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17 僕はこの世界の神になったんだ!

「プレイヤーなら神殿で復活されると面倒だからね。氷漬けにして亜空間にでも放り出してあげるよ、違反者(チーター)君」


 白い少年。

 それ以外に言い表しようが無い。白いロングコートにその下のシャツとズボン、靴まで全身真っ白な上に銀髪に白い肌。

 紅い瞳だけが色彩を放っている。


 正直言ってウンザリするようなセンスだが、突然現れた正体不明の少年の不気味さを演出するのには一役買っているらしい。

 その姿を見た仲間達は動揺を隠せない。

 そしてそれは足元から体が凍りつき始めている俺も同じだった。


「これはまた重症そうなのが出て来たな……エリカ! シールドを強制展開!」

「了解!」


 俺の声にエリカが答えると同時にスーツの電磁シールドが展開して上に着ていた黄色いメイド服もろとも下半身を覆いつつあった氷を吹き飛ばす。

 スーツはパンツとチューブトップブラの形状を残して透明になっていたため、俺は慌ててスーツの透明度を戻して元の真っ黒な全身タイツに戻した。


 横でエリカが足の裏から高熱のジェットを噴射して氷を蹴り砕いて脱出していた。

 氷の束縛から何とか脱出できたが、急激に冷やされた両足が痺れ、俺はその場で尻餅をついてしまう。


「へえ…アブソリュートコフィンから脱出できるのか……それはただ氷で覆うだけの魔法じゃ無い。存在そのものを凍結させる魔法なんだが……随分なデータの改造をしてたみたいだね、益々許せないな」

「誤解だ。データ改造どころか俺は元々このゲームもやってなかった」


 地面に降り立って余裕の態度を崩さないまま俺を見下ろす少年に何とか言い返すが、まだ両足の感覚が麻痺している。


 立ち上がるにはもう少し時間が必要だ。次に何かしてくるまでに時間を稼がなければ。


「いきなり出てきて不意打ちしといて痛い態度でスカして! 痛いのは格好だけにしてくださいねっ!」


 俺が攻撃されたと解ってキレたのだろう、ナツミが少年に向かって魔法を放った。

 しかし放たれた氷の刃は少年の直前で光の輪に飲み込まれ、そこから反対にナツミに向かって飛び出す。


「なっ…!?」

「危ないニャ!」


 リリカが咄嗟に近くに落ちていた、ベアトリクスがショウゴと闘った時に捨てた盾を拾って驚くナツミの前に飛び込み、跳ね返ってきた氷の刃を盾で受け止める。


「無駄だよ。完全魔法反射の魔法を使える僕にそんな魔法、触れることも出来ない」

「何者だ! 仲間を傷つけようというのなら、俺が相手になる!」


 ナツミの反対側からショウゴが走り込み、全身のバネを使い足を伸ばすような姿勢で足刀を放つ。

 しかしそれが触れる直前に少年ではなく、攻撃を仕掛けたショウゴが吹き飛んだ。


「物理攻撃も同じ事だ。……君も違反者(チーター)だね。まあ、君のようなチャチな能力(チート)なら放っておいても良いかと思ったが……調子に乗ってるみたいだから少しお仕置きだ」


 少年が左手をかざすと、ショウゴの体が何かに締め付けられるような姿勢で空中に浮き上がる。

 少年は残った右手を身動きのできないショウゴに向けてかざし、そこから白く輝く光の剣を発生させてショウゴの腹を刺し貫いた。


「ぐはぁっ!?」


 そのまま左手を振るうとショウゴの体は10メートル以上吹き飛ばされて石畳の地面に激突し、動かなくなった。


「ショウゴ!」

「ショウゴサン!」


 ティルダ女王とスカーレットがショウゴに駆け寄る。

 ショウゴはかろうじてまだ生きているようだが深刻なダメージだ。


 少年は嘲るようにショウゴの方を一瞥した後、周りにいる全員を見渡した。


「君たちの能力は能力(ステータス)感知(サーチ)で把握済みだ。そのケットシーとベアトリクス君の120が最高レベルじゃあ僕の脅威にはなり得ない。……ただ、面白い物を持っているね」


 そう言った少年の右手が光を帯びて、その中に二つの鍵が現れた。


「えっ!? それは…!? あ、あたしのアイテムボックスから鍵が消えてます!」

「アイテムスティールさ。魔術師系がレベル350で覚えるよ」


 言いながら少年は左手で自分のアイテムボックスから三つの鍵を取り出して見せた。

 五つの鍵が共鳴して暗い紫色の光を帯びる。


「僕も自分で集めてはいたけれど、中々面倒でね。君達が二つ集めてくれて良かった。これで五つ揃った訳だが、ここで魔王を呼び出しても面倒なことになるからね。これは僕が預かっておくよ」


 そう言って少年は五つの鍵をコートのポケットに入れた。


「カムイ君! 助けに来てくれたのね!? あなたがくれた杖も壊されてしまったわ! 早くあのクソ◯◯◯どもを皆殺しにして!」


 へたり込んでいたゆうたママが、その少年の白いロングコートの裾を掴んで縋り付く。

 しかし少年はそれを乱暴に振り払った。


 カムイ、と言うのがあの真っ白少年の名前らしい。

 名前に関しては他のゲームや漫画でも見たことのある、言ってしまえばキャラの名前としてはよくあるパターンなのでどうこう言いたくはないが、格好と合わせるとどうにもアレだ。

 ちょっとウンザリする。


「僕のコートに触らないでくれるかな? デザインチームに特別に作らせた衣装アイテムなんだ。君の役目はもう終わったよ。君みたいなゴミプレイヤーを排除しても何の得もないから見逃してあげるけど、次は無いよ」


 冷たい視線で言い放つ少年に向かってベアトリクスが激昂する。


「よ、よくもママを! お前がママを騙していたのか!」

「ママ、ママと、いい歳をして本当に情け無い。本当に気持ちの悪い親子だなあ。僕は何もしていないどころか、早くこの国を混乱させるその馬鹿女を引きずりおろしたかったんだ。冒険者登録法は違反者をあぶり出すのに都合が良いから静観していたけどね。それが済んだのだからもうその馬鹿女に好き勝手やらせる意味は無いんだ。君もさっさとその馬鹿女を連れて僕の視界から消えてくれないかな」


「さっきから聞いてりゃあエラそうにスカしやがって!何なんだけテメエは!」


 少年の態度に痺れを切らしたディアスが怒鳴る。

 しかし、それに答えたのは少年ではなく、驚きで目を見開いたリリカだった。


「そ、そいつのステータス…! レベル500ニャ! それに職業(ジョブ)は『神』って…!」

「レ、レベル500!? 250が上限じゃなかったのか!?」


 ディアスも驚いて聞き返し、今度は少年が答える。


「あの日の午前中まではね。せっかく作ったデータがあるんだ。一度も使われないままサービス終了なんて、勿体無いだろう?」


 ようやく脚が動かせるようになった俺は地面に手をついて上体を起こし、少年に訊いた。


「レベル500、職業(ジョブ)は『神』で…俺の事を違反者(チーター)だなんだと…つまり、あんた運営か」


 少年は待ってましたと言わんばかりにニヤリと満足そうな笑みを浮かべて答える。


「そういう事だ。だから僕の世界(ゲーム)で僕の定めたルールに違反した者には退場して貰いたいんだよ」

「運営ですって!? ならあたしたちがこの世界に来たのもあなたの仕業なんですか!」

「……だとしたらどうする?」


 ナツミの問いに対し、不敵に問い返した少年に、


「トイレくらいちゃんと設定しておくニャあ! お陰で酷い目にあったニャ! ガチャの確率も絞りすぎニャ! 景品ナントカ法違反じゃないのニャ!? あとレベルキャップ多すぎニャあ!」

「マップ表示とレーダーくらいデフォルトで付けとけ! あと無駄に広いマップなんだからファストトラベルも実装して当然だろ! 公式サイトに要望を出しといたはずだぞ!」

「リアリティのためだって言ってもフレンドチャットもパーティーチャットも近くにいないと使えないのは意味ないでしょう! ダイレクトメッセージも無いからフレンドと待ち合わせにわざわざツ◯ッター使ってたんですよ! お陰でママに見つかったせいでこのザマですよ!」

「キャラの戦闘モーションがショボ過ぎる! キーレスポンスも遅いしラグも酷い! 敵の同期がズレるからパーティーで連携取れないだろ! こんな仕様で縄跳びさせるな!」

「エロいデザインを発注し過ぎてイラストレーターに逃げられたって本当なんですか!? 今年に入ってから実装されたキャラのセンスが酷すぎます! っていうか初期の開発メンバー全員逃げてますよね!? 運営って言ったってあなた誰なんですか!」


 抗議の嵐が巻き起こった。


 ティルダ女王に回復魔法をかけてもらったのだろう、貫かれた腹を押さえて立ち上がったショウゴまで文句を言っている。意外と元気だ。


「のう、皆は何を言っておるのじゃ…? (わらわ)にはさっぱりわからん……」

「あーしも訳がわからないっス。でもなんかみんな怒ってるみたいだし。相当恨みを買ってるみたいっス」

「でもぉ、見た感じレベルはパンパンに溜まってるみたいで食べ甲斐はありそうだわぁ」


 話について行けないNPC勢が戸惑っているが、彼らに説明しても理解してもらえるかは怪しいところだ。


「エリカ、市民を避難させた方はどうなってる?」

「地下水路、及び神殿と言われる強固な建造物への避難は完了しています」

「よし、じゃあ退避した三体で言う通りに準備してくれ」


 奇しくもこの場にいたプレイヤーたちの運営に対する不満が爆発して時間を稼いでくれている。

 レベル500ものプレイヤーとなればまともに戦えば相当な強敵になるだろう。


 この真っ白少年が神だなどと信じる気はないが、『神』というジョブの持っている魔法もスキルも不明だ。戦うにも逃げるにも、少しでもこちらの有利に運ぶように今のうちに体制を整えなければ。


 チラリとこちらを見たリリカとナツミに俺が頷くと、二人も意図を汲み取ってくれたように頷き返す。


「う、うるさい! このゲームがクソゲーだったのは俺のせいじゃない! 俺だって途中からろくな引き継ぎも無しで管理させられたたんだ! ちょっとくらい好きにやったっていいだろう! 俺…僕はカムイ! 僕はこの世界(ゲーム)の神になったんだ!」


 真っ白少年、カムイが不満の声を遮るように叫ぶ。

 しかしリリカが両手を上げて敵意の無い事をアピールしながら、落ち着かせるように声色を下げて話し出した。


「ゴメンなさいニャ。ちょっと言い過ぎたニャ。リリカたち、なんのかんのでソーブレには楽しませて貰ってたニャ。その事は感謝するニャ。ところでその運営のヒトが、何で魔王の鍵なんか集めてたニャ?」

「そうですよねえ、あたしたちをこの世界に転移させたのが運営なら、魔王の鍵なんか集めなくても自分だけ元の世界に帰れたりするんじゃないですか?」

「そ、それは魔王が危険だからだ! 魔王を倒せる武器を持ったプレイヤーなんかこの世界に一人も居ないんだぞ! お前らがガチャを回さなかったから一本も当たりが出てないんだ!」

「サービス終了だっつってんのに最後のイベントのボスにだけ特攻の付いた武器のガチャなんか回すヤツが居る訳無えだろ!」

「まあまあディアスにゃん落ち着くニャ。多分このヒトは運営の権限でチートキャラを作ってただけで、みんなと同じこの世界に転移したプレイヤーニャ」

「確かに……ママの陰に隠れて冒険者登録方を利用したり、本当に神になったのならやり方が遠回り過ぎます」

「ゆうたさんの言う通りニャ。もしかして職業に『神』なんて付けちゃったせいで、この世界に来てから他のプレイヤーにステータスを見られないようにコソコソとNPCや良く分かってないプレイヤーの間に隠れて過ごしてたニャ?」

「ステータスに堂々とレベル500なんて書いてあったら一発でチートがバレますからねえ。あんな全身真っ白い格好じゃ、街中にいたらプレイヤーの間でも目立つでしょうし…かなり苦労してるのかも……」

「そ、そんな事はお前達に関係無いだろう! 僕はレベル500だぞ! この世界で最強の存在になったんだ! 僕が本気を出したらお前たちなんか一瞬で全滅させられる!」

「わかってますニャ。リリカ達はプレイヤーの中でもエンジョイ勢ニャ。でも、一人で何でもかんでもするより仲間が居た方が良いんじゃないのニャ? 魔王の鍵を集めるのだって、一人で三つも集めたのは大変だったんじゃないのニャ?」

「このゲーム、ファストトラベルも無ければ長距離の移動は神殿のワープだけですからねえ。あっちこっちのダンジョンに潜ってボスの持ってる鍵を集めるのなんか移動だけで一苦労ですよ。あ、ひょっとしてワープ出来るような魔法も持ってたりするんですか?」

「じゅ、10メートルくらいなら瞬間移動できる魔法を魔術師系がレベル400で覚える……」

「それじゃあ長距離の移動には使えないニャねえ。やっぱり仲間が必要なんじゃないニャ? リリカ達なら力を貸してあげてもいいニャ」

「な、仲間だと!? 僕は神だ! お前らみたいな底辺プレイヤーに合わせられるか!」

「ホントにそれでいいのニャ?」

「足手まといは要らないと言っている!」

「ホントのホントニャ? 後で寂しくなってもいいのニャ?」

「しつこいぞ! 僕がお前らプレイヤーにどれだけ迷惑をかけられたと思ってるんだ!」

「仕方ないニャ。……クラリスにゃん、そろそろいいニャか?」


 リリカが俺の方に振り返って聞いた。

 リリカたちが気をそらしてくれたお陰でもう準備は整っている。


「ああ、充分すぎる!……エリカ!今だ!」


 俺の合図でエリカの腕を曲げ、肘の部分が開きそこから発煙筒が射出される。

 それは少年、カムイの足元に転がり煙幕を噴き出して瞬く間に周囲を覆った。


「クソッ! 小癪な真似を……逃すかッ!」


 少年は魔法であろう、突風を巻き起こして煙幕を吹き飛ばすが、周囲を見て目を見開く。


「せっかくここまで来たんだ。逃げたりしないさ」


 退避していた三体のエリカが地下水路を通り、この宮殿前広場の真下まで移動して地上に残っていた一体が煙幕を射出したのと同時に地下水路から熱線で地上まで穴を開けたのだ。


 そこから誘導されたサキュバス20人が飛び出してカムイを包囲している。


「サ、サキュバスだと!? この程度のモンスターをけしかけた所で無駄だ! 僕には完全魔法反射と完全物理反射の魔法がある! この体には傷一つ付けられ……な、なな、何をしているッ!?」


 カムイを包囲するサキュバスの隊列に加わったサファイアが青いメイド服を脱ぎ捨て、体のボディペイント風の模様も消して全裸になり、両手を広げながらゆっくりとカムイに歩み寄る。


「傷なんか付けないわよぉ……♡ でもぉ、反射の魔法で、キモチイイ事は反射出来るのかしらぁ……?」


 周りのサキュバス達も次々とメイド服を脱ぎ捨て包囲の輪を狭める。

 サファイアがカムイを豊満な胸で包んでゆっくりと押し倒すと同時に、ショウゴを隣で気遣うスカーレットを除く、総勢21人のサキュバスが白づくめの少年に殺到した。

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