ブライトン魔術学院編12
近頃、リディの様子が気になる。
昼休みの図書館で見かけても、本を読まずに座ったまま何かを考えていたり、実技の授業でパートナーを組んでいても心ここにあらずの時があるのだ。
でもそれは、他の友人たちには悟らせないようにしていて、一見するといつもの明るくてお転婆なリディで、周りの誰も気づいていないようだ。
リディは、入学してから魔力がほとんど増えていないことは、みんな知っている。
きっとそれを気にしているのだろうけれど、周りに気を遣わせまいと明るく振舞い、そして一つでも多くのことを学ぼうと前向きに努力をしている姿を近くで見てきた。
そんな彼女に出会えたからこそ自分も魔術が好きになり、今の学院生活も楽しく送れている。
だからこそ、何か彼女の力になれることはないかと考える。
「リディ、今度の課外授業だけど、事前に相談したいからお茶でもしながら話をしない?」
今日も図書館に居たリディを見つけて声を掛ける。
「アル。 来週の実技課題だよね。今ちょうど調べてたところなの。あとで相談しようと思ったんだけど。」
「じゃあ、明日は休みだから、王都の街でお茶でもしながら相談しようよ。」
「……え!? 街に出るの?」
「うん。最近新しいカフェが出来たんだ。そこに行ってみたいんだけど、クロヴィスと行っても…ね。」
男子ふたりでカフェに入るのも変だし、リディと二人で行くことに違和感のないよう誘う。
「でも、アルはお休みもお家のことで忙しいんじゃないの?」
「大丈夫だよ。僕もたまには息抜きがしたいし。」
「じゃあ、行ってみたい!」
「明日の午後に、寮まで馬車で迎えに行くよ。」
「いつもありがとう、アル。課題の気になるところもまとめておくね!」
いつものふわふわとした笑顔が見られてアルはホッとした。
自分もまだ子供だから、彼女にしてあげられることは少ない。それでも、いつもリディを笑顔にしてあげられるのは自分でありたいと思った。
翌日の午後、馬車で寮の前に行くとリディが立っていた。
アルフレッドは、こうして自分を待つリディの姿を見るのが好きだ。一緒に王立図書館に行っていた時も、遠くから彼女の姿が目に入っただけで心が躍るのがわかった。
(ご主人様を待つ犬みたいだな…)
オリオール家の馬車を見つけると、リディが馬車の方へ首を伸ばして背筋を正す。
その姿が何とも可愛らしくて思わず笑みがこぼれてしまった。
馬車に乗って間もなく着いた王都の街の中心から少し細い道に入ったところに、そのカフェはある。
オープンしたばかりで混んではいるが、事前に個室をリザーブしてあるので、護衛とともにカフェの中に入った。
王都の街に降り立った時から、リディは目をキラキラと輝かせて街のいたる所に興味を示していた。
「前にもアネットと来たんだけど、その時は時間がなくてすぐ帰っちゃったの。やっぱり王都は素敵ね!おいしそうなお店や、かわいい雑貨のお店がいっぱいある!このお店もとっても素敵!」
「喜んでもらえてよかった。ここはフルーツをたっぷり使ったタルトが美味しいみたいだよ。」
「じゃあそれにする!」
迷うことなく自分のお薦めを選んでくれるところも、信頼してくれていると感じて嬉しくなる。
しばらくすると、タルトやお茶が運ばれてきた。
「わあ、きれい!とってもおいしそう!」
色とりどりのフルーツがきれいに飾り切りされて盛り付けられたタルトケーキを見て、リディは食べるのがもったいないと言いつつ、いただきますとすぐさまフォークを刺して口に入れた。
彼女の一挙手一投足は見ていて本当に飽きない。
課題のことはもともと二の次だったので、アルフレッドはケーキとお茶を堪能しつつリディを見つめながらのんびりとした時間を過ごした。
カフェを出て、リディが気にしていたお店を見て回ろうと提案し、一緒に街を歩く。
少し前までは、クロヴィスやセシルと一緒に王都に来て遊ぶこともあったが、学院に入ってからはめっきり少なくなった。
しかも今は、昔一緒に野原を駆け回っていた彼女が隣にいるのだと思うと不思議な気持ちになる。
「わ!このおもちゃ面白い!」
雑貨屋に入って、置いてあったおもちゃをひとつ手に取ると、興味深そうに見ている。
「ねぇねぇ、アル!これ簡単な魔術が使われてるんだね!」
リディが持っているのはミニチュアの木製馬車だ。
魔力を流すと馬の脚の部分が可動し、後ろ馬車のタイヤ部分も回転して進むようになっている。
「私のぽんこつ魔力でも動かせる!」
これは王都ではよく見るおもちゃだ。観光土産としてもよく買われている。
リディは初めて見るようで自分の魔力を流しては、ミニチュア馬車を嬉しそうに動かしている。
この国の魔術の使い方は、大きく分けて二つある。
一つは、魔術を展開する人間と発動する人間が同一であるもの。例えば術式を詠唱し、魔術を発動させて風を起こしたり、物を破壊したりなど、その場で完結する魔術のほとんどがこれだ。
この方法だと魔力があることが大前提で、さらに高度な魔術の知識がなければならない。
二つ目は、魔術の展開と発動する人間が異なるもの。術式が組み込まれている基板に、術式を作った人間とは別の人間が魔力を流しても、魔術が発動するというもの。
こちらは、魔術の知識がなくても魔力があれば発動させることができる。
今、彼女が手に持っているものは後者だ。それ以外にも、火をおこして料理をするため、食材を腐らせないよう一定の温度で管理するための術式が組み込まれた基板などがある。
この国に魔力を持つ人間は少ないが、身分問わず魔術が生活に浸透しているのには、こういった理由がある。
「ねぇ、アル。あっちのお店も見てみたい!」
休日ということもあり、店の外では露店がいくつか出ていてリディはそちらも気になるようだ。
二人は店を出てそこをまわることにした。




