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お仕事編6



温かくていい香りのする紅茶が運ばれてきた。ひとくち飲むと、温かい紅茶が喉を通って身体に染み渡る。アルフレッドと一緒に行った王都のカフェで飲んだ紅茶もとてもおいしかったが、この喫茶店で飲む紅茶の素朴な味は、祖国から離れて暮らすリディにとってホッとする味だった。

そんなリディの様子を微笑ましく眺める二コラ。きっと自分のためにもこの時間を設けてくれたのだろう。



「あの…先生って王都の魔術師だったんですか……?」



今までずっと気になっていたことを聞く。本当であれば、本人以外からこういったことを聞くのはよくないことだと思いつつも、一年経ってノエルとの信頼関係もそこそこ得られているのではないか。そう思い意を決して二コラに問いかけた。

その気持ちを察したかのように、二コラは優しく微笑んだ。



「そうよ。王都の筆頭魔術師だったの。」



確かに、いくら魔力が少ないとはいえ魔術の知識はこれまで出会った魔術師の中では一番だった。それに、あの魔力の質を考えれば筆頭魔術師と言うのは納得かもしれない。・・・否、あの小汚い先生が、リディの国とは比べものにならない程いるこの国の魔術師たちを束ねていたのだと思うと、納得がいかない部分もある。



「あまり詳しくは話せないけどね、ノエルは魔力が枯渇してしまって今はああして暮らしているのよ。」



つまり王都の魔術師をクビになったということなのだろうか。そこはデリケートな部分なので触れないでおく。



「でも、それほどの魔術師である先生がなんであんなヘンテコリンな魔術を作ってるんですか?」


リディはノエルの魔術が好きだが、筆頭魔術師であったのならばもっと違う道があったと思う。あんな小さな家で変な魔術を作りながらひっそりと暮らしていることに疑問を抱くのは自然なことだろう。



「ふふっ。そうよね、ヘンテコリンよね。でもそんな魔術が必要って人も結構いるのよ?数が少ないけど、国の至る所から依頼が来るから魔術特許をとって悪用されないようにしてるの。だから定期的に収入も入るし。ノエルってば国からの報酬を突っぱねなければもっといい暮らしができてるのに…ま、アイツらしいっちゃらしいけど。」



やはり今の暮らしはノエルが望んだものなのだ。それよりも聞きなれない言葉を耳にしたことの方が気になった。



「魔術特許、って何ですか?」


「あぁ、リディちゃんの国にはまだない法律よね。でも、新法として制定するために動いてるって聞いてるわ。この国では、魔術省が定めた魔術特許権っていうのがあるの。」



二コラの話によると、魔術特許権は作成した魔術の術式を魔術省に出願し、審査を受けたのちに認定されると、その魔術には特許権が発生する。特許を受けた魔術には魔術省の術印が施されるため、不正に複製や加工などができないようになっている。販売や使用をするには特許出願者の管理下に置かれるということだ。

魔術特許は、魔力がなくても魔術師でなくても身分関係なく出願できる。しかし、特許出願は簡単にできても、魔術が人を害するものでないこと、既に認定を受けているものと類似していないことなど審査はとても厳しく、そうそう認定は降りないらしい。ノエルが出している変な魔術書がすべて魔術特許を取得しているということは、それだけでも彼の魔術の才能を表しているのよ、と二コラは言った。



「もともとノエルは小さい頃から、変な魔術を考えるのが好きでね。趣味と実益を兼ねて生活できてるから良いっちゃ良いんだけど、アイツの才能が惜しいっていう人も多くてね。特に上の人間から私に圧力掛けられるから参っちゃうわ。」



小さくため息を吐きながら二コラは言った。

魔術特許制度を初めて聞いたリディは、とても興味深かった。リディの国でも魔術があれば、身分関係なく使用できる。アルフレッドにもらった馬車のおもちゃのように、子供が気軽に触れるものにも魔術が使用されているほど身近なものだ。

しかし一方で、魔術を利用して悪質な商売をしたり、人に害を及ぼす魔術が生み出されたりしており、それらを取り締まり切れないという問題があることも知っていた。



(魔術特許を取れば、安心して魔術が使用できる人が増える。自分が考えた魔術がたくさんの人の役に立てるかも……!)



魔術特許は、リディにとってこれまでにない希望の光となった。



「それって、私でも取ることができるんですか!?」



前のめりでテーブルに手をつき二コラに聞く。しかし、その答えは期待したものではなかった。



「リディちゃんは隣国の人でしょ。残念ながら、申請者は身分関係なくても国内の人間に限られるのよ。ただ、例えば申請者をノエルにして特許出願することは可能よ。その代わり、すべての権限や管理者はノエルになるけど。」


「そうですか…。」



せっかくなら自分で考えた魔術で特許取得をしてみたかった。しかしそれが不可能ならば、ノエルに頼んでみようか。嫌がられる気もするが、玉砕覚悟で弟子(お世話係)にしてもらったのだから頼んでみてもいいかも知れない。色々と思考を巡らせているリディに、二コラが小声で話しかけた。



「さっき、リディちゃんの国でも魔術特許法の制定で動いてるみたいって言ったわよね。何で知っているかって言うと、実は私も少し関わっているの。これは口外しないで欲しいんだけど、具体的には一年以内には制定される予定だと思うわ。」



国に関わる重大な情報に、リディも目を見開いて口を堅く結びコクコクと頷く。



「リディちゃんの国で魔術特許法が公布されるまでノエルのところで勉強をして、そのあと自分の国で特許取得をするっていう方法もあるわよ。」



パチッとウインクをされ、二コラの顔を凝視していたリディはみるみる顔が赤くなり俯くと、またもやカワイイ!とからかわれてしまった。


ともあれ、この国に来で一年ノエルの元で魔術を学び、さらに具体的な目標もできた。

あれほど暗闇に包まれて見えなかった未来が、今は明るく輝かしいものになっている。



明日は先生の大好きなお肉たっぷりのホットサンドにして、ノエルに魔術特許について教えてもらえるよう交渉することを決めた。





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