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支援魔法でSランクパーティを支えていた魔導師、自分の実力を過小評価したパーティメンバーから追放されたので弟子のパーティに入って最強を目指す~あとから「戻ってきてくれ」と頼まれても時既に遅し~

作者: ぽろすけ

「重大な話がある」


 サイクロプスの討伐を終えて酒場で依頼の打ち上げを行っていた俺達にパーティリーダーのガズンが報告を終えてやってきて開口一番そう切り出した。


 なんだろう?そう思う俺とは別に周りの仲間達の顔は口角があがっているような気がする。


「俺達は3年でSランクまで上がってきた、ここから更にSS、SSSランクまで上り詰めないといけない」


 俺達は冒険者ギルドの初心者講習で組んだ時から三年で最低ランクのFからAランクを通り越してSランクまで上がってきた、この先SS、SSSランクへと上り詰めるのを期待されている、だからこの話は全員の共通認識として間違っている事じゃない。


「だがこのままじゃだめだ!俺達には足りないものがある!」


 これも間違いではなく全員の共通認識だ、内容に齟齬はあるが。


 俺達のパーティは編成が攻撃の種類に優れた魔法剣士ガズン、一撃の重さと防御に優れた重戦士ゴルド、遠隔攻撃に優れた弓術士のキエナ、そして治療も出来る前衛のバトルクレリックのレズンとその補助と魔法攻撃を行う俺の五人とポーターのピーターで編成されている。


 バランスに優れていると思えるかもしれないが決定的な難点があって、全員が脳筋なのだ。


 なので自分達の持てる最高の攻撃を繰り出す事に終始する猪武者ばかりなのだ。


 牽制?面倒くさい、補助?そんな暇あれば殴った方が早いだろ!というのが信条の四人とそれの重要性を感じている俺という具合である。


 一度補助も牽制も無しに魔法をぶっ放した事があるのだが、その時のクエストは普段よりも何倍も消耗した上に赤字だった。


 そのときの四人は調子が悪かったからこんな事もあると言い張っていたのだが、最終的に四人ともノックアウトして全滅寸前という状況になったのだ。


 そんな事があってから俺はそれまで以上に補助と牽制をしっかりと行う事になる。


 更に自分達でも補助を使えと言って顰蹙をうけたりしている。


 その根底にはあの時のように火力を出してくれればもっと上手く出来るという思いはあるのだろうが、それでは全体が危なくなる。


 そこの認識は何回言っても埋まるものではなくその点でも顰蹙を受けているのだ。


 ここまで言えば分かるかもしれないが、彼らは火力が足らない、俺は戦いに対する認識が足らないと思っているのだ。


 漸くその事に気がついてくれたのかと感動した俺は笑顔で話の続きを促す。


「だから人員入れ替えを行うことにした!出て行くのはユーリ、お前だ!」


 笑顔が凍る。


 「今の俺達は火力の不足を感じている、そんな中で全力を出さないような奴はいらない!それなら頑張るB級の魔術師の方がいい!」


 あれ?聞き間違えかな?なんか意味の分からない言葉が聞こえた気がしたぞ。


「それじゃあ紹介しよう!新しく仲間になる魔術師のシエナだ!まだ若いが、これから伸び代があって既にA級魔術も使えるアタッカーの彼女が俺達の力になってくれる!」


 その言葉のあとは覚えていない。


 いくらか言いあった後に全員に追い出された後どうしたかは覚えていないが、今俺は宿を探してさまよっている。


 あれだけの事があったのだ、そのまま同じ屋根の下で寝られる訳がない。


 そんな訳で俺はすぐに荷物を纏めて部屋を引き払って今夜の寝床を探していた。


 追い出されたのが夕方になって少ししてからの時間だったからか街はまだまだ明るい。


 冒険者の集まるケストの街は朝は早く夜も遅い。


 これは冒険者が朝早くからクエストにいく事、そして休みの時は夜遅くまで飲み歩いたり歓楽街でよろしくする事からおこることである。


 ここを拠点にして1年あまり、流石にどこに何があるかを大体把握した俺は宿屋を探しているのだが今日に限って空いている部屋がないのだ。


 6軒回って全滅、色々あった上にこれなので流石に疲れた。


 早く休みたいと思って次を探す為に外に出て歩き出す。


「あ!いた!師匠ーーーー!!」


 懐かしい声が聞こえたと思って振り返ったら次の瞬間には押し倒されていた。


「いつつ……」


「やっと見つけた!師匠!会いたかったです!!」


 押し倒された衝撃に驚いていると声をかけられる。


 その出所を見るとピョコンと動く金色の三角耳。


 それの生えているのは金色の艶やかな髪の丘であり、その持ち主は成人したくらいの若い子である。


 起伏の少ないその子柄な身体にクリクリとした目は彼女の幼さを強調する。


「ルリナです!師匠!2年ぶりですね!僕も無事に冒険者になれたんです!」


 そういって胸に抱きついてくる子は駆け出しの頃に壊滅しかけたパーティが滞在した村にいた二歳下の女の子。


 両親共に冒険者だった彼女だが、幼い時に孤児になってしまい孤児院暮らしをしていて宿屋にも手伝いに来て居た所を知り合ったのだ。


 そこから両親のしていた冒険者に興味をもって、俺達が動けるまでの間だけでもと師事させてほしいと頼み込まれたので教えられる事を教えていた為師匠と呼ばれている。


 あの時は1月程かかったかな、それだけの短い間の師弟関係なので大したことは教えられていないんだがな。


「えっと、ルリナさん?その方がさっき言われていたお師匠様?それにしては……」


 そう声をかけられた方を見ると困惑した茶髪の女の子と三人の男女が立っているのだった。




「すみませんでした!!」


 開口一番ルリナが頭を下げる。


 ここは彼女達が定宿にしている宿屋の酒場である。


 彼女達は絆の力というパーティを組んでいるのだそうだ。


 そして今日も依頼を終えて帰ってきて受付に並んでいる所であの騒動を耳にした、そして走り去る俺の姿を見たルリナが報告が終わったところで飛び出したのを追ってきたのだそうだ。


「弟子がすまなかった」


 俺も一緒に頭を下げる。


 その姿に茶髪の女の子、サーシャが慌てて手を横にふりながら否定する。


「大丈夫です!ルリちゃんの暴走には私もなれていますし、彼女のこのまっすぐなところ、私は好きですから、気にしないでください!」


 そういう彼女に礼を言いながら顔を上げる。


 ルリナもテレながら礼を言っているがそれに対する態度がちょっと怪しいような。


「それでルリちゃん、貴方の目的ってユーリさんに会えたらよかったの?」


 その言葉にルリナは首を振ってから口を開く、その言葉はその後の運命を変えることになる。


「えっと、師匠?私達今魔術師探してて、その、あんな事があったすぐ後にこんなのは嫌かもしれませんが、一緒に来てもらえませんか?」


「ああ、いいぞ、よろしくたのむ」


 それに答える俺の言葉はそんな重要な言葉に対して驚くほど軽かったんだけどな。




 あの夜はその後も大変だった。


 誘ってみたものの軽く承諾されると思ってなかった絆の力のメンバーが慌ててしまったからだ。


 元々俺がいたのはSランクパーティーであった、しかし後から聞いたのだが彼女達はFランクパーティーなのだ。


 場違い感が半端無いらしいのだ。


 そんな事気にしてないんだけどな。


 そもそもルリナの年をしっていて成り立てのルーキーなのが分かっているのだからランクも分かる。


 そういって言い聞かせて納得の上だと納得させて落ち着きを得た。


 そして自己紹介を終わらせてその晩は解散、俺も宿の一室を借りる事ができて事なきを得た。


 そして空けて今朝、朝日が昇ろうかと言う時間に俺達はギルドに来ていた。


「ねえルリナ、今日はどんな依頼をうけるの?」


 金色の髪を背中まで伸ばしている僧侶のリンナが口を開く。


「えっとね、今日は一個上のEランクの依頼をやろうかなって、常設のコボルト退治のクエスト!」


 そういって元気一杯に答えるルリナ。


「それだったらそのまま向かってもいいんじゃないのか?」


 赤髪の剣士のレックスが口を開く。


「それだと師匠をパーティー登録できないから、混む前に行きたいのよ」


 そう返すルリナに納得する他の面々


「パーティー登録の事忘れてましたわ。」


「うん、登録されてなかったら功績ポイントもなくなっちゃうし、大事だよね」


 そういっているのは弓使いのサーシャとポーターのケリーだ。


 まぁそれくらいのポイントなら気にはしないんだけどな、彼らの気持ちを受け取っておこう。


「それはそうと、この時間に起きる事自体は悪くないぞ」


 そういうと不思議そうな顔を向けられる、やっぱりしらないよな。


 そして俺は朝の依頼争奪戦の事を話すことになる。


 その後パーティー登録を済ませた後に実際に見学した時には凄く驚いていたので良い経験になっただろうと思う。


 そうして争奪戦を見た後、俺達は朝食をとって依頼に出発する。


 今回の依頼コボルト討伐というのは下から2ランク目の常設依頼ということで下調べさえしていればあまり難しいものではない。


 勿論駆け出しが何も知らないままに突撃すると手痛い反撃に会うのだが。


 それは彼らの習性が関係している。


 害獣とされているコボルトだが、彼らは小さい群れがある程度はなれたところに点在しているのだ。


 下手をするとそれが集まってきて袋叩きにあって失敗、下手をすれば命を散らす事になる。


 毎年それで駆け出しのパーティーが何組か壊滅にあっているのだ。


 勿論死ぬ事は滅多にないのだが、そういう洗礼を受ける一つ目というのがこのコボルト退治である。


 腕っ節だけではだめな典型といえるが、本当に強い奴はそれも無視で殲滅している。


 あいつらも脳筋なかわりに腕っ節は強かったからその口である。


 因みにこの子達はその辺ちゃんと予習しているみたいで道中連携についてキチンと話をしていた。


 今までそんな事を話せる空気じゃなかったから新鮮でいいなと思いながら彼らの様子をみている。


 たまに意見を求められて、それをうけて修正してと動きの打ち合わせを進めていく。


 その中心にいるのはルリナで、頭を使うのはサーシャの役目のようだ。


 俺が正解をしっているのは分かっているけれど、そこに頼りきりにならないようにという姿が好印象。


 この子達は伸びる、あいつらよりも確実に!


 短時間でそう確信するものがあるほど有望なパーティーである。


 そうして俺達は依頼で記された場所に辿り着くことになった。


 今回の依頼ではまず自分達の力を知ってもらいたいということで、前半は彼女達の素の力で戦う事に決まっている。


 後半は俺が何を出来るかを知ってもらう為に俺も参加するがとりあえず前半は彼女達だけの動きを見せてもらう事に。


 狩場の森についた時にサーシャが弓を空高くに放つ。


 彼女の職業はアーチャーになる前の職業で狩人である。


 そしてそのスキルの中には矢の目というものがあって、これは魔力を込めた矢から見える景色を見ることが出来るという索敵に重宝するスキルである。


 それを使ってコボルトを目視するのがこの索敵の方法である。


 見えたようでサーシャが行き先を示す。


 常に風を意識して風下にコボルトの集落がいかないように歩を進める。


 これは犬の因子をもつコボルトを奇襲する為の大前提となる動きである。


 そして歩く事1時間弱、ようやくその姿を目視する事が出来る。


 木の陰に隠れながら手はずを軽く確認、ハンドサインと共にサーシャが矢を放つ。


 それは弧を描いてコボルトの集落を追い越し風上に着弾する。


 それから様子を見てコボルトがそちらに向いたところでハンドサイン、ルリナとレックスを先頭に駆け抜ける。


 ワンテンポ遅れて彼らに続いた俺達だったがそれは不要だった。


 突撃した二人がコボルトに気付かれる事なく巣に残った者を殲滅、その後に帰って来た者達も奇襲して終わらせたからである。


 そうして集落を一つ潰したところで俺の手出しが解禁される。


 先ずは手始めに解体と部位採取を魔法で済ませると索敵魔法を発動する。


 5つの集落を確認、その一番手近な物に接近する事にする。


 今度は風の向きは気にしない。


 魔法で匂いが流れない為察知されないのだ。


 そして接近したところでルリナ、レックス、サーシャに補助魔法を付与、突撃を開始する。


 一体を切り殺した所で気付かれるが、応援を呼ぶ事はできない。


 いや、呼ぼうとしているが伝わらないのだ。


 その正体は遮音の魔法。


 音で応援を呼ぶ彼らには効果覿面なのだ。


 そうして討伐が終わったのは発見してから十五分が過ぎた頃である。


 その効果に驚きながらも有用性を実感出来た彼らはそのまま破竹の勢いで周囲のコボルトの群れを一掃する。


 それは彼らが経験した事の無い順調さで、夢中になっていた。


 俺も俺で彼らの才能に夢中になってしまった。


 だからだろうか?俺達は思っても見なかった困難に遭遇する事になる。


 それは恐らく調子にのるなという戒めでもあったのだろう。


 それは後から見れば彼らが増長しないための良い薬になってくれたのだが、この時の俺達は自分達の運の悪さを嘆く事になるのだった。




 それは急に訪れた。


 コボルトの集落を潰して回っていた俺達は調子に乗っていたのかもしれない。


 次のコボルトの集落を探そうとしたところでルリナがブルッと震える。


「どうした?疲れたか?」


「そうじゃないけど、なんか、ブルッときたの、悪い事が起こらないといいけど……」


 震えるルリナに聞くとそういう答えが返ってきたので流石にそれは無いだろうと思う。


 この子の勘、野生のものがあるのか割と当たるから嫌な予感がしてきたのでそろそろ引き上げも提案しようかと思いながら探知魔法を使う。


「近くにコボルトの集落は……ないな、あるのは少し離れたところに固まっている位か、これなら」


 そう口にした時に異常な反応が起きる。


 少し離れたところにあったコボルトの集落が消えたのだ。


 それは数秒ごとに一つずつ消えていき最後の一つが消えたところで別の反応を探知する。


「あの、なにかありましたの?」


 沈黙していた俺にサーシャが問いかける。


「これは拙いな、戦闘準備だ、予想外の大物が現れるぞ!!気を引き締めろ!!」


 今まで大声を上げる事が無かった俺の檄に緊張が走る。


「師匠!なにがあったの!」


「まだ確定じゃない、確定じゃないがこれは」


 そこまで口を開いたところでそれの登場の前兆が始まる。


「確定だ、これは」


「ぐオアあああああああああああああああああああ」


 咆哮が鳴り響きルリナの尻尾の毛が逆立つ。


 そして姿を現したそれの名を呼ぶ


「Bランクモンスター、ブラストライガーだ!」





 ブラストライガー、Bランクモンスターの中では程ほどといわれているがその強さは個体によって大きく変る。共通するのは風属性を纏い非常に高い移動速度を持つという事。攻撃力もランク相応であり、相性によっては同ランクでも手も足も出ずに死ぬ事になる。


 対して戦い方さえ間違えなければ比較的簡単に倒せるという側面も持つがその辺りのバランスがとれているのが特徴。


 それによってAの下位からCの上位辺りまで力には振れ幅がある。


 はっきり言ってこのパーティーが今戦うのは荷が勝ちすぎている。


 ルリナも本能的に勝てないと思っているのか本能的に震えてしまっている。


 だがそれは本来ならという注釈がつく。




「サーシャ!左前足だ!常に左前足に狙いを絞って撃ち続けろ!」


 そういうや否や俺は追加で魔法を発動する。


 ルリナとレックスに勇気を与える魔法を、そしてブラストタイガーに思考鈍化の魔法を打ち込む。


「レックス!挑発して常に左側に回りこめ!ルリナ!恐れる事は無い、俺の言うとおりにやれば勝てる!これをつけて力を溜めておけ!肩を叩いたら全力でぶちかませ!リンナ!常にレックスに回復を切らすなよ!」


 そうしてレックスがタンクの役目を果たす間に指示をしていく。


「ケリー!ルリナに指示を出したらピンを抜いてこれを真上に投げろ!」


 そうして指示を出し終えた所でルリナにバフを重ねていく。


 俊敏強化、膂力強化、思考高速化、聴覚鈍化


 ここまでかけたら準備は完了、さて仕上げだ。


 聴覚強化をブラストタイガーにかけたところでルリナに声をかけながら肩を叩く。


 その瞬間、ケリーが俺の渡した球体からピンを抜いて真上に投げる、その間に俺はレックスの聴覚も奪う、そして。


「口を開けて耳を塞げええええええええええ!!!」


 両手で耳を塞ぎながらそう叫ぶ。


 その姿を見て同じように耳を塞ぐサーシャ・リンナ・ケリーの3人。


 レックスは手を耳に当てると攻撃を食らうがそもそも耳が塞がれているので不要。




 そしてその瞬間は訪れる。


 耳を塞いでいてもその身を揺らすほどの大音響が鳴り響く。


 それはブラストライガーの強化された聴覚を通して三半規管を破壊する。


 突然の事に攻撃をしていた足がもつれ、転ぶ。


 そこに突撃する金色の光。


 力を溜めたルリナの突撃はその身体をたやすく貫く。


 断末魔等上げる暇もなかった。


 溜めた力が剣を通してそれの刺さった頭を爆ぜさせる。


「Bランクモンスターブラストライガー討伐完了」


 そうして俺達はFランクパーティーによるBランクモンスターの討伐という偉業を達成したのだった。








 そのころ、某所高難度クエストの指定場所ではワイルドアームズがクエストを行っていた。


 討伐対象はAランクのロックバードの群れである。


 これは以前にも受けた事のあるクエストであり、そのときは負傷者ゼロ、討伐にかかった時間は1時間もかからなかった程に余裕のあるクエストであった。


 Aの群れになるのでこれもSランククエストなのだが、彼らの考えでは30分で討伐完了するというのが予想だった。


 だったのだが……




「クソッ!どうなってやがる!おい!しっかりおとせ!」


「やってるわよ!でも!矢が通らないのよ!」


「私も当たりません!」


「ええい、こんな雑魚相手にいいい」


「しゃらくさいわ!!!」


 飛び回るロックバードの群れに効果的な攻撃が出来ないワイルドアームズは苦戦していた。


 そして思うようにいかない苛立ちは動きの精細を奪い思考を鈍化させる、そしてそれは驚愕の結果を生む。


「ぐっ!くそ!!」


「キャッ!?きゃああああああああ!!!」


「くそ!撤退だ!キエナを回収して撤退する!」


「ちくしょおがああああああああああ」


「いや!いや!いやああああああああああ」


「く!キエナ!しっかりするんだ!男共!みるんじゃない!」


 そんな阿鼻叫喚の中彼らは撤退する。


 ワイルドアームズのクエスト失敗。


 クエスト成功率100%を誇った彼らの無残な敗退は都市中に知れ渡る事となるのだった。


 そしてそれは回りまわって俺にも影響を与える事になる。






 冒険都市クエスに帰った俺達は当然の流れとしてクエストの報告を行う。


 そして同時に遭遇したブラストタイガーの討伐の報告とその証明を提出する事になる。


 冒険者ギルドではその素材の鑑定や査定、依頼の斡旋などの他にも虚偽の申告を鑑定する機能がある。


 結果は真実というもの、当然だろう、本当にあったことなのだから。


 だがその当たり前は確かに信じ難い偉業といえるものだった。


 それを理解していなかった俺達は今節丁寧に受付のマダムに説明されることになって開放されたのは1時間後。


 マダムのお説法に疲れ果てた俺達は併設されている酒場で各自の労を労う。


「今でも信じられませんわね、私達がBランクモンスターを討伐なんて」


「でも本当なんだよな、信じられないけど」


「そうですよね、私達だけだったら今頃は……」


「師匠はすごい!これにつきるよね!弟子の僕も鼻がたかいよ」


「おまえが鼻高々でどうするんだよ、俺の鼻を高くしてくれよ」


「あいた!むぅーしーしょー!」


「それにしてもユーリさん、何をしたらあんなことになるんですか?」


「ああ、それはな」


 そうして俺はブラストタイガーの習性とそれに対してどういう意図をもってどういう行動をしたかを説明していく。


 それを聞いた彼女達は驚きながらも納得していたので話し甲斐があったな。


 そして出た感想は次の通り。


「支援の技術と上げ幅もすごいですけど……」


「その知識と対応力の高さが半端ねえ……」


「力だけじゃだめなのがハッキリしましたね……」


「こんな力の使い方があるなんて……」


「やっぱり師匠はすごい!僕の勘は正しかった!師匠最高!」


 誰がどういったかっていうのは想像にお任せする。


 パワーだけじゃどうにもならないって分かってくれた上に才能があるこの子達となら俺ももっと上にいける、そう確信できるだけの手ごたえを俺は感じていた。


 その時ギルドをざわめきが襲う。


「おい!ワイルドアームズの奴等だ!」


「この前新しいパーティーメンバーを加えたらしいが」


「ああ、なんでも攻撃力を強化する為に魔導師の入れ替えを行ったらしいが」


「そうだ、それでロックバードの群れに危機として挑んだらしい」


「うわ、ロックバードの群れってあれだろ?硬くて早くて痛い、それであの……」


「ああ、なんでも攻撃が全然当たらなくて翻弄されて逃げ帰ってきたらしい」


「うわー悲惨ってやば、こっちみたぞ」


「しらねえよ、俺達は今日の酒の産地の話をしてるだけだろ?」


「ああそうだ、このエールにあうのは……」


 そんな酔っ払いの噂話が聞こえてきて状況がわかってくる。


 分かったのはいいんだが、これどういう状況だ?ガズンが俺の目の前にいるんだが。


「おいユーリ、お前の追放を解いてやる、だからワイルドアームズに復帰しろ!」


 そう言ってくるガズンの姿に溜息が出てくる。


「復帰したらSランクの報酬と待遇、名誉その他諸々がお前のものだ!そんなちんけな餓鬼共の御守なんかとは段違いにいいだろ!復帰しろ!」


 その言葉に回りの絆の力の面々を見る。


 どこか不安そうな、諦めの滲んだようなその顔、あ、ルリナだけは何かを楽しみにしている顔してやがる、こいつわかってんな。


「おい!なんとかいえよ!」


 そういうガズンに対して俺は不意に立ち上がってガズンを見据える。


「お断りだ!」


 その言葉を聞いた瞬間、ガズンは口をパクパクとしながら顔を真っ赤に染め上げる。


「なんでだ!」


 激昂しながら怒鳴るその言葉に毅然と返す。


「お前達と居るメリットがないからだ!」


「そんなカスみたいな餓鬼がなんだってんだ!」


 売り言葉に買い言葉だったのかもしれない、だが俺はそれを見過ごす程仲間達を軽くみていないし、見過ごせたものではない。


 自分にバフをかけると同時に胸倉を掴み上げデバフをかける。


 総合的にかかるものから腕力、勇気、知力と順番に。


「いいか?俺の仲間達はお前達と違って戦い方っていうものを理解した人間だ、お前達みたいな獣の群れとは違う!そんなお前達に侮辱させるほど俺の仲間達は安くは無い失せろ!」


 そう言って投げ飛ばすとガズンは腰を抜かして這い蹲りながら俺から距離を取ろうとして失敗する。


「いいか、お前達が持ってるSランクの地位や名誉なんていうもののためにそのパーティに所属する気はない、お前達仲間だったのは過去の話だ!今の俺は仲間達と共に更なる高みを目指す、もう関わるな!もし邪魔をするようなら」


 そこで話を一端区切って手に持っていたフォークを投げる。


「分かったらもう関わるな、お前らの問題はお前らで解決しろ」


 そういって席を立つ。


「興をそいですまないな、場所を移してやり直しだ」


 その一言に全員がついてくる。


 迷惑料を払って店を出る、歓声が聞こえてきたので頬が緩まないようにするのが大変だった。


 そして俺達はここから上を目指す、この俺に懐いている可愛い弟子と、その仲間達ならどこにでもいけるはずだ!


 これはそんな俺の、再出発の物語。

人気があれば連載版を速やかに投降しますので、よろしければブックマークと評価してください

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