表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/51

2 誰だってそう思う。俺だってそう思う。

 グングニルmk4アーマーのタイムラグ0.001秒以下のパワーアシストによりヘルメットのHUDによればだいたい時速70マイルというスピードで街から近くの森へ走り込んで、周りに人目が無いのを確認してから左上腕の通信スイッチを入れた。


「エリカ、今から旗艦へ戻る。降下艇をステルスモードで近くへ降ろしてくれ」

『了解、ハミングバードを向かわせます』


 今度は立体映像ではなくHUDに小さなウィンドウが開き、ホログラムの少女の顔が映ると要請に答えてすぐに消えた。


 それから5分とかからないうちに表面に周りの景色と同じ映像を映してほとんど透明になっている降下艇ハミングバードが森の木々の隙間に空いた場所に着地した。

 ステルスモードを解除してダークグリーンのずんぐりとした機体が現れると後部の貨物ハッチが開く。

 そこから俺が乗り込むとハッチが閉まりきる前に無人の操縦席で光が点滅して浮き上がり、再びステルスモードを展開して飛び立つ。

 ハミングバードの反物質重力パルスエンジンは瞬く間に大気圏を抜け、衛星軌道上に並んでいる我がMCSF宇宙艦隊の旗艦エインフェリアの格納庫に着艦した。


 旗艦に戻った俺はすぐにブリッジへ上がると無人のブリッジの中央にある光る球体のはめ込まれたモニターテーブルの上に12インチフィギュアサイズのホログラム白スク水少女が腰に手を当てて立っていた。

 この俺以外無人の艦隊の全てを統括するAI、エリカだ。


 洋ゲーであるウォーファイアユニバースのキャラクターは皆洋ゲーらしくリアルでバタ臭い造形をしていたが、俺は有志で作られたキャラクタースキン変更MODを当てて俺のような日本人好みのアニメ美少女風の見た目に変更していた。


『お帰りなさいマスター。現在我が艦隊は座標不明の星域にて漂流しているものと考えられます。銀河連邦宇宙軍本部との通信を試みましたが今のところ応答はありません。艦隊は自動メンテナンスにより地球標準時間で500年間の作戦行動が可能ですがマスターの生命活動に影響が出る可能性があります。早急に銀河連邦所属の勢力と接触を図る必要があると判断します』

「銀河連邦と連絡が取れるかは怪しいけど俺の生命活動なら多分心配ない。下の惑星に俺と同じ世界の人間が居た」

『同じ世界とは?衛星軌道上からのスキャンでは地球人類型に酷似しているものの中世期レベルの文明のものしか検出されませんでした』

「ああ、いや、違った。忘れてくれ。兎に角、人間っぽいのと接触できたって事だ」

『了解しました。ですが惑星の大気中に照合不能な未知の微粒子が含まれています。毒性は確認されませんでしたが警戒が必要と判断します』

「わかった。注意するよ。でも色々確かめたい事があるからまたあの惑星に降りてみるつもりだ」

『推奨できません。あの惑星は地球型惑星に似ていますが不自然な点が多々あります。マスターの居た大陸とその周りの僅かな島々以外は全て海で大陸とその周辺以外にはいかなる生体、動体も確認出来ません。まるで作りかけのサンドボックスです。自然に作られた環境である可能性は5%以下と判断します』

「あー、作りかけのサンドボックス…多分それが正解だ。まあMMOつっても惑星規模全部の舞台を作ったりはしないだろうからなあ」

『MMO。マッシブリーマルチプレイヤーオンライン。それがあの惑星と何か関係が? 説明を要求します』

「とにかくあの惑星での生命活動に問題は無いだろうって事だ。それより艦隊は無事だったのか? 艦隊戦の最中だったはずだけど、全部揃ってる?」

『むぅ…納得は出来ませんがわかりました。敵艦隊はマスターが陸戦装備で旗艦を制圧するために侵入した直後消失。何処に消えたかも解りませんが座標が確認出来なくなった事と合わせると消失したのは我々の方だと考えるのが妥当でしょう。艦隊は全て健在。駆逐艦二隻、リルスターとサイレントスクリーマーが被弾しましたが応急修理は完了しています。敵艦隊が弱くて幸いでした」


 あれ?こいつ今ちょっと拗ねた?

 艦隊AIはゲームの主人公に色々アドバイスをしてくれたりするがこういう反応は珍しかった気がする。

 まあそもそもゲームの主人公じゃなく俺自身がこのブリッジに居るのがおかしいので細かい事を気にしても仕方ないか。

 地上のファンタジーな街もなんかリアルっぽくなってたし。


 とにかく俺が手塩にかけて作り上げた艦隊が無事で良かった。

 セイレーン級駆逐艦4隻

 シルフィード級高速巡航艦3隻

 スレイプニル級惑星揚陸艦2隻

 バハムート級宇宙戦艦3隻

 リンドブルム級宇宙空母2隻

 そして俺が戦艦コンストラクション機能で三日間の連休の全てを使いゼロから設計して作り上げた旗艦、エインフェリア級超大型宇宙戦艦一番艦エインフェリア

 計15隻からなる自慢の艦隊だ。SNSで自慢したら引かれたこともある。


 しかしあと一つ確かめなければならない事がある。


「エリカ、アーマーを脱ぎたいんだけど、これどうやって脱げばいいんだっけ。オシッコしたいんだけど」

『お忘れですかマスター。グングニルmk4アーマーは各艦の格納庫にある専用の設備でなければ着脱出来ません。あと排泄はアーマーに浄化装置が装備されていますので大小に関わらずそのまま行って問題ありません。私への報告は不要です。どうぞ好きな時になさってください』


 好きな時にしろと言われてもさすがに着たままは抵抗がある。

 俺は急いで格納庫に向かった。


 格納庫でアーマー着脱用のアームが付いたゲートのような機械が付いた台の上に立つと車の洗車機のようにゲートが移動しながら俺の体に装備されていたアーマーがパーツごとに取り外されていく。


 ヘルメットが外され肩まで伸びる金髪が現れる。

 手足の装甲が外されしなやかな白く細い手脚が現れる。

 胴体の装甲が外され体格の割に膨よかな胸が露わになり、最後に股間のパーツが外されて説明できない形状の説明できない部分が露わになった。なっちゃった。

 誤解が無いよう簡単に説明すると凸ではなく凹だ。


 着脱台の横に設置されて居る装着者のバイタルを確認するためと思われるモニターに全裸の金髪美少女が映っている。


 もちろんMODだよ。本来のゲームの主人公キャラクターはどう頑張ってエディットしてもバタ臭くなるリアル系の顔立ちに下着の代わりにアメコミのような全身タイツ風のスーツを着ていてそれ以上脱ぐことは出来ない。

 他の誰にも見せる事がない一人用ゲームの主人公だもの。ヌードMODを入れたっていいじゃない。それにゲーム中ずっと男の尻を眺めるより美少女の方が良いに決まってる。誰だってそう思う。俺だってそう思う。

 俺は心の中で誰に言うでもない言い訳をしながらモニターに映るキャラクターネームを確認した。


『クラリス』


 そう表示されている。良かった『丸出しっ娘』じゃなくて。今現在丸出しではあるが。

 ちなみにオシッコは結局アーマーの中にした。格納庫に着くまでに間に合わなかった。


 自分の体が想像した通りのモノだった事を確認した俺はとりあえず一度艦内の居住エリアに向かい、自室に設定してある部屋で見つけた、長年続くSFドラマシリーズの影響を多分に受けたと思われる宇宙軍の簡易制服を身につけてブリッジに戻った。


 こだわり抜いて作った宇宙戦艦の内部はAI制御の無人戦艦ではあれど生活スペースは充実している。『トイレに拘るゲームは良いゲーム』という言葉を信じるわけでは無いがこういう所の拘りが雰囲気作り、しいてはゲームプレイには重要なのだ。

 こだわり抜いて作った超大型宇宙戦艦は全長が3000メートルにも及ぶため艦内の移動は一苦労だった。


「エリカ、惑星に降りる準備をする。念のためトライアドを地表まで降ろしたい。人の居ないエリアで下ろせそうな場所を見つけてくれ」

『了解しました。スレイプニル級惑星揚陸艦トライアドプリムスの降下準備開始。大陸南東部に原住民の居ない島があります。マスターの居た中世期文明レベルの原住民居住区よりは少し離れますがハミングバードかドラグーンによる支援ならば5分以内に可能と判断します』

「じゃあその辺に降ろしといて。俺はこの艦からハミングバードで直接降りる。さっきの所でいい」

『了解しました。ところでマスター、アーマーは着用しないのですか? 陸戦アーマー無しでの上陸は推奨できません』

「あれだと悪目立ちしそうだからなあ…通信機と武器は持っていくつもりだけど何か丁度いい装備あったっけ」

『アキレスmk6軽装電磁シールドスーツなら潜入作戦に対応できると判断。武器はアロンダイト6連装グレネードランチャーかダインスレイブプラズマレールガンを推奨』

「あー、スーツはそれでいいけど武器はそれじゃ大げさすぎる。ハンドガンと畳めるアサルトライフルがあったでしょ? あれでいいよ」

『それでは電磁シールドおよび戦車級の装甲を装備した敵に遭遇した場合対応出来ません』

「たぶんそんなのには遭遇しないんじゃないかな…まあ何かあったらトライアドから支援を出してもらうから」

『むぅ…わかりました。ですがマスターが失われれば我が艦隊は方針を失い見知らぬ宇宙を彷徨う事になります。くれぐれも気を付けてください』

「わかってるよ。それじゃ行ってくる」

『何を言っているのですかマスター。端末を持っていれば私も同行しているのと同じです。エインフェリアは私の体のようなものですがあくまで戦艦です。私はAIです。常にマスターと一緒に居ると思ってください』

「…わかったよ」


 そして再び俺はブリッジから格納庫までの長い道のりを歩き始めた。

 エリカとは艦内のどこでも話せるんだから全部格納庫で済ませりゃ良かった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ