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ブライトン魔術学院編3

両手で顔を覆ったままのリディに、アルフレッドは再び声を掛ける。



「あのさ、さっき食堂に居るときに聞こえたんだけど、王立図書館に入りたいんでしょ?僕の父なら、王立図書館の館長と繋がりがあるから、頼めば夏休み中に入れてもらえると思うけど。」



「え!!!?」



思いがけない提案に、リディは即座に顔を上げてアルフレッドに近づく。



「え!!!? 本当に!?」


「うん。ちょうど僕も調べたいことがあったし、今から父に話しておけば大丈夫だよ。」


「ぜ、ぜひお願いします!……お願い!!」



アルフレッドの両手を掴み、上下にぶんぶん振りながら目をキラキラ輝かせる。

最初はあまり印象の良くなかった彼は、日々の学院生活でそんなに悪い人ではなくなり、今この瞬間からリディにとって最高の恩人だ。この眩しさも相まって、もはや神様なのではないかとさえ思える。



「そんなに喜んでもらえるなら、僕としても嬉しいよ。」


「アル、ありがとう!!」



崇めるような表情を浮かべ、アルフレッドの両手をギュッと握る。彼の手からは、じんわりとした暖かくて優しい魔力が感じられ、リディはやはり彼は神様なのだと思った。



「う、うん…」



いつもと同じ優しい笑顔を浮かべるアルフレッドだが、何故か少し顔が赤くなっていた。










授業も終わり、寮に戻るとさっそく引き出しから便箋を取り出し手紙を書く。

母ソフィアと祖父ドミニクにだ。ちなみに存在感の全くないリディの父はというと、ちゃんと生きている。生きてはいるが、何せふらっと旅に出てはふらっと帰ってくる自由気ままな人間なので、幼い頃からリディは「たまに家にいる陽気なおじさん」だと思っている。父親と言われても、よくわからないのだ。



手紙には、夏休みの半分を実家で過ごすこと。

帰ったらソフィアお手製のキッシュが食べたいということ。ドミニクには授業で作った魔術の術式を見てもらいたいことなどを書いた。

友達ができたこと、王立図書館に入れることなどは手紙に書かず、リディは帰ってから二人に直接話そうと思った。









そして迎えた夏休み。

実家のあるコルタナ村までは馬車で1日半の道のりだ。

入学の時は、学院のある王都までソフィアとドミニクが一緒に来てくれた。今回は、途中で泊まる宿まで迎えに来てくれるので、そこまでの移動は一人になる。



学院に帰省の申請をする際に、お願いをすれば無償で護衛をつけてくれて、保護者にきちんと引き合わせてくれる。平民の子どもたちは、馬車も護衛も用意できない家庭が多いので、こういったことを手厚くしてくれるのもこの学院の魅力のひとつだ。



一人で馬車に乗るのは初めてだ。護衛の人が居るといっても、会うのは初めてだし、何を話していいか分からないからちょっと緊張する。

明日、数か月ぶりに帰る家に、楽しみと緊張が半々でその日の夜はなかなか眠れなかった。



「よろしくお願いします。」



今回の帰省で護衛についてくれるのは、女性の護衛騎士だった。白い騎士団の服に身を包む姿はとてもカッコ良く、リディの荷物を持つのを手伝ってくれた。如何にも“仕事の出来るお姉さん”である。リディも将来こんな素敵な女性になれたらなと思いながら、乗合馬車に一緒に乗り込む。



馬車の中では、お姉さんのお仕事の話や自分の学院での話。そしてお姉さんの恋人の話を少し聞かせてもらった。何でも幼い頃からの幼馴染みで、同じ騎士団に所属しているそうだ。婚約までしていて、来年には結婚式を挙げるそうだ。そんな話をしている時のお姉さんは、とても女性らしく輝いて見えた。

まだ恋をしたことのないリディは、いつか自分にも大好きな人ができるといいなと思った。



昨夜の緊張は何処へやら、話に夢中になったり、うとうとと眠ったりしている間にすっかり辺りは日が暮れて、ソフィアとドミニクが迎えに来る宿に到着した。



「お母さん!! おじいちゃん!!」



二人を見つけたリディは、思わず駆け寄る。



「ちょっと見ない間に、少しお姉さんらしくなったわね」


「背も伸びたみたいだしな。」



四か月振りのリディを見て、二人は嬉しそうに笑顔を浮かべる。

リディはくるっと振り返り、



「お姉さん、ありがとうございました!」



そうお礼を言うと、素敵な笑顔をともに騎士の敬礼をしたお姉さんと別れた。



夜が明け、朝早くから三人で宿を出発する。

朝早く出ればお昼前には家に着くので、家でご飯が食べられるとリディは喜んで馬車に乗った。




そして久しぶりのエルランジェ家に到着したリディは、自分の部屋に荷物を放り込むとダイニングテーブルに座ってソフィアが作る昼食を待つ。

その間に、一緒に座っているドミニクに学院での出来事を話した。



「あのね!お友達ができたの!アネットって言って寮で同じ部屋なんだけど、とっても可愛らしいのにしっかりしてて、色々助けてもらってるんだ。あとね、ジャンっていう男の子は隣の席なんだけど、一番最初に私に声を掛けてくれた友達の!」



リディは、手紙には書かなかった友達のことを矢継ぎ早に話した。

そんな彼女の姿を微笑ましく見ているドミニク。



「あとね!なんと!!夏休み中に王立図書館に行けることになったんだよ!」


「おぉ、あそこは申請しても入れるまでに時間がかかるだろ。」


「そうなんだけど、同じクラスのアルが一緒に連れてってくれることになったの!なんか、お父さんが館長さんとお知り合いなんだって!」


「よかったな。アルというのも友達か?」


「んー、友達っていうか。同じクラスの有名な貴族の子みたいなんだけど、よく声かけてくれるんだよね。みんなにはアルフレッド様って呼ばれてるけど。」


「……そう言えば、ジスランのところの孫も確かアルフレッドだったぞ。」


「え!?」


「ジスランは今のオリオール卿の父だからな。あいつも有名な貴族の人間だ。」



リディは貴族には詳しくないが、その名前を知っていた。何故ならジャンがアルフレッドとクロヴィスの家名を教えてくれていたからである。



「え……じゃあ、おじいちゃん前にジスランさんのお孫さんと私が遊んだって言ってたよね?」


「あぁ。だからその子どもがアルフレッドということだ。知らないで仲良くなっていたのか?」




「ししししらない!!」




同じクラスとは言え、まさか自分とは住む世界の違う人と幼い頃に遊んでいたという衝撃の事実が発覚し、さすがのリディも動揺を隠せなかった。


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