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港湾都市グリーンポート2


 緊張したのだろう、二人は椅子にもたれかかった。ハレンから見ても彼は相当の場数を踏んでいる雰囲気を持っている。おそらく邪なことを考えている人間の大半はあの男の視線から目を剃らすだろうという確信がある程に、そして、それは本人も分かっているからこそ話がスムーズに進んだのだろう。


「あの男の商隊はなかなか良さそうだ」

「しばらくあの人と旅するのか」

「まぁ、悪い人ではなさそうでしたもんね」

「そうだな、3日後に向けて準備しよう。旅の鉄則など、覚えておいて損はない」

「「お願いします!」」


 しばらくギルドの一角で講義をしていれば初心者だろう、ライルとミアとそう変わらないような歳の冒険者が聞き耳をたてている。それを見ないふりをして続けていれば少しずつ、周りの席がそういった冒険者で埋まっていった。


「へぇ、魔術で、出した水って普通の水とは違うんだ」

「ああ、本来水には様々な成分があるが、魔術で出すとそういったものが無くなる。もちろん飲料水として利用することも出来るが、味は良くない。大量に飲み過ぎるのも良くない、わざわざ飲料水用の魔術が作られる位には」

「じゃあ、他の魔術で行えるものも通常のとは異なるところがあるんですか?」

「ある。そうだな、土なんか分かりやすいな、ただ、魔術で出しただけなら植物が育たない」


 気づけば旅の話からは逸れ魔術の話をしたり。


「魔物の肉は意外と上手いぞ」

「えっ、毒があるんじゃ?!」

「いや、実は毒性はそんなに強くないんだ」

「じゃあ、魔物肉食べれば強くなれるかな?」

「可能性は無くはないが、相当な量食べないとだな。そういうことなら竜の肉なんかは有名だろう。食べただけで強くなると」

「聞いたことあります!」


 魔物食について話したり。あまり腰を落ち着けて話す機会が少なかったので、話はどんどん膨らんだ。いつしか、聞き耳をたてているのは初心者冒険者だけでなく中堅とも思える人も混じっていた。


「よう、大盛況だな!」


 三人を囲む冒険者達の間から出てきたのはルーアだった。周りからもちらほらとルーアさんだと、いう声が聞こえる。


「ルーアか、今さら高位の冒険者にとってはつまらない話だろう」

「いやいや、懐かしい話だぜ!昔から俺も苦労しなかったわけじゃないんだぜ?」

「俺、ルーアさんの苦労話聞きたい!」

「私もです!」


  ルーアはしばらく考えてからポンと手を打ちニヤリと笑った。

 

「おっ、そうだな……、じゃあ討伐先で荷物を失った時の話をしよう」

「「荷物を!?」」

「あの時は大変だった。飲み水も食べ物も無くなってな、あっ、魔術の水って美味しくないんだよ、その話はしたか?」

「したよ!」

「なら続けよう、飲み水は最悪ソレでもよかったんだが食べ物はそうは行かない。当時は魔物肉の危険視もあったからな、俺は結局虫を食べる羽目になったんだぜ……。こう、槍で地面を掘り返してな」


 槍を鋤のようにした身振り手振りも加えてルーアは話してくれた。その時に食べてお腹を壊した虫や意外と美味しかった虫。そしてそれらの見つけ方など、最初は嫌そうな顔をしたミアだったが、いつの間にかライルと同じように聞き入っている。


「それでどうにか生き延びた俺は準備をしなおしてから、また挑んだんだ。そして、討伐に成功して見事、上位冒険者の仲間入りってわけだぜ!」

「ルーアさんも苦労したんだな」

「でも凄いですね。ソロで竜を倒すなんて」

「あの時は運が良かった。今なら長く生きた竜が相手でも太刀打ちはできるが狩れるかどうか……」

「……仮にだ。この街に海竜が襲ってきたら撃退できるのか?」


 ハレンの質問にルーアは目を瞑り考え込む、しばらくして目を見開き答えた。


「出来る。いや、してみせるぜ!」

「……なら安心して滞在出来るな」

「何も無策なわけじゃないぜ?船は出払ってるが堤防には防衛設備も設置されてる。そこらの海竜相手ならそのまま狩れるぜ!」

「なに、信じているさ。ちゃんとな」

 

 地上、あるいは空中の魔物に対しては打てる手も多い、けれど海中の魔物相手ではそこまでの研究はなされていない、しかし、ハレンは信じることにした。それはある種のルーアに対する信頼でもある。ハレンはそれなり以上にこの若者を気に入っていた。


「さて、そろそろ買い出しにいくとしよう。……ああ、そうだ。ルーア私たちは3日後に出ることになった。世話になったな。ギルドにはいつも居るのか?」

「そうか、寂しくなるぜ……。ああ、しばらくは待機が俺の仕事だぜ」

「じゃあ、またあったら、別の話をしてくれよ」

「街を出る前にまたギルドに来ますね」

「おう!楽しみしておくぜ!」


 三人はルーアに見送られてギルドを後にした。

 今日は旅のための鞄を買い、宿で幾つかの荷物を仕舞う。新しく買った服の半分はハレンのマジック・バックに仕舞われることになった。


「改めて大量に買ったな」

「うっ……すいません」

「いや、責めるつもりはない、むしろ良くこれだけ種類があるなと、感心したほどだ」

「そういえば師匠、あまり服には執着しないんですか?」

「性能といった方面では吟味していたが、デザインなんかは基本的に仲間に任せていたからな」 

「ふーん、まぁ俺もそんなもんだよ」

「ライルは男子だからでしょ、それにキリさんとかはおしゃれに気を遣ってたかし」

「そりゃ、綺麗かどうかは気にするだろ」

「キリは商人だからな、みすぼらしい商人に大口の取引は持ち込まれにくい」

「あー、そういうこともあるんですね」


 思い出されるキリの服装は当て布なんかがなく、常に清潔な物だった。それに村長宅に来た時や、街で商会にいった後などは素人目にも上等と分かる服装だった。


「師匠はどういった服装が好きとかあるんです?」

「好みか、やはり動きやすさは重視しているが」

「デザインは?」

「……シンプル……か?」

「うーん、よしっ!師匠がおしゃれに目覚められるよう頑張りますね!!」

「……なぁ、何故ミアはこんなにやる気なんだ?」

「もともとミアは街に憧れてたんだよ、キリさんからも街で流行ってる服装なんかを良く聞いてた。んで、一時期は自作しようともしてたな、布と糸が無くて断念してたけど」

「ふむ、どこかで購入しておくか、ライルは何か欲しいものはないか?」

「俺?うーん、俺は冒険者志望だし、武具一式かな。でもそれは将来的にだろ?」

「そうだな、職に就いた時に幾つかの武器は見繕うが、長く使えるものは学園の卒業祝いにでもと、思っている」

「なら俺は大丈夫だよ!師匠が卒業後のことも考えてくれてるってことが一番嬉しいし」

「当たり前だろう」


 一人自分の世界に入り込んでるミアを見ながら二人は話した。ハレンはもとより二人をそれこそ成人し自立するまで面倒を見るつもりだ。それは、ライルも感じている。しかし、実際には不安だったのだろう。改めてハレンは二人のケアとますますわがままを言わせたいという決心をしたのだった。


「ミア、そろそろ夕飯を食べに行こう!」

「……あっ、はい!」


 ライルが仕舞った服を取り出しかねないほどにコーデを考えていたミアに声を掛け、思考を中断させた。


「なに食う!?そろそろ俺は肉も良いと思うんだけど」

「そう?魚なんて滅多に食べられないし、まだ良いと思うけど」

「両方ありそうな店を探そう」

「「おー!」」


 翌日、ハレン達は外の喧騒で目を覚ました。


「船団が壊滅したって!?」

「一隻しか戻らなかったそうだ」

「どの船!?息子が乗っているの!」


 表の道は港へ向かう人だかりで溢れかえり、露店や鍛冶屋の店主も店を放り出している。


「なにがあったんだ!?」

「港へ行きましょう!」

「ああ」


 三人が人混みをかき分け港で目にしたものは、沈み行く船だった。マストが折れ船尾も抉れ、船体の半分は既に海中にある。漁師などが小型船で海に逃げた船員達を救助していた。


「これは、魔物か」

「……ひどい」

「……襲われたってことだよな」


 既に衛士やギルドの冒険者などが人混みの整理に当たり混乱は落ち着いたが、船員の家族と思われる人々が規制の突破を試みている。


「街まで来るぞ……」

「そうだ……アイツらが戻ってきたから」

「バカッ!滅多なこと言うな!!」

「だけどよ!良く言うだろ!!一部の魔物は獲物を追いかけるって」

「アイツらが連れ帰ってきたかも知れねぇんだぞ!」

「テメェいい加減に!」

「お前達!やめないか!」


 衛士の制止も聞かず、人混みの一角で男達が言い争う。魔物の逸話。たしかに、その恐怖は的外れではない、多くの場合そのようや習性は無い。しかし、確かにその特性を持つ魔物もいる。今回の魔物がどうかは不明だが一度生まれた疑心というのは伝播する。瞬く間に民衆に広がり、あちらこちらに話は共有された。


「安心するんだぜ!!」


 喧騒は搔き消された。民衆の視線は一点に集中し、それを受ける彼の姿は自信に溢れていた。


「ルーアさん」


 彼はただ一人高台に立ち、槍を握りしめ民衆を一瞥した。騒いでいて彼らは呆気にとられ口を開いたまま立ち呆ける。


「この街には俺がいるぜ!!」


 説得にならない言葉。そんなもので誰が安心出来るというのか、ハレンならばまずしない演説とも言えない演説。しかし、彼はルーアだ。不安そうな民衆の中にも笑顔を浮かべるもの出た。


「ルーアが言うならしょうがないか!」

「なんとかなるんだろ!」


 この街で彼の名を知らないものはいない。それはハレン達が1日の同行であっても分かったことだ。彼の勇名は重ねる言葉よりも説得力に溢れている。

 目に見えない不安は、目に見える英雄によっておさめられた。


「これから正式に調査を開始する!港の防衛にも既に人を送った。各自仕事に戻れ!」


 役人の言葉に解散し始め、少しずつ港から人気が無くなっていく、何人かはルーアに話しかけに行ったようでルーアが笑顔で対応していた。


「私達も戻ろう」

「師匠は調査に参加しないんですか?」

「海の魔物だ。知識は向こうの方があるだろう。それに私はこの街の冒険者ではない」

「ルーアさん、心配にならないのか?」

「無いと言ったら嘘だが、本来街、あるいは国の問題はそこの者が片付けるべきなんだ……。……それに今はルーアも忙しそうだろう?ひとまず戻ろう。朝食の後に行っても遅くはない」


 二人は後ろ髪引かれる思いでその場を後にした。


(出来る限り早くこの街を出るべきか?)


 ハレンにとっての優先順位は変わらない、第一に帰国をすること、第二に二人を保護すること。そのために何かすることはあっても、他の事を優先する気はさらさら無かった。

 たとえこの街が滅ぶとしてもだ。

 ギルドは職員が忙しなく仕事をしていた。冒険者も酒を飲まずに完全武装でただ、待機している。

 掲示板に貼られているハズの依頼はほとんどが剥がされ、件の魔物について判明したこと、分からないことなどが貼り出されている。もっとも不明な点の方が多かった。

 

「魔物の大きさ……不明。種類……不明。うーん……分かってることの方が少ないな」

「襲われた海域は出てますね。……これは、たしかに船を追っているんでしょうか?」

「大きな船が打ち上げられたのなら、やはりドラゴンイーターの類いか。攻撃方法からタコやイカではないな、鯨なら呑み込まれる。サメやシャチなら背鰭は見えるハズ、いや、シャチならあるいは?」

「ここにある情報じゃあ足りないか?」

「海洋モンスターは種類がなぁ」

「どんな情報なら魔物って特定出来るんです?」

「体毛や鱗、足跡なんかがあれば陸棲モンスターなら大体は分かる。少なくとも系統はな、海洋モンスターは姿を直接捉えてないと難しい、せいぜいが夜行性って所か」


 周辺であった事件と今回の魔物がどこまで関係しているかわからないため全てが地図に書き込まれたいる。その内の多くは時間帯が夜だった。その程度の情報では魔物の特定には至らない。


「じゃあ、竜くらい強い、海洋モンスターの心当たりは?」

「リヴァイアサンなんかは有名だな」

「聞いたことあります!津波を引き起こして港街を滅ぼしたことがあるって」

「数百人規模の討伐隊がでたんだよな!」

「ああ、モンスター・パニックで復活しているとしたらコイツでもおかしくない、生息地もここら辺だったハズだ」

「お前達もそう思うか?」


 いつの間にかルーアが後ろに立っていた。その奥では職員が歯を机の上に置いている。とても大きく、人の身長ほどもあり、とても鋭いようで不注意で触ってしまった冒険者が手から血をながして治療を受けていた。

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