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悪魔公アリア  作者: らんたお
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08.セオドア視点

 義賊と偽った陽動作戦を計画したのも、悪魔やその周りの者達の行動を探る必要があると判断したからだった。トリクシーを陥れた事件に関わった時点で義賊の標的の範囲内に入っていることを関係者に悟らせるだけで、生き延びたいと願う者ならばきっと自首してくることだろう。

 首謀者自身も、不安に駆られれば間違いを犯す可能性がある。私達はただ、その綻びを見逃さないようにしていればいい。

 彼等にどんな目的があるのかを探るだけでなく、悪魔の出方を窺うための作戦。あの悪魔の能力を聞かされた時に立てたものだったが、随分と気に入られた。


『眷属にしてやりたいぐらいだわ』


 眉根を寄せて不快感を露わにする私に対して心底おかしいと言わんばかりに冷笑し、強制などしないとそのままその話は流れた。眷属…悪魔の眷属になるということは、人間であることを捨てるということだ。

 トリクシーのための復讐でなければ、誰がこんな悪魔と手を組むだろうか。それでも、顔を見る度にトリクシーであることを思い知らされる。似ても似つかない言動を見る度に苦しい。なのに、傍にいたい。相反する感情が、私の中に渦巻いた。



 書類を見ながら険しい表情を浮かべていた私を見て勘違いをしたのか、とても慈悲の欠片もない義賊だよなぁと彼は言う。正直、彼等がどうなろうとどうでもいい。人を欺き、人を蔑み、人の尊厳を蹂躙した者達のことなどどうでもよかった。

 ただ、毎回のようにアレを置いていくというのはやり過ぎではないかと思う。己の復活を象徴するかのようなものを置いてゆけば、気付くものには気付かれてしまう。

 あの悪魔にしてみれば、むしろ気付いた上で正面からかかってこいという意味らしいのだが。少し、挑発し過ぎなのではと思う。


「そうそう、いつものように置いてあったぜ? 漆黒の羽根」


 グレゴリーから手渡された羽根は、一見すると黒鳥の羽根のように見える。しかし、黒鳥の羽根ならば、見る角度によって光を艶やかに反射して、光に透かせば淵がうっすら青く見えるものだが……この羽根は違う。

 どんなに角度をつけても光を反射せず、深淵の様な黒さで何物にも染まらないことを主張する。光に透かして見えるのは、赤い色。魔法を行使する際の、あの悪魔の瞳のように燃えるように赤い色だった。


 見るものが見れば分かると、悪魔はそれを残していく。見るものが見れば分かるというのなら、これは危険なのではないかと思う。しかしどんなに助言しても、回り道ばかりでは退屈だと譲らない。

 悪魔の仕業であると気付かれることを考慮した上で作戦を立てなければならないというのが、今一番の悩みである。早く事態が動いてくれなければ、あの悪魔の忍耐が持たないかもしれない。もう一つの計画の方は順調だから、最悪の場合はこちらの作戦を推し進める方がいいだろう。


 少々強引な切り口になってしまうが、一番手っ取り早いのも確かだ。敵の渦中に飛び込むことになる。それでも、その方が私はいいと言って笑った顔は、ほんの少しだけトリクシーの面影を残していた。

 本当にやめて欲しい。トリクシーの姿で、僅かにでもトリクシーの様な仕草をするのは。淡い期待を抱いた直後に、そうではないことを思い知らされる。あの悪魔に、私を惑わすという打算がないからこそ余計に苦しいのだ。


 手に持っていた羽根を机に置く。その羽根からは、微かに魔法の痕跡を感じた。微小なものではあるが、契約をしているせいか私には分かってしまう。もし万が一あの女がこれを手に取れば、契約している悪魔にも気付かれるだろう。本当に、危うい綱渡りだ。

 例え中身が悪魔でも、トリクシーを危険な目には合わせられない。相手の悪魔がどんな相手なのか分からない以上、全盛期の能力を取り戻せていない状態で賭け事などやめて欲しい。どうか大人しくしていて貰いたいものだが、恐らく無理だろう。


 昨日も、一体何処へ行っていたのか頗る(すこぶ)機嫌が良かった。機嫌がいいだけならばいいが、何か問題を起こしてきたのではないかと気が気ではない。無茶ばかりして、トリクシーを危険な目に合わせるのではないかと心配だ。

 あの悪魔は、己が一体誰の体の中にいるのか忘れているのではないか? 私との契約がある以上、トリクシーの体に傷一つ付けてはいけないというのに。


 グレゴリーが持ってきた報告書を見る限り、昨夜は事件が起きていない。機嫌がよかった理由は、他にあるということか。

 私の伺い知らぬところで一体何をやっていたのやら、聞けば隠すことなく教えてくれるだろうが……今は、不審な行動をしてオークウッド卿に疑念を抱かれるわけにもいかないため動けない。

 やはり、昨夜の様子については昨夜のうちに聞いて置くべきだったか。動揺しすぎて、機を逃してしまった。


 悪魔に、テッドと呼ばれたくなかった。トリクシーの声で言われてしまうと、嬉しさと悲しさと苦しさと悔しさで心が壊れそうになる。

 機嫌がいいついでに私をからかっただけなのか。いつものように、私が寝れるように額に口付けをしたということだけが事実だ。


 考えるだけで頭痛がする。背もたれにも垂れかかって額に手をやる。あの悪魔の行動に一々動揺などしたくない。例え見た目がトリクシーでも、違うのだ。

 分かっている。分かっているはずなのに……どうして優しくする? 悪魔でありながら、何故私が眠れるように気遣ってくれるんだ?


 これ以上、私を動揺させないでくれ。

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