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お仕事編7




王都の魔術師団に入ったアルフレッドは、三ヶ月間の研修期間を経て王都の防衛機関に配属されていた。

防衛機関とは、魔術師団と騎士団が二柱として国の防衛手段を指揮・監督し、有事の際には王宮を守るための砦となる。王都が中枢となるため、いわゆるエリートが配属される機関ではあるが、長い間この国は近隣の他国とも友好関係を築いていたし、魔物の発生も見られないことから実際は魔術の研究が主となっていた。



しかし、アルフレッドが魔術師団に入ったころから辺境の地で魔物が発見される頻度が僅かに増えはじめた。魔物自体は簡単に討伐できるレベルなので、今のところ辺境の地から流れてくることはないが、これまで数年に一度あるかないかであった魔物の発生に、魔術師団と騎士団は緊張を高めている。最後に魔物の巣窟が発見されたのは、リディの祖父であるドミニクが現役時代に討伐したもので、およそ十七年前だ。



現在、王都に施されている結界の魔術は、この国が独立したときに一人の筆頭魔術師が施したもので、約百年前と非常に古いものだ。前回巣窟が発生したときは、有能な魔術師団により巣窟の場所の特定から討伐までさほど時間を要さなかったため、結界の魔術が発動されることはなかった。


しかし、今回は局所的に発生しているのに巣窟は発見されていない。

防衛機関は最悪の事態になる前に、これまで手付かずだった王都の結界魔術の綻びなどを確認する作業を並行して行うこととした。



アルフレッドもその結界魔術のチームに入っていたが、古代魔術結界である上に一人で作られた魔術のため、何の資料も残されていない。王宮にある神殿内に結界魔術が施されているのだが、配属されて一年半、いっこうに術式の解読には至っていない。防衛機関内でも、それならば結界魔術を一新するという話も上がっているが、そのためには現状の結界の影響を受けないかを調査する必要があり、結局は術式の解読がなされなければならない。



その日もアルフレッドは手ごたえなくチームの先輩たちと神殿から、防衛機関の庁舎へ戻るところだった。石畳の通路を歩いていると、向かいから懐かしい姿が歩いてくるのが見えた。



「久しぶりだな、アル。」


「お久しぶりです、お祖父様。」


魔術師の制服に身を包み、いつの間にか自分の方が背が高くなってしまったんだなと思いながら久しぶりの再会に足を止めて一礼する。一緒に歩いていた先輩たちは気を遣ってくれたのか先に行くと言って、庁舎に戻っていった。



「今年は侯爵家の集まりも出られなかったから、久しく見ないうちに随分立派になったな。」


「お祖父様はお元気そうで何よりです。それにお忙しいようですね。」


「まったくだ。引退した人間を引っ張り出してこき使いおって。せっかく隠居してのんびりしていたのに、魔術省は人使いが荒すぎるわ。」



大きくため息をつきながら、顎の髭を親指で擦る。変わっていない祖父の癖にアルフレッドは少し笑みが零れる。



「お前の仕事も難航しているようだな。」


「はい……思ったように進まず、頭を抱えています。」



祖父のことだ、詳しくは話さなくても自分が携わっている仕事の内容も知っているのだろう。

魔術師になって早々やりがいのある仕事を与えられたのは名誉なことだと思うが、一年半もかけて何の進展もないことに焦りと不安があった。


アルフレッドは周囲からは天才型と思われがちだが、小さい頃から努力の人間だった。反対に兄が何でも卒なくこなすタイプなので、少しでも兄に近づきたいとコツコツ努力を積み重ねていたのだ。それに伴って結果はついてきたから、良くも悪くも大きな挫折を味わったことはなかった。



「彼女も見つからんようだしな。」



ゴホッと大きく咳き込んでしまった。

祖父にリディの話はしていないはずだが、誰かが話したのだろう。父は以前、王立図書館でリディに会ったことがあるので、母もその話は知っている。そのため二人は口には出さないが(生)暖かく見守ってくれている。だとしたら、兄しか考えられない。兄のことは尊敬しているが、こうしてたまに自分をおもちゃにして遊ぶのが好きなのだ。そして、目の前の祖父も。ジスランは、口の端を上げて愉快そうにこちらを見ている。



「……そうですね。今は僕も忙しいので、いずれ会いに行きます。」



軽く咳払いをして平静を装う。結局あれから友人のアネットやカロリーヌ、ジャンとはたまに連絡という名の情報収集を行っているが、彼女たちにもまったく音沙汰がないらしい。



「のんびりしている間に素敵な出会いがあったらどうするかの」



ジスランはそう言うと、意味深な笑みを浮かべて立ち去ってしまった。



「………………」



まさか。リディに限ってそんなことがあるはずはない。

学院にいた頃も、あれだけ自分がアプローチしていても気づかないほど鈍感だ。クラスが別れてしまったときも、遠目から見てリディを気にっている奴がいることは知っていた。それでもとことん鈍い彼女は、友達が増えて嬉しいくらいにしか思っていなかった。


リディに会えなくなって一年半も経ってしまった。どこにいるのか、何をしているのかも全く分からないまま日々の仕事に忙殺されて考えないようにしていたが、クロヴィスとカロリーヌも来年には結婚をする予定だ。リディにも将来を約束するような男が出来ているかもと考えたら、途端に気持ちが落ち着かなくなり居ても立っても居られなくなった。



「…………でも」



さっきの祖父の態度は何か知っているような気がする。アルフレッドは、直感的に思った。

祖父に頼るのは最終手段だと思っていたが、リディに会うためなら今度聞いてみるか。この際、遊ばれても揶揄われても仕方がない。


そう決意して、アルフレッドは庁舎へ戻る道を進んだ。




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