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港湾都市グリーンポート


 ルーアの案内する場所は地元の人がよく利用する店といった感じで旅行者や訪問者向けのキラキラとした雰囲気は無かったが賑やかながらも落ち着いた雰囲気があった。

 ルーアが有名な冒険者なのも真実だったようで、街行く人から時々挨拶されては大声で返していた。他にも雑貨屋に行けば店主のお婆ちゃんと仲良さげに話していたり、屋台のおじさんからおまけを貰ったりと、ハレンの想像以上に人気者であった。

 今はお昼を食べようということでルーアの行きつけの大衆食堂に来ていた。


「おっ!ルーアの旦那、今日はお客を連れてんのかい?奥のテーブル使ってくれ」

「おっちゃん、ありがとう!さっハレン達も座ってくれ」

「ルーアは街の人気者なんだな」


 そうハレンが言えばルーアは照れたように頭を掻きながら笑った。


「そう見えるか?」

「他の人から見る目でわかるさ!俺もそんな冒険者になりてぇんだ!」

「おっ、ライル、ありがとうだぜ!そうか、お前も冒険者に……。そういえばそっちの事情は聞いてなかったな。取り敢えずどっから来たんだ?」

「私たちは新大陸の方から来たんです。向こうで色々あって」


 ルーアはそれを聞いて何か察したのかそれ以上は踏み込まず。そうか、とだけ呟いた。


「じゃあこれからは何処に行くんだ?」

「最終目的地は西大陸の方にある」

「へぇ、そりゃ大変だな。今はルートも限られるんだぜ?」

「やはりそうか、出来れば詳しく知りたい」

「任せろ!……ただその前に、この店は魚料理ならなんでも旨いが何か希望はあるか?」


 そしてルーアは色々な料理の名前と内容を羅列していく、聞いたことの無い料理に適宜ハレンも解説を挟んだ。


「うーん、ダメだ想像もつかねぇ」

「魚の名前も聞いたことないです」

「ルーア、適当に幾つか頼む。こちらで取り分けよう」

「うん!そうだな。おーい」


 ルーアは給仕を呼びいくつか頼んだ。それからほどなくして運ばれる料理に二人は目を輝かせた。香辛料の効いた焼き魚にクリーム煮込み、青魚の衣揚げ、村での生活ではまず目にしない料理を前に今か今かとよだれを垂らす。ハレンが四人分に取り分ければ神への祈りを済ませてフォークを刺した。


「俺の分も悪いな」

「なに、案内料のことを考えれば安いものだろう。午前だけでもなかなか、この街について知れた」

「そう言って貰えたら案内したかいがあるってものだぜ!」

「師匠これ美味しいです!」

「俺はこの揚げ物が気に入った!」

「そうか、なら追加を頼むとしよう。他にも……そうだな、パエリアなんかいいな」


 二人に好きなものを頼めと追加の注文を任せていた時ルーアが小声で話しかける。

 

「……こんなところでなんだが、お金についてはいいのか?長旅だろう?」

「問題ない、旅の資金は確保してきてある」

「そうか、ならいいんたぜ!」


 お金はもともとアイテム・バックに入っていたものを使っている。回復系アイテムの殆どは尽きてしまったがそれ以外の物は抜かずにおいたのが功を奏した。

 この世界では大抵の国がそれぞれで貨幣を発行しているがそれでも世界中で使用できる貨幣もある。 

フロット王国、アレン卜帝国、そして聖国の三ヶ国の貨幣が基軸通貨として扱われておりハレンも資産の多くがそれら貨幣だ。もちろんバルトリアも貨幣の発行を行っている。

 傭兵としての収入や魔物の素材の販売、バルトリア内での自身の領地の税収など様々な収入源のあるハレンの資産は一部だけでもそこらの小国の王室資産を越える。旅費の心配は全く無かった。もっとも資金の出所を探られないように道中では魔物を狩ってそれを旅費に当てるつもりだ。


「まだ昼だが酒も飲むか?そっちは奢るぜ?」

「止めておこう……夕飯まではな。お前は飲んでも構わないぞ?」

「いや、さすがに俺も止めておくぜ」


 その後、彼女たちは料理に舌鼓を打ち食事を楽しんだ。

 店を出れば朝に比べて人は減り地元の人よりも観光客などが多くいるようでルーアに話しかけてくる人はいなくなった。


「この街は俺が生まれ育った街なんだぜ」


 街全体が眺められる高台にハレン達を案内した後ルーアはポツリと呟いた。

 夕日に照らされた港はキラキラと輝き、ルーアは目を細めた。


「俺は両親の顔をしらない、そんヤツはこの街でも多い。俺は運が良かったんだ……。だから外の人にはこの街を好きになって欲しいし、街の人には長く住んでいて貰いたい」

「それが街の観光案内をしている理由か」

「そうだぜ!この冒険者ルーア街を愛する男!」

「立派な心がけだな」


 ルーアは照れくさそうに鼻を掻いてわらった。

 

――――――


「センパイ、噂は本当ですかねぇ」

「さぁなでも最近は港の近くでも出たらしい」

「へぇ……そいつは…………何隻沈んだんで?」

「沈んでない。出ただけだ」

「じゃあ例の英雄は?」

「バカ、あれこそ冗談の一種だろ」


 海に浮かんだ船団の外側にある船の見張り台で船員が二人、雑談しながら暗い海を見ていた。月も星も出ていない空では明かりの無い海を見ていたところで暗くて何も分からず暇を持て余していた。

 彼らがグリーンポートを出る前に現れた例の魔物はギルドや領主が調べているが芳しい報告は無く、ましてやいち船員の彼らが知る情報など嘘の方が多かった。その為一人の女冒険者が船を守るために夜の海に飛び込んだ。などという話は誤って転落したヤツを面白おかしくからかっただけの話として伝わっている。

 

「噂に流されるようじゃ、まだま───」


 そうして話が移り変わろとした時だった。何かが船底にぶつかった音がしたかと思えば、船体が空高く打ち上げられ粉々になり海に散らばった。即座に他の船が鐘を打ち鳴らし一斉に騒がしくなる。それぞれが逃げ出そうとバラバラに走り出すが次々と打ち上がる船。辛くも逃げ延びた船は一隻だけだった。


――――――


 ルーアと夕飯まで共にしてから一夜あけ、ハレン達は旅の支度をするためにルーアの紹介を受けた店を巡っていた。携帯食料や調理器具、衣類にテント買うものは多くある。

 荷物は三人で話し合い背負う形にすることにした。ハレンの待つマジック・バックならば三人分の荷物も入るが普通の冒険者は持たないものだ。それに将来ライルとミアがどんな職業に就くにしろ少なくとも今は冒険者を目指す上で荷物の管理を学ぶことは大切だ。それに加えて他人の目もある。ハレンはあらぬ疑いを受けるわけにはいかない。もちろんいざというときの物資はハレンが持っておくつもりだ。


「おじさん!これもう少し安くなりますよね?」


 買い物はミアが誰よりも張り切った。昨日は店員がルーアをチラリと見てから提示した値段をしっかりと覚えており、店主と対等に値段交渉をする姿はハレンを驚かせた。


「よく覚えていたな。正直、驚いた」

「えへへ、実はキリさんから行商をして苦労した話とか色々聞いていたので」

「ほう、よく勉強している」

「ありがとうございます!」

「お前いつの間に!?」

「ふふん、ライルはキリさんから冒険者の話しか聞かないからだよ!」


 一歩差をつけられたと感じたライルはぐぬぬと唸り、ミアは胸を張ってそれに答えた。


「次は……服屋だな。靴もあるだろう」

「靴?」

「ああ、その木靴では長旅に向かないだろう。ちょうどよい大きさがあれば良いが、仕立てを頼んでも良いが、少し古いものが良い、柔らかくなっていない物は靴擦れを起こしかねない」


 服屋は和洋から古風今風様々な衣類が吊るされる大きな店だ。古着の取り扱いもある。


「好きに選んでもいいが、動きやすい物を選ぶように」

「「はい!」」


 一目散に古着のコーナーに駆けて行くのは開拓村生まれ村育ちの影響だろう。


「新品の方を見ていいんだぞ?」

(……子供向けの新品も見繕っておくか)


 しばらく服の大きさを確かめ合っていた二人だったが、突然ひそひそと話し始め、視線をハレンに向ける。


「師匠はどんな服にするんですか?」

「うん?そうだな、適当に見繕うが……」

「なら、私が選んでもいいですか?」

「ミアがか?」

「はい!」

「コイツ、こんなにたくさんの服をいっぺんに見たことないからはしゃいでるんだ」


 目を輝かせるミアから普段は感じない圧を感じ、ライルの補足もありハレンは断ることが出来なかった。

 しばらくすればホクホクとしたミアとゲッソリと疲れはてた様子のハレンとライルが店から出てくる。その両手には大きな袋をそれぞれ抱え、ハレンは改めて服を前にした女子の熱意を実感することとなった。


「……今日はもう宿に帰るか」

「……それがいい」

「そうですか?まだまだ買うものがあったハズですけど」

「1日くらい滞在が延びても構わないさ」


 まだまだ元気なミアだった。


「師匠、とりあえず出発は明後日でいいのか?」

「ああ、次の目的地である魔術大国、マゼンカ王国へ向かう商隊が明後日から出始める。その内の一つに加えて貰う予定だ」

「他の人と一緒に行くんですか?」

「その方が魔物的な危険は下がるからな」


 今だ旅に馴れたとは言えない二人なので商隊に混ぜて貰うことが最善かは不明だが、ハレン三人だけの旅路よりは安全だろうというのがハレンの見立てだった。


「商隊って信用できるのか?」

「特定の冒険者を連れるよりは安全だな、不特定多数の目がある。……商隊がグルだった場合は想定するだけ無駄だな、警戒のしようがない」

「じゃあ、警戒心は捨てずにいることが大切ですね」

「そうだな、しかし、交流も大切だ。そこら辺のさじ加減はゆくゆく覚えていくといい」


 ハレンは串焼きを買ってやり、難しい顔をしながら頬張る二人を笑いながら励ました。


「私は明日ギルドに行って商隊と話をつけてくるが、二人はどうする?さすがにまだ二人だけで街を歩くのは不安か?」

「それは…………」

「………………」

「いや、愚問だったな。忘れてくれ。そんなことをされては私が心配過ぎて交渉どころではない」

(すぐにトラウマを克服しろなどと軽く言えないな)


 黙って頷く二人の表情は笑っていたが、その内心が手に取るように分かるほどその目は不安に揺れていた。


「商隊の人に合わせる必要もあるし、明日は着いてくるといい」

「そうします」

「ま、どうせ二人ですることもないしな!」

「でも、迷惑になりませんか?」

「心配することはない、もし、難癖つけてくるのならこちらからお断りだ」


 少しは元気を取り戻したようで今度はちゃんとした笑顔だった。

 翌日、いつものように朝の支度をしていればミアから待ったの声がかかった。


「どうした?」

「服、新しいの着ませんか?」

「……昨日のか?」

「はい」

「…………今日は交渉をしに行くんだ」

「正装である必要はないんですよね?」


 ハレンは自身が取り出したいつもの服を見て苦虫を噛み潰したような顔になってしまった。


「……何も今日じゃなくていいだろう」

「旅の最中に着てくれるんですか?」

「いや……あの服は旅路にはさすがに」

「師匠、諦めろ。買った時点で師匠の負けだ」


 じりじりとハレンは壁際に追い込まれた。このような手合いに会ったことはあるが、そのときは自身が対象ではなかった。この立場になって分かる。本気で断るほどの事ではないが、余りしたくはない事を断ることにこれ程まで根性が必要だということに。

 ハレンはこの日、これまでの人生でも数少ない敗北を経験した。


「くっ、恥ずかしくはないハズだ。……何故ここまで心が揺さぶられる」

「似合ってますよ!」 

「うん、似合ってる」

「……なら、いい」


 ハレンは白いブラウスと黒いサスペンダースカートに身を包んだ。ミアとお揃いだ。髪色を除けば姉妹に見えるかもしれない。

 ブラウスの胸元には黒いリボンがあしらわれ、裾の方に広がるスカートは歩くたびにフワリと揺れた。膝下まである丈はハレンが死守したものだが、よりいっそう清楚感を醸し出す。腰に吊るした剣が無ければ街娘としか思われないだろう。


(視線を感じる。諜報員のソレではないな)


 ギルドまで歩いているときに感じる視線、出所は見なくてもわかった。街行く人々の半数以上は男だが女からも時折こちらを伺う様子がハレンの目が捉えた。


「さっさと終わらせよう」

「もちろん、今日の分の買い出ししないとですよね!」

「……そうだな」


 さっそくギルドに入り、受付に話しかければ商隊の代表のもとへ案内された。

 そこにいたのは白髪混じりだががっしりとした体躯の男だ。男はハレンを見た瞬間は驚いたようだったがすぐに腰の剣に目をやり、腕や足に視線を動かした後うしろに控える二人を見た。そして何か納得したかのように頷くと口を開く。


「俺は商隊を預かっている。名をカットと言う。炊事、洗濯は出来るか?」

「はじめまして、ハレンと申します。こちらはライルとミア。私は旅の経験があるので両方可能です。」

「「はじめまして」」


 ギロリと音がなりそうなほどに険しい視線がハレン達に向けられる。思わずハレンの背に隠れる二人を庇いつつハレンは真っ正面から視線を合わせて挨拶した。

 

「……そうか、うちには女衆もいる。安心してくれ」

「同行してもよろしいということですね」

「ああ、仕事をするなら食事も安く出してやる」

「もう少し色々聞かれるかと思いましたが」

「子供を連れての旅。理由は聞かんが苦労も多いだろう。それを見捨てるのは俺のプライドに関わる」


 腕を組んで鋭い眼光のカットの姿に嘘は感じ取れなかった。

 

「そうですか、ではどうぞよろしくお願いいたします」

「出発は3日後、日の出時に北門前に集合だ」


 そう言い残して席を立つカットの背を見送った後に、ライルが口を開いた。


「あのおっさん、すげぇ威圧感だ……」

「息がつまるかと思いました」


 

 

  


忙しくてしばらく投稿できず申しわけありません!!今週こらは更新頻度回復できると思います!

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