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19. 遠かったやろ?

 天井は高く、白い素材が入り組んだような構造。

ところどころにある柱はスクリーンになっていて、コマーシャルが流れている。あちこちで芸能人がばらばらに動いていてなんだか不思議な気分だった。

 初めて訪れるオオサカ駅で、ヒカルはスーツ姿で周りを眺めながら歩いていた。

蒸し暑く、ジャケットは脱いで脇に抱えているがワイシャツには汗が次々と染み出す。

駅は混み合っていて、引いているトランクが何度もすれ違うサラリーマンにぶつかりそうになる。

 聞き馴染みのない関西弁に埋もれつつミカゲに指定されたロータリーまでまっすぐ向かう。

途中の土産店にはトウキョウでは売っていないようなものが目につき、何を買って帰ろうかと悩んだ。

タコヤキ味……オコノミヤキ味……どちらもソース味なのではないかと思っているうちに、改札を出て、オレンジ色のスポーツカーに寄りかかって手を振るミカゲに会った。

 彼女はなにやら英文が書かれた白いTシャツとスキニーパンツだけで通り過ぎる人々の目を引いていた。

眩しい金髪は夏の陽射しに映える。


「お疲れ様、けっこう遠かったやろ?」

「ここまで来たのは久しぶりだから遠く感じた。けっこう混んでるんだね」

「せやな、夏休みやし」


 ミカゲが運転席、ヒカルが助手席に乗り込んだ。

 ミカゲの言葉を聞いて、そういえば今世の中は夏休みか、と思い出す。そのはっとした表情を見て、ミカゲは笑った。


「あはは、忘れてたんやろ。ヒカルはほんま、仕事好きやなあ」


 それからはほとんどミカゲが1人で話し続けた。

 その内容は仕事のことではなく、この間会った男がどうだの、新しく買った化粧品がどうだのということばかりで、気が付けばヒカルは寝てしまっていた。


 ヒカルは揺り起こされ、ぼんやりとしたままホテルへ入る。

ホテルでは積極的に車のドアを開けてくれたり彼の大きな荷物を持ってくれたりとおもてなしの細かな従業員ばかりだった。

 ミカゲが取ったホテルは、ただのビジネスホテルより綺麗なホテル。

チェックインをして、ミカゲと2人で6階にある客室へエレベーターで上がって行く。

 615号室は、その階の1番端にある部屋だった。

鍵を開けて中に入った途端、ヒカルはその部屋中に満ちているローズの香りに包まれた。

 後ろを振り返ると、ミカゲが誇らしげな顔をしている。


「ふふん、私がこのホテルを選んだ理由や」

「マコトの香りだから……?」


 彼は怪訝な顔をしたつもりだったが、ミカゲは「正解!」と上機嫌で言って親指を立てて見せる。


「いやミカゲじゃなくて俺が泊まる部屋だから」

「ほなもう行こか。早よ荷物下ろして。セミナー始まる前に昼食とらないとあかんで」


 ヒカルの苦情にはまったく触れず、今度はミカゲは拳を上に突き上げて「レッツゴー!」と叫んだ(とは言ってもホテル内なので叫んだ風に囁いた)。

たしかに腕時計を見ると、もうそろそろ10時だ。

 部屋の中をほとんど見ず、トランクを置き、しっかりとした革のバッグだけを持って出る。


 車で10分ほどの距離のホテルと会場のちょうど中間にある、牛丼屋で昼食をとることに決めた。

ヒカルはオオサカに来たからには粉物を食べたかったが、ミカゲいわく「関西人がみんな粉物好きと思ったらあかんで」とのことで、彼女の意見に押し通された形だ。

 エアコンの効いた店内に入り、自分がどれほど汗をかき、どこまで汗が染み出しているかを認識させられる。

 注文してすぐに運ばれた牛丼……ヒカルは並盛、ミカゲは特盛……を頬張っているとき、ヒカルは彼女の格好が目についた。


「その格好でセミナー行くの?」

「せやで、別にええやろ、スーツで来いなんてどこにも書いてなかったで」

「相変わらず自由だね」


 子供の頃の彼女を思い出す。

 当時は彼女を男の子だと思っていたわけだが、それも仕方ないくらい誰よりも男らしかった。

髪が短いだけでなく、いじめを止めるのは必ず彼女だったし、走るのが1番速かったのも彼女だった。

 一方自由奔放な性格ゆえに1番先生に怒られていたのも彼女で、お泊まり保育でのだるまの絵付け体験のとき、本来の赤色が見えないほど黄色を全体に塗りたくり、それを転がして旅館の床を汚し、園長先生に雷を落とされていたことが印象深い。

 思い出に浸っているうちに、ミカゲは特盛をぺろりと平らげていた。


「早よせんと、遅れるで。10、9、8……」


 彼女に急かされ、ヒカルもどんぶりに残っていた牛丼を掻き込んだ。

 ミカゲは特盛を食べたとは思えぬほど涼しい顔をしている。

腹をさすってはいるが、その腹はぺたんこなままだ。

 初めのオオサカ駅の描写は、実際の大阪駅を描写したものです。

ああたこやきが食べたい。


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