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20 お年寄りになんて事しやがる…

 

『上空に出現した巨大生命体は凶暴性によっては新たに設定した評価基準で危険度A相当にになる可能性があります! 航宙艦船での対応が必要なレベルです! ただちに退避してください!』


 エリカの通信報告に俺とリリカとナツミの3人は顔を見合わせた。

 なんとなく気不味い空気が流れる。


「巨大生物が突如出現だってさ、なんか心当たりあるだろ?」

「こう、今更ですけど、あたしたち、やらかしちゃってましたかねえ」

「あの時リリカは耳が良く聴こえなくて困ってたのニャ。リリカのせいじゃないニャ」


 兎に角、ここに居ても仕方ないだろう。

 俺たちはマサトが死んだ事によってツタの拘束から解放されたリックを連れて地下から出た。


 さらに神殿のヘンテコホールを抜けて外に出て空を見上げると、わざとらしいほど多くの星が瞬いていた星空の一部がすっぽりと闇で切り取られたように黒い影で覆われていた。


「大魔獣…って、なんだありゃ…どんだけデカいんだよ……ゲームの時はあんなのとどうやって生身で戦ったんだ」


 思わず呟く。

 ドーラ砦で戦ったドラゴンどころでは無い。夜空に紛れて良くわからないが何十メートルあるのだろう。


「ゲームの時は平原の結界内で一定間隔で降りて来たところを顔に登って弱点の目を殴るのニャ! 空を飛んでる時はばら撒く雑魚を倒して耐えるしか無いニャ!」

「ははははは! 今は僕が操っているんだ! ゲームだった時の様にわざわざ倒されるために地上へ下ろしたりはしないぞ!」


 俺の呟きに答えたリリカに続いて、神殿の警備をしていた兵士達の後ろに逃げ込んでいたマリーがマサトの口調で消極的な戦法を宣言した。

 あれが素の口調で、しかも調子に乗っているらしい。

 俺たちに負けて無様に逃げた癖に調子の良い奴だ。


「また蹴られたいみたいニャね!」


 リリカが飛び出そうとしたが、兵士達がマリーを守るように俺たちを包囲して行く手を阻む。

 マリー、いやマサトに何か吹き込まれたのか。


「下がってくれ! 今あんた達に構っている暇は無いし、あっちが悪者だ!」


 俺の声に耳を傾ける様子もなく兵士達は剣を抜いてゆっくりと距離を詰めてくる。

 何か様子が変だ。


「気をつけてください! その人たち、アンデッドにされてますよ!」

「アンデッドって…つまりゾンビか!?」

「つまりも何もゾンビニャ! 魔法で操られてる死体ニャ!」


 なんて事をしやがる。

 地下で大騒ぎしていたのに外の兵士が何も言ってこないと思ったら、まさか俺たちがこの神殿に来た時から既にこの兵士達はゾンビにされてマサトに操られていたと言うのか。


「マリーは戦士だったよな、マサトがやったのか…?」

「いや、多分タクミさんだ…! タクミさんはレベル200の死霊術師(ネクロマンサー)だ! きっとあの人もこの近くに来ていたんだ!」


 誰に聞いたわけでもなかったが、俺の言葉にリックが答えてくれた。


「つまり、複垢どころか三垢持ってやがったのか。何が二人だあの嘘吐き野郎め。これならもう一人殺しても良いよな」

「多重垢を使ってマッチポンプでギルマスやってたってワケニャね。最悪ニャ」

「自演は自治厨の得意技ですけど、リアルっていうか生身でやられるとは思いませんでしたね」

「俺らはあんなのを持ち上げてたのか…情けねえ」


 この場の四人、それぞれがマサトの中の自治厨に呆れつつも改めて怒りを湧き上がらせる。しかし今は包囲を突破して自治厨を止めなければならない。


「エリカ! アーマーとショットガンを投下だ! あと手を貸してくれ!」

『了解』


 直後、神殿前の広場にアーマーが収納されたコンテナと白スク水少女が落ちて来て、プラズマバリアの放電と割れた石畳の破片を巻き上げ、近くに居たゾンビ兵士を数体吹き飛ばした。


「エリカ、まずは周りに居る動く死体の排除だ」

「了解。ガンマK448星系で寄生生物により乗っ取られた死体が人を襲う事例がありましたが、それとは別のようですね。死体内部より微小ながら粒子の異常振動を感知しました」


 エリカに指示を出しハッチの開いたコンテナに入ろうとした俺にリックが声を掛けた。


「…あ、あんた…それは一体…」

「ごめんリックさん、俺もちょっとしたチート持ちなんだ。みんなには内緒だよ」


 それだけ言って俺はコンテナに入る。

 羽織っていたポンチョと装備品が剥ぎ取られ、電磁シールドスーツの上からパーツごとに陸戦アーマーが装着された。ヘルメットのHUDが表示され、右手にフランシスカmk14セミオートショットガンのグリップが握らされるとハッチが開いた。


 コンテナから飛び出してそのまま近くに居たゾンビ兵士に発砲する。

 宇宙軍海兵隊仕様のショットガンから放たれた散弾が兵士の身に付けていた板金鎧をズタズタに引き裂き、有り余る運動エネルギーでその背後のゾンビ兵士も数体巻き込んで吹き飛ばした。

 ゾンビにされた兵士は気の毒だが、一人一人丁寧に葬ってやる時間は無い。文句はあの世でマサトに言ってもらおう。三分の一でも魂があの世に行っていればの話だが。

 次々にショットガンでゾンビ兵士を複数体まとめて吹き飛ばす俺にマリーが叫ぶ。


「クソッ! 何なんだお前はぁッ! 何でお前みたいのがこの世界に居るんだッ!?」

「理由があるなら俺も知りたいよ」


 言ってマリーの前を塞ぐゾンビ兵士に散弾を浴びせ吹き飛ばす。

 慄いたマリーは再び背後を見せてその場から逃げ出そうと走り出し、俺はそれを追おうとしたが目の前に空から何か落ちて来て、べちゃっと音を立てて進路を塞いだ。


「マスター、上空の巨大生命体から多数の物体が分離したようです」

「子ガルムニャ! 本体がバラ撒く雑魚モンスターニャけど結構手強いのニャ!」


 近くでゾンビを殴り倒していたエリカの報告に、同じくゾンビと戦っているリリカが付け加えた。

 落ちて来たそれは粘液を滴らせながら立ち上がると翼を広げ、赤い目を光らせて野犬か狼のような声で吠えた。


 背中に翼の生えた狼のようだが後ろ足は鳥のような逆関節で鋭い爪が生えていて、子ガルムと呼ばれる割には3〜4メートルはありそうな巨体だ。

 なるほど、これが子ガルムなら上に居る暗い夜空に紛れて良く見えなかったデカブツも同じ様な姿なのだろう。


 マリーがその背中に乗ると子ガルムは翼をはためかせて飛び上がった。


「オプションも飛ぶのかよ!?」

「飛ぶけどゲームだった時はあんなに高く飛ばなかったニャあ! 殴れる高さで浮いてただけニャあ!」


 プレイヤーに倒されなくてはならない、ゲーム上の制約から解き放たれたモンスターはマリーを乗せて上空まで飛んで行く。


「また逃げられちゃいますよぉ! それにあの羽付き犬、あちこちに降って来てます! 早くゾンビの人たちをどうにかしないと!」


 ナツミが言いながら炎の魔法でゾンビ兵士を倒すが、範囲攻撃魔法を使っていない所を見ると残りのMPに余裕が無いらしい。

 ゾンビだけあって動きは遅いが数が多い。最近の映画に良くある走る奴じゃなくて良かった。


「エリカ! キリが無い! 何とかならないか!?」

「了解。何とかします。皆さん伏せてください」


 俺の不明瞭な指示に即座に答えたエリカの言葉に俺たちは危険を感じて頭を低くする。

 エリカの両手の平から赤く光るレーザービームのような光線だか熱線だかが発射され、エリカはその腕を広げて周りを囲むゾンビ兵士たちを薙ぎ払った。


「……それ、もっと早く使ってくれ」

「指示がありませんでした」

「じゃあ逃げて行ったヤツを撃ち落とすニャ!」

「再チャージまで180秒。あと原住生物の指示に従う謂れはありません」


 指示が無いと言われてもそんな事が出来るなんて知らなかったんだ。

 ともあれ、ゾンビ兵士たちはその哀れな体の上半身と下半身を泣き別れさせた。ゾンビだけあってまだ動く者も居るが脅威にはならないだろう。


 ゾンビ兵士の包囲は崩れたが、街の中ではさらに本体から分離した子ガルムが降り立ちあちこちで暴れ始めている。夜中とはいえ異変に気付いた街の住民(NPC)冒険者(プレイヤー)が通りに出て、逃げ惑ったり抵抗を試みたりしているようだ。


「兎に角、あの魔獣をどうにかしないと」

「巨大生物や、それから分離した個体の飛行は、不明粒子の振動に伴う気圧の変化と揚力の獲得によるものと推測。本体は巨大なため効果が未知数ですが、分離した物の飛行能力は高高度核爆発によるEMPで阻害できる可能性が大きいと判断します」

「ダメだ。今魔法が使えなくなったら街の人たちが身を守れなくなる」

「では本体をエクスカリバー核弾頭巡航ミサイルによる直接攻撃での撃破を提案します」

「それこそダメだ! こんな都市上空で核ミサイルなんか使えない!」


 出来るだけ街に被害を出したく無いが、そう言っている間にも次々と子ガルムが降ってくる。容赦も遠慮も攻撃パターンもあったもんじゃ無い。


「どうやってNPCのアイテムを使ったのか解らニャいけど、どこかでもう一人が操ってるはずニャ! そいつを探すのニャ!」

「そうか、それだ!エリカ!」


 珍しくリリカが役に立ちそうな事を言い、俺はエリカに指示を出す。


「巨大生物の頭部に人間が二人居るようですが、一人は生命活動が確認でないにも関わらず動いている様子を見るに、ここの兵士達同様、死体が操作されているようです」

「もしかして、あのお爺さんをアンデッドにして大魔獣を召喚させたんですかね……」

「お年寄りになんて事しやがる…エリカ! その死体じゃない方をドラグーンの機銃で撃て!」


 まったく悪知恵ばかり働くヤツだ。そんな外道に容赦は要らないだろう。

 エリカに命令したが帰って来たのは期待した物とは違う、焦った声での報告だった。


「待ってくださいマスター! 周囲の分離個体がドラグーンに気付いて取り付いて来ます! 機銃と迎撃レーザーで対応していますが数が多く防ぎきれません!」


 咄嗟に空を見上げると、子ガルムが集まっている一角で夜空の黒い影が明滅してドラグーンの暗灰色の機体が露わになり、その周囲で球状に展開したプラズマバリアが一瞬現れて消えた。

 取り付いた子ガルムが爪を突き立てた左翼のエンジンから炎が上がる。

 野生的な本能なのか、モンスターにはステルスの効果が薄いらしい。


「エリカ! クルセイダーを二機とも投下しろ!」

「分離個体に取り付かれハッチが開けません! シールド消失! 左翼リパルサーエンジン破損! このままでは墜落します!」

「ドラグーンを自爆させてクルセイダーを落とせ!」

「了解! ドラグーン自爆します!」


 ドラグーン輸送艇が一瞬眩い閃光を放ち、取り付いていた数匹の子ガルムもろとも爆炎を撒き散らして自爆した。


 その中からプラズマバリアの放電と炎の尾を引きながら二機の歩行戦車クルセイダーが落下し、俺たちの前の地面に激突する。

 二機とも片膝をついた姿勢で着地しているので壊れてはいないようだ。


「エリカ、一時的にクルセイダーの操縦権限をリリカとナツミの二人に与える。サポートしてやってくれ」

「マスター! それは!」

「この二人なら大丈夫だ。リリカ!ナツミ!こいつに乗って街の人たちを守ってくれ!」


 エリカは俺の命令に抗議する姿勢を見せたが、俺が遮りリリカとナツミに声をかけ二人が頷いてクルセイダーの前に立つと、二機ともコクピットハッチを開いた。


「まかせるニャ! リリカまだ歩行戦車の出てくるミッションはやってなかったけど操縦はオンラインマニュアルで見たニャ!」

「ロボット物はガ◯ダ◯O◯以来ハマってないんで専門外ですけど、あたしだってやってみせます! 乱れ撃つぜ!ってヤツです!」


 二人がそれぞれ不安な事を言ってクルセイダーに乗り込むとハッチが閉じられた。


「原地の生物に宇宙軍の装備を使わせたことが銀河連邦本部に知れたら、始末書だけでは済みませんね」

「そんなモンがこの世界のどこかにあるならな。トライアドから戦闘機を4機とも発進させて援護しろ。俺たちはあのデカブツをどうにかするぞ」


 子供を叱るように腰に手を当て頬を膨らませた、AIらからぬ表情のエリカにそのまま指示を出して、後ろで呆然としているリックにも声をかける。


「リックさん! 街に居るプレイヤーにできるだけ多く声を掛けて、ゲートを壊されないように神殿を守らせてくれ! 集まってた方がリリカとナツミも守りやすい!」

「わ、わかった! 俺だってそのくらいは!」


 リックが走り出したのを見送り、俺はエリカを伴って陸戦アーマーの強化されたブーストジャンプを使い建物の屋根を渡り、近場で一番高そうな建物の屋根に登った。


 もうすぐ夜が明けても良さそうなのに、まだ暗い夜空には巨大な黒い影が浮かび、その周りにも小さい影が飛び交っている。

 下を見ると二機のクルセイダー、リリカが乗っている方は主にプラズマブレードで地表に居る子ガルムを斬り伏せて、ナツミが乗っている方は機銃とプラズマガンで上空の子ガルムを撃ち落としている。

 城の方からも姫騎士エヴァンジェリンらしき露出度の高い人影を中心に、多数の兵士達が出て来て住民を避難させているようだ。さすがにこれはゾンビではないだろう。


「マスター、GAF4ソードブレイカー迎撃戦闘機、上空に到達しました。攻撃を開始します」

「デカブツの弱点は目らしい。そこか上にいるヤツを狙え」

「了解」


 上空でトライアドから発進して来た戦闘機が放ったミサイルの爆発がいくつも広がるが、どれも本体のガルムグリフまで届いていない。


「周囲の分離個体が盾になってソードブレイカーの攻撃を防いでいます」

「こっちが近代兵器を持ってると知って警戒してたのかもな。勘が良いのはチートだけのせいだった訳じゃ無いらしい。戦闘機は地上の援護に回せ」

「了解。ミサイル攻撃を行いますか? 目標の体長はおよそ240フィート。異常な生命力を有していた場合、通常弾頭でどこまで効果があるか解りませんが」


 俺は少しだけ考えて答えた。


「……バハムート級の艦首レールガンを使おう。地上…人の居る所に被害が出ないようにあのデカブツだけを撃ち抜けるか?」

「可能ですが地上に着弾させないためには大気圏内に下ろして地表と水平に発射する必要があります。発射態勢に入るまで時間がかかります」

「それでいい、アスタリスクを降ろせ。それまで下の人たちを避難させよう」

「了解。バハムート級航宙戦闘艦アスタリスク、移動を開始ます。30…いえ、20分お待ち下さい」


 それを聞いて俺は再び多数の子ガルムが暴れまわる街の大通りに飛び降りた。

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