしれねぇけど、好きに使って下さい、また飯ん時に呼びに来るけど何か質問はあるかい?」

「いえ、あ、服なんかの予備ってありますか?勿論お金は払います」

「ああ、アイツのお古でよければ何枚かあったハズだ用意しとくよ」

「ありがとうございます」

「それじゃあまた後で」


 そう言い残し村長は階段を降りて行った。ハレンはそれを確認すると扉を閉め部屋を調べる。

 木でできたベットに机と椅子、そしてタンスというとてもシンプルな部屋だ。


(これなら問題ないな)


 ハレンは腰のマジックバックを外し椅子に掛ける。鉢金を外し籠手や脛当、胸当て、鎖帷子なども外しタンスにしまう。


(やっとゆっくり腰を落ち着けそうだ)


 ハレンは椅子ではなくベットの縁に腰かける。ひとまずは人里へたどり着くことが出来た安心感からか、ハレンはどっとした疲れを実感する。


(……さすがに疲れが溜まっていたか)


 重くなっていく身体に堪えきれずベットに倒れる。


(食事の時間まで少し……眠ろう)


 落ちてくる目蓋に任せて目を閉じる。


(少し……だけ、少……し)


 そのままハレンは寝息をたてた。


──────


「ハレンさん、食事の用意出来ましたよ!」


 暫くして村長がハレンを呼びに来る。


「ハレンさん!」


 しかし、村長が何回も呼び掛けてもハレンからの返事はなくさすがに村長も心配して扉に手を掛ける。


「ハレンさん!?入りますよ?」


 村長が扉を開け部屋に入るとそこにはベットで眠るハレンの姿があった。

 装備を外し緩めた服の隙間からは綺麗な肌を覗かせる。女としては高めな身長をしているが寝ている姿はあどけない子供のようだった。

 村長の脳裏には今日の出来事が思い浮かんだ。木々の中から落ちて来た姿は最初、新たな魔物だと思った。しかし、すぐに目に入ったのは濡れ鴉のような艶やかな髪、そして自身を一瞥する切れ長で金色の目はとてもこの世の者とは思えなかったが、確かに人のモノだった。微笑みを浮かべたときにキラリと光る犬歯が頭をよぎる。


(何日か遭難してたらしいけど……いい匂いだったなぁ)


 背負われたときのことを思いだし悦に浸っていた村長の頭を奥さんが木のスプーンで叩く


「見とれてんじゃないよ」

「……ぐっ、悪かったよ」

「全く、これだから男ってのは」

「オラはお前一筋さ」

「ならさっさと下に行ってな!」

「よしきた」


 駆け出す村長に呆れた視線を送りながら奥さんは部屋へと入りハレンにタオルケットを掛けようとしたところでハレンは目を覚ます。


「……奥さんでしたか」

「おや、悪いね起こしちゃっかい?」

「いえ、こちらこそすいません。少しだけの予定だったのですがつい」  

「ならよかった。食欲はあるかい、なんだったら寝てていいんだよ?」

「いただきます。食事は大切ですから」

「なら先に下に行ってるよ」

「ありがとうございます」


 奥さんが部屋を後にするとハレンはゆっくり立ち上がり背伸びを1つ。


(……少し無用心だったか?)

 

 窓がしっかりと閉まっていることを確認し、装備などはそのままにハレンも部屋を後にする。一階に降りればテーブルの上にはパンと野菜のスープ。しっかりとした食事にハレンひ頬をほころばせる。


「あ、あーキタカ、ハレンさん」

「すいません、お待たせしましたか」

「……いや、そういうわけじゃあないんだけどよぉ」

「ハレンちゃん、コイツの言うことは気にしないで大丈夫だよ。ほらおいで、ここ座んな」


 奥さんは自身の隣にハレンを招く。ハレンは素直に隣に座り数日ぶりのパンとスープに舌鼓を打った。


「うまいかい?」

「はい、とっても」

「ならよかった。スープはおかわりあるから好きなだけ食べな」

「ありがとうございます」

「なら、オラももう一杯」

「アンタの分は無いよ!」

「そんなぁ……」


 と言いつつもしっかり村長のおかわりのスープを取りにいく奥さん。賑やかな食卓をハレンは楽しんだ。


──────


 (少し食べすぎたか)


 あの後スープだけでなくパンのお代わりもご馳走してくれた奥さん達に感謝しつつ少し重くなったお腹を抱えてハレンは部屋へともどった。


 (明日は村の案内をしてくれるのか、仕事が何かあればよいが……。さすがにずっとただ飯食らいは申し訳ない)


 ハレンは服を脱ぎ、奥さんが用意してくれた手拭いと盥と水を使い軽く身体を拭う。


(男だったらもう少し警戒されたであろうし、結果オーライという奴か?)


 ハレンは改めて己の身体を確認する。


(身長、体重共に前より減ったな)


 かつての身体を思いだし少し落胆しつつもハレンは身体を拭いて奥さんが用意してくれた服へと着替える。


(魔術がかかってない服に着替えるなんていつぶりだ?……ふむ、胸元は少し大きいな、まあ問題はないか)


 以前ゲールが身に付けていたものは下着から全て魔術的な強化などが掛けられた特別な品ばかり一方ハレンとして今着ているものは量産すらされない服、ハレンは着なれない感覚を覚えた。


(ハレンとしての生に慣れなけばな、……少なくとも生活水準は)

 

 硬いベット身を預けハレンは目を閉じ眠りに落ちた。 


 

 


 

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