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ブライトン魔術学院編20




王立ブライトン魔術学院では、卒業式の夜にパーティーが催される。

卒業生全員がホールに集まり、食事をしたりダンスを踊ったりと学生生活最後の日を過ごすのだ。

卒業まであと少しとなったクラスは、近頃パーティーの話で持ち切りだ。

その日は貴族だけでなく平民の女の子たちもドレスはどんなのを着ようとか、髪型はどうしようだとか話をしながら卒業の日を迎えるのを楽しみにしている。




そんな卒業を間近に控えたある日の放課後、リディは相変わらず図書館の窓際の席に座っていた。

ケヴィンが隣国から買ってきたという人形の中にあった魔術について、あれから色々と調べているのだが、魔石に関する情報がほどんどないこの国では、当然のことながら学院の図書館程度では術式を紐解く糸口すら見つからない。それでも慣れ親しんだこの場所に、何となく日課として足を運んでしまうのだ。




ふとリディの隣に影が落ちたかと思うと、カタンと静かに椅子を引く音がする。

久しぶりに見るその姿は相変わらず眩しく、さらに背が伸びたらしく見上げる角度が以前よりも上になったことに気づく。



「久しぶりだね、リディ。」



そう言って当然のように隣に座ると、男性らしい骨格になって声変わりもした彼は、変わらない優しい笑みを向ける。久しぶり、と返すと彼は自分の椅子を少しリディの方へ寄せてくる。一度は慣れたはずの距離も、クラスが分かれて会うことが少なくなった今となっては、自分だけ出会った頃に戻ってしまったようで少し戸惑う。



「ずっと会いたかったんだけど、忙しくてなかなか時間が取れなくてごめん。」



特に決まった約束をしていたわけではないのに、申し訳なさそうに彼は言う。

大丈夫だよと答えると少し寂しそうな顔をして、ぽつりぽつりと生徒会の役割も無事終えたことや卒業後の話をしてくれた。彼は以前から決めていた通り、王都の魔術師団に所属が決まったようで卒業後はそこで魔術師として働くという。

卒業間近になってもまだ進路の決まっていないリディだが、彼が気にしていることは分かっていたので落ち着いたらまた連絡するから心配しないで大丈夫だと伝えた。



不意に彼の手が伸びてきたので肩を竦めると、いつも後ろでひとつに縛っている髪から落ちていた後れ毛が、彼の指でそっと耳にかけられた。あまりに突然のことだったので、くすぐったさと驚きで息をするのも忘れる。そして何処からか取り出してきたそれをリディの髪に留めると、頭をそっと撫でて柔らかい笑顔で言った。



「卒業式に、それをつけて僕と踊ってくれる?ドレスも僕から贈らせて欲しい。また連絡するから。」



そういって、リディの手にそっと触れるだけの口づけをするとその場をゆっくりと去っていった。

リディは何が起きたのか、一連の出来事が処理しきれず座ったまましばらく動くことができなかった。

学院の門が閉まる合図のチャイムが鳴ると我に返り、髪に付けられたものに恐る恐る触れる。

つけたままでは帰れないと、そっと傷つけないようにそれを外した。

両手に乗せると、窓から差し込む夕日を反射してキラキラと輝く髪飾り。精巧な銀細工に小さな宝石がたくさん散りばめられたその花の形は、いつかリディが彼にあげた故郷の花の形をしていた。





机に置かれた箱に髪飾りをそっと戻し、寮に帰るための準備をする。

外はまだ寒いので制服の上にコートを一枚羽織ると、図書館の外に出る。



「リディ・エルランジェさん。」



今日は珍しく声を掛けられるななどと思いながら、あまり聞き覚えのない声の方を振り向く。

振り向いてから、さっきまでの温かな気持ちがすっと冷えていくのが分かった。

ストロベリーブロンドの髪は今日もくるくると軽快に巻かれていて愛らしい見た目をしているが、いつも彼女はリディに挑むような視線を向けてくる。



「…こんにちは。」



思わず身構えて一歩後ずさると、マリエルと呼ばれていたカロリーヌの従妹である彼女は一歩前へ出て腰に両手を当ててこう言った。



「前にも言いましたけど、アルフレッド様に近づかないでもらえますか。」



図書館に二人でいるところを見られたのだろうか。

アルフレッドと二人でいるのは本当に久しぶりのことなのに、たまたまとはいえ運が悪かったなとリディは小さくため息をつく。そんなリディの様子にはお構いなしに、話し出す。




「アルフレッド様はお優しいから平民であるあなたにも優しくしているのでしょうけど、勘違いなさらない方がよろしくてよ!卒業すればお付き合いすることもないでしょうし、何よりアルフレッド様はセシル王女様と婚約することになっているそうですから、平民のあなたが傍にいるとあらぬ噂が立てられて迷惑が掛かりますわ!」



鼻息荒く、スカートを翻してツカツカとマリエルは学校の門へと向かっていった。

彼女はいつも言いたいことだけ言うと、リディの言葉も聞かずに立ち去っていく。

しかし今日ほど何も言えない状態になったことはなかった。




「………………婚約。」




つい最近聞いたばかりのその言葉。

おめでたいことなのに、それが自分にとっても幸せではない言葉だとは思ってもみなかった。

さっき彼の温かい指で触れられた耳に自分の指で触れてみる。自分の指が冷たいせいなのか、この寒さのせいなのか、今はすっかり冷えきってしまった。。両足が地面に張り付いて、身体が重い。喉にも鉛が詰まったかのようで、息をすると冷たい空気が喉に刺さる。





『自然とそう思える時がくる』

アネットは言っていたが、こんな形で自分の気持ちに気づくことになるとは思っていなかった。

いつからだったのか。そんなことを考えても始まりなんて分からない。

いつも彼はつらい時に傍にいてくれて、助けてくれた。小さい頃から変わらない眩しい笑顔を向けられると心があったかくなった。



でも、この気持ちを伝えることはないだろう。

平民で、魔術師にもなれない自分がこれから彼の未来に関わることはない。

初めて知ったこの気持ちに蓋をするように、思い出の花を模った髪飾りの箱をキュッと抱きしめて固く目を瞑った。





次回からお仕事編です。

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