3 ソレの事は良く知ってるから……
ザザという名のゴブリンを先頭に森の中を進む。
「わざわざ案内してくれるって事は、何処か村の男の人達が居そうな場所に心当たりがあるのニャ?」
リリカがザザの次を歩くオークのゴムロに訊いた。
「勿論ブヒ。この森で多勢が夜露をしのげる場所なんて限られてるブヒよ。以前にオラたちが住んでいた洞穴に居る可能性が高いブヒ」
「オークとゴブリンが人里に出て人間が穴ぐらに潜伏かニャ…その洞穴ってのはどの位の深さがあるのニャ?」
「心配しなくてもそう深くはないブヒ。場所も遠くないブヒからすぐに着くブヒよ。村を襲う魔物にはうってつけの住処だったブヒ。今思えば何度も冒険者に襲撃されたのに懲りずにあんな所に住み着いては村のみんなに迷惑を掛けていたなんて、まるで野生の猪ブヒ。情け無い話ブヒ」
遠い目で過去を振り返るオークの後ろで俺はナツミに話しかけた。
「なんか朝から妙に静かだな。気が乗らないのは分かるけど」
「いえ、それもまあ、あるんですけど。昨夜ヘンな夢を見た気がして…フワフワするというか、落ち着かないというか……」
「夢ねえ、俺はソファーで寝たせいか寝苦しい気はしたけど」
「クラリスさん中身は男なんですから小さい事気にしないでくださいよ」
「いやまあ、気にしてるわけじゃ無い。それでどんな夢だったんだ?」
「それを思い出せないから落ち着かないんです。夢なんですから」
たしかに夢の内容なんてちゃんと憶えてる事の方が珍しい気がするのでそれも仕方ないだろう。
それから少し歩いたところで先頭を歩いていたザザが木陰からその場所を伺うように言った。
「着いたゴブ。あそこに見えるのが入り口ゴブ」
森の木々に隠された丘の斜面に申し訳程度に木材で補強された洞穴の入り口が見える。
周りは茂みに覆われ、普通に森の中を歩いているのでは気付かないかもしれない。
「見張りが居る様子は無いゴブね。ここを根城にするとしたら無用心ゴブ」
「それじゃここには居ないニャ?」
「そうとも言い切れないゴブ。素人ならそういう事もあるゴブよ」
「とにかく中に入ってみないとわからないブヒ。下に向かって坂になっている通路を少し進めば広間になっているブヒ。そこからいくつか奥へ行く道があるブヒがすぐに行き止まりブヒ。中に居るならすぐに分かるブヒ」
「ならさっさと入って調べるニャ。準備はいいニャか?」
「ちょっと待ってくれ」
リリカが確認を取り洞穴に入るのを一旦止めて、俺は腰の通信機のボタンを押して空を見上げて呼び掛けた。
「エリカ、地下を探索する。来てくれ」
すると即座に、上空でステルスモードを展開していたドラグーン輸送艇から白いスク水のような衣装を着た少女が降ってきた。
村を出てからずっと、上空で俺たちを追尾させていたのだ。
「了解マスター。状況は把握しています。お任せください」
突然空からスーパーヒーロー着地で降ってきた少女にザザとゴムロは目を見開いて唖然とした。
「な、何だゴブ!? 空から女の子が降ってきたゴブ!?」
「召喚魔法ブヒか!? 初めて見たブヒ!」
「まあそんな所だ。秘密の魔法だから言いふらさないでくれると助かる」
とりあえず適当に言い訳をしておいた。
勝手に勘違いしてくれた様だし大丈夫だろう。
「エリカにゃん呼んだニャ? 村の人たち相手ならそこまでしなくても大丈夫じゃないかニャあ」
「そんなこと言ったって、前にダンジョンに入った時は初心者向けなんて割に結構ヤバかったろうが。地下だと想定外のことが起きたら困る」
「それもそうニャねえ、そんな事が起きないように祈っとくニャ」
そうしてエリカを加えた俺たちは洞穴へと入った。
まずは森の中同様、夜目の利くゴブリンのザザが先頭に立って進むのを俺たちは入り口から差し込む僅かな光を頼りについて行く。
狭い通路を少し下って行くと、ゴムロが言っていた通りすぐに広間の様な空間に出た。天然の洞穴にしては広さがあり、中央には火を炊いた跡と思われる炭と燃えかすが残っていた。
「おかしいゴブね。誰も居ないゴブ。この焚き火の後もゴブ達がここに住んでいた頃の物で昨日今日の物じゃないゴブ」
「参ったブヒね。ここに居ないのなら森の中を探すのは苦労するブヒ」
「ここから奥へ行く道があるんじゃなかったニャ?灯りをつけて探すニャ」
「奥と言ってもすぐに行き止まりゴブ。一人や二人なら兎も角、村の男達が隠れられるような広さは無いゴブ」
この洞穴は外れだったかと、少し落胆して外に戻ろうとしたらエリカが引き止めた。
「超音波スキャンによると中央にある通路の奥に人口の物と推測される空間があります。さらに地下へと続いている模様。通路の堆積物から判断して24時間以内に複数の人物がそこを降りて行ったものと考えられます」
エリカの発見にナツミが感嘆の声を上げた。
「エリカさんすごいですねえ。さすが科学の力は偉大です」
「そういやダンジョンの隠し扉やトラップなんかを見破る魔法は無いのか?」
「あると思いますけど、あたしは精霊魔法専門なんで使えないです。魔法拳士のリリカさんならそういう魔法も使えるんじゃないですか?」
ナツミの言葉にリリカは気まずそうに顔を背けた。
このアホ猫耳はゲーム中では修得していた魔法を、この世界に来てからは未だに使えないらしい。
俺たちは魔法のランタンに明かりを灯し、中央の通路を注意深く調べると岩の間に隠されていたスイッチを見つけた。
スイッチを操作すると重い音を立てて行き止まりになっていた岩が動き、奥に石を積んで作られた壁に囲まれた、下り坂になっている通路が延びている。
いかにもゲーム的な仕掛けに、俺は思わず少し笑ってしまった。
「すごいゴブ…ゴブ達もこんな仕掛けがあったなんて気付かなかったゴブ」
「こんな得体の知れない所に住んでいたとは迂闊だったブヒ」
石作りの通路を降りながらザザとゴムロがそれぞれ呟く。
俺はエリカに再び内部を調べるように指示した。
「動体反応…微かではありますが、奥に反応があります。ですがこれは…複数人が一箇所に固まっているのか、奇妙な反応です。数と詳細は判別出来ません」
エリカが珍しく言い澱み、俺はハンドガンを握ってスーツの腰部分から外した。
「どうやら、ただ男どもが連れ立って穴に篭った訳じゃなさそうだな」
「幾らニャんでもそんな事は無いだろうと思ってたけど、できればそうであって欲しかったニャね」
「この世界に来てから、物事がすんなり運ぶことってありませんねえ」
リリカとナツミもそれぞれ肉球グローブと魔法の杖をアイテムボックスから取り出して戦闘の準備をする。
「た…戦いになるゴブか…?」
「正直オラ達は村人には勝てても冒険者やこんな所にいるような魔物には敵わないブヒ…」
「安心するニャ。こういうのはリリカ達に任せるニャ」
「というか、俺たちそれしか取り柄が無いからなあ……」
「せっかくの異世界なんだから安全に知識チートで美味しい思いがしたかったですねえ」
「そう言う事言うなよ、元が設定ガバガバのゲーム世界じゃ知識チートなんか成り立たないだろ。それに知識チートで現地の人にマウント取った気にになってても専門家が見たらガバガバで笑われたりするかも知れないんだぞ」
「そんなの笑う人なんかあたし達がこの世界でやってる事なんて見てませんよぉ」
不安そうにするザザとゴムロを後方に移して通路を進む。
通路は思った程には深くはなく、すぐにまた石を削って作られた装飾の施された大きな扉の前に出た。
「これはラレンティアの地下に広がる水路の扉ニャ。こんな所まで延びてきてたのニャ?」
「地下水路か?そんな物があったのか」
「ラレンティアエリアのメインダンジョンニャ。地上は平原と川ばっかりで大した物は無いニャけど、国中の地下に古代の水路が延びているニャよ」
「この向こうです。複数の動体反応を感知しました。ですがこれは…歩き回らずにその場で動いているのでしょうか。奇妙な反応です」
エリカが再び不審そうに言い淀むが、ここまで来たらこの重そうな扉を開いて中に入ればはっきりとする事だ。
俺とナツミが合図し、リリカが扉の中央にあった取っ手を回すと重そうな石の扉は音を立てて観音開きに開いた。
中は予想以上に広い空間だった。
薄い紫の光に照らされ足元に立ち込める霧が怪しく揺らめいている。
奥には石を積んで高く組まれた祭壇のような場所があり、そのさらに奥に巨大な石像が見える。
祭壇の前の床で何かが蠢いていた。
霧に覆われよく分からず、巨大なスライムのようなモンスターかと思ったが、すぐにそうでは無いと気づいた。
人間だ。
一人や二人では無い、多数の人間が一箇所の集まって全裸で蠢いている。
まるでいかがわしい密教の秘祭だ。いやそんな物を見た事は無いが。
まさか女達に捨てられた男達が錯乱して、あらぬ方向へと暴走した末にお互いを慰め合ってしまったのだろうか。
一瞬ゾッとしたが肉の塊となった男達の中に女性の物と思われる裸体があちこちに紛れているのに気づき、俺は胸を撫で下ろした。
「成程、こう言う事でしたか。ですがこの様な場所で集団で性行為とは些か野蛮で衛生的にも問題があります。マスターは参加を控えてください」
「ニャあぁ…こ…これはダメニャあ…こんなのリリカには刺激が強過ぎるニャあ……」
「これは完全にアウトですね…全年齢向けのゲームがリアルになった途端、成年向け18禁もかくやのエロエロ大サービスですかぁ…もっと早く解禁してれば少しはユーザーを繋ぎとめられたかも知れませんねえ……」
顔色を変えずに的外れな忠告をするエリカに対して、リリカは可愛らしく真っ赤にした顔を両手で覆っている。
ナツミも茶化す様な事を言ってはいるが、その目は宙を泳いでおり顔も赤い。そして何かモジモジしている。
入ってきた俺たちに気付いたのか、肉の塊から一人の女性がのっそりと起き上がり、妖艶な笑みを浮かべて俺たちを見た。
「あらぁ、冒険者っスかぁ?もう此処を見つけたなんて随分と手際が良いっスねぇ。でもまだこの人達は返せないっスよぉ。女の子ばっかり四人に…フフッ、オークとゴブリン?なんならアンタ達も一緒に愉しむっスかぁ?」
そう言って女性は指に絡み付いていたねっとりとした液体を舐めとった。
ほぼ人間の女性そのままの姿だが頭には二本の角があり、背中の腰のあたりから蝙蝠のような羽と長い尻尾が生えている。
「こいつらサキュバスニャ! もっと難度の高いダンジョンの奥深くに居るはずの魔族がこんな所まで来てるのニャ!?」
手で両目を塞いでいるフリをしてしっかり見ていたらしいリリカが解説してくれた。可愛い奴め。キスしたい。
「あーっ! 思い出しました! 昨夜夢で見たお姉さんですよぉ! 夢の中で「コッチにいらっしゃい」って呼ばれたんです! あたしはそんな趣味無いですから断りましたけど!」
成程、昨夜村の男達を夢の中で誘惑し、操ってこの洞穴まで誘い出したのか。
現在の体は女装ショタエルフだが中身は女性のナツミはそのせいでサキュバスの誘惑に引っかからなくて済んだらしい。ご褒美にキスしてあげよう。
しかし今は股間を抑えてモジモジしている。きっとエルフ少年の可愛らしいアレが可愛らしくアレしているのだろう。きっと舐めたら美味しいんじゃないだろうか。
俺も今は金髪美少女なのだから舐めても咥えてもしゃぶっても何らおかしい事は無い。
いや舐めない方がおかしいと言うものだ。是非とも舐め回したい。
「気をつけるゴブ! 何かヘンゴブ!」
「オラ達はまだ大丈夫ブヒがこの匂いはニンゲンを惑わせるブヒ!」
「マスター! 脳波が異常な乱れを起こしています! 気をしっかり持ってください!」
ザザとゴムロ、そしてエリカが何だかつまらない事を言っているが、そんな事よりも下腹部が熱く、頭がボーッとする。
ゴブリンの小さな引き締まった体とオークの腹は出ているが逞しい力士のような肉体。どちらも魅力的だし緑色の肌も見ようによってはセクシーだ。
そして白いスク水という扇情的な格好の少女。
こんなスケべな連中が一緒にいて冷静でいられる訳がない。
きっと相撲を取る程度ではこの体の火照りは収まらないわ。
「フフフ、女にサキュバスの誘惑は通じないっスが、この霧はサキュバス秘伝の媚薬の香っスよぉ。そっちの人間はもう効き始めてるみたいっスねぇ。さあ遠慮せずにこっちに来てあーし達と一緒に愉しむっスよぉ♡」
全裸の男性で埋め尽くされた床の上で、同じく全裸の女性が妖艶な笑みを浮かべて手招きしている。
床に転がっている男達はぐったりとしているけれど、その股間にあるモノは未だそそり立ちびくびくと脈打って、私の視線を釘付けにした。
私の体の奥底から湧き上がる熱が下腹部を焦らす。
見ればリリカとナツミもその場にへたり込んでビクビクと震えている。
可哀想に、とても辛そう。でもそんな所も可愛い。
リリカちゃんは女の子だから、残念だけど私の体の疼きは止められないでしょう。
でもナツミちゃんは男の娘なんだから、私の体の空いた部分を埋めてくれる。
「ナツミちゃん、苦しそうね…その辛さは私にも解るわ」
「ク、クラリスさん…!?」
「私が楽にしてあげる…大丈夫よ、私も女の子としては初めてだけど、ソレの事は良く知ってるから……♡」
「いやいやいや、全然大丈夫じゃないですよぉ!?」
私はナツミちゃんにのしかかり、邪魔なスーツを脱ぐために背中のファスナーに手を掛けた。




