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モンタニエ家のお茶会

箸休めです。




王都の中心街に位置するモンタニエ家で今日も優雅にお茶会が催されていた。

美しく彩られた庭園の中にあるガゼボで、王立ブライトン魔術学院を卒業した友人たちが久しぶりに集まっている。



「急なお誘いなのに来てくださってありがとう。」


相変わらず優雅な所作で美しい微笑みを浮かべるのは、このお茶会の主催者カロリーヌ・モンタニエだ。一見すると隙のない貴族令嬢と思われがちだが、親しい友人だけが知っている。彼女は時として貴族令嬢らしからぬ振る舞いや顔芸を披露することもあることを。



「いいえ、私もみんなに会いたいと思っていたの。」


くりっとした目が特徴的なアネットは、愛らしく柔らかな雰囲気をしている。だが、商売のこととなると話は別だ。(あき)(んど)魂に火がつくと一転して鋭い眼光になり、脳内では計算機がはじき出されている。



「……オレ、こんな場違いなところに来ちゃって良かったのかな。呼んでもらって嬉しいけど。」


キョロキョロと周りを見渡しているのはマルセル商会の跡取りであるジャン。彼が一番平凡で平凡で平凡だ。人当たりが良く、裏表がない。初対面の人間の懐に入るのが上手なのは、ある意味商才のひとつとも言えるかもしれない。



「いや、なんでオレも呼ばれたのかわからないんだが。」


不満げな顔をしている彼は、クロヴィス・レスタンクール。アルフレッドやカロリーヌと同じく侯爵家の子息で嫡男だ。そして、カロリーヌの婚約者。幼い頃は粗暴で口が悪かったが、近頃は貴族らしい青年になったせいか貴族のご令嬢からの人気は高い。



「あなたもブライトン魔術学院の卒業生ですし、ジャンの友人でもありますから。まぁ…わたくしの婚約者だというのは不本意でしょうけど……。」


「別に不本意じゃないが……。」


カロリーヌに聞こえないほどの小さな声でつぶやく。

昔に比べてクロヴィスが噛みつくことが少なくなったのであからさまな喧嘩にはならないが、どうしてカロリーヌは素直になれないのかとアネットは心の中で小さくため息をつく。



「ところで近頃のアルフレッドの様子は大丈夫?」



なんだかんだで卒業してもクロヴィスとの付き合いが続いているジャンが問う。



「あぁ、それがリディ・エルランジェ嬢の居場所が分かったらしい。」


「ほんとうに!?」



カロリーヌが手に持っていたティーカップを置くと、少し前のめり気味でクロヴィスに向かう。

普段はクールビューティーな彼女が、目をキラキラと輝かせて嬉しそうにしている様子をあまり目にすることはない。クロヴィスも思わず後ろに体勢を傾け驚いている様子だが、その耳が少し赤くなっていることをアネットは見逃さなかった。



「なんでも隣国の魔術師のところに弟子入りしていたらしい。近々時間作って会いに行くって言ってたが、やっと見つかった喜びと仕事の疲れでテンションおかしかったぞ。」



その時の様子を思い出したのか、クロヴィスは笑いを堪えながら話している。普段は冷静なアルフレッドが一体どんな状態だったのかは想像がつかないが、リディがいなくなって自分たちの所に連絡が来ていないかと定期的に聞きに来ている時の憔悴した様子を思い出すと、その気持ちはわからなくもない。



「でも、あれだけ学院で友達を作る宣言してたリディが、なんで卒業してから一度も連絡くれなかったのかなぁ。」



リディとは同じクラスでパートナーもしたし、弟のために通信機も作ってくれた。自分は結構仲の良い友達だと思っていたので、ジャンも少なからずショックを受けていた。



「あの子のことだから、また自分で抱え込んで解決しようと思ったんじゃない?」



さすがというか、アネットはリディと一緒に過ごした時間が一番長いだけ彼女のことを理解しているのだろう。振舞われた紅茶を口に運び、落ち着いた様子だ。



「その辺もアルが聞き出すだろうな。もう逃がさないとか言ってたぞ。」


「こわいわ…アルフレッドがリディに執着しているのはわかっていたけれど…」



カロリーヌが美しい顔を歪ませて、ドン引きしている。

学院時代、リディに何かあると必ずアルフレッドが絡んでいた。あるとき、テスト前に勉強を教えて欲しいとリディに近づいた一人の男子生徒がいた。学力なら自信があると喜んだリディは快く承諾したが、そこにアルフレッドが現れて上手いこと言いくるめたのだろう。最終的にクラスの半分くらいの人数が集まっての勉強会になっていた。ちゃっかりリディの隣の席を確保して。

またあるときは、クラスが別れてリディが貴族のご令嬢たちに絡まれそうになってると知った時だ。内々にそのご令嬢たちを招いてのお茶会を催し、出会いの場を作った(アルフレッドは早々にその場を抜けた)ことで、色恋に忙しくなった彼女たちはリディに絡まなくなった。



リディは気がついていないが、クラスが離れていても彼女の動向を見ていてリディの負担にならない程度に接触をし、時には裏でひっそりと動いていたことをここにいる全員が知っている。何故なら、このメンバーでの集まりはなかったものの各々が卒業後に会っている。

アネットとカロリーヌは女の子同士ということもあり、比較的会う回数が多い。それ以外にも婚約者であるカロリーヌとクロヴィス。商会でつながりのあるアネットとジャン。たまにクロヴィスとジャンも会っていたようだ。そしてその時話すのは、近況と学院時代の話だ。楽しい思い出話として話していたはずだったが、リディとアルフレッドが言っていたことをそれぞれ聞くとみんながみんな、おや…?と思うようになった。

そして全員が集まらずとも数々のエピソードを総合して、アルフレッドのリディに対する執着がやばいという結論に至ったのだ。



「リディは今度こそ逃げられないわね……」



ポツリとアネットが呟いて、冷たくなった両腕をさすった。

みんなも口には出さなかったが、その通りになる未来が見えていた。




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