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16 悪質な違反者には退場してもらうよ。

「いよいよ出てきたみたいニャね」


 一騎討ちを終えたショウゴとベアトリクスを見守る俺たちの前で宮殿の門扉が開き、中から一人の女がその姿を現した。


「ゆうクンッ! 大丈夫!? その人たちに虐められたのッ!?」


 女はへたり込んでいるベアトリクスを見て驚愕した後、視線を移してその周りに居る俺たちを憎しみの篭った目で睨みつける。


「……あ、アレがゆうたママですか…?」

「……た、多分そうなんじゃないか…?」


 ナツミが困惑して俺に聞いたが、俺だって本人を見たことなんか無いから判らない。

 しかし、その姿は想像していたそれとはだいぶ違う物だ。


 派手な金色のドレスに身を包み、色とりどりの宝石やアクセサリーを体の至る所に身に付けた、セミロングの黒髪で顔立ちは整っているが特徴の無い、顔は地味なのに服装は異常に派手な女。


「レベル1の下級術師、名前は…ゆうたママ。間違い無いニャ。……でもアレ、キャラメイクでどこも弄ってない完全に素のアバターニャ」

「そう言えば確かにあんなだったような…でもあの格好は何なんですかぁ……」

「他人にはあれこれ規制させておきながら、自分は贅沢三昧だったってワケか…最悪だな」


 ゴテゴテに着飾った地味な女、ゆうたママは怒りに震えながらベアトリクスに声を掛ける。


「ゆうクン、ママが来たからにはもう大丈夫よ。一緒にその頭のおかしい格好の変態集団を懲らしめましょう」


 しかしベアトリクスは地面に両手をついたまま、首を横に振った。


「……ダメだよママ、この人たちの言うことの方が正しいんだ。こんな世界に来てまで日本でやってたように色んな物の規制を訴えるなんておかしいんだよ」

「何を言うのゆうクン! ママはあなたの為を思ってやっているのよ!?」

「だからって僕のやっているゲームにまでログインして監視する事はないじゃないか! そのせいでママまでこんな世界に来ちゃったんだよ!?」

「あなたがこんな破廉恥なゲームをやっているからじゃない! こんな下らないモノにのめり込んで、こんな頭の悪そうな連中と関わって悪い影響を受けて、気持ち悪いオタクになったらどうするの!? 人生の負け組になりたいの!?」


 感情の高ぶるままに叫ぶゆうたママの言葉に、周りのプレイヤーが気色ばんだ。


「そいつはちょいと聞き捨てならねぇな」


 ディアスがベアトリクスを庇うように前に出る。


「ああ、確かにS(ソード)B(ブレイズ)O(オンライン)はお世辞にも道徳的とは言えないが、ここに居る仲間達の事まで悪し様に言われる筋合いは無い」


 ショウゴが立ち上がり、ディアスに並ぶ。


「確かにエッチな要素は多いニャけど、決してそれだけじゃ無いニャ」

「偏見で自分の主張を無理矢理押し付けられるのって、あたしの一番嫌いな事なんですよね」

「親が子供の事を心配するのは当然としても、あんたのやってる事は行き過ぎだ」


 リリカとナツミ、そして俺もベアトリクスの前に歩み出る。


「なんかよく分からないっスけど、スケベをしないと子供は生まれないっスよ? 子供のいる母親がスケベを否定するのは間違ってるっス」

「ウチ達ぁ、別にスケベな事をしても子供は出来ないけどぉ、そんな堅苦しいコトばっかり言ってたら男に逃げられるわよぉ?」

「子供はいつか大人になる。いつまでも自分の檻には閉じ込めては置けませんぞ」

「そ、そうブヒ! ボクチンも何でもかんでもダメって言うのは可哀想だと思うブヒ!」

「獣だって自主性が育まれなければ生きられないブヒ! 自分の足で立ってこそ知性ある生き物と言えるブヒ!」

「時には羽目を外して間違っても、自分で経験しなければ学べないゴブ!」


 スカーレットとサファイアとサキュバス達、そしてゴダートの街の衛兵隊長と伯爵が、オークのゴムロとゴブリンのザザが、周りに居た市民や冒険者たちもベアトリクスを庇うように一歩前に出る。


「ここまでじゃゆうたママ、ぬしの本心はしかと聞いたぞ。もうぬしに従う者はおらぬ。神妙にせい」


 最後にティルダ女王が先頭に立ち、宮殿入り口の階段の上にいるゆうたママを見上げた。

 ゆうたママは顔を小刻みに引攣らせて声を絞り出す。


「ふざけるんじゃあない、このクソガキが…! テメェみたいなバカガキが女王なんかやってるからこの国は頭のおかしいヤツでいっぱいなんだ…! テメェなんかよりずっと立派で良識のあるワタシの方が女王に相応しいだろうがッ! テメェらみんなクズだッ! ゴミだッ! 負け犬の◯◯◯めッ! ワタシにこんな屈辱をッ! 謝罪して賠償しろッ! クソ◯◯◯◯ッ!」


 途中から絶叫になったゆうたママはそのままベアトリクスに矛先を向ける。


「ゆうクンッ! 周りをよく見てッ! そんな汚らわしい格好の恥知らずな連中にそそのかされてはダメよッ!」


 いつの間にか立ち上がっていたベアトリクスが再び頭を横に振った。


「ゆうクンッ! あなたそんなにこの変態共と遊びたいの!? いつからこんな嫌らしいゲームをするようになってしまったの!? どうしてママの言う事が聞けないのよぉッ!!」


 ショウゴがベアトリクスに向かって大きく頷き、落ち着いた口調で伝える。


「もうお前は母親の言いなりになる子供じゃ無い、立派な男だ。闘った俺が保証する。それを今度はあの母親に証明するんだ、ゆうた!」


 それに続いて周囲のみんながベアトリクスにエールを送る。


「あいつに届く言葉を伝えられるのはお前しか居ねえ! かましてやれ、ゆうた!」

「頭の硬いママさんに自分の素直な気持ちを伝えるニャ! 頑張れニャゆうた!」

「相手が母親だからって遠慮することなんかないですよ! ゆうたさん!」

「今こそが母親の支配から飛び立つチャンスだ! 行け、ゆうた!」

「そうだーっ! 言ってやれ!ゆうたーっ!」

「頑張れ! ゆうた!」

「立ち上がれ! ゆうた!」

「ゆうた!」「ゆうた!」「ゆうた!」「ゆうた!」「ゆうた!」


 周囲から巻き起こるゆうたコールに、顔を真っ赤にしたベアトリクスが叫んだ。


「だからこの世界じゃ僕はゆうたじゃない! ベアトリクスだーッ!」


 どこからか「……お、おぅ」と声がして静まり返った群衆の中でベアトリクスはゆうたママに向き直って叫んだ。


「ママ! 僕はもう大人なんだッ! 物事の良し悪しだって自分で判断できるし、今更こんなゲームの影響なんか受けないッ! 代金だってちゃんと自分で働いて稼いだお金なんだし、生活費はちゃんと家に入れてる! 残った小遣いを僕がどう使おうと構わないじゃないかッ!」


 ……ん?


「何を言っているの!? 会社だってママが紹介してあげた会社でしょう!」

「ママが口利きをした役員なんかもうみんな定年退職したよ! 今じゃ僕が実質経営者みたいなもんだ!」


 ……んん?


「でも、あなたはママの子供でしょう!」

「僕だってもう来年40になるのにいつまでも、何処に行くにもママが付いてくるのは恥ずかしいんだよ!」


 えー……


「それにこのゲームだって、僕はエッチな女の子や嫌らしい事につられてやってたんじゃない!」


 ベアトリクスは深く息を吸って、渾身の叫びで思いの丈を吐き出した。


「僕は…! 僕は…可愛い女の子になって可愛い服が着たかったんだ!!この子たちみたいなヒラヒラの可愛い服を着て、可愛くなりたかったんだあーッ!!!!」


 ベアトリクスの衝撃の告白に、その場に居た元地球人の冒険者(プレイヤー)全員が口をあんぐりと開けて言葉を失った。


 何故かリリカとナツミが俺の方を見たので、俺は思わず顔を背けてしまった。


「……どういう事っスか? 可愛い服が着たいなら着ればいいっスよねぇ?」


 スカーレットが俺の脇腹をつついて聞いてくるが、どう答えて良いのか見当もつかない。


「そ、そんな……! ゆうクン、リツコさんはその事を知っているの……?」

「リツコさんは理解してくれてるよ。リツコさんだって、このゲームはやらなかったけど若いイケメンと恋愛するゲームが大好きだからね。僕らは上手くやってる」


 誰だリツコさんて。

 なんとなく予想はつくが、想像以上に業の深い家庭の事情にこれ以上深入りするのは躊躇(ためら)われる。


 なんだか気まずくなって顔を見合わせる俺たちの前で、ゆうたママがふらりと体を揺らして、何もない空間、アイテムボックスからやたら装飾の付いたきらびやかな錫杖(しゃくじょう)を取り出して掲げた。


「うふふふふ、あはははははははは! 本当にどうしようもない子! お仕置きが必要ね! この世界では死んでも復活できるんでしょうッ!? 現実の日本に戻れるまで死んでいなさいッ! 周りのクソ◯◯◯と一緒にッ!」


 錫杖が光を帯びて、上空で急速に暗雲が立ち込め雷鳴が鳴り響く。


「な、なんかマズいニャ! みんな防御魔法を使うニャ!」


 直後、階段の上でゆうたママが掲げる錫杖に轟音と共に落雷が吸い込まれ、そこから無数の電光の束となって周囲に迸った。


 リリカの声でナツミとティルダ女王、ベアトリクスとゴダート伯爵、そして周囲の冒険者(プレイヤー)たちが一瞬早く魔法の防壁を展開して俺たちと後方にいる群衆への直撃を防いだが、逸れた稲妻が宮殿前広場のあちこちで石畳や観葉樹、噴水塔などに炸裂した。


 途端に群衆は悲鳴を上げてパニックを起こす。


「見境なしかよ!? エリカ! 後方の三体で市民を誘導して避難させろ! ゴブリンとオーク、プレイヤーのみんなも頼む! 戦えない人たちを安全な場所へ連れて行くんだ!」

「了解。広場の外に地下水路の入り口を確認。そこへ誘導します」

「任せるブヒ! みんな!付いてくるブヒ!」

「こっちゴブ! 動けないヒトに手を貸すゴブ!」


 ゆうたママの錫杖の稲妻が途切れたタイミングでオークとゴブリン、そして冒険者(プレイヤー)達の誘導で集まっていた市民たちは避難を始める。


「摂政殿! 何をされるか!」


 ゆうたママの背後で宮殿の門扉を守っていた衛兵達が彼女を取り押さえようと動き出すが、再び錫杖から放たれた稲妻は彼らを貫きその身を焼いた上、背後の宮殿の壁や柱までも砕く。


「あははははは! この役立たず共! 公務員なんてどこの国も同じねッ! 死ねッ! 無駄飯食らいの税金泥棒がッ! ◯◯党の手先めッ!」


 狂ったように笑いながら錫杖を振り回すゆうたママの雷撃から特大の魔法の防壁で自分と周囲を守るティルダ女王が苦悶の表情で漏らし、仲間達も口々に限界を訴える。


「何という事を…! じゃが今度直撃を受けたらこちらも防ぎきれん!」

「こっちの防壁ももう限界ですよぉ!」

「アイテムとして使えば魔法攻撃が可能な武器はあるニャけど、あんな強力なのは見た事が無いニャあ! なんでレベル1のくせにあんなの持ってるのニャ!?」

「わかりません! ママは僕の監視でログインしてただけでゲーム自体は全然やってなかったのに!」

「そんな事より周りの避難は済んだのか!? 逃げ遅れた人は!?」

「それならもうすぐ終わる! オークとゴブリンのみんなとサキュバス達が良くやってくれてる!」

「こういう事はウチ達にお任せよぉ」


 俺は最後に残っていたゴダート伯爵と衛兵隊長が女性を抱えて広場から出て行くのを確認してショウゴに答える。

 パニックを起こしていた群衆が異常なほど早く避難出来たのはどうやらサキュバスが男性達を魅了して無理矢理従わせたらしい。


 これで残ったのは俺とエリカ、リリカ、ナツミ、ショウゴ、ディアス、スカーレットとサファイア、ベアトリクス、ティルダ女王だけだ。


「ゴミ共を逃した所でこっちはクソ◯◯◯共なんかどうでもいいのよッ! お前らだけ殺せればねえッ!」


 ゆうたママは再び光を帯びた錫杖を高く掲げる。

 雷撃のために落雷のエネルギーをチャージする気なのだろう。

 チャージなどさせるものか。


「エリカ! あの杖を狙撃だ!」

「了解」


 白いメイド服姿のエリカが右腕を上げ、掌から赤く光る熱線を発射する。

 熱線は狂い無く正確に錫杖の頭に直撃し、高熱で金属らしきそれを溶かした。

 上空で鳴り響いていた雷鳴が急速に静まる。


「なっ…!? 熱ッ!?」


 上半分程が溶け落ちた錫杖を驚愕で目を見開いて見たゆうたママはすぐにそれを投げ捨て宮殿入り口の階段の上でへたり込んだ。


「他に武器は持ってないニャ? これ以上抵抗しても無駄ニャ」

「終わりじゃゆうたママ、ぬしの行い、決して(ゆる)されるものでは無い。冒険者ゆえ命までは取れぬが、この先一生を獄に繋がれて過ごす事になるじゃろう」

「ママ、僕も一緒にいるから……もう誰にも迷惑をかけずに…誰かが現実へ帰る方法を見つけてくれるまで静かに過ごそう……」


 ゆうたママに駆け寄るベアトリクスを見ながら俺はようやく一息ついた。


 これでラレンティアの神殿も解放されてグランシールと繋がるだろう。そしたらディアスをリックとドムの所に帰して、その後は魔王の鍵を集めて人気の無い所で魔王を呼び出したらそこに核ミサイルでも撃ち込んでみようか。

 それで現実の世界に帰れるかどうかは怪しい所だがやってみる価値はあるだろう。


「マスター! 私達の周囲で粒子の異常振動を感知! 急速に周囲の空気内に含まれる水分が凍結を始めています!」


 呑気にこれからの事を考えていた俺をエリカの声が呼び戻した。

 エリカの足元から氷が張り、その体を包み込んで行く。

 そしてそれは俺の足元でも起こっていた。


「な!? 何だこれ!? ゆうたママがまだ何か持ってたのか!?」


 慌ててその場から動こうとするが、既に凍りついた足が地面に張り付き、足元からどんどんと氷に包まれて行く。


「クラリスにゃん!? エリカにゃん!? 何が起きてるニャ!?」


 どうやら氷に包み込こまれて行くのは俺とエリカだけらしいが、異変に気付いた周囲のみんなも何が起きているのか解らないようだ。


 ぱち、ぱち、ぱち、ぱち、ぱち


 不意に拍手の音が聞こえた。


「馬鹿馬鹿しい茶番だったけど、それなりに楽しめたよ。お陰で違反者(チーター)も見つかったしね。突然で悪いけど、剣と魔法の世界に手からビームを出すような物騒なアンドロイドを持ち込む悪質な違反者(チーター)には退場してもらうよ」


 いつの間にそこに居たのか。


 へたり込んだゆうたママの頭上から、空中を漂う羽毛のようなゆっくりとした速度で、

 白い少年が降りて来た。

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