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エピローグ



「ふあああぁぁ……。」



昨日から取り掛かっている特許出願予定の魔道具に、ついつい時間を費やしてしまって睡眠不足になってしまった。もう日が昇ったので、そろそろ準備をして約束の場所に向かうことにする。




懐かしいこの建物に足を踏み入れるのは何年ぶりだろうか。

建物からあふれる魔力に、幼いリディがワクワクと期待に胸躍らせていたあの頃を思い出す。今日はリディの母校である王立ブライトン魔術学院に特別講師として呼ばれたのだ。魔術特許の先駆者としてなどと恐れ多いことを言われたが、とりあえず自分が取得した特許の魔道具たちを連れてみんなの前で話をすればいいのだと分かり、それならばと引き受けた次第である。







「あははは!!しっかし、リディは今日もやらかしたなぁ!」



学院の食堂に集まった学院時代の仲間たちは、リディの講義を聞きにわざわざ足を運んでくれた。だがみんな笑いを堪えるのに必死でほとんど話を聞いていなかった。



「入学式の時もアレだったけど、今日もすごかったわね。」



ジャンにもアネットにも、やらかしたのすごかっただの酷い言われようだ。確かに挨拶では、年下の学生たちを前にしても緊張しまくりの噛みまくりで散々だった。さらに寝不足のせいで魔道具のひとつを落として壊し実演が出来なくなるわ、別の魔道具を生徒に使わせてみたら魔力を流しすぎて講堂が泡まみれになってしまうわで大騒ぎだった。



「あの掃除ができる魔道具は、まだ魔力コントロールが出来ていない子供がやると泡の量が今日みたいな大惨事になるから、商会でも取扱説明書の注意書きに記しておいたぞ。」



さすがジャンだ。リディは説明もせず魔力を流させてしまったので、床は泡であふれ講堂には大量のシャボン玉がふわふわと浮かんで生徒たちが遊び始めてしまった。先生たちも大慌てだったが、見ていたアルフレッドとクロヴィスが浄化魔術をかけてくれて事なきを得た。



「本当にみんなにも迷惑かけてゴメンね…今日見に来てくれてて助かったよ。」


「…まぁ、それを期待して見に来たっていうのもあるけどな。」


「そ、そうね。こんなに笑ったのは久しぶりだわ。」



クロヴィスもカロリーヌも励ましの言葉をくれるが、まだ吹き出しそうなのを堪えていて、アルフレッドは相変わらずリディをニコニコと眩しい笑顔で見つめている。



「ところで、限定魔術特許だっけ?無事に認定下りたんだってな。」


「しかも!国の防衛に貢献したとかで褒章が与えられるんでしょ!?すごいじゃない!」



二人の言う通り、リディの出願した魔術特許は発動試験の成功により認定が下りた。その後、アルフレッドの所属する魔術省の防衛機関に引き渡され、古代魔術の解読をすることができた。やはり年月とともに色々と綻びが出ていたということもあり、新たな結界魔術を張ることとなった話は魔術特許のお偉いさんから聞いた。



「それで、褒章はどうするのかしら?聞いた話だと叙爵も可能だそうじゃない。」



魔術省でも今回の件は大きな話題となっているようで、魔術医であるクロヴィスや魔術薬師のカロリーヌの耳にも早々に入ったようだ。



「んー、あんまり考えてないんだ。爵位とかちょっと私には恐れ多くて…。」


「何言ってるの!爵位がもらえれば、アルフレッド様との結婚も問題なくできるじゃない!」



アネットは身を乗り出して嬉々としてリディに訴える。



「けけけけっこん!!?」



ニワトリみたいな声を出してそんなに驚くことではないだろう。リディとアルフレッドの気持ちはここにいるみんなが知っていることだ。お互いの身分が障害になっていたこれまでとは違い、リディが爵位を貰えば二人は問題なく結ばれることができる。



「え、え!?だ、だって結婚なんて…!わ、わたしはアルのことす……きだけど、お付き合いもしていないのに結婚なんておかしいよ!」


「「「「 えっ!!? 」」」」



アルフレッドを除く四人は目を丸くし、口を開けてリディを見る。



「貴族の人たちは、家同士の結婚とかあるっていうけど平民の私はす…きな人とお付き合いしてから結婚したいと思ってるし…。」



あんだけ人前でイチャコラしておいて、まさか二人が付き合っていないとは思ってもいなかった四人は、恐ろしく思いつつもゆっくりと視線をアルフレッドに向ける。そして当の彼はというと、感情を無にした表情で石のように固まっている。クロヴィスが目の前で手をひらひらさせても動くこともしない。この様子ではアルフレッドはもう付き合っているつもりだったのだろうが、リディがそう思っていないのは何故か。クロヴィスは嫌な予感がした。



「あー…リディ嬢はアルフレッドのことが好きで、あれだけイチャコ…人前で手をつないだりしてたわけだけど、どういう関係だと思っているんだ?」


「え…えっと、距離感はかなり近いなって思ってたけど、す、好きとか言われたことがないから、親しい友達だと思って…ます。」


(……やっぱりか!このポンコツ野郎!!)



クロヴィスは隣に座るアルフレッドに苦々しい視線を送ると、アルフレッドはゆっくりと両手で顔を覆ったかと思ったらまた石のごとく動かなくなった。



「信じられないわ!!聞いてはいたけど本当にポンコツなのね、あなた!!」



カロリーヌが鬼の形相でアルフレッドを睨みつける。アネットとジャンは下を向いてひたすら存在を消すことに集中している。急に怒り出したカロリーヌにあわあわとするリディ。そして誰もこの地獄の空気を変えることができず頭を抱えるのだった。














―――――――――――それから一年。



のどかな景色が広がるコルタナ村の野原には、この村にしか咲かない花が満開となり咲き誇っている。その開けた場所にいくつかのテーブルが設置され、魔術が施された美しい飾りや素朴で美味しそうな家庭料理が並んでいる。



「しかし、アルの執念たるや恐ろしかったな。」


「そうね。でもそれくらいしなきゃ許されなかったでしょうね。アルとリディのお祖父様たちに。」


「すごいよなー。なかなか見つからなかった、いくつかの巣窟を見つけ出して一掃したんだろ?魔物なんて普段は見ることないからオレなんか怖くて無理だわ。」


「でもそのおかげで、不安から解消された人たちが積極的に街に出るようになって、私のカフェも今まで以上に盛況だから嬉しいわ。」



四人は目の前の料理やお酒を楽しみながら、この一年を振り返る。

結局のところ、リディは褒章を保留にしてまだ受け取っていない。期限はないようなので、いずれ必要になれば考えると言い爵位も得ることはなかった。



それに対しリディとすっかり恋人同士だと思い込んでいたアルフレッドは、一度は失意の底に落ちたものの、クロヴィスやカロリーヌだけでなくオリオール家の面々(特に祖父と兄)に散々な言われようだったらしく、結界魔術が完成した後に魔物の巣窟を一掃するため、自ら志願して辺境の地へ乗り込んだ。


巣窟はちょうど国境の深い谷にいくつか発生していたらしく発見するまで時間はかかったが、そこからはアルフレッドを筆頭とした魔術師団によって早々に片がつけられた。






「まだ持っててくれたんだね。」



柔らかな笑みを向けながらリディの髪に付けられた銀の髪飾りにそっと触れる。野原に咲く花と同じ形をした飾りが、太陽の光を反射しながらキラキラと揺れている。



「うん。今日は絶対にこれをつけるって決めてたの。」


「新しいのをプレゼントしたのに。」


「いいの。あの時の約束が守れなかったのもあるけど、これはアルと私の学院時代の大切な思い出だから。」


「そっか、ありがとう。」



白い衣装に包まれた二人は、みんなが待つ野原へ手を繋いでゆっくりと歩く。

初めて出会ったこの村で幼い二人は同じ夢を分かち合った。大人になった彼らの道は一度離れてしまったが、今またこうして重なる。そして、これから先は離れることはない。




あの時と変わらない眩しい笑顔で彼は言う。



「リディ、大好きだよ。」


「うん、私も大好き!」










おわり


これで完結となります。読んでいただきありがとうございました。評価いただけると、次回作の励みになります!

今後は番外編をちょこちょこと、あとはクロヴィス×カロリーヌのお話を書けたらいいなと思っています。拙い文章ではありましたが、無事完結まで辿り着けてよかったです。

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