14 ぼくあのお姉ちゃんたち見てるとなんだか…
俺たちを乗せた二機のドラグーン輸送艇は昼前には王都の上空へと到達し、出来るだけ目立たないようにステルスモードを展開したまま、王都を脱出した時と同じ崖の中腹にある地下水路の出口からそれぞれの乗員を下ろした。
何しろ魔物と呼ばれる亜人種がその多くを占めるので王都の真正面から入るのは衛兵に止められる危険があり、地下水路を通って王都の中に入る事になったからだ。
俺、リリカ、ナツミ、エリカ四体、ショウゴ、ディアス、ティルダ女王とゴダート伯爵、衛兵隊長。そして何故かついて来たタリヤ村のフィーナとニール。ロボとエルフと猫耳とオークもどきも居るが一応人間族と括られる15人。
スカーレットとサファイアを筆頭にしたサキュバスが22人。
ゴムロとザザを含めたオークとゴブリンが合わせて10人。
奇しくも忠臣蔵と同じ47人である。
先頭を歩く黒いマント姿のショウゴとティルダ女王がモンスターと遭遇しないように警戒しながら進み、その後を同じように全員黒いマントでその身を隠したサキュバス、ゴブリン、オークを含めた50人近い行列がぞろぞろとついて行く。
そして無事に何事もなく街の中へと通じる出口に到着した。
「皆、覚悟は良いな? この王都をゆうたママの手から取り戻し、ラレンティアを抑圧から解放するのじゃ! これは武器も魔法も使わぬが戦いじゃ! この国の未来はぬしらにかかっておる!」
「もちろんニャ! オペレーションカワイイ大作戦、開始ニャ!」
のじゃロリ女王は無駄に大袈裟だし、そもそもこのラレンティア王国がこんな事になったのはコイツの責任もかなり大きい。
リリカは無闇に張り切っているが勝手に名付けたアホっぽい作戦名がオペレーションと大作戦で被っている。
俺は自分で思いついた時はそれなりに上手く行くんじゃ無いかと思っていた作戦に不安を募らせながらも半ばヤケクソで周りと一緒に「おーっ!」と気勢を上げる。
補修してあった地下水路の出入り口の柵をショウゴが足を振り上げて踵落としのような蹴りで強引に打ち破り、俺たちは街の中へと雪崩れ込んで移動の間羽織っていた黒いマントを脱ぎ捨てた。
◇
「我々はーっ! カワイイ服が着たいニャーっ!」
「「「「カワイイ服が着たーい!!」」」」
「我々はーっ! 自由に冒険がしたいニャーっ!」
「「「「自由に男を誘惑したーい!!」」」」
「我々はーっ! 政府の横暴に断固抗議するニャーっ!」
「「「「堂々とスケべな事がしたーい!!」」」」
先頭を歩く黄金の破廉恥メイド服を来たティルダ女王の後ろで、いつもより光沢のあるピンクのラメ入り破廉恥メイド服を来たリリカが声を張り上げ、色とりどりの破廉恥メイド服を着たサキュバス達が続いて好き勝手な主張を叫びながら歩く。
「表現規制反対ー! 男の娘が可愛い服を着て何が悪いんだチクショーッ!」
「そうだーっ! 男だって好きな格好で自分をアピールしていいはずだーっ!」
水色の破廉恥メイド服を着たナツミと黒い肌も露わに真っ黒いブーメランパンツだけのディアスもヤケクソ気味に声を張り上げた。
女性陣はリリカがアイテムボックスに収納していた大量の色違いメイド服を着て、男性陣はディアスの持っていたブーメランパンツ一丁という、どうかしている姿である。
ディアスの後ろで元ネタの格ゲーキャラよりも細いが引き締まった筋肉のショウゴが恥ずかしそうに、隠れるように歩いている。
アレはキツい。
色々不便な事もあるが今だけは女の体になっていて良かったと思える。
俺も真っ黄色の破廉恥メイド服で、背後には白い破廉恥メイド服を着たエリカがぴったりとくっついて無表情で録画しているが、ブーメランパンツ一丁よりは多少はマシだ。
「オラたちだって生きているブヒーっ! ニンゲンと同じブヒ!」
「ゴブたちだってニンゲンとケッコンしたっていいはずゴブ!」
「ボクチンだって人間よりエロいサキュバスのお嫁さんが欲しいブヒーッ!」
「オークのアレを知ったらもう人間の男なんかじゃ満足できないのよぉーっ!」
「一々文句つける上亭主を捨てて逃げるような人間の女よりどんなエロい事でも笑顔で応じてくれるサキュバスの方がずっといいんだーっ!」
人間の男性陣と同じ格好の、少々見るに耐えない姿のオークとゴブリンたちも権利を主張して声を上げる。
おかしな事を口走っている人間も混ざっているが聞かなかった事にしたい。
奇声を発しながら街を練り歩く、頭のおかしい姿の汚い四十七士に、王都の住民達が何事かと通りに出て遠巻きに集まり始めた。
正直言ってこんな集団は俺が体制側に居たとしても規制したいが、動き出した歯車を止めるわけには行かない。
「聞けい王都の民たちよ! 妾はこの国の女王、ティルダじゃ! 妾を締め出し、今この国の中枢で権力を握りぬしらを抑圧しているのは、ゆうたママという冒険者と一部の重鎮じゃ! 今こそ立ち上がりこの王都ラレンティニアを、そしてラレンティアを解放するのじゃ!」
先頭に立つ幼女が呼びかけると、住民達は動揺して訝しそうに顔を見合わせた。
まあ金色のパンツが丸見えで胸元もがばっと開いた、ブカブカのメイド服を着た幼女に自分たちの女王だと言われても俄かには信じられないだろう。
「むむ…? 王都の民であれば妾の姿は知っておろうに…のうショウゴよ」
「あ、いや、まあ、格好が格好だしな……」
「この服、妾は気に入ったぞ? 似合っておるであろう? 目をそらすでない」
「あー! このチビッコ! ショウゴサンに貧相なモン見せてんじゃねえっスよぉ!」
顔を赤くして背けるショウゴに、のじゃロリ女王は下から見上げるように詰め寄り、対抗したスカーレットが背中から抱きつく。
のじゃロリ女王のブカブカでガバガバな破廉恥メイド服は、背の低いぺったんこの女王が少し屈むだけでショウゴの角度からはそのぺったんこが丸見えになっているはずだし、スカーレットの着ている赤いメイド服は胸の部分がぱつんぱつんで、ショウゴの逞しい筋肉を晒した背中に密着して変形している。
忍耐力を総動員して平静を保っているらしいものの、赤いブーメランパンツ一丁のショウゴは反応する訳にいかないのであろう、歯を食いしばって空を見上げた。
「あらあらぁ、スカーレットったらすっかりそのお兄サンが気に入ったみたいねぇ。でも好き嫌いしないでいろんな精気を吸わなきゃ体に良く無いわよぉ?」
「あーしはもうショウゴサンのハドーケン無しじゃ生きられないカラダにされちゃったんスよぉ!」
青い破廉恥メイド服を破廉恥に着崩し、もうほとんどその豊満な胸が溢れ出そうな青い髪のサキュバス、サファイアがスカーレットをからかうように言ったがスカーレットはショウゴにへばりついたままだ。
サファイアはため息をついて俺に聞いてきた。
「それにしても街の皆サン、まだ抵抗があるみたいだしもう一押し必要みたいねぇ。そろそろ始めていいかしらぁ?」
「……いや、必要なみたいだ」
耳をすませると遠巻きに眺めていた群衆からぽつぽつと俺たちに賛同する声が漏れ始める。
「いや、あれは確かにティルダ女王陛下だ…!」
「なんであんな格好を…いや、俺は信じるぞ!」
「お、俺ももうこんな息苦しい生活は嫌だ!」
「私なんか規制のせいで神殿で働けなくなったのよ!」
それを見てのじゃロリ女王は満足そうに笑みを浮かべ、群衆に呼びかける。
「我らに賛同するものはついて参れ! 共に宮殿へと向かうのじゃ!」
そしてまた俺たちは宮殿に向かって王都を練り歩く。
「俺たちもプレイヤーなんだ! 冒険者禁止法なんてふざけた制度に縛られてたまるか!」
「冒険者が冒険しなくなったらこっちは商売にならねえんだよ!」
「冒険者が大人しくなっても今度は騎士どもが権力を使って好き勝手するようになっただけじゃねえか!」
「俺みたいなモテない男は街の女たちが色気の無い格好してたら何を楽しみに生きていけばいいってんだよぉ!」
「ちょ、オークのパンツの…なにアレ…すごぉい……」
「ママぁ…ぼくあのお姉ちゃんたち見てるとなんだか…なんだかおちんちんが…おちんちんがぁ」
宮殿に近づくに連れて付いて来る住民たちの数も膨れ上がり、最早数え切れない程の大行列となって宮殿前の広場に集結した。
俺はサキュバス達の魅了を使って鬱憤のたまった王都の男たちを扇動出来れば良いだろう位に考えていたが、既にサキュバスの特殊能力を使うまでもなく王都の住民達も爆発寸前だったようだ。
「こらあっ! 何なんだお前達は! ここから先は神聖な王宮であるぞ! そんな格好で近寄るんじゃあ無い!」
広場に入った俺たちの前に衛兵と騎士達が立ちふさがった。
しかし王都の住民を取り込んで圧倒的多数になった大集団を前に腰が引けている。
「神聖な王宮と言うのであれば妾こそがその主人じゃ! 路を開けい!」
のじゃロリ女王に一喝され兵士たちはさらに一歩後退する。
しかしその中から一人、剣を抜いた騎士が歩み出た。
以前地下水路で俺たちを襲撃したヤツだ。
「こ、こんな所で女王陛下がそんな下品な格好をしているものか! 陛下を騙る不届き者だ! 成敗してくれる!」
まるでテンプレ時代劇の悪役のような開き直りに、俺はちょっと笑いそうになってしまったがここで暴れられても困る。
俺は前に出てその騎士に近づいた。
「な、なんだ貴様…!? あの時の冒険者の仲間だな!?」
騎士が剣を振り上げようとした直前に、俺は大げさに地面に倒れこんだ。
「きゃあーっ! この騎士様が私に乱暴しようとしましたーっ! 私は平和にお話し合いをしようとだけなのにーっ! この騎士様がか弱い女の子の私を剣で! 剣で斬ろうとしたんですーっ! 私たちは暴力なんか使わないで平和的に抗議しただけなのにーっ! えーん! えーん!」
「えっ、いやまだ何もしてな……!?」
騎士は狼狽してあたりを見回す。
集まった王都の住民達が俄かに殺気立ち、背後に居た仲間の兵士たちも蔑んだ目で騎士から距離をとった。
「愚か者が! この群衆の中で乱闘になったらどうなるか解らぬか! 武器を収めそこを退けい!」
さらに女王が威圧すると騎士はその場で剣を持った腕をだらりと下げてそのまま動けなくなってしまった。
その他の衛兵も動けずに固まっている。
「……オッサン、何だかんだ言ってた割に随分ノリノリニャね」
「……上手くいったんだからいいだろ、こういうの一回やってみたかったんだよ……」
リリカの呆れたような視線から顔を逸らして俺は再び歩き始める。
俺たちを先頭にした大集団ははその衛兵達の間を素通りして宮殿前の広場を進み、中心の大きな噴水を越えて遂に宮殿の正面入り口の前に到達した。
宮殿正面入り口の階段の上にある門扉は固く閉ざされ、その前に先ほどの兵士たち同様腰の引けた衛兵達が槍を持って立っているが、ここまで来れば後はゆうたママを引きずり出すだけだ。
階段の前で立ち止まった女王が宮殿を見上げて声を上げる。
「妾の姿が! この怒れる群衆が見えるかゆうたママよ! 最早このラレンティニアの民らをぬしの思想で縛る事は出来ぬ! ぬしの奸計も終わりじゃ! 観念して大人しく出て参れ!」
「そうだーっ! 責任者出てこーい!」
「服装の規制も冒険者禁止法も撤廃しろーっ!」
「姿を現せ卑怯者ーっ!」
女王の声に続いて俺たちも煽り、集まった群衆も次々と声を上げて宮殿の門扉に叩きつける。
程なく宮殿の門扉が開き、中から一人の女性が姿を現した。
男物のシャツとベストに紺のズボン、そして円形の盾と片刃の剣を携えた、金髪を頭の後ろで結い上げた少女だ。
「……あれがゆうたママか……?」
「いや、別人じゃ。妾もあのような者は知らぬ」
少女は階段を降りて俺たちの前に立つと、片刃の剣を突き出して声を張り上げた。
「こ、ここから先には誰一人通しはしませんっ! 女王であってもそれは同じです! 全員すぐに解散して…こ、ここから立ち去ってくださいっ! で、でなければ、力づくで…は、排除しますっ!」
力づくで、と物騒な警告を突きつけるが、その表情は今にも泣き出しそうに苦渋で歪み、声は震えている。
「力づくと言うても、ぬし一人で何ができると言うのじゃ。無駄な事は止めてさっさと宮殿の中からゆうたママを連れて参れ」
ティルダ女王が諭すように言うが、少女はなおも悲壮な覚悟で拒絶する。
「できませんっ! こ、この中の一番強い人に一騎討ちを申し込みますっ! わ、私が勝ったら……解散してくださいっ!」
「馬鹿を申すで無い。ぬしと一騎討ちなどこちらに何の利がある。趨勢は既に決しておるのじゃ」
「そ、そんな事まだ決まってないっ! ぼ…私は、私はやらなくちゃいけないんだっ!」
「何やら事情がありそうだな」
頑なに一人で立ち塞がる少女の前に、いつの間にか、いつもの白い道着と赤ハチマキを身につけたショウゴが帯を結びながら歩み出た。
「そこまでの覚悟で一騎討ちを望むなら、武道家として受けざるを得ない!」




