19 どすこぉぉぉぉいッ!!
「ニャああああああぁぁぁぁっ!?」
リリカが悲鳴を上げるが、決して大袈裟とは割り切れない。
地上に降りたドラグーンとエリカの展開した電磁シールドの外側を閃光が埋め尽くした後、炎と爆風が吹き荒れた。
数分だったのか、数十秒だったのか、それが収まると同時にシールドは消失してエリカの義体は二体とも糸の切れた人形のように力を失って倒れた。
爆風の収まったラレンティア王国の王都、王宮前の広場の空は巻き上げられた噴煙で夜のような暗闇で覆われ、地上は焼け野原同然の有様で地下水路の張り巡らされた地盤はあちこちの地面が陥没し、周囲の建物は石造りのものはかろうじて原型を留めているものの、木造の物は崩れ落ちて火の手が上がり燻っている。
すぐ後ろにあった王宮も外壁のほとんどをえぐられ、石材が溶け落ちている部分もある。
『義体のエネルギーが底をつきました。ドラグーンも右翼消失、右舷の機体表面の60%が融解。シールドを展開させたクルセイダーⅣは大破。共に行動不能です。周囲の残存放射能は全て基準値以下。直ちに人体に影響を及ぼす可能性は無いと思われます』
義体を失ったエリカの声がスーツの通信機からイマイチ安心できない報告を伝えて来る。
「に、日本人の作ったゲームなら核の扱いにはもうちょっとデリケートであって欲しいよな……」
「しらにゃいぃぃ♡ あんな魔法実装してにゃいのほぉぉぉっ♡」
サキュバスに連れられてシールドの中に入り無事だったらしい、経験値を吸い尽くされてレベル1になった、知性も吸われてしまった可能性の高い自称神の少年が周囲の惨状にそぐわない嬌声でほざく。
どうでもいいがシールドに守られていたとは言えフルチンのままで核爆発のほぼ爆心地に居たのはさぞ心細かったであろう。縮み上がった皮被りから失禁しているのを見て、ほんの少しだけ同情した。
「みんな大丈夫か? 全員無事か?」
「ここに居るのは全員大丈夫だ。しかしこの分じゃ退避してた市民の方にも被害が出てるかもしれない…!」
「プレイヤーも一緒に神殿や地下水路に避難してるなら大丈夫だと思いますけど……それよりあの青ハゲは……自分の魔法で死んだりはしてないですよね……」
ショウゴとナツミの返答を聞いて、俺は盾になって半壊したドラグーンの陰から顔を出して確認する。
「無駄な足掻きを」
原型を留めないほどにドロドロに溶けた鉄の塊となったクルセイダーを素手で押しのけて青ハゲが姿を現わす。
「我が無限の魔力の前には抵抗など意味を為さぬ。平伏して死を享受せよ」
俺はすぐさまエリカに要請した。
「今度こそEMPだ! 二度とあんな魔法を使わせるな!」
『了解。エンフェリアよりエクスカリバー核弾頭ミサイルを発射。成層圏界面付近で爆破します』
「あともう一機のクルセイダーであいつを取り押さえろ!自動操縦でいい!」
俺の要請に答えてドラグーンの中からもう一機のクルセイダーが溶けた装甲を突き破って立ち上がり、青ハゲに向かって歩きだす。
俺は影になっているドラグーンの左舷乗員用ハッチに飛びついて開いた。
「しばらく魔法を使えなくする! 女王とサキュバス達は避難している人達の方へ行ってくれ! ディアス! ショウゴ! 手伝ってくれ! 武器を運び出す!」
「ま、待つのじゃ! ぬしらだけで戦う気か!?」
「そうっス! あーしだって戦うっス! ショウゴサンを残してイけないっスよぉ!」
「俺たち冒険者は死んでも復活出来る! ここは俺たちに任せてくれ!」
ティルダ女王とスカーレットがごねるが、ショウゴに諌められて俯いた。
多くのサキュバス達は指示に従い翼を広げてすぐに退避を始めている。
「男が帰ってくるのを大人しく待つのも良い女の役目よぉ」
そしてごねた二人も神だった全裸の少年を抱えたサファイアに引き摺られるように退避して行った。
「モテる男は辛いな」
「やめてくれ、正直…俺は苦手なんだ…リアルじゃ女の子と話す事なんかほとんど無いし、本当の俺を知ったら幻滅されると思うと、怖い……」
コンテナから取り出した武器を渡しながら軽口を言った俺にショウゴは困ったような顔で笑った。
俺も無理矢理顔に笑みを浮かべて返す。
「今ヤバいのと戦おうとしてる勇気は本物だよ。俺が本当に女だったら惚れてるかも知れない」
「何を気色悪い事を言ってるニャあ! 早く武器をよこすニャあ!」
「そう言うのは嫌いじゃ無いですけど今はそれどころじゃな無いんです! クラリスさんも早くアーマーを着てください!」
くそ、ちょっと良い事を言ったと思ったのに微妙な男心の解らない無粋な猫耳メイドと女装ショタメイドエルフめ。
「ナツミ、あの時はあんな事言ったけど、やっぱ元々この世界の住人じゃないからって言っても、この世界がどうなってもいいってのは良くないよな」
「な、何ですか急に! 今それどころじゃないでしょう!?」
突然話を振られたナツミは焦って俺を急かしたが、テレビのニュース番組で見た中東の紛争地帯のようになってしまった王宮前の街並みを見て言い直した。
「でも…そうですね、やっぱりこうなっちゃうのを見ると、できる事なら立つ鳥跡を濁さず、で行きたいです」
「祭りの後のゴミ拾いなんてガラじゃないけど、せめてプレイヤーの不始末は俺たちが片付けよう!」
俺は半壊したドラグーンの中で傾いたアーマー着脱コンテナに入った。
アーマーを装着してドラグーンから出た俺は、リリカ、ナツミ、ショウゴ、ディアス、そしてベアトリクスに武器が渡ったのを確認してドラグーンの陰から出て青ハゲの姿を見た。
8メートルの歩行戦車の腕を3メートル程の青い大男が掴んで引き千切っている。
滅茶苦茶なヤツだ。
膝をついて崩れ落ちたクルセイダーにとどめを刺すべく青ハゲが何か魔法を使おうとしたのだろう、右手を掲げたその時、空に光が広がり周囲の金属からバチっと音を立てて静電気が走った。
青ハゲは元々しかめっ面の顔を心持ちさらにしかめて空を見上げた後、下ろした右手を見つめた。
「小賢しい真似を。一瞬で死ぬよりも苦しんで死ぬのが望みか」
物騒な事を言って左腕で引き千切ったクルセイダーの腕をドラグーンの残骸に投げ付け、大きくひしゃげさせる。
「エリカ! 全ての武器のロックを解除! みんな! 今の内にあいつを蜂の巣にするぞ!」
「わかってるニャあ!」
「あーもう! こっちも魔法が使えないのは不便ですね!」
「お、俺は銃なんか撃ったことは無いぞ!? どうすればいいんだ!?」
「これも元はゲームのSF銃なんだからロボの嬢ちゃんがサポートしてくれてる! アイツに向けて引き金を引きゃあいいんだ! ベア子! そっちは大丈夫か!」
「は、はい! 拳銃でしたけどカリフォルニアで撃ったことがあります!」
少し不安ではあるがあの青ハゲ大魔王と接近戦は不味い気がする。
「準備はいいか!? よく狙って、落ち着いて射てよ!?」
「いいから任せるニャあ! あのハゲこっち来るニャあ! 今ニャあ! 撃って撃って撃ちまくるニャあああ!!」
破壊したクルセイダーを踏み越えてこちらに向かって歩き出した青ハゲ大魔王に、リリカの声で一斉に銃撃が開始された。
「あ、あいつ平気で歩いて来るぞ! 何発か目に当ててるのに弾かれてやがる! ク◯プ◯ン人かよ!?」
銃弾の雨の中を歩いて来る青ハゲにディアスが驚愕の声をあげた。
「まだまだニャあ! 蜂の巣にするニャあ!」
リリカがアサルトライフルを乱射するがほとんどは外れて当たった物もまるで効果が無い。
ショウゴも両手で構えたハンドガンを必死に撃っているがほとんど狙いを逸れている。
どうも格闘系は銃器と相性が悪いらしい。
「な、ならこれで!」
ベアトリクスがショットガンを続けざまに発射し、散弾が青ハゲの胴体に降り注ぐが、それでも青ハゲはよろめきすらしない。
「鉛弾がダメならこれでどうです!?」
ナツミが小さな体で6連装グレネードランチャーを抱えて次々に発射する。
「ダメ押しだ! こいつも喰らえッ!」
ロケットランチャーに持ち替えたディアスが2連装のロケット弾を二発とも撃ち込み、直撃した青ハゲの体を爆風が包み込む。
だが、それでも揺らめく炎の中から傷一つない青ハゲが姿を現した。
「あれで平気なのか!? バケモノめ!」
ディアスが再び驚愕するが、俺は肩にかついだ長砲身の銃、ダインスレイブプラズマレールガンの照準を青ハゲに合わせて引き金に指を掛けた。
「ここだ…そのキレイでもない顔をフッ飛ばしてやる!!」
俺が引き金を引き、プラズマレールガンの長い砲身から高性能炸薬と電磁バレル、ついでにプラズマ斥力とかいうよくわからないSF理論で加速されたタングステンカーバイト弾芯の徹甲弾が青白いプラズマ放電の尾を引き青ハゲの青いデコに命中した。
「グロっ!?」
青ハゲのデコに命中した徹甲弾も頭を吹き飛ばす事は出来ずに、その前頭部を不自然に陥没させただけで運動エネルギーを失い、力なくポトリと青ハゲの足元に落ちた。
「あ、頭がヘコんでるのに平気なのニャ!?」
「なまじ吹き飛ばすよりグロい事になってますよ!?」
「ど、どうなってるんだ!?」
『解析不能。完全に物理法則を無視しています』
青ハゲの陥没した前頭部がボコボコと波打ち、元の形に修復されながら煽るようにゆっくりとこちらへ向かって歩いて来る。
「無駄な事を。何をされても貴様らなどに我を傷つける事など出来ぬ。我が最大の弱点である聖邪究極神剣ラグナカリバーで心臓を貫かれぬ限りはな!」
「そんな物誰が持ってるのニャあ!!」
ご丁寧に自らの弱点を知らせてくれる大魔王だが、そんなアホっぽい名前の武器は誰も持っていないだろう。
「もう弾が無え! 何か手は無えのか!?」
撃ち尽くした武器を捨ててディアスが叫ぶ。
プラズマレールガンで頭部を陥没させられたなら、完全に無敵という訳ではないのかも知れない。
戦艦の大型兵器なら通用するだろうか。
しかしそれを使うには相手が小さ過ぎる。
「エリカ! ハミングバードでいい! 大至急ここに降ろしてくれ!」
『ハミングバードなら全速力で5分で到達できますが、武器を装備していません』
「構わない! 今すぐ発進させろ!」
『了解』
エリカに指示を送り、続いて仲間たちに協力を頼む。
「みんな! 5分だ! 5分だけ時間をかせいでくれ! 逃げ回るだけでいい!」
「な、何か策があるのニャ!?」
「わかった! 5分だな!」
俺の声を聞いて聞き返すリリカの言葉を遮って、まずショウゴが飛び出す。
「これならどうだ! 伝迅ッ……破導拳ッ!!」
ショウゴの両手から帯電した気のエネルギーが発生し、稲妻を纏って撃ち出される。
「無駄だと言ってい……む?」
それを片手で受け止めた青ハゲの手に電流が迸り少しだけ困惑させたが、元ネタの格闘ゲームのような気絶させる程の効果は得られなかった。
「小賢しい真似を…」
「こっちニャあ!」
続いて飛びかかったリリカが大きくジャンプし、青ハゲの頭上を飛び越しざまに空中でアイテムボックスから黒いロングスカートのメイド服を取り出して青ハゲの頭部に巻き付けて背後に着地し、そのまま離脱する。
「オラッ! こっちだ!」
ディアスが視界を奪われた青ハゲに向かってレンガの破片を投げ付け誘導する。
余裕綽々で落ち着いていた青ハゲもさすがに怒ったのだろう、投げつけられた破片の当たった方向に振り向いて足を踏み出す。
「足元注意ですよっ!」
その先にある、エリカが地下水路から空けた穴にナツミがグレネードランチャーの残弾を撃ち込む。
ズシン、と地下から爆発音が響き、度重なる衝撃で地面の石畳は崩落し、足を取られた青ハゲの巨体の下半身が飲み込まれる。
「体が丈夫でもこれならっ!」
背後から駆け込んだベアトリクスが地面に広がった青ハゲのマントを捲りあげてその上体を包み、アイテムボックスから数本の魔法の剣を出して裏返しになったマントの裾を地面に縫い付ける。
「マントは止めとけって誰かに言われませんでしたか!」
逃げ回るどころか完封だ。
根元破滅大魔王は、まるでビーチで下半身を埋められた上に、上半身をスカートを逆さにして縛られた、いじめられた昭和の女子中学生のような惨めな姿で動きを封じられた。
「いくらタフでも力が強いだけのデカブツなんてこんなモノニャ! さあクラリスにゃん! さっさとコイツをどうにかするニャ!」
「エリカ! ハミングバードはまだか!?」
『到着まであと1分…マスター! 周囲の粒子が運動を再開し始めています! 気をつけてください!』
「もうか! 早くハミングバードを!」
エリカの警告に前後して、マントに包まれた青ハゲの体が崩落した地面から飛び上がるように抜け出し、全身から炎を吹き出して自前のマントとリリカの被せたメイド服を引き裂いた。
「ヌアアァァァァァァッ!! 小虫共がッ! 我を愚弄したなッ! 一人づつ嬲り殺しにしてくれるッ!!」
憤怒の形相で吠えた青ハゲが、猛烈な勢いでディアスへと突進する。
「マズい! 逃げろディアス!」
俺はディアスをかばうために走り出したが、それよりも早くショウゴが間に割って入った。
「やらせるかッ!」
「まずは貴様からかッ!」
青ハゲの乱暴に腕力だけで振るわれた右の拳をショウゴは左腕で弾くようにブロックするが、勢いを殺しきれずにショウゴの左前腕が関節でない部分でくの字に折れ曲がる。
「グゥッッ!! まだまだぁッ!! 侵・勝流拳ッッ!!!」
ショウゴは右腕と右膝を突き出して飛び上がり、ジャンピングアッパーを繰り出すが、青ハゲは事も無くその右拳を左手で掴んで止めた。
「脆弱ッ!」
「ぐあああっ!?」
そのままぐしゃり、と音を立てて拳を握り潰されショウゴが苦痛の叫びを上げる。
「野郎! ショウゴを離しやがれッ!」
「無力ッ!」
ディアスが捨て身で青ハゲの脚に体当たりで掴みかかったが、無造作に蹴り飛ばされ同じくショウゴを救出するために走っていた俺の方へ吹き飛ばされた。
俺は急停止してなんとかディアスの体を受け止めるが、ディアスは大量の血を吐いて倒れこむ。
「ぬはははは! 力の差を思い知れいッ!」
青ハゲは左腕で掴んだままのショウゴに巨大な右拳を叩きつけ、その胴体を貫いた。
「がはッ!?」
胴体を貫かれたショウゴの体から炎が噴き出し、一瞬で黒い煤となって崩れ落ち、落ちる途中で光の粒子になって消える。
焼け焦げた赤ハチマキがゆっくりと地面に落ちた。
「そ、そんな! ショウゴはパーティー登録しといたニャ! 何で消えちゃうのニャ!?」
「原型を留めない死に方だとその場復活は出来なくなってます! 騎士たちはそうやって冒険者を狩ってたんです!」
「でもあの消え方なら復活できますよね!?」
「そのハズです!」
慌てふためくリリカとナツミにベアトリクスが答える。
復活出来るなら今はこのクソ青ハゲをどうにかするのが先だ。
『ハミングバード上空へ到達しました! 降下させます!』
ディアスを地面に寝かせて立ち上がった俺の目に、青ハゲの後ろで空から降下して来たハミングバードのずんぐりした機体が見えた。
「よし…! 後は俺に任せてくれ! ディアスを頼む!」
「な、何言ってるんですか!? あいつ何やっても死にませんよ!? どうするんですか!?」
「倒せないヤツを倒す古典的な方法がある!」
俺はアーマーのパワーアシストを全開にして大地を蹴り走り出す。
走りながら腰のアタッチメントから閃光手榴弾を外して青ハゲの顔面に投げ付けた。
「子供騙しを!」
閃光手榴弾の破裂をまともに浴びてなお怯んだ様子もなく、横殴りに振るわれた青ハゲの拳を、何とか掻い潜ってタックルで組み付いた。
改良型グングニルmk4陸戦アーマーのパワーアシスト全開のタックルを受けた青ハゲは少し腰を落として後ずさったが、立ったまま受け止めている。
俺は両腕を青ハゲの腰の後ろに回して、大魔王なんて言うくせにパンクロッカーのような皮パンの鋲付きベルトを掴んだ。
「エリカ! ハッチを開けろ!」
『了解!』
地表に降りたハミングバードの後部貨物ハッチが開かれるのを青ハゲの胴体越しに確認し、俺は力を振りしぼって青ハゲの体を持ち上げる。
「うおりゃああああぁぁッ! どすこぉぉぉぉいッ!!」
どんなに力が強くても足が地面から離れてしまえば!
青ハゲを抱え上げたままアーマーのジェットブーストも全開にしてハミングバードの後部貨物デッキへと飛び込んだ。
「離陸だッ! このまま全速力で大気圏外まで上昇しろッ! このハゲを宇宙に放り出してやる!」
ハミングバードの後部ハッチがガシャンと音を立ててトラバサミの罠のような勢いで乱暴に閉まり、その機体が再び浮き上がる。
通常の飛行ではほとんど音を出さない反物質重力パルスエンジンから轟音を立てて、俺と青ハゲを乗せた降下艇は瞬く間に黒雲を貫いて空を駆け登った。




