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お仕事編9

少し間があいてしまいました、すみません。リディとアルがイチャコラしてます。




「……アル。」



やっとのことで声を絞り出す。

しばらく何も言わずに抱きしめられているが、このままでいるわけにはいかない。最初は動揺して混乱していたが、少し時間が経って頭の中は冷静になってきた。身体に巻き付いた彼の両腕をそっと離そうとリディは彼の腕を取った。が、離さないとばかりに更に強く抱きしめられた。



「……アル、苦しい。」



そういうと、彼は慌ててリディの身体から両腕を解いた。椅子に座っていたリディは、立ち上がって振り返る。約二年ぶりに見る彼は相変わらず眩しくて、さらに背が伸びて逞しくなっていた。髪も少し伸びて見たことのない色気を発しているので、覚悟して振り返ったつもりだったが思わず肩を揺らしてしまった。



「ひっ…!……久しぶり、だね。」



精一杯の笑顔を取り繕ったが、うまく笑えている自信はない。一方のアルフレッドは、何故か泣きそうな顔をしている。ゆっくりと両手を伸ばしてきたかと思ったら、リディの顔を優しく包み込んだ。逃げ場のないリディは思わずギュッと両目を閉じる。



「…リディ。」



名前を呼びながら顔を何度も優しく撫でてくるので、くすぐったくて止めて欲しいと薄く目を開けるとアルフレッドの顔が目の前にあり、思わず息を止める。

次の瞬間、おでこに温かくて柔らかい感触がした。それが彼の唇だと気づいた時には頬にまぶたの上にと次々キスされるので、リディは抵抗する暇も与えられない。しかもリディ、リディと何度も名前を呼ばれるので、胸のあたりがキュッと締め付けられて身体が熱を帯びてくる。


二年前のあの日、遠く離れたこの地に来ることを決めたのは将来のためでもあったが、彼を忘れるためでもあった。でも、こうしてアルフレッドが目の前に現れた今、自分の心はあの日から全然変わっていなかったことに気づいた。



(……っていうか…いつまでするの!?)



一向に離そうとしないアルフレッドに、さすがのリディも身を捩って抜け出そうとする。すると、逃がすまいと頤を掴んで顔を上に向けられた。一度離れたアルフレッドの顔が、また近づいて今度はリディの唇を捕えようとする。




「ちょっとー!感動の再会はいいけど、アタシの前でイチャコラしないでくれるー!?」



アルフレッドの背中から二コラのよく通る声がした。



「二コラさん!!」



慌ててアルフレッドから離れて二コラに駆け寄ろうとしたが、それも阻止されてホールド状態だ。

二コラは呆れたように半目でアルフレッドを見る。



「まったく、リディちゃんに会いたかったのは分かるけど、しつこいオトコは嫌われるわよ~。」


「…リディの場所を教えてくれたことは感謝してます。いいんです、もう離しませんから。」



アルフレッドはそう言うと、リディをギュッと抱き寄せた。何度目だろう。離さないというのは物理的になのか。小さい子供が大切にしているぬいぐるみにでもなった気分である。



「……はぁ。リディちゃんも面倒なオトコに捕まったわね。」



アルフレッドのことを面倒などと思ったことはなかったが、今まさに実感している。これは抵抗したり逃げようとしたりすれば、余計に面倒なことになると。



「二コラさんはアルフレッドと知り合いなんですか?」


「んー、知り合ったのはつい最近なのよ。…立ち話もなんだから場所変えましょう?こんな埃くさいところ嫌だわ。ノエルは……逃げたわね、アイツ。」



ノエルはまるで二コラが来ることを分かっていたかのような口ぶりだが、きっとそうなのだろう。

二コラのおかげで、ようやくまともに話せそうだと安心したリディは先ほど中断した作業の片付けをし、出かける準備をした。





以前、二コラとお茶をした喫茶店に来た。

そして、アルフレッドはというと先ほど言ったとおり物理的にリディを離してくれない。道中はずっと手を握っているし、少しでも抵抗しようとすると、どうしたの?と笑顔を向けられる。だがその笑顔が本当に笑っていないやばいやつだと分かる。今度逃げたら、首輪をつけられそうねと二コラは笑っていたが、冗談ではなく本当にしそうだとリディは背筋が冷たくなった。



お馴染みとなったこの喫茶店でリディの隣には当然アルフレッドが座り、対面に二コラが座る。

頼んだ紅茶が来るまで少し時間があるが、二コラは早々にいきさつを話し始めた。



「まず、彼と知り合ったのは最近って言ったけど、私がリディちゃんの国の魔術特許法に関わっている話は前にしたわよね。そこで一緒にお仕事していた魔術師さんが彼のお祖父様なのよ。」



リディはふと思い出した。そういえば、リディの祖父のドミニクがそのようなことを言っていた気がする。



「ということは、アルも魔術特許に関わっているの?」



リディがそう聞くと、アルフレッドは首を横に振った。ちなみにこんな会話をされている間も、ずっと手を離してくれず、いい加減手が汗ばんできて気になる。



「僕は魔術省でも違う場所で働いているんだけど、たまたま二コラさんと知り合う機会があってリディの居場所を教えてもらったんだ。」



二コラが魔術省を出入りしていることは知っていたが、まさかアルフレッドの祖父と一緒に働いているとは思わなかった。その可能性があったことは今考えれば分かることだが、アルフレッドのことを忘れようとしていたリディは、彼に関することを意識的に避けていたので仕方がないと思う。

それよりも、アルフレッドが自分のことを探してくれていたことに驚きと戸惑いが隠せない。



(一方的な手紙だけ残して約束した卒業式にも出なかったのは申し訳ないと思うけど、セシル王女との婚約が決まっているのだから、わざわざ私を探しに来る理由は何だろう?すっぽかしたことを怒ってるのかな…でもだとしたら……さっきのキスとかキスとか、キスとか何……!?)



言葉には出さないが、難しい顔をしたかと思ったら赤くなったり青くなったり表情筋の忙しいリディを見た二コラはクスクスと笑いながら続ける。



「まぁ、それで初対面でリディの居場所を教えろと詰め寄られたのよ。…まったく、教えなかったら殺されるんじゃないかって勢いで怖かったわぁ~。」



チラリと片目を瞑り、流し目でアルフレッドを見ると彼は、居心地が悪そうにしていた。

アルフレッドがどんな理由があってここに来たのかは分からないが、約束を破ってしまったことはきちんと謝らなければならない。



「……アル、あの…卒業式の日の約束、守れなくてごめんね…。」



繋いでいる手をギュッと握りしめて、アルフレッドに向かう。

アルフレッドはリディを見ると、眉を下げて悲しそうな困ったような表情をした。



「…もういいよ。こうしてリディに会えたから、いいんだ。」



そう言って繋いでいない方の手でリディの顔にかかっていた後れ毛を、そっと耳にかけた。



「はいー!すぐイチャコラしないー!するなら人のいないところでしなさい!」



二コラは先ほど来た紅茶を一気に飲み干すと、ふーっと大きくため息をついて、詳しくは彼に聞きなさいと喫茶店を出て行ってしまった。



「えっ!?…二コラさん!!」



二コラがいたからまともに話ができたのに、ここに来て見放されたリディは困惑する。

立ち上がろうとしたが、案の定、アルフレッドにリディと呼ばれて座らされた。名前を呼ばれると従う魔術でも掛けられたのだろうか。まるで躾けられた犬のようだと思いながら、肩を落としておとなしく従った。





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