11 なんでそんなのがこの世界に来てるのニャ。
「ゴーレムと戦ってた時の防御魔法もそうニャけど、ティルダ女王は神官系の魔法が使えたのニャ?」
「おかしな事を申すでない、妾は女王にして精霊神に仕える巫女じゃ。この位は出来て当然であろう?」
「でもNPCがプレイヤーと同じように魔法を使えるなんて思わなかったニャ」
「またその"えぬぴーしー"とやらか、ぬしら冒険者は他の人間の事を何だと思っておるのじゃ。選民意識も大概にせい」
「ごめんなさいなのニャ。別に差別する気は無かったのニャ」
俺たちはロリババア、ティルダ女王の神官系魔法によるマップ表示を頼りに王都の外の出口を目指して地下水路を進んでいた。
薄暗い水路で、女王の前に緑色に光る立体スクリーンのようなマップが浮かび上がっている。
「魔法だけならあの伯爵とか言う丸出しデブも使ってたしなあ、NPCもプレイヤーからは見えないだけでマスクデータ的にステータスを持ってるんじゃないのか?」
「それもそうかもしれないニャね。エヴァンジェリンも普通に戦ってたし、ひょっとしたら重要NPCは結構良い能力を持ってるのかも知れないニャ」
「エヴァンジェリンとはグランシールの姫騎士殿の事か?妾も直接会ったことは無いが、勇猛果敢で男顔負けの剣の腕を持ちながら弱き者には優しい姫君と聞いておる。腕の立つ冒険者は皆アステ帝国の方へ向かったと聞いておったが、ぬしらも随分と功を立てておるようじゃな」
「ニャハハハハ、それほどでも無いニャ。たまたまモンスターの大軍団とドラゴンをやっつけた砦で知り合って同行したグラスポートの街で無法者を退治して、グランシールの王都に現れた大魔獣をやっつけただけニャ」
「調子にのるな、また変な持ち上げられ方をしたら面倒だぞ」
俺は歩きながら調子に乗って自分の手柄のように吹聴するリリカの後頭部を軽く小突いた。
「ごめんニャあ。リリカだって異世界に来たんだからチートで大活躍したかったのニャあ……」
「よしよし、リリカさんはチートなんか無くても良い子だから頑張って現実に戻って社会復帰を目指しましょうね」
「復帰も何もリリカまだ社会に出てないニャあ……」
ナツミに慰められるリリカの中のオッサンも心配だが、とりあえず放っておくとしてロリババア女王にはまだ聞かなければならない事は沢山ある。
「それで、そのあんた…女王様を嵌めた冒険者ってのについて詳しく聞きたいんだけど」
「ゆうたママじゃ」
「ゆ、ゆうた…ママ…?」
ロリババア女王の口から出た名前に俺は思わず聞き返してしまう。
「妾も変わった名前だとは思ったが、ぬしら冒険者はおかしな名の者も珍しくない故さほど気にはせんかったが、やはり冒険者の中でもあのような名の者は珍しいのか」
「珍しいっていうか……なあ?」
返答に困って周りのみんなの方を見る。
「MMORPGやってて良い名前じゃないニャ。なんでそんなのがこの世界に来てるのニャ」
「でも、名前だけで何となく想像が付きましたよ…やたら服装について煩くなったのとか冒険者規制法だとか」
「こりゃあ参ったな。同じプレイヤー同士、出来れば拳は振るいたく無い。どうにか話し合いで解決出来ないか?」
「無理じゃねえのか? ああいうのは絶対に自分を曲げないぜ?」
「どういう事っスか? あーしにも解るように説明して欲しいっス。ゆうたママって、誰かのママっつー事っスか? 母親の?」
この元々この世界の住人であるサキュバスのスカーレット以外、大体みんな同じ様な人物像を想像した様だ。
「多分、元々自分からゲームを楽しんでたんじゃ無いんだろうな。「ゆうたママ」って言う事は、その「ゆうた」ってのもこの世界に来てるんだろうか?」
「自分の親がプレイしてるMMORPGにログインしてくるとか想像するだけで気が狂いそうになりますねぇ…ましてや異世界転移にまで付いてくるとか、それこそ死んだ方がマシですよ」
「リリカも現実世界に居るパパとママの事は心配ニャけど、さすがに一緒にこの世界にまで来られたらそれはそれで困るニャ」
ロリババア女王は俺たちの様子を見て、顎に手を当てて少し考えるような仕草をしてから口を開いた。
「ゆうた、という名の冒険者に心当たりは無いが、ぬしらはゆうたママのような人間に詳しいようじゃな。先にぬしらの言う事を知っておれば彼奴めの言葉に踊らされる事も無かったであろうに…過ぎた事とは言え口惜しいわ」
「それで、そのゆうたママはどうやって取り入ったのニャ?」
リリカに訊かれ、ロリババア王女は足を止め、虚空を見つめて語り出した。
「思えばあの日は最初から何かがおかしかった。妾は普段通り民を見守り、訪れる冒険者に精霊神の加護があらん事を祈り、助言を授けておったのじゃがどうにも王宮の中から王都まで国全体が騒がしい様な、妙な空気に包まれておった。そこにゆうたママが妾の謁見の間に乗り込んできおって、最初は家に返せだの責任者を出せだのデンワサポートは何処だなどと、訳のわからん事をまくし立てておったのじゃが、落ち着くに連れてこの世界の問題を訴えるようになったのじゃ。多くはこの国の子供らの未来の事であった。妾も女王として常にこの国の未来を担う子供らの事は気に掛けておった故、彼奴めの言う事も尤もに聞こえたのじゃ。……確かにゆうたママの訴えた通り、冒険者は奇抜な格好をした者も多いし、それに感化されあまりに奔放では大人になった時に規律を守ることが出来ぬかも知れぬ。王宮で侍ておった兵らにも幼い子を持つ者は多い。気づけば皆がゆうたママの言葉に心を奪われておったのじゃ」
つまり、ゲームの世界が現実になり自我を持つようになったNPCたちの前に突然、現実の倫理観を持つプレイヤーが乗り込み、子供達のためと聞こえの良い正論を声高に振りかざしてその場に居たこの世界の大人たちを丸め込んだという事だろう。
ゆうたママなる人物に人を丸め込む、カリスマ性のようなある種の才能があったのか、単にあの種の人間特有の声の大きさで押し切ったのか。
タイミングが良かったのもあるだろうが、そもそもが中世がモデルの剣と魔法のファンタジー世界で、現実で様々な歴史を経て長年かけて培われた思想と倫理観を突然突きつけられたNPCたちはコロリと感化されてしまったようだ。
もっと粗野な農村部や荒くれ者たちの多い街でなら一笑に付される可能性もあったろうが、それなりに発展した王都の宮殿に居たエリート達が相手だったのも、ゆうたママなる人物に有利に働いたのかも知れない。
「子供達のためと言われたら、子を持つ親ならその気になっても仕方ないのかねえ……これも一種のチートみたいなモンだなぁ」
女王の話を聞いた俺はある意味で感心して大きく息を吐いた。
「それにしたってみんな同じような地味な服を着せられてカワイイ服も着れなくするなんてやり過ぎニャ。神官達やあの姫騎士みたいなエッチな格好はリリカもちょっとどうかと思うニャけど、服装は自由でなきゃダメなはずニャ」
「挙げ句の果てに冒険者になって冒険をするゲームの世界で冒険者禁止法ですよ。服装どころかやる事まで管理されてそんな訳の分からないプロ市民もどきの指示した仕事だけやらされるなんて世界の破滅へ向かって一直線です」
「なんでそんなのにコロッと騙されちゃったのニャ。ロリババアの癖に情けないニャ。頭の悪いロリババアなんかただのロリニャ」
「人を見る目の無い女王とかシャレにならないですね。上に立つ人間が特定の思想に感化されるとかクーデター物ですよ。バスチーユでギロチンです」
リリカとナツミは不満を露わにしてロリババア女王の迂闊さを責めた。
「わ、妾とてあのように子供らの将来を悲観し物怖じせず現状の問題を訴える者に出会ったのは初めてだったのじゃ……あの者の言う通りにすればラレンティアは子供らが清く正しい立派な人物に成長できる国になるかも知れないと思ってしまったのじゃぁ……」
「ほらほら、あんまり小さい子虐めるなよ。可哀想に、泣いちゃいそうじゃないか」
「ひぅっ、わ、妾は大人じゃぁ…ひぅっ、子供扱いするなと言っておるのじゃぁ……ひぅっ」
涙目でしゃくりあげるロリババア女王を見てさすがにこれ以上責めるのは可哀想だと感じたのか、リリカはアイテムボックスから取り出したハンカチを渡した。
「仕方ないニャねえ。本当はまだ言いたい事はいっぱいあるニャけど、とりあえずこれで涙を拭くニャ」
「うぐっ、うぐっ、妾泣いてないもん、妾女王だもん、この国の国民はみんな妾の子供も同じじゃもん…心配したってしょうがないんじゃもん……」
ちーーーーーん!!
涙で顔をぐしゃぐしゃにしたロリババア女王は渡されたハンカチで盛大に鼻をかんだ。
「んっ」
「んっ、じゃないニャあ! 人のハンカチで鼻かんでそのまま返すなニャあ!」
鼻水の滴るハンカチをそのまま突き返されたリリカが怒鳴って再びロリババア女王は目から涙を溢れさせる。
「ふえぇぇ……」
なんかもうキリがない。
このロリババアも女王という設定の癖にババア要素がイマイチ感じられない。
情けない…これでもロリババアかね。ロリババアというのはもっと母性的な包容力を持って見る者を幼児退行させねばならぬくらいだ。
「これじゃ本当にただの子供だ。ロリババアのじゃロリババア言ってたけどこの女王はどういう設定でロリババアって事になってるんだ?」
「たしか魔力だか精霊神の加護だとかで成長が遅いって説明があった気がするニャ。実年齢は50歳を越えてるってはずだったニャよ」
「プロ市民もどきにアッサリ乗せられるあたりも、成長が遅いってだけのアバウトな設定のせいで精神的な成熟がイマイチ釣り合ってない感じになっちゃってるんですかねえ」
それまで黙って話を聞いていたショウゴがロリババア改め、のじゃロリ女王に助け舟を出す。
「そういう事なら仕方ないだろう、ラレンティアがこんな事になったのもこの子だけの責任とは言えないだろうしこれ以上とやかく言う気にはなれないな。ほら、安心してくれ。俺たちは君に危害を加えたりはしない」
手を引くように差し出されたショウゴの赤い指出しグローブを着けた手を数秒眺めた後、のじゃロリ女王は目を輝かせてショウゴの顔を見て飛びついた。
「うむ! ぬしを臨時の近衛騎士隊長に任命するのじゃ! 妾をこの性悪女どもからしっかり守るのじゃぞ!」
どう見ても騎士と言うよりはホームレス格闘家だが、のじゃロリ女王はショウゴを気に入ったらしい。
すかさずスカーレットが割って入る。
「あーっ!? 何してくれてんスかこのチビッコ!? オッパイも膨らんでないイカ腹の癖にあーしのショウゴサンに手ェ出すんじゃ無えっスよぉ!」
「なんじゃぬしは!? サキュバスのような魔族が人間に取り憑くではないわ! 妾の神聖魔法で浄化してくれるぞ!」
「ブッブー! あーしはアンデッドじゃないっスからそんなので浄化なんてされませんー! むしろあーしがショウゴサンの溜まったモノを浄化するんでスー!」
また妙な事になってしまった。
困った顔のショウゴを挟んでいがみ合うスカーレットとティルダ女王を眺めながら俺は再びため息を吐く。
まあこれは俺には関係無い事なので放っておこう。
「何ニャ? ショウゴばっかりモテて羨ましいのニャ?」
「そ、そそそんな事ないですよ? 私は金髪美少女のクラリスちゃんですから女の子にモテるのなんか全然まったく、これっぽっちも羨ましく無いですわよ?」
「まあ他は外側が女の子かブラザー風ガチムチマッチョじゃ、現地の女の子がショウゴさんに靡くのも仕方ないですよ。ネカマもこうなると不利ですねぇ」
「わ、私はネカマじゃないのよ? たまたま一人用ゲームの主人公キャラを女性にしてただけなのよ?」
俺は仲間を求めてディアスの方を見たが、ブラザー風ガチムチマッチョは俺が貸したまま返してもらうのを忘れていたアサルトライフルをいじくり回しながら色々な角度から眺めてニコニコしていた。
まあ、アレは普段はロックが掛かり俺が許可を出さないと撃てないのでそのままにしておこう。
その後また水路を少し歩くと、ゴーレムの部屋と同じ石の扉の前に出た。
「うむ、ここが街の外の出口のはずじゃ」
「本当か? また中にゴーレムの祭壇があっても今度は弄るんじゃないぞ?」
「妾の言うことが信じられぬのか、疑り深い女じゃのう。そんな事では男にモテんぞ?」
精神が成長しそこなってる紛い物のロリババアの言う事なんか信じられるか。
余計なお世話だし男にモテてもそれこそ嬉しくない。
「とにかくいつまでもこんな暗い地下水路に居るのはごめんニャ。さっさと開けて外に出るニャ」
リリカがスイッチを操作して石の扉を開くと、そこは屋外ではあったが、海に面した断崖絶壁の中腹だった。
しかも地下にいる間に夜になったらしく、地下に居た時と変わらず暗闇に包まれている。
「あー、ラレンティニアって川の河口近くにあると思ったら海に接してたんだなあ」
「そういえば大陸の最北端にある街だったニャあ。グランシールと気候も変わらないからうっかりしてたニャ」
緯度や経度、赤道の位置も関係なく気候の変化もあるのか怪しい、元がいい加減なMMORPGの世界ではそれも仕方ないだろう。
「だからって水路を逆戻りするのももうこりごりだ。夜だし大丈夫だろう。エリカ、ドラグーンを降ろしてくれ」
『了解、ドラグーンをマスターの現在位置の高さまで降下させます』
ステルスモードで機体の表面に夜の闇を映したドラグーン輸送艇が両翼のリパルサーエンジンから僅かな光を漏らし、後部貨物ハッチを開きながら俺たちの前に降りてきた。




