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お仕事編16



ジャンは床にお尻をついたまま、呆然とノエルを見ている。そんなジャンを気にすることもなく、ノエルはリディを無言で睨みつけている。明らかに機嫌が悪い時の表情だ。これは早くどうにかせねば。リディはジャンに断りを入れて、慌てて準備をする。



「先生、今すぐ作りますから、ちょっと座って待っててください!」



食材は決まった日に仕入れている。昨夜のうちに仕込んでおくつもりが、ここのところ忙しくてすっかり忘れてしまっていた。とにかく早く作ってノエルの機嫌を回復しなければ、初対面のジャンが見たこともないくらいプルプルして怯えている。


定温保存箱に保管してある食材を出し、ホットサンドを作り始めた。その姿を見て少し落ち着いたのか、ノエルはダイニングテーブルの椅子に腰を掛けた音が後ろからした。ジャンは大丈夫だろかと心配だが、先に料理を作ってしまう方が早い。



「……専売契約」



ノエルがぼそりと呟いた。どうやらテーブルの上にあった契約書を見たようだ。床に転がっていたジャンもそれを聞いてゆっくりと立ちあがり椅子に戻った。



「そうなんです。初めまして。僕、リディの学院時代の友人でジャン・マルセルと言います。このたび彼女の魔術特許を取得した魔道具を実家が経営している商会で専売させていただくことになりまして。」



さすが商談や交渉になれているとあって、初対面の怪しい風貌の人間にも臆することなく話し始めたジャンを横目に見てリディは感心した。先ほどまでのビビりっぷりが嘘のようだ。



「マルセル商会か……。」


「ご存じでしょうか。」


「あぁ、こちらの国にもマルセル商会の商品が出回っているからな。」



世の中から隠れるようにして暮らしているノエルだ。それなのに知っているという事は、思った以上にジャンの実家は有名なのだとわかり、リディは内心驚いた。



「専売契約をすれば、生産量や価格の管理をしてもらえるので助かると思ったんですが…」



自分が良いと思ったので契約を進める方向でいたが、このタイミングでノエルが来てくれたのならとノエルに相談してみる。もし難色を示されても契約を進める方向ではいるのだが、師としての意見は聴いておきたいと思ったのだ。だがそんな心配も無用で、その方が良いだろうとノエルは言った。


ホットサンドも無事できあがり、ついでに自分とジャンの分も作ってテーブルに出した。相変わらずインクできったない手のままモグモグと食べ始めたノエルだが、ジャンもまったく気にする様子もなくリディの手料理の方が珍しいのだろう。ちょっと最初は身構えていたが、ノエルが無言で食べているのを見て、いただきますと言って食べ始めた。



「うま!!!」


「ありがとー!」



安定のリアクション。作り甲斐がある。



「先生のところで勉強しながら、食堂で働いてたからね!」


「すごいな、ほんとにうまい!!」


「よかったー。味付けは食堂のおじさん直伝のを少しアレンジしてるんだ!」



この味付けはリディが自分の好みに合わせて作ったものだ。以前、お店で作っているものをノエルに食べてもらったら、どうやらアレンジしてあるほうがお気に召したらしく、それ以来、今の味が定番となった。ノエルは早々に食べ終わったのか、手を払って席を立ちあがった。



「…………例の特許申請はどうなっている。」


「正直、かなり難航しています。まだ時間がかかりそうですが、発動確認する際には先生と二コラさんにお力をお借りしたいです。」


「わかった、伝えておく。」



そう言ってノエルは帰っていった。


今やっている出願予定の魔術は、少し特殊だ。リディが日ごろ作っているような広く一般的に使われる魔術ではなく、複製も量産も不可とされる『限定魔術特許』を出願する予定になっている。これはノエルから課された課題で、限定魔術特許を取得するには非常に高度な魔術を必要とする。


以前、ノエルが人形に詰め込んでいた魔石に施された魔術もそうだ。国全体の結界魔術ともなると厳重に管理されなければ、それこそ国際問題に発展しかねない。そういった高度な魔術を悪用されないためにも、限定魔術特許を取得した場合には国から相応の報酬が約束されている。ノエルはそれを断ったと二コラから聞いているが、報酬はさておきリディはこの難易度の高い限定特許取得を何としても取ってみたいのだ。



「とりあえず食べ終わったら、契約書の内容を確認してもいい?」


「分からないところがあったら説明するから言ってくれ。ところでさっきの先生って言ってたけど…。」


「そう、あの人が隣国でお世話になってた先生だよ。ああ見えてすごい人なんだ。」


「うん、なんか色んな意味ですげー感じがした。たまにここに来るのか?」


「ほとんど来ないよ。今日はたまたま私が行くの忘れてて来ちゃっただけ。いつもは週一回届けてるの。このホットサンドで魔術教えてもらえるようになったもんだから。」



そう言って笑うリディを見て変な顔をするジャン。



「……あのさ、それってアルは知ってんのか?」



嫌な予感しかしないが、聞きたくないと思いながらもここは確認しておく必要がある。



「あ、言ってなかった。」


「やっぱりか!!」



どんだけ地雷抱えてるんだ!と思わず叫んだジャンだったが、リディはキョトンとしながら口を半開きで見てくるだけだった。





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