ゲームの中
最近人気になっているノベルゲームを遊んでみた所、すっかり見とれてしまった。
ノベルゲームの世界に興味を惹かれた俺は、とうとう自作のノベルゲームを作ってしまった。
しかし公開はしていない。
公開したら、間違いなく黒歴史となり、後になって俺自身が後悔すると思ったからである。
その為俺の自作ノベルゲームは、膨大な製作期間も、その後の遊ぶ時間も、全て時間潰しにしかならず、とても複雑な気持ちに駆られている。
何故、俺は自作のノベルゲームを作ろうだなんて思ったのであろうか……これでは、俺専用の時間潰しにしかならないゲームが不憫で仕方が無い。
はあ……何故か今日は眠れない。
「監督……監督! 監督!」
俺を呼ぶ声で目が覚める。
その声は……多分カメラだ。
「起動しましたよ!」
「え……今何時だ?」
「午前一時三十二分です」
遅過ぎる……予想起動時刻を盛大に裏切られた。
「そんな時間なんか! 今までこんな時間に起動する事なんて無かっただろ……」
「ええ……創始者兼プレイヤーが眠れなかった、もしくはプレイヤーが変わったと言ったような事が起こったものと思われます」
「ふむ……まあ取り敢えず皆一斉に準備してくれ」
「はい……承知致しました」
「みんな! 監督が来るぞ急いで!」
居住スペースからタイトル画面専用スタジオに移動し、それぞれの担当スタッフがスタジオ中に散らばり、準備が整う。
「はい五秒前!」
そう言った瞬間、スタジオの照明が落ちる。
「四! 三! 二!」
一、零を心の中で数え、零になった瞬間、俺が手で合図を送る。
すると照明が再びつき、ゲームのタイトル画面が現れる。
今回は果たして、どれ位の時間遊ぶのであろうか……。
二つ目のバッドエンドになるルートを終え、ゲームを閉じる。
もう何周したのであろうか?
自分で用意したシナリオを、自分で片っ端から遊ぶ。
自分で作ったゲームにもかかわらず、不思議と何度も遊んでしまうのは、一体何故なのであろうか?
ふと部屋の窓に目をやると、カーテンの隙間から光が見えた。
夜を明かしてしまった……。
完全に見慣れた光景を見続け、ドーナツの形をした通路を永遠と歩き続けるような日々である。
最近、まともな睡眠がとれない。
身体を酷使し、疲れを溜め続けているにも関わらず、睡眠時間が短すぎる。
これは一体、何が原因なのであろうか?
ただ決して身体がボロボロになったとしても、絶対にミスは許されない。
我々スタッフがほんの少しでもミスをしたり、余計な事をすれば、今いるこの世界に、乱れが発生してしまう。
絶対にミスが許されないこの世界では、体調不良は死よりも恐ろしい。
あれから十年……すっかりノベルゲームは遊ばなくなっていた。
昔は狂ったように、何百時間も遊んでいた。
久々に、遊んでみる事にしよう。
「監督! 監督! 起動しました!」
「な……何? 起動した?」
そんな……もうすっかり忘れ去られたのだと思っていたのに……。
「監督! 急いで下さい!」
「わ……分かった……」
どれだけ放置されていたのであろうか、もう忘れてしまった。
えっと……先ず……タイトル画面だよな? タイトル画面……タイトル画面……。
「監督! おい! 監督が倒れた! おいエラーだ! エラーを出せ!」
ゲームを起動しようとしたのだが、エラーが出た。
俺はそのエラーの原因を確かめるのが面倒臭かった為、ゲームは起動せずにPCをシャットダウンした。
「おい! 医療チーム早く呼べ!」
「お前知らないのか! 医療チームは、このゲームの創始者が派遣するものなんだ! 俺らではどうする事も出来ない! 出来るのは創始者にエラーの告知をするだけだ!」
「そんな! でもこのままじゃ……」
「くそ! どうしてだ! どうして創始者はエラーの告知を見ても何も反応しないんだ!」
「恐らく……エラーの告知を見て……面倒だと思ってシャットダウンをしてしまったのでは?」
「はあ? お前不吉な事言うなよ! それじゃ創始者は、もう当分我々の世界を覗きに来ねえのかよ!」
「やめろ! 不吉な事言うなって叫んでる奴が不吉な事叫んでんじゃねえかよ!」
「だって本当にそうかもしんねえじゃねえかよ! 早く創始者に! 医療チームを派遣して貰わない事には! 我々は! 何にも出来ねえんだよ!」
「うるさい! お願いだから落ち着いてよ……監督の前だよ? 今の姿……監督に見せれるの? ねえ……う……」
「カメラ? カメラ! おい今度はカメラが吐血した!」
「頼みます……我々の世界を……どうか救って下さいます事を……心より祈ります」
PCをシャットダウンしてから暫くして、何故か分からないが、無性にゲームが遊びたくなった。
どうしても……あのノベルゲームを遊びたい……そんな気持ちに包まれて行った。
俺は再びPCを起動し、ゲームのエラーの原因を突き止める事にした。
「……おい……来た……来た! 医療チームが来た!」
「来た! 創始者は我々を見捨てなかった!」
「ありがとうございます……ありがとうございます! ありがとうございます!」
「こっちだ! おーい! こっちだ! おーい!」
エラーが出た原因は直ぐに判明し、修正を施した。
何故かは分からないが、ゲームにバグが発生していたのである。
そのバグにより、ゲームが起動出来なかったのである。
ともかく、これによってゲームは再び遊べるようになった。
「監督?」
あれ……俺は一体何を……。
「監督! 良かった……」
「目を覚ましてくれて良かったです! 久しぶりに起動したと思って監督を呼び出したら、突然倒れられたんですよ!」
「俺が……倒れた?」
「ええ……もう一時はどうなる事かと思いましたけど、監督は簡単には死にませんね!」
「イラスト管理! KY発言!」
「あ、すません!」
「みんな……ありがとう……」
「いえいえ! 監督とカメラの命は、この世界の創始者が救ってくれました!」
「そうか……」
「創始者! ありがとう! ありがとう!」
「おい……背景……何やってるんだよ?」
「え? いや創始者に向けて、ありがとうって……」
「お前……何背景改変してんだよ……おい!」
「は?」
「背景……貴様何て事を……」
久しぶりに自分で作ったゲームを遊んでみても、意外とゲームの内容は覚えているものだ。
懐かしい気持ちに浸りながらゲームを遊んでいると、突然画面が盛大に乱れ始めた。
またバグが発生したのかと思った次の瞬間、乱れが治まり、完全に治ったかと思ったのだが、背景に赤い文字で、『ありがとう』と書かれている事に気が付いた。
俺は、このゲームは俺の知らない内に乗っ取られたか何かされてしまったのだと思い、ゲームに関する全てのデータを削除した。