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4 争いは悲劇しか生まないブヒ。

「ちょ、クラリスさん!? やめて下さい! あたし男同士ならまだしも、女同士でそう言う事をする趣味は無いんですよぉ! 百合カプは見る専なんですー!」

「でも今はナツミちゃん男の娘でしょう? 私は女の子よ? 何もおかしな事は無いわ…♡」

「異性愛はそれこそ守備範囲外ですよぉー!!」


 私の体の下で華奢な女装したエルフの少年がもがく。

 抵抗するそぶりは見せているものの、めくれ上がった短いスカートの中から女性用下着に包まれた可愛らしい膨らみがビクビクと自己主張をしている。


 可哀想に、こんな小さな布に押し込められて苦しいのね。


 早く恥ずかしがるナツミちゃんの可愛いオトコノコと御対面したいけれど、まず自分の着ている邪魔な全身タイツを脱いでしまおうと背中のファスナーを下ろそうとする。


 ああもう、脱ぎづらいわねこの服! 体のラインをアピール出来るのはいいけど真っ黒で可愛く無いし! どうせならピンク色のもっとエッチなデザインが良かったわ!


「マスター! しっかりしてください!」


 私がファスナーを下ろそうと四苦八苦しているとエリカの声が響き、頭に電流のような衝撃が走った。


「あ、あれ…? 俺は一体なぜ変態女装ショタエルフなんかにこんな事を……」

「人の事を犯そうとしておいて変態は無いですよぉー!!」


 俺はあわてて、あられもない格好になっている女装ショタエルフから飛び退いた。


「脳波が異常な反応となったので、少々強引でしたがナノマシンの操作によりショック療法を行いました。正気に戻りましたかマスター?」

「あ、ああ、助かった。多分大ピンチだったんだと思う……」

「マスターが何故私ではなく、その長耳に襲いかかったのかは後でゆっくり説明して貰いますが、まずは淫催作用のあると思われるこの霧を排除します」


 エリカは言うと、足元からジェットの気流を噴射させてあたりの霧を吹き飛ばした。


「た、助かったニャ。エリカにゃんが居てくれて良かったニャ。ありがとうニャ」

「あたしなんか危なくメケメケちゃんの初めてが奪われちゃう所でしたよぉ……」


 リリカとナツミも、まだ足元がおぼつかないながらよろよろと立ち上がってサキュバスに対峙する。


「あーあ、せっかく良い感じだったのに香の幻惑から逃れちゃったっスかー」

「クソ、最悪な気分だ…いくらエロいお姉さんでもやっていい事と悪い事があるだろう」

「とにかく、村の人たちを返して貰うニャ!」

「シチュとしては嫌いじゃないですけど、あたしを巻き込んだのは許せません!覚悟してもらいますよ!」


 村の男達に絡み付いていたサキュバス達も立ち上がり、さっきまでの妖艶な物とは違う笑みを浮かべてこちらに近づいてくる。


「フフン、それだけの人数であーし()と戦うっスかぁ?」

「ウチ()、そんじょそこらの冒険者に負けるほどヤワな魔族じゃないわよぉ♡」

「女なのが残念だけど、やっぱり村人の精気よりも冒険者のレベルを吸う方がお腹が膨れるわよねぇ…♡」


 ジリジリと間合いを詰める俺たちとサキュバス軍団。


「ヤバいニャ。サキュバスは魔族の中では直接の戦闘は弱い方ニャけど推奨レベルは100以上ニャ。これだけの数は厳しいニャ」

「それにレベルドレインは対抗手段も無い上、喰らったら戦力も落ちちゃいます。エリカさんが何か秘密兵器を持ってますか?」

「危険と判断したら私はマスターだけ保護して脱出します。そちらは自分の身は自分でなんとかして下さい」

「クソ、悔しいがここは一旦引くしかないか…?」


 分は悪いようだが、とにかく何とか隙を作って活路を見出すしか無い。

 一触即発となった所で、制止する声が響いた。


「やめるブヒ! オラたちは村の男達を連れ戻せればそれで良いんだブヒ!」

「そうゴブ!何でも戦いで決めるのは野蛮ゴブ! まずは話し合って双方の妥協点を模索するべきゴブ!」


 俺たちも、サキュバス達も割って入ったオークとゴブリンをぽかんとした表情で眺める。


「いやでも、先に仕掛けてきたのはあっちで…その、まあ、すいません」

「そうニャ、サキュバスの人たちをやっつけニャいと村の男の人たちは返して貰えニャいんじゃないニャ…?」

「そ、そうですよ!いくら村の男の人たちが役立たずの穀潰しでもここに居たら殺されちゃいます!」


「あーいや、あーし()、精気を吸って満足したらこの男の人達解放するっスよ? 出るモンが出なくなったらここに置いといても邪魔だし」

「さすがにウチ達も干涸らびた死体とヤるのは趣味じゃないわよねぇ」

「死ぬまで絞るなんてナンセンスよぉ。生かしとけば三日も経てばまた溜まるんだしぃ♡」


 マジか。


 どうやらサキュバス達も村の男達を死ぬまで搾り尽くす気は無かったらしい。


 ◇


「ニンゲンと魔物は今まで意味もなく争って来たブヒ。争いは悲劇しか生まないブヒ。いつまでも同じ過ちを繰り返すのは愚かブヒ」

「同じ言葉が通じる者同士、絶対に分かり合えるはずゴブ。今こそお互いの共存のために話し合って理解を深めるべきゴブよ」


「おっしゃる通りニャ。ごめんなさいニャ……」


 言葉が通じても話が通じない、なんて奴は世の中にいくらでも居るが今それを言うのは野暮だろうし、サキュバスたちはどうやら話が通じる方だ。


 エリカを含む俺たち四人とサキュバスたちは何故か正座をさせられてオークとゴブリンの説教を聞いていた。

 サキュバス達は既に全裸では無く、身体にボディペイントのような模様を纏わせ、健全なゲームでは見えてはいけない部分が隠されている。


 ちなみに未だに意識が朦朧としているらしい村の男達はこの地下の大広間の中央に全裸で放り出されたままである。


「それはそうとして、ニャんで地下迷宮の奥底に居るはずのサキュバスがこんな浅い所に居るのニャ?ここは何なのニャ?」

「何でって言われても、今までの方がヘンだったっスよ。何で人間の精気が主食のあーし()が滅多に人の来ない地の底に住んでたんだって話っスよ。気付いたら腹ペコで食べ物を探してここまで来たっス。それで精気が溜まってる男達がいっぱい居る村を見つけたから丁度いい場所にあったここに連れ込んだっス。ここが何なのかなんてあーし()も知らないっスよ」


「おかしいじゃないか、ゴブリンの住処だった洞穴の隠し扉の奥なんだぞ?」

「あんなの隠してる内に入らないっスよ。迷宮暮らしナメんなって話っス。あーいや、舐めてもらうのは大歓迎っスけどぉ♡」

「そういう下ネタはやめるニャ。でもここの扉は王国の地下水路の扉ニャ。ここにあるのはあのヘンな石像だけニャ?どこかに奥へ続く隠し通路とか無いニャ?」

「無いっスよ。あのヘンな石像と祭壇だけっス。あーでも、祭壇に何かのスイッチがあったスね」


 そう言ってサキュバスの一人が立ち上がって祭壇に登った。


「これっス。腹ペコで興味もなかったっスからほっといたっスけど、これを押したら隠し通路とか見つかるかもしれないっスねー」

「あ! ちょっと待つニャ! そんなの不用意に押すなニャ!」

「ポチっとなーっス♡」


 リリカの制止より一足早く、サキュバスは祭壇の上で出っ張った石を押し込んでしまった。

 直後、この地下空間に地響きが轟き、石像が音を立てて崩れ始める。


「ニャ、ニャんか、ヤバくないニャ?」

「御免なさいねぇ、どうもあの娘はウチ()の中でも昔っからそそっかしくってぇ」


 崩れた石像の中から、人の背丈の3倍くらいはある、四本腕の人型と言うには少し不恰好な鉄の巨人が現れた。

 その四本の腕にはそれぞれ棘や刃のたくさん付いた凶悪な武器を持っている。

 それはズシンと思い足音を立てて踏み出すと、甲冑のような頭部の庇の奥で単眼を紅く光らせた。


 人の意識のような物は無いのだろうが、やる気は満々らしい。

 そしてこれはどう見ても言葉が通じる相手ではない。


「あちゃー、アイアンゴーレムっスかぁ。しかも古代ドワーフの機械式っス。めっちゃ年代物っスよぉ」

「感心してないで何とかするニャ! お前が見るからに怪しいスイッチを押して動かしちゃったニャよ!?」

「いやいやいや、ムリっスよぉ。あーし()あくまで対生物特化なんスから。悪魔だけに」

「ダジャレを言ってる場合じゃ無いニャあ!!」


 言っている間にもアイアンゴーレムは広間の中央で固まって意識を失っている全裸の男達に向かって歩き出した。


「エリカ! ナツミ!」


 俺が叫ぶと意を汲み取ったエリカとナツミがアイアンゴーレムの歩みを止めるべく、それぞれ熱線のレーザーと突風の魔法を放つ。

 エリカのレーザーはゴーレムの腕の一本を切り飛ばしよろめかせたが、ナツミの魔法はゴーレムの表面に触れると力なく霧散してしまった。


「コイツ魔法が全然効きませんよ!? かなり高レベルのゴーレムです!」


「このままここに居たら危ないゴブ! とにかく村の人たちを連れて脱出するゴブ!」

「サキュバスも手伝うブヒ! 男達を洞穴の外まで運ぶブヒ!」


 どうにか男を一人背負って運ぶザザと、四人ほどを両手に抱えたゴムロの指示でサキュバス達もそれぞれ二人ずつ男を運んで広間から退避を始めた。


「ここは俺とエリカで何とか足止めをする! リリカとナツミも男達を運んで逃げてくれ!」


「ニャあ…この人たちハダカニャあ…リリカもうお嫁に行けないニャあ」

「さすがにあたしもこれはちょっと……ああもう! ヘンな汁が付いてますよぉ!」


 文句を言いながら二人もそれぞれ残っていた全裸の男を引きずって広間から出て行った。


 俺は腰からハンドガンを抜きゴーレムに発砲したが、案の定銃弾は火花を散らして弾かれてしまう。


「ただの鉄ですが文明レベルに対し不純物が少なく、衝撃を分散させるように曲面に加工されています。動力は不明。グラディウスの45口径弾頭での対象の破壊は困難」

「まあこんなデカブツは通路を通れないだろ、俺たちも逃げよう」


 俺とエリカが踵を返すとゴーレムは持っていた武器の一つである、巨大な斧を入り口の天井付近に向かって投げつけた。

 斧によって破壊された天井の石材が崩れ落ち、入り口の通路を塞ぐ。


「参ったな…逃がさない気なのは解ったけど、自分で自宅の入り口壊してこの後どうするんだよ…こいつが自分で直すのか?」

「マスター。安全保護のためグングニルmk4陸戦アーマーを投下します」

「出来るのか? ここ地下だぞ?」

「問題ありません。投下コンテナも改良を加えました」


 エリカが自身あり気に言うと再び頭上から不穏な音が響き、石の天井を突き破って砲弾のような形の先端に螺旋状の掘削旋盤が取り付けられたコンテナが降ってきた。


 ドリルかよ。


 なんだかエリカの魔改造によって艦隊の装備がどんどんおかしな事になっている気がするが、今は助かる。

 俺はハッチの開いたコンテナに飛び込んで陸戦アーマーを装着した。

 手には長い銃身のゴツいライフルが持たされている。


「ダインスレイブプラズマレールガンを用意しました。これなら対象の装甲を貫通出来ます」

「こんなの、こんな至近距離で使える訳ないだろ!」


 アーマーを装着している間に近くまで来ていたゴーレムの振り回す、棘の付いた拷問道具のような棒とキザキザの刃が並んだ凶悪な見た目の剣を躱しながらエリカに抗議した。


「ですが他の武器では対象の破壊は困難です」

「こういうのは宇宙軍の伝統的な倒し方がある!」


 俺はプラズマレールガンを投げ捨て、再び振るわれたゴーレムの剣をジャンプして躱し、そのまま胸部が張り出した上半身に飛び付いた。


「ぅおりゃあっ!」


 左腕で鉄の装甲に指を食い込ませて掴み、右腕で思い切り殴りつける。

 アーマーのパワーアシストによって多層特殊合金複合装甲に包まれた拳はゴーレムの鉄の胸板を貫通し大穴を開けた。

 引き抜いた右腕でアーマーの腰に装備されていた破砕手榴弾(フラググレネード)を一つ外して、握ったまま再びゴーレムの胸の大穴に腕を突っ込んだ。


「これで止まってくれよ!」


 中でスイッチを入れて腕を引き抜き、ゴーレムから飛び退く。


 二秒後、ズシンと音を立ててゴーレムは震え、関節や胸の穴から煙を噴き出して倒れその動きを止めた。


「お見事ですマスター。ですがその戦法は敵車両に突っ込んで負傷する兵士が頻出したため宇宙軍の方針で控えるようにと決定がなされた筈です」

「戦車や装甲ホバーに突っ込むよりは簡単だろ。それに倒せたんだからいいんだよ」


 ゲームでは効率が良いと推奨された戦法だがゲーム内の人物達には不評だったらしい。

 エリカの突っ込みに答えていると、倒れたゴーレムから頭部が外れて転がり、さらにその中から金属片がこぼれ落ちた。


「なんだこりゃ?」


 拾い上げてみると鍵だった。

 掌には収まりきらない、鍵としては大きいが何やら複雑な彫刻が施されている。


 ゲーム的にはどこか重要な場所の鍵なのだろうかとそれを眺めていると、再び、今度は地下の空間全てに地鳴りが響き、天井から細かい砂が降ってきた。


「これは…ひょっとしてヤバい…?」

「この地下空間が崩落する物と断定! マスター! 退避を!」


 退避と言っても既に出口の通路は崩れ落ちている。

 砂に続いて切り抜かれた天井の石材が落ちてきた、崩落寸前の地下の広間で俺はあたりを見回した。

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