おみやげはごちそう
「ただいまー! 今帰ったわよー!」
長年住み慣れた、郊外の団地へと帰宅した根戸。
部屋に入ってドアを閉め、安心したところで、彼女の姿が変わる。
耳の位置は頭の上へ移動し、鼻は不自然に低くなり、口元にはピンと横へ伸びた髭。
全身にはモフモフした茶色の体毛が生えて、背中を丸めて歩くその姿を見れば――特徴的な猫目だけは変わっていないこともあって――、誰でも「創作物などに出てくる、二本足で歩く猫」を連想するのではないだろうか。
「ママー! おかえりー!」
「待ってたよー!」
「わーい!」
わらわらと集まってくる出迎えも、黒猫、三毛猫、シャム猫、ペルシャ猫など、様々な種類の子猫を連想させる外見だった。
これが本物の『猫』ならばあり得ないだろうが、この『子猫』は全て、同じ母親――先ほどまで『根戸』という人間の姿をしていたモノ――から、生まれた子供たちだった。
「あれ? ツマリお姉ちゃんは、一緒じゃないの?」
「もしかして……」
子猫の一匹が母親『根戸』に尋ねると同時に、別の一匹が早くも返答を想像して、ニヤリとした笑顔を浮かべていた。
「ええ、たぶんチャトの考えてる通りよ。ツマリは今日、無事に巣立っていったの。『ひゅうが』ってお家にもらわれて、『マコ』って名前に変わったの」
「ということは!」
「やったー! 今日は、ご馳走だ!」
姉が消えたことよりも、その結果として自分たちが得られる恩恵に沸き立つ子猫たち。
「そうよ。ツマリの食べ残しで悪いけど……。はい、おみやげ!」
母親が、土産物として鞄から引きずり出したのは、もはや肉塊と化した幼女。ツマリが着ていくために服も身ぐるみ剥ぎ取られた、丸裸の死体だった。
ガツガツ、ムシャムシャ。
咀嚼音だけが鳴り響くくらいに、黙々と『ご馳走』にありつく子猫たちだったが……。
しばらくして。
一匹の子猫が顔を上げた。スイカにかぶりついた人間の子供が果汁で口の周りをベトベトにするように、子猫の口元は赤黒く汚れている。
「あらあら……」
それを拭いてやる母親に対して、子猫は無邪気に尋ねる。
「ママ、なんでいつも、お土産の頭ん中は空っぽなの?」
すると母親が答えるより早く、
「僕、知ってるよ! 脳みそっていうのが入ってるんでしょ?」
「私も聞いたことあるー! 脳みそが一番美味しいんだって!」
「いいなあ、僕も食べたい……」
他の子猫たちが騒ぎ出した。お腹もそろそろ満ちてきたのかもしれない。
「あらあら。あなたたちには、まだ早いのでしょうね。いろんなこと、きちんと理解してからじゃないと、食べさせられないから……」
母親は、少しだけ困ったような顔をしながら、それでも基本的には笑顔で、
「旅立つ子供だけが、脳みそを食べていいのよ。そのニンゲンの記憶を継承するために。いいかしら、よく聞きなさい。何度も説明したけど、私たちは……」
と、子猫たちに説明を始めた。