表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/51

1 この宇宙は崩壊します。

 生い茂る樹々の合間から青空をゆっくりと流れる雲を見上げていると、また一つ黒い影が雲の切れ間を横切った。


「また通ったニャ。やっぱりグランシールの領地に近づいてから飛んでる数が多くなってるニャ」


 横で同じように空を見上げていた破廉恥なメイド服の猫耳、リリカが少しウンザリしたという様子で呟く。

 見た目こそ猫耳美少女メイドだが、どうにも中のオッサンに堪え性が無いため空路での移動を邪魔されて苛立っているらしい。


「この様子だとラレンティアよりもグランシールの方が深刻な事になってるのかもな」

「困ったのニャ。これじゃグランシールに着いてもリック達がどうなってるか判らないニャ。急いだ方が良いんじゃないのニャ? 飛行機で直接乗り込んでどうにかならないニャ?」

「まだ慌てるような時間じゃない」

「もうとっくに慌てなきゃいけない時間ニャ」


 ラレンティア王国を出発して既に一週間になろうとしていた。


 俺たちはラレンティア王国を裏で操っていた『ゆうたママ』と神を名乗る『カムイ』とかいう少年の企みを阻止し、王都ラレンティニアに出現した『根元破滅大魔王カタストロフ』を倒した。

 そして大魔王に破壊された王都復興の最中、大魔王との戦いで命を落とした仲間、ショウゴ復活のために神殿の機能を再開させた所、同時に機能を回復したワープゲートを通って大陸第三の国、アステ帝国の軍隊が現れた。

 それにより神殿、そして都市としての機能の大半を失っていたラレンティニアは瞬く間に制圧されてしまったのだった。

 俺たち、そしてラレンティニア周辺で出会った協力者達はラレンティニアを放棄、渋る女王ティルダを引き摺ってツテのあるゴダートの街まで退避し、そこをラレンティア王国の臨時の王都とした。


 それから俺たちはラレンティア王国とほぼ同時期にアステ帝国の侵攻を受けたと思われるグランシール王国の状況を把握するため、あわよくばラレンティニア開放の協力を得るためにグランシール王国の領内を目指してラレンティア王国を出発し――――


「クラリスさーん、リリカさーん、ごはんの用意ができましたよー」


 ――――今に至る。


「おっ、今日はカレーか! うん、こりゃ美味え、やるなベア子!」


 木の皿に盛られたカレーライスを掻き込みながら黒い肌でスキンヘッドに筋肉隆々、マッチョマンの大男、ディアスが製作者に賞賛の言葉を送る。


「あはは、ありがとうございます。おかわりもありますから、皆さんいっぱい食べてくださいね」


 それを受けて照れ臭そうに笑いながら明るい金髪を結い上げた少女、ベアトリクスが答えた。

 ラレンティニアで敵として出会った時は悲痛な覚悟で俺たちの前に立ちはだかり、ここには居ない仲間であるショウゴと熾烈な一騎打ちを演じた彼女だが母親の呪縛から解き放たれた今では随分と物腰も柔らかくなっている。


「いや、凄いですよ、こんな何も無い森の中でちゃんとした料理を作れるなんて。ゆう…ベアトリクスさん本当に何でも出来ますね」


 本当に何故こんな森の中でカレーライスが作れたのか疑問だが昨日はギョウザだったしその前はうどんだったのでもう誰も気にしてない。


「昔、中央アジアを旅行した時に色々教わったんです。役に立って良かった」

「わ、私だって手伝ったんですから! 二割くらいは私の功績ですよ!」


 俺もベアトリクスの異常な生活スキルと料理の腕に感心して感謝を口にした途端、聞いても居ないのにナツミが功績を主張し始めた。


「ナツ坊は魔法で火を出してただけじゃねえか」

「火加減は料理の最重要事項でしょう!」


 が、すぐにディアスに茶化され今度はそっちに食って掛かる。


 この世界での肉体となっている体は女装ショタエルフだが、実際の所ここに居る5人の中では中の人が唯一の女性であるため料理に関して何の役にも立たなかったとあってはプライドに関わるのかもしれない。


「なんか早くもこの生活に馴染んで来ちゃった感があるニャあ」


 自分の皿を平らげたリリカが地面に体を投げ出して小さく「げふ」とだらしなくもみっともない声を出した。

 中の人が女子高生だと主張する割にこう言うところが雑なオッサンである。

 あまり人の事は言えないが俺だって今の金髪美少女の体ではもう少し居住まいには気をつける。


「ベアトリクスさんが居れば何処でも生活できそうだからなあ、ごちそうさま」

「ふふ、お粗末様です」


 柔らかく微笑むベアトリクスの返事に妙な満足感を感じながら木々の合間の空を見上げた。

 今はただ青空を白い雲がゆったりと流れるだけだ。


「やっぱり空路は使えそうにねえか?」


 おかわりの皿を平らげたディアスが訊いた。


「ああ、今は居ないけど定期的に飛び回ってる。帝国の竜騎兵ってヤツだろう。グランシールに近くなる程頻度が高くなってるから空から領内に入るのは目立ち過ぎる」

「……やっぱりもうグランシールは帝国に占領されちまってるのかな……兄貴たちが無事なら良いが……」


 空を見上げて少しだけ表情を硬くする。

 グランシールには設定上は彼の兄と言うことになっているリックとドムという兄弟が居る。


「ラレンティアもだけど神殿のワープゲートが侵略の橋頭堡になってるからなあ……王都が真っ先に陥落しても全土を掌握するのは時間がかかるだろうし、ゲートから移動する軍隊の規模からして大規模な戦闘なんかにはならなそうだから、余裕はあると思う」

「さっきもそんな事言ってたけど、ラレンティア…ゴダートの街だっていつまで持つか解らないニャ。飛行機で一気に乗り込む方が絶対に良いニャ」

「そうは言ってもドラグーンもハミングバードも基本は輸送艇だからろくな武装は無いし、モンスターの類にはどうもステルスの効果が薄い。取り付かれでもしたら為すすべ無いんだ。戦闘機のソードブレイカーは無人機だし無理しても二人しか乗れない。森を抜ければあのドーラとか言う砦までもう少しだから歩いていくのが一番安全だ」

「じゃあ戦車を出すニャ!地上の敵を薙ぎ払いながら進むニャ!」

「敵の規模も解らないのに無茶苦茶言うなよ。お前どうせ歩くのが嫌なだけだろ」


 図星を突かれたのか、リリカは地面に大の字になったまま「にゃぐぅ…」と変な声を出して黙った。


「でもクラリスさんの宇宙艦隊でも帝国の軍隊はやっつけられませんか? いくら魔法とか竜とかあるって言っても文明レベルは中世ですよ?」


 今度はナツミが物騒なことを言い出す。中身は唯一の女性だが、おそらく一番血の気が多い。


「焼け野原には出来るだろうけど、世界中の人に恨まれたら地上に居られなくなるだろ……」

「じゃあいっそこんな世界は捨てて、気に入った人だけ助けて他の惑星を目指して宇宙に旅立つって言うのはどうですかね? 新世界の王になりましょう」

「いや……新世界の王はともかく、宇宙へ旅立つってのは俺も考えたが…やめといた方が良いと思う。この世界で現実に戻る方法を探す必要がある…と思う」

「現実かぁ…今頃どうなってるんですかね? 私たちが居なくなって騒ぎになってるんですかね? それとも現実は時間が経ってないとか…だったらいいなあ」

「現実かァ……」


『現実』という言葉を聞いてディアスがため息をつき、全員が口を閉ざした。


 このMMORPG、『ソードブレイズオンライン』の世界に迷い込んでから、現実に戻るための唯一のヒントとされていた『根元破滅魔王バッドエンド』は存在すらせず、それを呼び出す条件で現れた『根元破滅大魔王カタストロフ』をかなり無理矢理な方法で倒しても現実に帰るための糸口すら掴めず、そのためのヒントは完全に失われた状態だ。

 俺たちが必ずしも『現実に戻る』という目標のために進んで来たとは言えず、ほぼ状況に流されて今に至るとはしても、ほぼ手詰まりの状態だ。


「……兎に角、今はグランシールに居るリックたちと連絡を取って、状況次第では協力してラレンティニアを解放してショウゴを復活させる。それが第一だ」


 とりあえずの目標ではあるが、俺は改めてそれを確認するために声に出す。


「……だな」

「そうニャ! みんなのために戦ったショウゴをあのままにはして置けないニャ!」

「ラレンティアのみんなも待ってますし、特にスカーレットさんと女王サマにせっつかれてますからねえ」

「わ、私もショウゴさんのお陰でこうして皆さんと一緒にいるんです!復活させてちゃんとお礼とお詫びを言わないと気が済みません!」


 皆もそれに答える。


 ラレンティアで一緒に戦った仲間、ショウゴは大魔王との戦いで命を落とし、蘇生のための神殿がアステ帝国によって占拠されてしまったために未だ復活できずに居る。

 真面目で頼りになる彼を復活させたいのはここにいる全員はもとより、ラレンティニアに残っているティルダ女王やサキュバスのスカーレット、他にも多くの人間が望んでいる。


「じゃあそろそろまた出発と行くか!」


 ディアスが立ち上がりながら聞いてくる。


「その何とかって砦まではあとどのくらいだ?」

「あと半日も歩けば森を抜けるから、そうすれば見えると思う」


 同じく立ち上がりながら答える俺に、他の仲間も続く。


「やれやれニャ、結局また歩きニャ。ドーラ砦に着いたら馬車を貸してもらうニャ」

「リリカさん、あっちじゃ顔が利きますからねえ」

「そうなんですか? すごいですねえ」


 各々片付けを済ませて歩き出す。

 グランシールの領内まで行けば少なくとも状況くらいは解るだろう。


 皆に少しだけ遅れて後を追いながら、俺は手首の通信装置のスイッチに触れた。


「聞こえてるかエリカ?」

『はい、マスター。何時でも聞こえています』


 通信機から艦隊サポートAI、エリカの声が答える。


「観測の結果は出たか?」

『なにぶん宇宙規模の事なので完全とは行きません。銀河連邦の歴史においてもこの様な現象は例がありませんので正確な予測は困難です』

「そりゃ…そうだろうな。例があったら銀河連邦なんて存在しないだろうし」

『この宇宙が我々の居た銀河連邦の存在する宇宙とは別のものだという証明にはなりました。何時まで経っても連絡が取れないはずです』


 ようやくエリカにも異世界転移という事実が理解できたらしい。

 そして俺は訊いた。


「それで、あとどのくらい持ちそうなんだ? この世界は」

『外宇宙では既に恒星同士の衝突が始まり玉突きのようになっていて一部で重力場が崩壊、巨大なブラックホールが形成されています。200日前後には直近の恒星系の衝突による最初の流星群がこの星系に到達するでしょう。そうなればこの星系でも重力場のバランスの崩壊が始まるでしょう。ですがこの惑星に限って言えば先に環境が崩壊するかも知れません。既に大陸周辺にだけかろうじて存在した海洋生物の90%が死滅しました。樹木の不足による酸素の供給不足により大気の構成バランスも変化しつつあります』

「えーと、その、つまり…?」


『惑星上にも外宇宙にも逃げ場はありません。この宇宙は崩壊します。早急に別の時空間、別の次元、つまるところ()()()への脱出の手段を発見する必要があります』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ