表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

5W1H

作者: ライス中村



5年前

最後から二番目の転校の時に

クラスメイトの皆からプレゼントされたコップ

机の上に置いておいたそれが昨日割れた

なんの脈絡もなく突然に 静かにヒビが入って


住んでるここら辺 何もないから

バスで1時間ちょっとかけて

一番近場の都会にまで行った

新しいコップを買った

安くていいや、と思って無地のやつにした



すこし意外だった

使ってる時は 沢山の思い出が詰まってるものだと思っていたのに

いざ壊れてみたら 大して心が痛まない

でも5年前の出来事なんて所詮はそんなものか

むしろなくなってくれてせいせいしたような

そんな感じ


過去の自分が今の自分を形作っていると言われると

妙な納得感があって 

やっぱりそれは正しいんだろうと思わざるを得ない

けれど

今の自分が駄目なら

というか、実際自分は今ゴミみたいなものだから

それはつまり過去も何もかもが駄目ってことなんだと思うと

やっぱり嫌だ 嫌だな と感じるみたいだ

想像より我が儘だ 私は



帰りのバス停

プラスチック製の薄茶色の屋根があって

暖かみのない弱々しい日差しを受けて膨張して

耐えきれずパリパリと

まばらな拍手みたいな音を立てている

一人で座っていた



本当はコップを買う以外になにかするつもりだった

けれどなぜか疲れてしまって

なにもしたくなくなったから帰ることにした

自分のどの部分が一番疲れているのかは判らない

もう満遍なく、やけに重たい



幸せになれるなら別に

今ここで終わってしまってもいい

最終回をくれよ、と内心では思っている

でも、そうじゃなさそうだから

日々をうじうじ過ごすしかない

いつからか、どの方面への感動も生まれなくなった

一人でいるからなのか

誰かと語り合えないせいか


日常に嬉しい裏切りがないのは

自分に他人が憧れるような要素がもうちっとも残っていないせいで

誰かが私を騙そうとすることがなくなってしまったから

魅力がない空のペットボトルに誰も近寄らないのと

それはだいたい同じだ


余計なことを考えたな




バスは予定より20分も遅れている

誰か人でも轢いたのかもしれない


それって

ひどく面白いことだなと感じた

大声で笑いたい気分だ


そのまま予定がひび割れてくれたら

少しは幸福になれるかもしれない

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 簡単に終わりにさせてくれない世界になりましたね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ