12 みんなに合わせる貝が無いっスよぉ……
「と、とととと、飛んでるのじゃああああ!? 本当に空を飛んでおるぅぅぅっ!!」
ドラグーン輸送艇の申し訳程度に付いている窓から外を見て、ロリババア失格となったのじゃロリ女王が悲鳴を上げる。
「これは魔法の船なのか!? アステ帝国の物か!? まさかグランシールの物か!? いつの間にこんな物を作っておったのじゃ!? こんな物で我が国に戦を仕掛ける気ではあるまいな!?」
「そのどっちでもないし、戦争なんかする気は無いから落ち着いてくれ」
俺はティルダ女王を落ち着かせようとするが、すっかり冷静さを失い完全にただの幼女と化した元ロリババアはドラグーンの貨物デッキに搭載されている歩行戦車クルセイダーを見てさらに涙目で喚き立てる。
「その馬鹿でかいゴーレムは何じゃ!? 古代ドワーフのアイアンゴーレムよりもデカくて強そうではないか! あの手を見ろ! まるで人間じゃ! あんな物が暴れ出したら妾たちは踏み潰されてしまうぞ!?」
「暴れたり勝手に動いたりしません。俺か仲間が操作しないかぎり安全です」
『マスター、その幼女は少量ですが尿失禁をしています。おむつかそれに準ずる吸収性の高い下着を履かせてください』
「だだだだ、誰じゃ!? なんなのじゃここは!? 妾はどうなってしまうのじゃあ!?」
突然のエリカの声にビビった女王は最早我慢できぬとディアスと艇内を眺めていたショウゴの足に縋り付いた。
チビったままなんだが、ショウゴは気にならないのだろうかとも思ったが元ネタがホームレス格闘家の薄汚れた道着だし、構わないのかも知れない。
「ははは、俺だって驚いてるんだからこの世界の人間にいきなりこんな物を見せたら怖がっても仕方ないか。それにしても凄いな、こんなSFな飛行機まで現実になってたとは…これに比べたら俺の破導拳や勝流拳なんか可愛いものだ」
「ったく、この程度で情けないチビッコっスねー。迷宮の奥や地底世界にはこのくらいデカいモンスターも居たっスよ」
スカーレットも相変わらずショウゴにべったりだが、それでも毅然とした態度を保っているショウゴは元ネタ通りにストイックな性格であろうと心掛けているのだろうか。
ショウゴと一緒に艇内を眺めていたディアスが感嘆の声を漏らす。
「ファンタジー世界の剣や魔法も悪かねえが、やっぱSF的なメカがこうやって実在してるのはド迫力だな。兄貴達にも見せてやりたいぜ」
「ドムは事情があって見てないが、リックには一応説明してある。尤もこんな物を持ってる事が大勢に知られたらどんなトラブルに巻き込まれるかわかったもんじゃ無いから秘密にしてくれると助かる」
「ああ、兄貴達も助けられたなら俺もアンタの言う通りにするさ。……それにしてもWFUだったか。よくアレの対戦なんかやってたな、滅茶苦茶バランス悪いだろアレ」
「俺だって対戦がクソゲーとは思ってたけど、やらなきゃ戦艦の建造マテリアルが貰えないんだ。発売元が変わった時に無理矢理付けられたモンだから仕方ないと思ってたし、同じ様に後付けされたFPS要素のお陰でこの世界で役に立ってる。それに対戦はクソだけどシングルキャンペーンはかなり面白いぜ?」
「ふぅん?元の世界に帰ったらやってみっかな…俺ぁCoBやCFのマルチプレイなら兄貴達とやり込んでたんだがなあ、こんな事になるなら別窓でやってりゃ良かったな」
「そりゃどっちも重いゲームっだから別窓で動作は無理だろ」
「ははは、それもそうだな」
俺とディアスがゲーム談義に花を咲かせていると、リリカとナツミが焦れたように話しかけて来た。
「もういいニャか? それで、地下から脱出できて飛行機に乗れたのは良いニャけど、これからどうするニャ? ティルダ女王に聞いた通りならラレンティア神殿のワープゲートを解放するのは簡単には行かなそうニャ」
「ですよねえ、周りも健全思想に感化されてるなら、宮殿に乗り込んでそのゆうたママって言う勘違いフェミだかプロ市民だかを力づくでどうにかしても事態がややこしくなるだけでしょうし…モンスターより厄介ですよ、異世界まで来るようなモンスターペアレンツなんて」
二人の言う通り、これは武力や魔法の力で解決できる問題では無いだろう。
相手は自分が正しいと思っている連中だ。力でねじ伏せたら数倍の憎悪となって仕返しに躍起になるのは間違いない。
それでもこっちはSFの宇宙艦隊があるので負ける事は無いだろうが、ラレンティア王国は遠からず無人の廃墟になってしまうだろう。それでは本末転倒も良いところだし、俺には未発達な文明の人たちを大量虐殺して勝ち誇るような趣味は無い。
「それについては俺も考えた。とりあえずタリヤ村まで戻ろうと思う」
◇
夜だった事もあり、ドラグーン輸送艇は俺も含めた乗っている人間に負担のかからないように無理の無い速度でタリヤ村へと進路を向け飛んだ。
その間、俺たちは艇内にあった保存食料でささやかな食事を済ませ、貨物デッキに毛布や寝袋を敷いて雑魚寝をした。
皆、艇内にトイレとシャワーが設置されていたのには喜んだが食事に関しては地上のファンタジー世界の物の方がマシ、との事であった。
確かに宇宙空間で何年もの間保存が効く様に処置された、元が何なのかすら分からない味の薄い固形のバーより現地で作りたての料理の方が良いに決まっている。
ゲームであった時は食べると一定時間ステータスが上昇するという名目で、おにぎりからカレーライス、シチューに天麩羅、トンカツや寿司まで、時代背景と世界設定を無視した多様な料理があったSBOに対して、ガチガチに設定の固められたWFUの開発者はこと料理に関しては無頓着であったようだ。海外産ゲームにはありがちである。
尤も、寿司などはこの世界が現実になった途端に原材料が入手出来なくなり今ではこの世界で食べる事は叶わないようだ。
朝になり最初にラレンティアの領内に入った時と同じ森の中にドラグーンを降ろし、俺たちは最初に来た時と同じように川沿いに徒歩で獣道を進む。
「うう、気が重いっス。サファイアちゃんに大口叩いて出て来たのに結局なんの成果も無いままこの村に戻って来る事になるなんて…みんなに合わせる貝が無いっスよぉ……」
「大丈夫ニャ。リリカ達も説明してあげるニャ。きっとみんな顔も貝も合わせてくれるニャ」
項垂れるスカーレットにまた猫耳の中のオッサンが頭のおかしいフォローをしやがるので、さすがにナツミが突っ込む。
「いやいや、リリカさん意味わかってます? そんなモノ合わせないでくださいよ」
「サキュバスは女しか居ないんスよぉ、貝以外に何を合わせりゃいいっつーんスかぁ」
「百合は精神の結び付きが重要なんですからそんなホイホイおかしな所を合わせないでください」
「そんな風に言ったらスカちゃんが可哀想ニャ。きっとショウゴが他のサキュバスのみんなにもハドーケンしてくれるニャ」
「それはダメっス! ショウゴサンのハドーケンの味を知ったらみんなショウゴサンに群がってあーしがハドーケンして貰えなくなるっスよぉ!」
「うぇっ!?」
突然話を振られて驚くショウゴに、その足元にへばりついていたのじゃロリ女王が道着の裾を引っ張って詰め寄る。
「何じゃそのハドーケンとやらは! ショウゴよ! ぬしはこの穢らわしい淫魔とその様な事をしておったのか!?」
「い、いや違う! 破導拳はそういうモノじゃない!」
「なら妾にもそのハドーケンとやらをするのじゃ!」
「いやいやいや、さすがにそれは…って言うか、破導拳の連発はそれなりに疲れるんだ。撃ち過ぎるとたまに赤いのも出るし……」
「ウェヘヘへへ、チビッコにはショウゴサンのハドーケンを受け入れるのは無理っスよぉ。ショウゴサンのハドーケンはあーしだけのモノっス」
「子供扱いするでないわ! 妾は立派な大人じゃ! この国の女王じゃぞ!」
前を歩く騒がしい連中を見ながらディアスが笑う。
「なんだか人数が増えて賑やかになっちまったな。ま、俺はこう言うのも嫌いじゃねえが」
「ディアスは大変な目にあった割にお気楽ニャね」
「兄貴達にもよくお前はおちゃらけ過ぎだって言われるぜ。でもな、深刻になったって事態が良くなるわけじゃ無えなら楽しくやった方がいいだろ?」
「そんなもんなのかニャ。それにしてもクラリスにゃん、今更こんな所に戻ってきてどうする気なのニャ? 何か考えがあるのニャ?」
「国中があの有様じゃあ娼館を開くのなんてどこの街に行っても無理だろうからなあ、それに冒険者禁止法もなんとかしなけりゃいけないし、先に今この国を仕切ってる連中の方針を変えさせるべきだろう。そのためにサキュバス達の力を借りようと思うんだ」
話しながら歩いていると、獣道を抜けてタリヤ村の木材伐採場に出た。
今日は働いているオーク達の姿が見えない。
「村の入り口で人だかりが出来てるニャ。何かあったのかもしれないニャ」
リリカの言う通り、村人の住宅が密集している居住区を囲う柵の出入り口付近に人が集まっている。
俺たちは小走りにそこへと向かった。
◇
「魔物と人間が共に暮らすなんて出来るはず無いブヒ! それにこの国では公衆の面前でそんな格好をするのはダメだと決まったブヒよ! オークもゴブリンもサキュバスも村から出て行くブヒ!」
「オラ達はこの村のために働いてやっと村のみんなとも仲良く暮らせるようになったのブヒ! お前たちこそゴダートの街へ帰るブヒ!」
居住区の入り口で、村人達と街からやってきたらしい兵士達に囲まれ、オークとオークのような人間が醜く唾を飛ばしながら口論している。
村人達と兵士たちもお互いに睨み合い一触即発の状態だ。
オークのような人間は今回はちゃんと貴族風のズボンを履いているゴダート伯爵で、本物のオークは…正直オークの見分けなんか付かないが、恐らくリーダー格のゴムロだろう。
リリカが兵士の中に知っている顔を見つけて話しかけた。
俺たちを送り出してくれたゴダートの街の衛兵隊長だ。
「なんでこんな所であの伯爵とオークが言い争ってるのニャ? また伯爵が悪さをしているのニャ?」
「ん?ああ、君達か。もうラレンティニアから戻ってきたのか? 随分早いな……いや、今回はちゃんと領主としての仕事だ。王都からの命令で近隣の村々の風紀も取り締まるように言われて来たんだが、この村はオークやゴブリン、それにサキュバスまで匿っているじゃないか。それをどうにかしなければ他の村にも示しが付かない。だが我々ではオークとゴブリンは兎も角、サキュバスと戦っても勝ち目は無い。何とか話し合いで済ませられないかと一応は領主である伯爵を担ぎ出したわけだが…ご覧の通りだ」
いくら領主だからといってあの伯爵に交渉ごとを任せるのは判断ミスも良い所ではないだろうか。
個人的には良い人だと思っていた衛兵隊長の判断力に疑問を抱きながらも、俺たちは兵士たちをかき分けて人だかりの中心に割って入った。
「そこまでニャ! 王都からの命令は間違ったモノニャ! その証拠にここに王都から脱出して来た女王が居るニャよ!」
「うむ、妾がこのラレンティアの女王ティルダじゃ! 妾の浅慮により皆には皆には迷惑を掛けてまこと済まぬと思っておる! ぬしらが争うことは無いのじゃ! 双方矛を収めい!」
突然出てきた幼女にほとんどの村人と兵士たちは「このガキ何を言ってるんだ?」とでも言いたそうな顔をしていたが、伯爵が慌てて膝をつき幼女に向かってこうべを垂れたので周りの兵士たちもそれに倣った。
「こ、これは女王陛下! なぜ陛下がこの様な辺鄙な村においでなのブヒ!? ボクチンはこの通り領主としての責務を果たしていただけブヒでございますブヒ!」
「うむ、久しいなゴダート伯。国内の風紀の取り締まりに乗じたぬしの所業、ここに居るショウゴら冒険者に聞いておるぞ。ぬしの非道な行い、本来であれば王都にて審問会を開き見合った処罰を与える所であるが今はそれも叶わぬ。妾に協力せい、さすれば寛大な処置を与えられる様取り計らおうぞ」
「は、ははあブヒーっ! 陛下の申される通りにしますブヒ! 何卒お許しをブヒーっ!」
伯爵の媚びへつらい様に、村の側で立っているオーク、ゴムロが呆れた様に溜息をついた。
「さっきまで偉そうに威張っていた癖に情けないブヒ。人間にしては見所があると思ったが勘違いだったブヒね。それにしてもリリカさん達、もう帰って来たブヒか?しかも女王を連れてくるなんて何があったブヒ?」
「その事はここじゃナンだから村長の家で話すニャ。サキュバスとゴブリンの代表も連れてきて欲しいニャ」
そして俺たちは村長の家でこれからの計画について話し合う事になった。




