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4話招待状

もたらされた吉報で、パリの町はお祭り騒ぎとなっていた。


高級ホテルのロビーも例外とはいかず、勝利に酔う人々のざわめきの中で人を待っていると、ボーイがやって来て我々は部屋に案内された。


部屋に入ると喪服姿の若い女性と知り合いの神父が迎えてくれた。


「この方はジョセフィーヌさんです。

そしてジョセフィーヌ、彼が切り裂き魔の事件があった頃、ロンドンの警察に勤務していたアンドレです。

お久しぶりですね。アンドレ。」

低く心に染み入るような声に私は思わず好意の笑みを浮かべた。


「お久しぶりです。カルロ様。」

私は帽子を取って、神父様に挨拶をした。


カルロ神父は、中年と言ってもまだ40代。私からみると若い部類の人物であるが、30年前、あの惨劇のあった時期、彼は、イーストエンドの貧しい人たち、

いわれの無い批判から市民を守った心の支えであり、それゆえに、私は年齢に関係なく無防備な尊敬を彼に向けていた。


その横にたたずむ娘は、栗皮色に輝く髪を清楚な感じに編み上げて、顔にはあか抜けない素朴さがあったが、胸を飾るビクトリア風の黒曜石のロザリオが彼女に華やかさ添え、品のよい娘らしさを(にじ)ませていた。


「はじめまして。アンドレさん。フランソワさん今晩は。どうぞお座りになって。」

ジョセフィーヌが目を細めて私を見た。

「はじめまして、ジョセフィーヌさん。」

私も形式的な挨拶を返し、フランソワが、それに続いた。


私たちが近くの長椅子に座るのを確認すると、ジョセフィーヌは、私たちの為に紅茶の用意をはじめた。


この間に、今までの経緯を頭の中でまとめる事にした。


妻を失って自暴自棄(じぼうじき)(おちい)っていた私の元に届いたのは、一枚の招待状だった。

それは上等の厚紙で作られたカードで、複雑な植物の押し飾りを縁に施してあった。


グランストラエ伯爵。

それが送り主の名前だ。

赤錆(あかさび)色のインクで書かれた整った書体の文字は、パリで入院しているから会いに来てほしいと、私に誘いかけてくる。


グランストラエ伯爵は、旅立つ前に私の知りたい事柄を、彼の知り得る範囲で語りたい。と、私の興味をひくような一文を添えて。



私はその手紙を一度捨てた。

心ない人間の悪戯だと思ったからだ。


グランストラエ伯爵とは、かの有名な魔術師マグレガー・メイザースの別名だったし、

丁寧な赤文字は、ジャックの最初の手紙「Dear boss」を思い起こさせた。


事件から30年も経過したのに、あの筆跡を真似て、おかしな手紙を送ってくる人間がいる事に人間不振になりそうだった。


そんな暗い気持ちの私の前に、再び現れたのがフランソワ。


20世紀(しんせいき)に別件で知り合った記者である。


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