5 助かったみたいだ。良かったね。
グラスポートなる温泉のある街を目指して進む俺たちパーティー。
ツインテール猫耳パンチラ破廉恥メイド魔法拳士:レベル120
リリカ(本名猫神姫☆ミルクチャン)
所構わず勃起する早漏直結厨ナイト:レベル80
ルシ◯ン改めジークフリード
多分猫耳のせいで巻き込まれた別のゲームのプレイヤー
この世界では下級戦士:レベル1
俺ことTS金髪美少女クラリス
という、ゲームのままだったとしても関わりたくないと思える3人は草原を抜け森の中へ入った。
途中何度かいかにも初期の敵っぽい緊張感の無いモンスターに遭遇したが結局俺は一匹も倒せず、すぐに猫耳と直結厨が淡々と素殴りで敵を処理するのをグラフィックだけリアルになったコマンド式戦闘のRPGのコマンド入力待ちキャラのように後方で突っ立って見ているだけになった。
森に入ったところで気になっていた事を聞いてみた。
「そういやこのゲーム死んだらどうなるの? デスペナとかあるの?」
「基本的に死なないニャ。戦闘とかでHPがゼロになると戦闘不能状態になってその場に倒れるけど戦闘が終わればHP1で立ち上がるニャ。パーティー全員が倒れちゃうと精霊の加護って設定で最初の街の神殿にワープで強制送還されるけど特にデスペナも無いニャ」
「ふーん、結構ヌルいゲームなんだなあ」
「その分ダンジョンみたいな場所の難易度は高めニャしその場で復活できるエリクサーはリアル課金アイテムニャ。リリカもいくつか持ってるけど使う気はないニャよ?」
「フフッ、心配しなくても大丈夫さ。グラスポート周辺までの推奨レベルは30以下。この辺りのモンスターに負けたりはしないよ」
頼もしい事を言っているようだがこの直結厨も猫耳もどこまで信用できるか怪しい。
とりあえずはこの二人に任せておくとしても本当に危なくなったら自分だけでもハミングバードを要請して離脱しよう。デスペナが無いなら置いて逃げても大丈夫だろう。
そんな事を考えていたら森の奥から声が聞こえた。
「た、助けてっ! 誰か助けてくださいっ!」
俺たちは助けを求める声につられてその元へ向かうと少女がモンスターに襲われていた。
もちろん性的な意味では無く健全に暴力的な意味で。
後ろで束ねた腰まで伸びるウェービーなライトブルーの髪に長細い耳、昨今の流行に反して真っ平らな胸の、人間ならば12、3歳に見えるエルフの少女が倒れている。
片や3メートル近くありそうなムキムキマッチョの巨体で、人間とはかけ離れた肉食獣のような顔のモンスターが石で作られた巨大なナタのような武器を振り上げている。
「ロリエルフ少女が危ないっ!」
「あ、ちょっ、待つニャ!」
猫耳の制止を無視して飛び出した直結厨はスラリと銀色に輝く両手剣を抜き放ち巨体のモンスターに斬りかかった。
「このロリエルフがカッコよく助けた僕に惚れればあんなアホ猫耳と中身オッサンの偽物なんか用無ウボァ!?」
普通に戦えば良いのに妄言を吐きながら両手で剣を上段に振り上げ、ジャンプして斬りかかった直結厨は空中でモロにモンスターが横になぎ払ったナタの直撃を受けて吹き飛び、地面に激突する前にキラキラした光の粒子となって消えた。
「アホニャ…あれはワイルドオーガニャ。レベル80で敵う相手じゃないニャ。しかもクリティカルがモロにいったニャ……でも何で推奨レベル100以上のモンスターがこんな所に居るニャ…?」
驚いている猫耳だが直結厨の犠牲は一応無駄では無かったらしく、エルフの少女は隙を見て立ち上がるとこっちへ駆け寄ってきた。
「助かりました! あたし一人じゃどうにもなりませんでした!」
「喜んでる所悪いニャけどリリカでもアレから二人を守るのは厳しいニャ。ここは逃げた方が良いニャ」
「ていうかあの直結厨死んだぞ! 戦闘不能で倒れるんじゃなかったのかよ!?」
「単にパーティー登録してなかったニャ。リリカたちは一緒に歩いてただけの他人ニャ。心配しなくても神殿に戻ってるはずニャ。とにかく今は逃げるニャ」
猫耳に言われ俺とロリエルフは頷いて走り出そうとしたが反対側の茂みからもう一体のワイルドオーガなるモンスターが現れた。
俺たちは回り込まれてしまった!
「ヤバいニャ…これはリリカも無事では済まないニャ。神殿に戻るのはいいけど痛いのは嫌ニャ…」
「マジかよ…」
弱気になった猫耳を絶望的な気分で見ていた俺に、背後から迫った一体目のオーガの巨大なナタが振り下ろされた。らしい。
バシィッ!
森に破裂音が響きオーガのナタが弾かれる。
ピンク色のポンチョが弾け飛び、俺の体の表面からプラズマ粒子の輝きが散った。
『先程の鈍器による衝撃で電磁シールドの耐久力が20パーセント減衰。再チャージまで30秒。直ちに反撃を行う事を推奨します。対象の原生生物にシールド及び装甲等の装備は確認出来ません。危険度D––以下と断定。頭部を標的とすればグラディウスによる銃撃で十分に効果があると判断します』
エリカの声で俺は自分が電磁シールドスーツを着ていた事を思い出した。
最初期のモンスターを倒せなかったショックで忘れていたが俺にはこの世界の剣と魔法とは別口の武器があったのだ。
腰に吸い付いていたグラディウス45口径低反動電磁バレルピストルのグリップを握るとそれは音も無く腰から外れ、俺の体はセーフティを外しスライドを引くとそれを構えた。
ハンドガンを構えた俺の視界に十字のクロスヘアと残弾、シールド残量の表示が現れる。
目の前の不思議そうに弾かれたナタを見ているモンスターに四角いカーソルが重なり[unknown]と表示される。
「エリカ、なんか出た」
『お忘れですかマスター。マスターの体内に注入されたナノマシンの構成変更により使用火器との同期、及び照準アシストが行われます』
「そういえばそうだったな」
ゲーム中アーマー無しでも銃を構えると照準が出るのはそういう事だったのか。
『原生生物が攻撃体制に入っています。直ちに攻撃を』
俺がオーガの頭部に視線を移すと無意識に腕が動き、吸い付くように照準が重なる。
俺は引き金を引いた。
バンッ、というそれほど大きくはない発射音と共に炸薬と電磁バレルで加速された銃弾が発射され、オーガの頭が消え周囲に血と肉片が飛び散った。
俺は振り返り、ぽかんと間抜けそうに口を開けている猫耳とロリエルフの頭上でナタを振りかぶっていたもう一匹のオーガの頭を同じ様に吹き飛ばした。
『周囲に敵性行動を取る可能性が認められる動体の反応無し。お疲れ様でしたマスター。ですがやはりアキレスmk6軽装電磁シールドスーツだけでは負傷する可能性があります。グングニルmk4陸戦アーマーの着用を提案します』
「……考えとくよ」
『了解』
エリカとの通話を終えて、俺は未だにぽかんと口を開けたままの猫耳とロリエルフに声をかけた。
「助かったみたいだ。良かったね」
◇
「良かったね、じゃないニャ!」
ワイルドオーガなるモンスターの頭を二つ、自分でも惚れ惚れするようなヘッドショットで吹き飛ばした後、直結厨を抜いてロリエルフを加えた合計人数は変わらないものの、少しメンバーの充実した俺たち3人は安全そうな湖のほとりまで移動してキャンプを張っていた。
そして痺れをきらした猫耳が突っかかってきた。
「何なのニャあれは! ソーブレの中で銃なんて使ってるの見たことないニャ! 剣と魔法の、剣と魔法だけの純ファンタジーMMORPGニャ! 実は文明崩壊後の地球でしたなんて設定は無いニャ! しかも何で倒したモンスターが光になって消えないで血と脳ミソぶち撒けてグロ死してるニャ!」
「あたしもビックリしましたよ! 何でそんなの持ってるんですか!? チートですか!? データ改造ですか!? 垢バンされちゃいますよ!?」
助けたロリエルフ少女も体を乗り出して聞いてくる。
まあ突然あんなものを見てしまったらそうなるのも仕方ないかも知れない。
「うーん説明すると長いような…」
「いいからちゃんと説明するニャ!」
「俺、多分お前がこの世界に転移した時に別窓で放置してたWFUの対戦相手だったせいで巻き込まれたんだ」
「長くないニャ! あっという間に説明しちゃったニャ! ていうかあの時の廃人ニャ!? じゃあなんでリリカのねこねこ☆ミルク艦隊は居ないのニャ!?」
「そこまでは知らないし弱かったから俺が旗艦に乗り込んだ時にはもう壊滅状態だったぞ」
「酷いニャ! リリカヲーファイの対戦初めてだったのニャ! 初心者には優しく接待プレイしなきゃダメニャ!」
「それは少し反省してる」
「つまり、クラリスさんは別のゲームのキャラクターとしてこの世界に転移しちゃったんですね?」
「多分そういう事になるんだと思う」
「ズルいニャ。異世界転移ならリリカもチートが欲しかったニャ。でもどうせならイケメンがいっぱい居る世界の悪役令嬢が良かったニャ」
「あー、あたしも正義の悪役令嬢が良かったです! 悪のヒロインを蹴落とすやつ!」
正義の悪役令嬢って何だ。
「ニャ? キミも中身ちゃんと女の子ニャ?」
「あ、自己紹介が遅れました。あたしナツミって言います! じゃなかった、このキャラの名前はメケメケです!」
そうロリエルフが名乗った。
こんな全年齢対象のわりに中途半端なエロが売りのMMORPGにも女性プレイヤーが居たのかと思うと少し意外だ。
「メケメケは言いにくいからナツミチャンでいいニャ? こっちのチートクラリスの中身はエッチなオッサンニャから気をつけるニャよ」
「うわあ! 異世界転移でTSでチートですか! 考えるヤツの頭の中が心配ですね!」
「そういう事言わないの、傷つく人だって居るかもしれないだろ」
「でもまあ、クラリスにゃんがただのレベル1お荷物じゃニャいなら話は変わってくるニャ。さっさとその宇宙艦隊を呼んでリリカをお風呂に入れるニャ」
「あー! あたしもおフロ入りたいです!」
やはりそう来たか。
俺が特別な能力(能力じゃないけど)を持っていると他のプレイヤーに知られたら絶対にたかられると思ったから秘密にしておきたかったのだ。
しかし知られてしまった物は仕方がない。何とかこの二人を丸め込んで、これ以上他のプレイヤーに知られないようにしなければなるまい。
「エリカ、そういう訳だから出てきていいぞ」
そう言って俺は銃の反対側に付いていた小さな通信モジュールを外してスイッチを押した。
12インチサイズの白スク水AI、エリカが立体映像となってその姿を現す。
『了解しましたマスター。こちらの原住生物のお二人は初めまして。私はMCSF宇宙艦隊、艦隊運用サポートAI、エリカと言います』
「うわー! SFですね! 剣と魔法のファンタジーの世界観ぶち壊しです!」
「このスク水、艦隊AIだったのニャ!? リリカの艦隊のAIはリアル顔のオバサンだったニャ! これもチートニャ!?」
「ただの外見変更MODだよ。ゲームのデータ弄ると対戦できなくなるだろ」
「そうだったかニャあ、とにかくエリカにゃん、お風呂のある船をよこして欲しいニャ」
『原住生物の要請に応える事は出来ません。要請には銀河連邦宇宙軍少佐以上の階級が必要です。原住生物は原住生物らしくそこの湖で水浴びでもすれば良いと判断します』
「ニャーッ!? リリカは原住生物じゃないニャ! れっきとした栃木県民ニャ!」
『地球の旧日本国領栃木県にそのような猫と人間の遺伝子操作で作られたと思われる生物は居ません』
なんだか余計に話がややこしくなってしまった。
「まあエリカ、シャワーくらいは使わせてやろうと思うからドラグーンをこの湖にでも着水させてくれ」
『むぅ…マスターがそう言うのでしたら…しかしあまり未開惑星の原住生物に肩入れしないようにお願いします』
「失礼なAIニャ! 栃木に帰ったら艦隊を再編してネット対戦でボコボコにしてやるニャ!」
エリカが消えた通信端末に向かってまだ何か文句を言っている猫耳を放っておいて俺はロリエルフに耳打ちをした。
「あんな風になりきりで演じてるけどあの猫耳も中身はオッサンだ。騙されないでくれ」
「あー、あたしもあのセンスはなんか怪しいって思ってました。語尾にニャとか付けてるのは相当重症ですね」
「ああ、かなり入れ込んで自分が猫耳少女だと思い込んでるらしい。相当ヤバイから気をつけるんだ」
「でも少なくともこの世界にいる間は大丈夫ですよ。あたし、じゃなかったこのメケメケちゃんは男の娘なんです!」
そう言ってロリエルフ、ではないエルフは俺にスカートをめくって見せた。
可愛らしいフリルの付いたおパンツが、その内容物の大きさに合わせ妙な形に膨らんでいる。
オ・ト・コ・ノ・コ……?
目眩がした。
あと何が大丈夫なのかわからなかった。




