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お仕事編17



初めて訪れるお邸の庭は、豊かな木々や色とりどりのたくさんの花に囲まれている。学院時代に招かれた侯爵家の庭とは少し異なるが、雰囲気がどことなく似ているのは古くから付き合いのある家同士だからなのだろうか。

場違いだと感じながらも、こうして非日常のこの空間に足を踏み入れるのは学院に通っていた頃もワクワクしていたものだ。今日は彼女の記念すべき日という事もあり、リディも奮発してドレスを用意した。アルフレッドにプレゼントしたいと言われたが自分で稼いだお金でこの日を迎えたいのだと言い、渋々納得してもらった。



庭園にはすでにたくさんの人が集まっている。しかし今日はごく親しい人たちを集めてくれたとあって堅苦しさはなく、よく見るとブライトン魔術学院の同級生や下級生など見たことのある顔ぶればかりだ。

そして中庭の集まっている人だかりの中心にいるのが彼女とその婚約者。


当時から色んな意味で目をひく二人であったが、遠目で見てもひと際輝いているのがわかる。近づくのに少し気が引けてしまったが、彼女がこちらに気づき向かってきてくれた。



「お久しぶりね!リディ。」



近くで見ると一段と美しくなっているカロリーヌに、リディは思わず息を飲んだ。後ろからクロヴィスもついてきているが、彼も記憶にあるよりも精悍でより男性らしい姿になっている。


今日はカロリーヌとクロヴィスの結婚を祝うパーティーだ。結婚式は侯爵家同士ということもあり、王族をはじめとした上流階級の貴族の方たちが招かれるため、二人は友人たちを招いたパーティーを開いてくれたのだ。



「久しぶり…本当に。ごめんね、色々心配かけちゃって…。」


「いいのよ、元気でいてくれたんですもの。こうして今日来てくれただけで嬉しいわ。」


「アルももうすぐ来るんじゃないか?相変わらず忙しいみたいだが、リディ嬢に会えるのを楽しみにしてたぞ。」


「私たちの結婚パーティーだというのに、相変わらずですわね…。」



二人とも微妙な顔をしているが、こうして見るととてもお似合いだ。学院時代はとにかく仲が悪く、会えば口喧嘩ばかりだったが、今の二人は寄り添いあって信頼関係ができているのがリディにもはっきりとわかる。



「カロリーヌ、おめでとう。とっても幸せそうだね。」



少し遅れてしまったが、お祝いの言葉を伝え、プレゼントを渡す。二年ぶりに会ったカロリーヌは本当に幸せそうだった。いつもクールビューティーと呼ばれていた彼女だが、今日はとても柔らかい雰囲気で纏う魔力も幸せいっぱいという感じだ。



「…え!?あ、ありがとう。そ、そうね……えっと…」



リディは感じたままを口にしたのだが、カロリーヌは動揺して顔を赤くしている。どうしたのだろうか。何故か隣に立っていたクロヴィスはカロリーヌを見てニヤニヤとしている。この表情はリディも憶えている。カロリーヌを揶揄うときにする顔だ。



「幸せ、だろ?奥さん。」


「…………!!!」



クロヴィスがカロリーヌの腰を抱き寄せて、こめかみに口づける。カロリーヌは爆発するのではないかと思うほど真っ赤になってしまった。見たこともない二人の姿に、リディは恥ずかしいというよりも呆気にとられてしまった。



「ちょ、ちょっと…!!」



カロリーヌがクロヴィスを両手で押し返すが、それすらも面白いようで彼はクツクツと喉を鳴らす。このやりとりが何だか懐かしい。



「クロヴィスの魔力も幸せ~って感じでカロリーヌと同じだね。」



思わずクスリと笑いながらそういうと、今度はクロヴィスがピシリと動きが止まってしまった。どうしたのだろうか。不思議に思っていると、後ろから足音が近づいてきた。



「あはは!リディの魔力感知能力を忘れてたね。」



アルフレッドは面白そうにクロヴィスを見ながら笑っている。クロヴィスは頬を赤くしながらアルフレッドを睨みつけていて、その横にいるカロリーヌは何故か勝ち誇ったような顔をしてクロヴィスを見上げている。



「リディ、今日のドレスとても素敵だね。似合ってるよ。」



そういうアルフレッドの正装姿もとてもカッコいい。思えば学院の制服や私服、魔術師の制服は見たことがあったが、卒業式に出なかったリディは彼の正装を見るのは初めてだ。思わず見惚れてしまい、反応が遅れるとすでにリディは彼の腕の中にいた。



「……おい、アル!!」


「……ちょっと、いい加減になさいアルフレッド。」



カロリーヌもクロヴィスも半目でアルフレッドを見ている。近くにいた友人や先輩後輩たちもアルフレッドの登場に一瞬ざわついたかと思ったら、いきなりリディを抱きしめたので呆然としている。そして少し間があった後に女性陣から悲鳴が上がったが、リディはアルフレッドに抱きしめられていてよく聞こえなかった。


アルフレッドの腕から解放されると周りの空気がおかしなことに気づいたリディだが、原因がわからず首を傾げていると、アネットとジャンがやってきた。二人も微妙な表情をしている。



「わかってはいたが、アルもう少し自重しろ。」


「そうですわよ。」


「アルフレッド様、すごいですね。」


「うん、目の当たりにするとさらにね。」



四人が口々に言う。アルフレッドが責められているのか褒められているのかは分からないが、当の本人はご機嫌でリディの手を握っている。帰ってきてからというもの、アルフレッドの距離感に少しずつ慣らされたリディは手を繋ぐことに疑問を持たなくなってしまった。しかし客観的に見て、成人した男女が手を繋ぐ行為は恋人同士のそれである。


だが、まだアルフレッドが友人の域を越えていないとリディが思っていることを、ここにいる誰もが知らない。





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