10話狼
私は戦場にいた。
爆発音があちこちで聞こえてきた。
その時、優勢だったのは我々の方だった。
砲撃準備の号令を聞きながら、私は、敵陣で聞こえる破裂音を聞きながら、天空に雷神の姿を見たのだった。
瞬間、激しい光と頭への激痛が走り、
私は、たまらなくなって叫びだした。
狼が来る
狼が来る!
狼が………太陽を食らいにやって来る。
途端に私は、沢山の白衣の人物に取り押さえられた。そして、腕に注射を一本打たれたのだった。
「皆さん、これはフラッシュバックという症状です。どうぞ落ち着いてください。」
ジルの穏やかな説明が、講堂に響いた。
「すべては、アンドレの頭の中で作られる妄想なのです。」
ジルの台詞を遠くに聞いた。
「違う!俺は本当に聞いたんだっ。戦場で、雷神が叫びあげるのを………。
高貴狼が目を覚ましたと。
術式は成功したんだと!
どうして、信じてくれないんだ。
ノストラダムスの予言書にも書いてあると言うのに。」
ノストラダムスと聞いて、観客は大ウケした。
遠くなる意識の中で、ジョセフィーヌが私の髪を撫でながら、得意顔で助言した。
「バカね。あの人たちは見えないんだから、分からないのよ。
皆、みーんな、おバカさんなの。」
ジョセフィーヌの助言に、観客が笑いと拍手を惜しまなかった。