表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/51

9 冒険者禁止法だって!?

「うふふふふ、こういう時いいよねえ冒険者は。殺しても神殿で復活するから罪悪感も感じないで済むし、未登録のヤツならもう罪に問われる事すら無いんだ。冒険者禁止法は素晴らしいねえ」


 王都の地下水路の中で隔てられた一室、ディアスたち規制抵抗派の隠れ家に乗り込んできた兵士達のリーダーらしき騎士風の鎧を着た男が目の前のディアスに剣を突きつけながらいやらしく笑う。


 俺は男が口にした大仰な言葉に思わず聞き返してしまう。


「ぼ、冒険者禁止法だって!?」

「そう、冒険者登録法なんて生温い法律じゃあ君達みたいなのがこうやって地下に潜って抵抗をするからね。冒険者の活動自体を禁止する事になったのさ。うふふふふふ!」

「畜生! ラトックたちをやったのもお前らか!」


 ディアスが男に向かって吠える。

 ラトックと言うのはさっき部屋に飛び込んでくるなり光になって消えてしまったプレイヤーの事だろうか。


「ラトック?さっきのドブネズミとそのお仲間の事かな? この人数に敵うわけないのに無様に抵抗したから見せしめにお仲間を殺してやったら、ご丁寧にここまで案内してくれたよ。馬鹿だねえ。心配しなくても今頃は彼も含めた全員、神殿で復活してるんじゃないのかな?もっとも、復活した所で今度は神殿に待機している兵とこちら側の冒険者たちに取り囲まれてて何も出来ないだろうけどねぇ!」


 悔しそうに拳を握りしめるディアスが騎士の後ろにいる冒険者らしい数人を睨みつけて言う。


「クソが…! お前たちも冒険者(プレイヤー)だろう! 何でこんな奴に従ってるんだ!」


 だが彼らは答える事なく目を逸らし、代わりに騎士が答える。


「ダメダメ、彼らはもう冒険者なんかじゃ無いんだよ。王国政府の命令で与えられた仕事をする、いわば公務員だ。キミ達もそうするべきだよ。冒険者なんて荒んだその日暮らしよりも余程マシだろう?冒険者なんてもうこの国には要らないんだよぉ!」


 狭い部屋の中で俺たちを包囲する騎士の配下の兵士と冒険者たちが少しづつにじり寄ってきてディアスは後ずさり、俺たちも壁際まで追い詰められる。


「どうする…? 力ずくで脱出するか…?」

「こんな狭い所で一斉に飛び掛かられたら全員は無理ニャ」

「ここじゃ精霊魔法は制限が多すぎてほとんど使えませんよぉ…」

「部屋の外にも兵士が何人も居るみたいだしな…一か八か、俺の辰撒(タツマキ)戦封脚(センプウキャク)で数人なら薙ぎ倒せると思うが…」


 俺たちが脱出の手段を考えていると、騎士はニヤニヤと粘着質な笑みを浮かべながらさらに一歩踏み出す。


「抵抗しても良いんだよぉ? その方がこっちも楽しめるからねえ。うふふふふ、冒険者なんて英雄気取りで、自分達こそがこの世界の主役だと言わんばかりに振舞っていたのがこうなってどんな気分だい? 冒険者禁止法によってもうキミ達の好き勝手には出来ないんだよ!うふふふふふ……うっ…!?」


 調子よくまくし立てていた騎士は突然ビクリと痙攣するように震えると、そのまま白目を剥いてその場に倒れた。

 周りの兵士や冒険者たちも同じように倒れて、焦点の定まらない目でビクビクと痙攣している。


「おしゃべりなオッサンっスねー。そんな溜まりに溜まってタマタマがパンパンになった状態であーしの幻惑に抗えるワケないっスよー。コイツ喋りながらおっ立ててたっス。人の趣味をとやかく言うのは好きじゃないっスけど、拗らせると肝心な時に立たなくなるっスから、性欲はちゃんとスケベな事で発散させた方が良いっスよぉ」


 今まで静かにしていたので人間同士の諍いに興味が無いのかと思っていたスカーレットがやれやれと言った感じで両手のひらを上に向けるアメリカ人のようなジェスチャーをして倒れた男たちを見下ろした。


「す、すごいニャ! 全部スカちゃんがやったニャか!?」

「全員欲求を募らせた男だったのが運の尽きっスよぉ。あーしもこんな大人数が簡単に引っかかるとは思わなかったっス。よっぽど溜まってたんスねぇ、もうみんな夢の中でスーパーハレンチタイム開催中っス」

「やったなスカーレット!お手柄だ!」


 ショウゴが褒めるとスカーレットは顔を真っ赤に染めて両手で頬を押さえ、だらしなく相貌を崩した。


「え、エヘヘヘヘへ♡ショウゴサンに褒めてもらえて嬉しいっス♡じゃあまたハドーケンして欲しいっス♡あの濃密な生命力の輝きの味を知ったらもうこんな男どもの濁った精気なんか食べられないっスよぉ♡」

「うぇ!?あ、ああ、後でな!今は早くここから脱出するんだ!」


 ラブコメか。


 俺もリリカもナツミも、そしてディアスも何とも言えない微妙な表情でホームレスっぽい格闘家とサキュバスの気恥ずかしいやり取りを眺めたが、兎に角ショウゴの言う通りここから脱出するべきだろう。

 俺たちは床に転がりだらしない寝顔でビクビクと不気味な痙攣を繰り返す男たちの隙間を縫って部屋から出た。


 部屋の外の水路脇の歩道でも十人以上の男たちが倒れたままビクビクと痙攣しているのを見てナツミが露骨に嫌な顔で呻く。


「うえぇ、部屋の外までこんなに居たんですねえ……」

「ここ、上水道だろ…ヘンな汁が水路に垂れて混ざらなきゃ良いけど……」

「このまま地上へ戻るのは危険ニャ。この地下水路は王都の外まで続いてるから街の外まで行って別の出口から地上に出た方が良いニャね。こっちニャ」


 俺たちは頷きあってリリカの後を追い、地下水路の奥へと進んだ。


 ◇


「ポイズンラットニャ! 気をつけるニャよ! コイツはグラスラットやウッドラットより凶暴で毒を持ってるニャ!」


 薄暗い水路をナツミが杖に灯した魔法の光を頼りにしばらく進むと、案の定モンスターが現れだした。


「ならば! 破導拳(ハドウケン)ッ!」

「ここなら水の魔法が使い放題です! ハイドロカッター!」

「リリカも飛び道具が欲しいニャあ! ニャニャあ!」

「こんな低級の魔物がサキュバスのあーしに敵うわけ無いっス! 格の違いを知るっスよぉ!」


 以前森や草原で見た丸っこいフォルムのネズミさんの色違いで、毒々しい紫色のどこか愛嬌の無いネズミさんの群れをショウゴとナツミの遠距離攻撃が襲い、撃ち漏らしたものをリリカの蹴りとスカーレットの爪が撃退する。

 ただ、ショウゴの技は敵を倒す事は出来ても殺す事はどれほど撃ち込んでも出来ないらしい。

 ノックアウトされてへばったネズミさんにリリカとスカーレットがとどめを刺して光の粒子とコイン、たまに出る虹色の鉱石に変えた。


 俺とディアスはそれを後方でただ眺めた。


 そして戦いが終わるとまた水路の脇の歩道を歩いて進む。

 そんな事を何度か繰り返し、街の外に通じる出口を目指した。


「エリカ、ちょっと訳があってまた地下に居るんだが聞こえてるか?」

『はいマスター、状況は把握しています。ですが何故そうホイホイと支援の難しい地下へ降りてしまうのですか? いつからそんなに穴蔵が好きになったのです?』

「こればっかりはこの世界の性質上としか言いようが無い……兎に角、いつでも支援を投下出来るように位置は把握しておいてくれ」

『了解。ドラグーンを3時間おきに交代で上空待機させます』


 リリカに先導され地下水路を進みながら俺はエリカに通信で確認を取った。

 地下にいてもエリカの魔改造したドリルコンテナであれば支援は可能なので位置さえあちらが見失わなければ安心出来る。


「誰と話してたんだ?」


 俺の前を歩いていたショウゴが訊いて来た。


「ああ、俺のやってたゲームなんだけど、実はFPSじゃなくて…いや、FPSの要素もあるんだけど、なんて言うか色々装備があってさ。外に仲間がいて上空で支援出来る輸送艇を待機させてくれてるんだ」

「なるほど、そいつは心強いな。でもこういう場所での戦闘なら俺に任せてくれ。接近戦なら自分の肉体が一番頼りになる」


 自信ありげに拳を見せるショウゴの腕にスカーレットが自分の腕を絡ませて間に割り込む。


「そーそー、それにあーしも居るっスよぉ♡ オスの生物相手ならサキュバスのオパコッス♡ クラリっちゃんが強いのはアイアンゴーレムを倒したので十分わかったっスから、気楽にあーし達の後を付いて来て欲しいっス。ねー♡ショウゴサン♡」

「い、いやスカーレット、あまりくっつかれると歩きにくいんだが……」


 その様子を見たナツミが露骨に不機嫌な顔で呟く。


「…この先ずっとこのリア充みたいな振る舞いを見せられるんですか……? あたしもやる気が無くなったので後ろでひっそり付いていきますね…独りで…静かに……」

「気持ちはわかる。スカーレットも俺たちはショウゴにコナかけるつもりなんか無いから警戒しなくてもいいぞ」

「や、やだなあっス! クラリっちゃん! あーしはそんなつもりなんか! えへへへへへ!」


 サキュバスの癖に妙に甘酸っぱい反応を返すスカーレットに俺も少々辟易として話を変えようと先頭を歩くリリカに訊いた。


「かれこれもう結構歩いたけどまだ出口に着かないのか?もう街の範囲から出ててもいい頃だろ?」


 リリカは気まずそうに苦笑いしながら振り向く。


「お、おかしいニャね…? 前にこの地下水路に入った時はこっちに出口があると思ったニャけど……」

「前に来たってゲームだった時だろ…? スケール感が違うんじゃないのか……」


 このアホ猫耳、自信満々でこっちだと言いながら先導するから、てっきり道を知っているのかと思ったら迷っていやがったのか。


「ディ、ディアスはこの水路がどこに続いてるのか知ってるのか?」

「俺も知っての通り低レベルプレイヤーだからな…水路で知っているのは街の出口のすぐ近くの僅かなエリアだけでこんな所にまで来たことは無えんだ……」

「マジかよ…誰かこの地下水路のマップとか解らないのか?」


 全員がお互いに目を逸らし気まずい空気が流れる。

 もうやだこのアホパーティー。戦う時は生き生きとしてるのにそれ以外は全然ダメだ。


「マップ表示の魔法は神官系の初期魔法なんですけどねえ……」

「無いものをねだっても仕方ないニャ……」

「つーか、この水路ってどこまで続いてるんだ? タリヤ村のゴブリンの洞穴の地下でも水路の扉があったって言ってたけど、まさか……」

「ラレンティア王国の全体に地下水路が張り巡らされてるニャ。そらにその奥に古代ドワーフの地下王国の遺跡があって、そのまた奥の地底世界はグランシールやアステ帝国まで繋がってるらしいニャよ。まあその辺はレベル200近い廃人プレイヤー用のエンドコンテンツニャからリリカも行ったことは無いニャ」

「あー、その地底世界なんスけど、今は半分くらい崩れて埋まっちゃってるっスよ。あーしの居た迷宮もそこから避難して来た悪魔や魔獣が押し寄せててんやわんやだったっス」


 スカーレットの話を聞いたショウゴとディアスも感慨深そうに俯いた。


「悪魔も自然災害には勝てないのか…俺の実家、福島なんでちょっと同情するな…」

「俺もリアルじゃ仕事で仮設住宅を作ったりもしたが、災害はシャレにならねえ」


 俺も関東の出身なので思うところはあるが、今は異世界の地下水路で道に迷っている最中なので地上に戻る事が先だろう。


「仕方ない、またどこかに穴を開けて地上に戻るか……」

「待つニャ。この先に扉があるみたいだニャ。そこから外に出られるかもしれないニャよ」


 そう言ってリリカが歩き出すが、水路の水が流れる方向からしてどう見てもさらに地下へと下っている。

 もうこのアホ猫耳に道案内をさせるのはこれっきりにしようと思いながらも仕方なく後ろを付いていった。


 ◇


 水路の水が脇の壁の穴に流れ込んで行く突き当たりにタリヤ村の近くの洞穴で見たものと同じ石の扉がある。

 どう見ても出口には見えないがリリカは自信ありそうに扉の前に立った。


「こういうダンジョンじゃ意外な所が外に繋がってたりするのニャ。きっとこの先に階段があったりするニャよ」

「だといいんだけどなあ。ここから出られなかったらエリカに救助を頼んで地上から穴を掘って貰うぞ」

「あのぉ、ここから出られなくなる事は心配してないんですけど、扉の向こうから何か聞こえません?」


 エルフなので耳が良いのだろうか?それを言ったら猫耳のリリカはもっと耳が良くても良さそうなものだが、ナツミに言われて耳を済ませてみると確かに扉の向こうから何か重いものが動くような音が聞こえた。


「……なんか嫌な予感がする。あの洞穴でも同じ扉の向こう側でアイアンゴーレムが居たよな」

「か、考えすぎニャ。この地下水路の扉はみんなこんな感じニャよ。どうせ水車か何かの音ニャ。開けてみれば判る事ニャ。」


 リリカは自分の意見が正しい事を証明するかのように扉の中央にあるスイッチを操作する。

 ゴブリンの洞穴と同様に石の扉は重い音を立てて開いた。


「残念だが、水車の音なんかじゃなかったなあ」

「リリカさん、良い子だからわからない時はちゃんとわからないって言いましょうね」

「……ごめんなさいニャ。正直リリカもこんな事じゃないかとは薄々思ってたニャ」


 ゴブリンの洞穴で見た扉の奥はゴブリンの洞穴で見た祭壇のある空間で、ゴブリンの洞穴で見た崩れた石像とそこから出現したと思われるアイアンゴーレムが、見たことの無い幼女と戦っていた。

 幼女は魔法のバリアのような結界を張ってどうにかアイアンゴーレムの攻撃を凌いでいる。


「ぼ、冒険者か!? 丁度良い! この程度のゴーレムに(わらわ)を傷付けることなど出来ぬが妾には此奴を倒す方法が無いのじゃ! 妾に手を貸すのじゃ!!」


 幼女は偉そうな口調で俺たちに命令した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ