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お仕事編21




「二コラさん。さっそくなんですけど、魔力流すの手伝ってもらえますか?」


「もちろん、いいわよ~。ちなみにこのくそノエルも手伝うわよ~。」



リディはえっ、と声を詰まらせる。確かに今日のノエルの魔力量はいつもと違う。というか、ここまでの魔力量を持つ人に出会ったことがない。今まではリディと変わらないくらいポンコツだったのにどういうことだろうか。



「……さっさと終わらせるぞ。」



ノエルがそういうと、二コラとノエルは魔力を流している魔術師たちと交代した。二人はリディが作った魔道具に手をかざすと、二人の魔力が流れ始める。周囲の魔術師たちもその様子を息を飲んで見守っている。



(っていうか、先生……!!?)



リディはノエルがとんでもない魔力量を流し込んでいることに驚きを隠せない。リディが今まで出会った中で、魔力量が一番多かったのは二コラだ。次にリディの祖父ドミニクとアルフレッドが同じくらい。おそらくアルフレッドの祖父ジスランも同じくらいだと思うが、ノエルの魔力量はその比ではない。



「…終わったぞ。」



ノエルがそう言うと、魔道具に嵌め込まれた水晶から変換された術式が投影機のように神殿の白い壁に映し出された。自分たちが掛けた時間よりも遥かに早く終えたノエルを見て、魔術師たちは愕然としている。ノエルの魔力量もさることながら、彼は魔道具に効率よく魔力を流し込んだことでかなりの時間が短縮された。これはリディの開発した魔道具の術式を理解しているからこそ成せる業である。


ノエルを見ていたアルフレッドはそのことを理解し、悔しい思いで腕の中にいるリディを思わず強く抱き込む。しかし、リディは持ってきたもう一つの魔道具でそれを記録しなければならない。それを魔術特許機関に渡せば今回の発動試験は完了だ。慌ててアルフレッドの腕から抜け出し、可視化された術式を記録した。



その一連の流れを見ていた魔術師たちは、リディが成し遂げた古代魔術の変換と可視化、隣国筆頭魔術師のノエルや二コラの規格外の魔力を目の当たりにしたこと、そして自分たちがその身を削ってこれまで何度も挑んできた古代魔術の解読への大きな一歩が踏み出せた感動に自然と拍手が巻き起こった。



「立派になったな、さすがドミニクの孫だ!」



そう言ってジスランはリディの頭を撫でる。そういえば、小さい頃にもこの手に頭を撫でてもらったことがあった気がしたことを思い出し、リディは少し照れ臭くなった。



「ノエル!あんたねぇ!!散々魔力溜め込んでるの隠して、その間アタシに認識阻害の魔術かけさせたり、国の仕事押し付けたり…!覚えてなさいよ!!」



先ほどまで美しかった容姿が少し筋肉質になり、低くなった声が響く。ノエルは二コラを鬱陶しそうに顔をしかめている。



「二コラさん…、二コラさん……!」



リディは小さな声で二コラに話しかける。二コラは何事かとリディを見るが、自分の今の状態にはたと気づき、さらに周囲の視線を感じて周りを見渡す。



「あ…、あらやだぁ!アタシったら魔力使いすぎちゃったわ。」



そう言って慌てて魔術で元の姿に戻るが、彼女の真の姿を見た彼らは唖然としている。僕の女神が…と呟いている人もいた。



その時、バサッと神殿の床に何かが落ちる音が響いた。みんな騒いでいて気づいていないようだが、リディはその音に目を向けると、外で魔術師たちを回復させてくれていたセシル王女が神殿内の騒がしさに戻ってきたようだ。そして彼女がタオルを入れたカゴを落としたらしい。何故か呆然と立ち尽くしている。



「セシル王女。」



セシルも魔術特許機関の魔術師として、今回の発動試験の手伝いを頑張ってくれた。過去にはアルフレッドの婚約者と勘違いし彼女に対して後ろめたい気持ちもあったが、魔術師たちの回復だけでなく、雑用のようなことまで進んで協力してくれた彼女の人柄に感謝しかない。


しかし、リディが呼びかけたが返事がない。

セシルは一点を見つめてふるふると震えている。一体どうしたのだろうか。




「のののノエル様…………!!!!」




ノエルの名前を呼び、両手を前に出して老人のように震えながら歩きだす。ノエルの知り合いだったのかなと思いながら見守っていると、はわわわわと不思議な声を出しながらノエルから一定の距離を保ち手を組んで祈りを捧げ始めた。ノエルは変なものが近づいてきたと訝し気にセシルを見やる。



「先生、セシル王女と知り合いですか?」


「……知らん。」



不機嫌に一蹴するノエルを見て、セシル王女が傷つかないかと心配になるリディ。だがセシルはぐいっとリディに顔を向けると両肩を掴んで縋ってきた。



「リディ先輩!!ノエル様とお知り合いなんですか!?いま先生って言ってませんでしたか!?ままままさかリディ先輩は神の弟子という事なんですか!!?」



がくがくと両肩を揺さぶられてリディは頭がくらくらとする。恐ろしいほどの勢いで問い詰められてもこれでは答えられない。ちょっと落ち着けとアルフレッドに言われてリディから引きはがされたセシルは、やはりノエルと一定の距離を保ちながら、今度は手を合わせて拝んでいる。ノエルは神なのか仏なのか。





神聖なる神殿が騒がしくて収集がつかなくなったのでジスランは一度解散をさせ、今回の発動試験の結果を報告し、国から沙汰が下されるのを待つようにと言い渡された。


ノエルと二コラは早々に隣国へ帰り、残されたセシル王女に色々と問い詰められそうになったが、アルフレッドが何とか落ち着かせてくれた。他の魔術師たちも魔力消費の疲れを癒すため、明日は休みとなり喜びに沸いたまま帰っていた。



アルフレッドと一緒に王宮の神殿から帰るため、門に向かう。朝早くから始まった発動試験は日が落ちる前に無事終わり、今はその太陽が神殿の白い建物をオレンジ色に染めている。相変わらずアルフレッドに手を繋がれたままで、それが当たり前のことになったリディは学院時代を思い出し、嬉しいようで切ないようで心がキュッとなった。


今日は職場に戻らずこのまま帰るからと彼は馬車で家まで送ってくれることになった。疲れているのに申し訳ないからと言ったが、送らせて欲しいと頼まれたので断ることができなかった。馬車に乗り込むと、アルフレッドはリディを抱きしめて大きくため息をついた。



「リディ、本当にありがとう。」


「…どうして?」



アルフレッドは自分の魔力を限界まで消費して発動試験に挑んでくれたというのに、何故お礼を言われるのか。リディこそアルフレッドに感謝の気持ちでいっぱいだ。そう話すと、アルフレッドが現在携わっている仕事のこと、それが今日の古代魔術の解読で思うように進まず魔術師としての自信を失くしたこともあったなどと話してくれた。


今まで彼から弱音など聞いたことがなかった。どれだけ疲れていても、リディのことを気遣い力になってくれた。そんな彼が今、自分に弱いところを見せてくれている。それが可愛くて愛しいと思う。



「やっぱりリディはすごいよ…。」



そう言って疲労の色が滲んでいても、いつもと同じ柔らかくて優しい笑顔をしたアルフレッドはリディの唇に自分の唇を触れるように重ねると、そのままリディの肩にもたれて眠ってしまった。





次回最終話です。

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