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東大陸


 ハレン、ライル、ミアの三人は新大陸から東大陸への航路をとる船に揺られていた。

 

 あの後、開拓都市の冒険者であるレリック一行が遅れて到着し、ハレン達は護衛を受けながら帰還した。都市の方でもゴブリンによる襲撃があったようで都市を囲む城壁の外側には死体を焼く煙が燻っていた。しかし、被害自体は軽微なようで誰かの泣く声や負傷者の呻き声は聞こえず復興を目指す職人や人工の掛け声が響き渡る。そんな住人達だったがハレン達に気づくと一人、また一人と歓声を上げて迎え入れた。最も歓声のほとんどはレリック一行に向けられたものだったが、無事で良かった。村長さんの願い叶えたんだね。と、ハレンに向けられる声も多く、ハレンにとっては慣れ親しんだ状況だったが、村育ちだったためそもそも大勢の人々に囲まれたことの無いライルとミアの眼を丸くした表情にみんなして笑ったのはいい思い出だ。

 ハレンは念のため二人を病院や教会に連れていくためにレリック達に領主やギルドへの一旦の報告を任せ、それが終われば街一番の宿に部屋を取り食事を届けさせ二人に休めと言い、ライルとミアを放り込む。

 そしてギルドに向かえば外でいつもの職員が待っていた。


(直接報告しろ……か)


 ハレンの予想は当たっており駆け寄ってきた職員に連れられてなかに入れば世話しなく動き回るギルド職員と冒険者の姿があり再びの襲撃に備えているようだった。


「こちらです。ギルド長は三階でお待ちしております」


 促されて階段を上がると、二階は一階とは異なり静寂そのものだった。二階には石畳だけでなくカーペットが敷かれていたので足音も少しは軽減されるだろうが、そもそも今は二階に誰もいないようで一階から足音だけが響いた。そのまま三階に上がれば登ってすぐのところにレリックのパーティーメンバーのダンとスズが立っている彼らの雰囲気は出迎えに来たようには見えなかった。


「ハレンさん、悪いが武器を預からせてくれ」

「報告を頼まれたから来たんですが?」

「そうだ。報告に来ただけのハズだ」


 階級的には上位の冒険者を相手に一歩も引かない雰囲気のハレンだったが、スズはそれを予期していたようで更に警戒心を強めあからさまにダンへと視線を向けつつ言外に武器を渡すように再度求めた。

 ダンも組んでいた腕をほどき、ガチャガチャと音を立てながら籠手の具合を確認する。


(流石英雄と呼ばれるほどに経験豊富な冒険者パーティーだ。不審な動きをすれば掴みかかってくるつもりだな。これ見よがしな背中の大斧は……普段から使っているのだろうがこの場ではブラフか)


「さあ、武器を渡してくれ」


 腰の剣を外しハレンは剣を手渡した。


「これで良いか?」

「……ああ、預かっておく」


 ハレンはマジックバッグのことをスズやダン達には一切伝えておらず。また、歯については知るよしもないので剣を受けとるたそれ以上は追及のしてこなかった。

 上位の冒険者相手に物怖じしないハレンの態度に眉をひそめるスズとダンに涼しい顔で確認するとハレンは廊下の奥へと進んだ。この階に部屋への入り口はは一つしかない、真っ直ぐ進みドアの正面に立てばハレンがノックをする前にひとりでに開き部屋の中へハレンを誘う。魔術的な結界が張ってあると気づいたハレンは思わず足をとめるが。

 

「入ってくれ」


 後ろからついてきていたスズが促すのでハレンは結界を種類と破る算段をつけながら歩を進める。部屋に入ると再びドアはひとりでに動き閉まる。ガチャリ鳴る鍵の音がやけに大きかった。

 結界をこえればなかにいた人の顔が見える。緊張した様子で控えるレリックとそのパーティー、1度だけ遠くから見たことのあるギルド長は本来座るべき席には座らずその前に立っている。ただ一人ハレンが見たことの無い人物が本来のギルド長の席に座っていた。


「掛けたまえ」


 その人物はハレンに座るよう促した。失礼しますとハレンが座れば囲むようにレリック達が動く、あえて警戒していることを明確にすることでハレンに不審な動きをさせないようにしているのだろうとハレンは判断した。


「ハレンと、いったかな。私はダスティン、この街の領主だ」

「……お初にお目にかかります。冒険者のハレンと、申します」

「ふむ、……彼らから報告を受けてね。君が魔物の大群を撃破したと、しかし、詳細は君しか知らない話してくれ」

「承知しました」


 警備のものものしさから重役がいると分かっていたが、まさか領主が直接でてくるとは思っていなかったハレンは少し驚いくも、平静を保ちつつ自身のことについて所々隠しながら説明をした。ダスティンは無言で耳を傾けた時おり頷きながら何か考えている様子であった。ギルド長の方は表情を二転三転させ何か言いたそうだったが、ダスティンの手前口をパクパクさせるだけにとどまっていた。


「なるほどゴブリン王国か、聞いたことはある数十年前に大規模な事件があったと、……異常発達したゴブリンか直接刃を交えた君からみてこの街の戦力で対処できたと思うかい?」

「僭越ながら申し上げますと、難しいと考えます」

「貴様っ!」


 面子を潰されたと感じたギルド長が口を挟もうとするがダスティンが片手を上げるとハレンを睨みながら口を閉じる。レリック達も面白くはなさそうである。


「……こちらから攻め込む形ならば勝利する可能性は高いです。しかし、襲撃を受け止めようとするならばまともな攻城兵器を持たないゴブリンであろうとこの街の防衛設備では物量に押され、飢えを待つことになるかと」

「そうか、……付近の山に大規模な破壊痕が残っていたようだがそれは君が?」

「……いえ、戦闘中にドラゴンが乱入し、ブレスを放っていきました」

「……ふむ、わかった。ベガ席を外してくれ他の者もだ」

「なっ、それではダスティン様の護衛が!」

「なに、彼女が私を攻撃する理由がないし武器も預かっている。大丈夫だ」

「しかし……」

「なら、私が残ってもよろしいでしょうかダスティン様」


 それでもなお食い下がるギルド長だったがレリックが残ると宣言し、ダスティンもそれを認めたことで部屋からレリックのパーティーを引き連れ下がっていった。

 レリックは扉の前に立ち誰の気配もしないことを合図するとダスティンは佇まいを正して口を開く。


「単刀直入に聞こう。君は異人だね?」


 これが本題だとハレンは察する。それ程までに声音が先ほどまでより真剣味を帯びていた。


「その通りです」


 ハレンは隠し通すのは難しいと感じて正直に答えた。ダスティンはむしろ安心したかのように長く息を吐き肩の力を抜き冷めきったお茶を口にふくんだ。

『異人』それはプレイヤーを指すこの世界での表現だ。この世界で80数年前、異世界から人が来ると御告げがあった。一部から懸念の声も上がったが受け入れる用意を各国それぞれが行うもゲームの黎明期を考えるとそうしっかりとした受け入れ態勢ではなかったが。

 ともかく、明確に差別を受けることはなかったが、良くも悪くも自由に動く異人に対してよくない感情や偏見を持つ者も多くいる。


「安心してくれ私もレリックも異人に対して敵意はない、むしろ好意を持っている。開拓するに当たって異人の力は重要でね」

「俺も、俺の師匠……命の恩人が異人なんだ」

「なるほど、そういうことならば安心しました」


 嘘かどうかは一旦置いておいてハレンも警戒を下げたことを表すためにお茶を飲んだ。


「冷めても美味しいだろう?ここで育てた茶葉だ」

「はい、驚きました。淹れた人の技量も良いのでしょう」

「そういってくれてうちの者も喜ぶ、さて、君は転移事件を知っているかい?」

「転移事件……いえ、存じ上げません」

「だろうね。これはモンスター・パニックと同時に起こった事件さ、君たち異人の一部が突然消えたんだ。そしてこの新大陸で見つかった」

「この大陸……新大陸に飛ばされたということですか」

「そう、原因は不明だけどね」


 ハレンの頭には一つの仮説が浮かんでいた。この新大陸はかつてゲーム内の一部限定イベントの発生地が集まって形成された大陸なのではないかと、周年イベントでは過去のイベントの一部が復刻版として開催される。ゲームが現実になったのならばそれらの開催地が実在してもおかしくはない。

 そしてそれに参加していたプレイヤーがそこを現在地としてゲームが現実となったことで擬似的な転移が発生したということだ。

 実際、この考察は当たっている。イベントの発生地が明言されていないイベントは全てこの新大陸に統合され、モンスターもまた復活していた。ハレン達がもともと存在していた大陸である東大陸と西大陸で発生したモンスター・パニックも過去に討伐されたイベントモンスターなどがゲームの現実化に伴い復活したのが原因の一つだ。 

 ハレンはキャラクリ後に飛ばされたため、実は新大陸内でランダムに飛ばされる事となっていたのはハレンも知らない事実である。

 

「モンスター・パニックについては知っているかい?」

「それは存じています」

「なら話が早い、現在各国は戦力不足でねどこも実力者を求めている。特に異人は戦闘力が高い人物が多い、それに転移の被害者でもある。早い話、現大陸への船に乗船できるのさ、それと私の方で君のランクをDにしておく」

「……それは有難いお話ですが、それ程までに現大陸は頻拍した状況なのですか?」

「……現在、国として明確に力を残している所は少ない、異人が建国した最大の国であるビリウスが滅んだのは世界に大きなインパクトを与えたよ」

「……ビリウスが…………」


 ビリウス王国はプレイヤーによる最大の国としてプロや有力なプレイヤーも多く在籍しハレンの知り合いも多くおり、にわかに信じがたかった。

 特に国王はプレイヤーランキングの総合ランキングで一位の男であり実力は確かだ。ハレンとも何度も戦ったことがある。


(……モンスター・パニックの影響は想像よりも大きいのか)


「酷なことを聞く事になるかもしれないが君はどこの出身なのかな?」

「私は……拠点をバルトリアに置いていました」


 そう聞くとダスティンは思い出すように空中へと視線をやりしばらくしてから手を打った。


「安心するといい、バルトリアは健在だよ少なくともこの前の報告まではね……だから……一週間まえだ」

「本当ですか!……良かった」


 ハレンは嬉しさのあまり思わず立ち上がってしまったがダスティンは気にすることなく、微笑みをみせた。一週間前の段階で存在しているのならばもうしばらくは安泰だろうという確信がハレンにはあった。自身の不在時に何があってもいいように、そのためにハレンは様々な努力をしてきたからだ。


「話を戻そう。現大陸への船は東大陸行きのみしかないが君なら乗れる。もちろん乗るだろう?」

「はい、是非とも……ですが私には村長との約束がありまして」

「聞いている。ここからがある意味本題だ。二人の乗船の手配をしよう変わりに受けてほしい依頼がある」

「……依頼ですか」


 長く拘束されるのではと、思わず固くなった声にダスティンは気づいたのか笑って話を続けた。

 

「そう警戒しなくても大丈夫さ、依頼の内容は手紙を届けてほしいんだ。現大陸の方に」

「それならば、今までも異人がいたのでは?」

「彼らのうち何人かには依頼してある。過酷な状況の現大陸でいくつものルートで確実に届けたいだけさ、それに目的の場所は西大陸のフロット王国、バルトリア王国に行くのなら途中で通るか、着いた後に行けるだろう?」

「なるほど、でしたらお受けさせていただきます。宛先はどちらに?」

「できるだけ国王陛下に近しい者にだ。この開拓都市は形式上フロット王国の所属でね。今後についてのお願いが手紙には書いてある」

「国王に……承知しました」

「よろしく頼むよ」 


 その後、ライルとミア、二人の意思も確認にした後に旅の準備を済ませ船に乗った。ハレンは街で知り合った人々に挨拶して回ったがキリとは会えずギルドに伝言だけ残すことにした。レリック達もしばらくして周辺の環境が落ち着いたら手紙を届けるために現大陸に来るようで、もし会ったらよろしくと言い偵察の依頼に出ていった。

 そして話は冒頭へと戻る。


「これが船かぁ思ったより揺れんだな!」

「こら、走り回らないの!」


 楽しそうに船員達の作業を眺めたり甲板を走るライルとそれを注意しつつも初めて見るものへの興奮を隠せていないミア。二人を見る船員達の視線も温かかった。

 ハレンは他の冒険者に混じり船の護衛として周囲の警戒にあたっている。

 新大陸から現大陸への航路は3日掛かるそうでハレン達には少し大きめの三人部屋があてがわれた。見た目だけなら女性のハレンはミアだけならばまだ同性扱いとして良かったかもしれないが、実質、異性二人と同室はライルの居心地が悪いかもとハレンは思ったが、特に気にしないライルの姿に杞憂だったと安心しつつまだまだ子供だなと微笑みを送った。ライルは頭に?を浮かべつつ手拭いで身体を擦った。

 もとよりミアとライルは家族のように育てられた。互いの裸なぞ見慣れたものだ。11歳という歳ならば情操教育がされていてもおかしくないが、開拓村ではなされていない。

 そして思春期もまだだった。

 男の冒険者からの視線を感じることもあったが、子連れ相手に声をかけてくる強者はおらず、むしろ同室のライルに嫉妬の感情を送る大人げない冒険者の方が多かったくらいだ。

書きだめしていたものが尽きてしまった……更新頑張りますが、毎日じゃあ無くなるかもです。

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