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お仕事編5



今日も今日とて、ノエルの家へせっせと食事を運ぶリディ。食堂の仕事の合間をぬって魔術の勉強をしている。


ちなみに出会ったときに渡された術式を解読するのには約一か月を要した。あの人形に組み込まれていた術式である。

ちょっとずつ解読していくうちに結界の魔術だということは分かっていたが、最終的に隣国の王都全体を覆う結界だったという事にはリディも白目を剥いた。

もう古いものだから処分するために砕いて人形に入れたとノエルは何でもないことのように言ったが、国家機密じゃないのかと背筋が凍ったリディは丁重にその人形ごとノエルに返した。

たぶんこの家のどこかに放ってあるはずだ。



そんな偉大であろう魔術師が、なんでこんな国の端っこの街で変な魔術を作ったり、変な魔術書を書いたりしているのかは未だに謎だ。魔力も少ない。ポンコツリディに引けを取らないくらいの少なさだと思う。しかしこの家を魔術で隠したり、認識阻害の魔術などはどうやってかけているのだろうと思う。ここへ来て約一年で分かったことはそれくらいで、まだまだ彼は謎多き人物だ。

今日は、先日渡された課題の魔術の術式が完成したので書いた紙をノエルに渡した。



「先生…こんな魔術作って何になるんでしょうか……」



課題は『口うるさい人間を真実の姿にする』だった。口うるさい人間って自分のことかと思ってしまったが、気にしないことにする。しかも真実の姿とは実に曖昧な定義だと思いながらも術式を完成させた。

ノエルの出す課題は、簡単なようで意外と複雑だ。対象が抽象的で限定的だったり、ピンポイントで術を発動させたりしなければならないので、実際にやってみると学校の課題よりもずっと難しかった。

リディの持ってきたパンケーキとスープをもそもそと食べて何も答えてくれないので、独り言になる。



「ノエル!!」



大きな声がしたと同時に勢いよく扉が開く。魔術で隠されているこの家に自由に出入りできる人は、リディともう一人のこの人物。



「ちょっと!相変わらずきったないわね!いくら臭い消してるからって見た目からして臭いのよ!!いい加減風呂入るか浄化魔術かけなさい!!」



ゆるくウェーブした黒髪にトパーズ色の瞳を持った彼女は二コラと言う。ノエルと同じく魔術師で、王都の魔術師団に所属しているので多忙な日々の中、たまにこうしてノエルの様子を見に来る。リディの国でもこの国でも黒髪は少ないのだが、ノエルと彼女はその珍しい黒髪の持ち主だ。というのも、この二人は従兄妹同士らしい。



二コラが来るとノエルの機嫌は最高潮に悪くなる。

眉間に深い皺を刻み、パンケーキを頬張りながら鬱陶しそうに二コラを睨む。こういう時、リディは気配を消しておくのが良いことを分かっているので、部屋の隅に行って静観する。



「だいたいアンタは放っておくと食事も睡眠もロクにとらないから、リディちゃんが来てくれなかったらそこら辺で野垂れ死にしててもおかしくないのよ!?」



ノエルに睨まれるとリディは背筋が凍るほど怖いのに、二コラはそれをものともせず続ける。食事が終わったノエルはいつものように手を払い、二コラをひたすら無視して奥の部屋に向かおうと立ち上がる。



「無視してないで聞きなさい!上から指示が来て、アンタに協力してもらいたい案件があるって言われて来たんだから!」



その瞬間、ノエルは先ほどテーブルの上に放った術式の紙に手をかざしてふわりと浮かせると、二コラの顔の正面にぴたりと止めた。



「ちょ、ちょっとなによそれ……」



嫌な予感がしたのだろう。二コラは顔を青くして汗を流している。その瞬間、魔術が発動されて部屋が赤い光に包まれた。それはリディが作った術式だが、いったい何が起きたのだろうと目を凝らす。



「…………オレは協力しないと伝えておけ。」


それだけ言うと、背中に超絶不機嫌オーラを背負ってノエルは部屋の奥に行ってしまった。

状況が理解できないリディがポカンとしていると、



「い゛や゛ああああぁぁ!!」



野太い声が部屋中に響き渡る。リディは思わず両耳を塞ぐ。何が起きたのかとリディは二コラを見ると豊満だった胸は見る影もなく、スレンダーで美しい身体のラインはゴツゴツと骨張っていつもより逞しく見える。



「………………」



あっけにとられて二コラをじっと見つめるリディ。その視線に気づいた二コラは、慌てて自分に魔術をかけていつもの姿に戻った。



「二コラさん……?」


「何かしら?」



にっこりと笑う二コラはいつも通りの美しい姿だ。リディはそれ以上追及できない雰囲気を感じ取ったので、今のは見なかったことにする。きっと幻だ。



「今日はもうダメね…」



そう言って大きくため息をついた二コラは、リディにお茶でも行こうと誘った。まだ来たばかりだったが、ノエルのあの様子ではきっと今日は魔術を教えてもらえそうにない。リディも諦めて二コラの提案を受け入れることにした。



この町にはオシャレなカフェはないので、リディが働く食堂の近くにある喫茶店に向かう。

こうして二コラと町に出るのは初めてのことなので、ちょっと緊張する。二コラの魔力は見た目と同じく妖艶な魔力の持ち主で、男女問わず彼女の魅力にとりつかれる人は多いのではないかと思う。



喫茶店に着くと、早い時間だったのでお客さんは数人しかいなかった。空いている席に向かい合わせで座ると、二人とも紅茶を注文した。こうして真正面から見ると、二コラはとても色っぽくてドキドキしてしまう。思わず顔が赤くなってしまい、視線を下に向ける。



「かわいいわね、リディちゃんは。」



と言ってクスッと笑う声も色気があって、自分が男の人だったらイチコロだなと思った。



彼女と初めて出会ったのは、ノエルのところへ通い始めて二か月ほど経った頃だった。今日のように突然現れたかと思うと、リディを見てただでさえ大きな瞳がさらに見開かれたと思ったら急に抱き着かれた。豊満なボディにぎゅうぎゅうと抱きしめられた上に、魔力のせいでクラクラとしてしまって真っ赤になったリディを見てカワイイ!!と言われて以来、どうも気に入られているようだ。



ノエルと違って気さくで話しやすい二コラとこうしてのんびり話せるのは初めてだ。

せっかくなので色々と気になっていることを彼女に聞いてみることにした。





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