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お仕事編8




「先生、この装置にこの魔術を組み込んで発動させてみたいんですけど。」


「……魔術特許取得履歴を確認してみろ。三年前に類似した術式で認定がおりている。」



リディはノエルの書棚にある三年前の魔術特許取得年鑑を取り出す。ずっしりと重みのある本を机に置くと、パラパラとめくり類似の魔術の記載を探す。



「三〇一六頁だ。」



背中越しに言われたとおりのページをめくり順番に項目を確認していく。すると、確かにリディが考えた術式に僅かだが類似している点があった。



「またダメかぁ……」



小さくため息をつき項垂れる。あれからすぐにノエルの元へ頼み込み、賄賂のホットサンドを渡すことで無事承諾を得たリディは魔術特許について学んで半年が経った。その間、取得できた特許は約五十ほどだ。ノエルに出願者として申請してもらっているが、これまで彼が取得してきた魔術特許の数から比べると到底及ばない。



「術式に少し手を加えてみろ。そうしたら審査も通る。」



最近ではノエルもこうして特許取得のコツも教えてくれるようになり、ようやく弟子として認められたのかと嬉しく思う。

ちなみに、リディが魔術特許を取得した記念すべき第一号は“聞こえるジャン参号機”だった。意外にも、魔術が発達している隣国にも音声通信機は存在しなかった。離れている人間と連絡を取るには魔術で作り出した鳥に手紙を運ばせたり、高位魔術者であれば転移魔術を使ったりするため、それ作って見せた時にはノエルも感心していた。名前は再検討しろと言われたが無視して押し切った。

参号機では、魔石の欠片を使うことで使用する魔力を最小限に抑えられるため、リディにも使えるようになった。魔石は高価なので一般仕様も四号機として作り、その後認定を取った。



二コラの話だと、あと数ヶ月ほどでリディの国にも魔術特許法ができる。そうしたら故郷に帰り、ノエルのように自分で作った魔術でたくさんの人の役に立ちたいと思っている。そのことは、ノエルにも伝えてある。ここを離れるのは少し寂しい気もするが、ここでの出会いはリディの人生に大きな転機をもたらしてくれた。残されたあと少しの時間で、自立に向けての準備をするのだ。



「…………ちょっと出てくる。」



ノエルはのっそりと立ち上がるとそう言った。たいていノエルの予定は把握していたつもりだが、今日は急な予定でも入ったのだろうか。一日のほとんどをこの家で過ごし、ほとんどの時間を魔術に費やしている先生が外出するのは珍しいことだ。



「わかりました。」



リディは聞くこともせず見送る。

先生は魔術のことに関してなら小さなことでも答えてくれるが、プライベートな質問は一切受け付けない。話しかける時は簡潔に要点をまとめる。機嫌の悪い時にはそっとしておく。これが、この二年間で学んだノエルの扱い方だ。

そんなことを考えながら机に向き直り、先ほどの年鑑と自分の魔術を見比べて術式を考え直す作業に戻る。



不意に玄関の扉が開いた。



(先生、忘れ物でもしたのかな?)



二コラであれば、声がするのですぐにわかる。リディは振り返ることなく作業を続けた。



「ここを応用して変えれば、この特許申請と類似していると判断されないかな……でも…」



リディは、相変わらず魔術を前にすると計り知れない集中力を発揮する。




だから気づかなかった。

すぐそばに、忘れたくても忘れられない存在が近づいていたことを。




「リディ。」




懐かしい声とともに温かくて懐かしい魔力に包み込まれた。



なんで。

どうしてここに。



声にしたいのにできず、リディは身動きひとつとれない。

背中から懐かしい魔力が流れ込んでくる。

固く閉じた目の奥が熱くなった。










―――――――さかのぼること、約一ヶ月



アルフレッドはリディの居場所を聞くために、祖父ジスランとの約束を取り付けた。

お互い忙しい身とあって、やっと会える時間が取れたのだ。

その日アルフレッドは半日の休みがもらえたため、ジスランのいる執務室に足を運んだ。

魔術省の庁舎はさほど大きくはないが、ここはアルフレッドも初めて来る場所だ。



執務室の扉には“魔術特許法案委員会顧問執務室”と書かれている。

引退した魔術師を引き戻し、きちんと執務室が用意されていることを考えると改めて祖父は偉大な魔術師だと思う。

執務室のドアをノックすると、間もなくして中からジスランの声がした。



「失礼します。」



重い扉を開くとすぐに祖父の姿が見えた。

と同時に見慣れない姿の人物も目に入った。一瞬、時間を間違えてしまったかと思ったがジスランにソファへ座れと言われたので、そちらに向かう。


「御来客中に申し訳ありません。」


「いや、寧ろタイミングが良かった。おそらく会いたかっただろうから。」



初対面なのに会いたかったとはどういうことだろうか。

来客の人物を見ると魔術師のようだが、制服やローブを見るとこの国のものではないことがわかる。



「初めまして!オリオール卿のお孫さんだけあって、やっぱり素敵な方だわ~!!」



立ち上がり、目を輝かせながらこちらを見てくる。

アルフレッドもよくその人物を見るが、やはり会ったことはないはずだ。

握手を求められたので、こちらも手を差し出す。



「…………!?」


「あらやだ、さすがね。もうわかっちゃった??」



その人物は、色気のある意味深な笑みを浮かべた。



「どうして……」



目の前の人物から、ごく僅かに流れ込んだのはリディの魔力だった。

忘れるわけがない。間違えるわけもない。学院時代に、パートナーとして散々一緒に魔力補充を行ったのだ。それが、なぜ彼女からリディの魔力を感じるのか。



「リディは…リディはどこにいるんですか!!」



握られた両手を強く握り返し、目の前の人物に詰め寄る。

あまりの勢いに圧されて、彼女も後ずさる。その様子を見ていたジスランも目を丸くしている。



「ちょ、ちょちょっと落ち着いて!詳しく話すから!」


「アル、とにかく一旦落ち着け。でないと話もできん!」



二人に説得されて、何とか気持ちを落ち着けたアルフレッドはジスランの隣に座った。

隣で祖父がニヤニヤと面白そうにしているのが気にくわないが、目の前の女性がリディのこと知っているとわかった以上、そんなことは気にせず早くリディの居場所を聞かなければならない。




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