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15 一番苦手なタイプです。死ねば良いのに。

「いやあ、心配したよ三人とも。僕が居なくてもグラスポートまで行って帰って来れるなんて運が良かったねえ」


 俺たちは大通りで再会した直結厨騎士ジークフリードに懇願され、いつぞやの宿の一階の酒場でテーブルを囲んでいる。


「んニャ、一応そっちこそ無事で良かったニャ。ルシ…じゃなかったジークナントカ」

「嫌だなあミルクチャンさん、ジークフリードだよ! ジークって呼んでくれ!」

「ミルクチャンさんはやめるニャ。リリカでいいニャ」

「なるほど! わかったよリリカ!」


 森でリリカの事をアホ猫耳とか言っていた気もするが、そんな事は忘れた様に馴れ馴れしく接してくるジークフリード。

 正直言って鬱陶しいが割り切りの良さはほんの少し尊敬する。本当に忘れているだけかも知れないが。


「あの…この人誰ですか? 知り合い…?」


 そんなジークフリードの態度を心底嫌そうにナツミが小声で俺に訊いた。


「一応、お前が森でオーガに襲われてた時に助けようとして真っ先に飛び込んで光になったアホだよ。一応お前を助けようとはしたんだから一応感謝しとけ、一応」

「そんな事もありましたっけ…? てっきり何かを投げつけて注意を逸らしたものだと思ってました……」


 助けようとした当人に人間だと認識されていなかったらしい。さすがに少し哀れだ。


「それで、ル…ジークはどうしてたニャ? 一緒に居た人たちは新しい仲間ニャ?」

「いやあ、あの時は痛かったなあ。死ぬかと思ったよ。でもあれから神殿で復活して君たちの後を追おうかと思ってたら、ナントカってギルドのマサトクンがプレイヤー同士協力しようって言っててね。それなら僕も協力しようと、そのギルドのマリーさんたちのパーティーに入って街の周辺の調査を手伝ってたのさ。あの時のオーガもそうだけど、何だかあちこちで強いモンスターが出るようになっちゃったみたいでさ」

「その事ならリリカたちも知ってるニャ。さっきそのマサトって人にも会って来た所ニャ」

「へえ、それならリリカたちもギルドのメンバーになって一緒に助け合おうじゃないか!」

「んニャ…協力するとは言ったけどまだそこまでは決めてないニャよ。この街に居たプレイヤーにも知ってる人居ニャかったし…」

「やだなあリリカ、僕が居るじゃないか!」

「ジークは勝手に付きまとってただけニャ。迷惑だったニャ」

「相変わらずつれないなあ! クラリスはどうだい? そっちのエルフのお嬢さんは?」


 しれっと俺のことも呼び捨てにしやがった。図々しい直結厨め。


「俺こそこのゲームの世界で知り合いなんか一人も居なかったんだ。いきなりギルドとか言われても馴染めそうにない」

「あたしもソロ専門ですから。あと話しかけないで下さい。一番苦手なタイプですあなた」

「またまた、こんな状況なんだしみんなで助け合わなきゃ」

「お前こそ魔王を倒しに行くとか言ってたじゃないか、それはいいのか?」

「いやあ、僕だってまだ諦めたわけじゃないけどさ、でも今はマサトクンの言う通り足場を固めた方がいいって言うのも判るし魔王を倒すにはもっと仲間を集めないとね」


 流されやすいと言うか、お気楽主義と言うか、幸せな思考の持ち主であろう。

 そんなジークフリードをどうやって追い払おうかと考えていると、そのジークフリードに声をかける人物が現れた。


「ジーク、そろそろ油を売るのは止めて次の仕事。マサトの指示。地下墓地に魔獣の調査に行く」

「あ! マリーさん! すいません、すぐに準備しますよ!」


 ジークフリードと一緒に居たパーティーの一人だった女戦士だ。

 長い黒髪の冷たい印象の美女で、この世界では珍しい露出度の低い女性用の軽装鎧を着て大剣を背負っている。

 もっとも、プレイヤーキャラならば中の人の好きなように顔を作れるので顔の印象なんか当てにはならないだろうが。

 彼女がジークフリードの新しい仲間のリーダーらしい。


「んニャ? 魔獣って大魔獣ガルムグリフニャ?」


 リリカが彼女の言葉に反応した。


「そう、あれが出現したらこの街は危険に晒されるかもしれない。調査が必要」

「そう言うわけだから、僕はもう行くよ! それじゃあ三人とも、またね!」


 そう言ってジークフリードとマリーという女戦士は酒場から出て行った。


 なんだかんだとそれらしい事を言っていたが、へらへらとご機嫌を取るように後を付いて行く様子を見るにジークフリードの御目当てはあの女戦士のようだ。見境のない直結厨である。


 二人が去って俺はリリカとナツミに尋ねた。


「その大魔獣ってのは何なんだ? 街が危険に晒されるとか穏やかじゃないな」

「大魔獣ガルムグリフ、ゲームだった頃は定期的に出現したレイドボスニャ」

「あたしは参加した事無かったですけど、アレって強いんですか?」

「参加資格レベル100以上で30人までのプレイヤーが参加して戦うボスニャからメンバー次第ニャけど…大体いつもレベル200とかの廃人プレイヤーが10人くらい居てボコってたからよくわからないニャ。でも基本空を飛んでて雑魚を撒き散らすし降りて来たタイミングでしか殴れないから今現れたらたしかに厄介かもしれないニャね」

「そりゃ面倒だな。出現するタイミングとか判るのか?」

「ゲームの時は運営が出現前にツ◯ッターで予告してたニャけど、今じゃそれは無理そうニャね…」

「ゲームが現実になると色々不都合が多いな」

「まったくニャ。ゲームって基本的に障害の連続ニャ。ゲームの世界に転生して無双なんて相当都合の良いご都合主義チートかアホみたいなヌルゲーでないと無理ニャね」

「そう言う事言わないで下さいよ。現実から目を背けさせてくれる最後の希望が台無しじゃないですか」


 気持ちは解る。誰だってゲームの中でくらい都合の良い世界に浸りたいものだ。

 理不尽な難易度に苛立ってコントローラーを投げるのを誰が責められようか。


「それはそうと、そんな時限出現みたいなのをどう調査するんだろうな。出現地点をウロついたってどうにかなるとは思えないが」

「確かゲーム内の設定ニャと邪神崇拝の悪の魔術師がナントカの秘宝を使って召喚するって事になってたニャ。そいつを探すのかも知れないニャね」

「なるほど、そう言う事なら俺たちでも少しは手伝えるかもな」


「えー…あの人たちを手伝うんですか?」


 ナツミが露骨に嫌そうな顔になった。

 どうもこの女装ショタエルフの中の人は協力や協調というものにとことん馴染めないらしい。


「ナツミチャン、そうは言ってもこの街が壊滅でもしたらリリカたちも困るニャ」

「それは解りますけど…あたしはどうもあのマサトって人も気に入らないんですよね」


 冒険者ギルドでも妙に静かだと思ったらそういう事だったのか。


「いかにもリア充…じゃないかも知れませんけどネト充って感じで仕切っちゃって、ああいうのはすぐに空気読めとか和を乱すなとか言って変なローカルルールを押し付けてくるんですよ。アレも私が一番苦手なタイプです。死ねば良いのに」


 一番苦手なタイプが多い、難儀な女装ショタエルフだ。


「いや昨夜のパーティーでも少し話したけど、そんな感じはしなかったけどな…」

「クラリスさん人を見る目が無いです! 今じゃ金髪美少女なんですから気をつけなきゃ、そんな事言ってたらすぐに身ぐるみ剥がされて本当に奴隷商人に売り飛ばされますよ!?」

「いや、ええ、はい、気をつけます」

「ま、まあ手伝うって言っても一緒に行動する必要は無いニャ。街が大変な事になったら困るニャからリリカ達はリリカ達で調べて何かあったら報告すればいいニャ」


 ナツミに気圧された俺にリリカが助け舟を出してくれた。

 とにかく街で何もせずにただマサトのギルドが街を整備してくれるのを待っているよりは良いだろう。


 その後、対プレイヤーでは特にコミュニケーション能力に問題のあるナツミと未だ外見とのギャップが埋めきれない俺が宿で部屋を取って待っている間に一番適任であろうリリカが再びギルドに行って情報を集めて来た。


 リリカの聞いて来た話によると街の周辺の調査はそれなりに進んでおり、魔獣を呼び出す魔術師が潜伏している可能性のある場所は残り二つまで絞り込まれていたらしい。

 地下墓地と街の西にある遺跡風のダンジョン。

 そこでリリカはジークフリードとマリー達のパーティーが調査を進めている地下墓地ではない方の遺跡の調査を請け負って来た。



 翌日の朝になって遺跡の調査に出発するため、俺はいつも通りの電磁シールドスーツにポンチョを羽織り、グラスポートでの騒動の後に補充した変形アサルトライフルとハンドガン、そして数種のグレネードを身に付け、後は街でリリカが買ってきた主にビスケットのような食料と言うよりオヤツを持たされて調査に出発する準備を済ませた。


「元々初心者のレベル上げによく使われる小さいダンジョンニャ。三人だけでも大丈夫ニャと思うけど一応エリカにゃんも呼ぶニャ?」

「そうだなあ、地下だといざって時に上空からの支援は無理だろうしその方が安心か」


 そんな事を話しながら街の外へ向かって大通りを歩いていると、城門で俺たちを待ち構えていた人物が居た。


 痴女だ。

 いや、露出プレイ中の痴女そのものにしか見えないシースルーのマイクロビキニアーマー風の何かで身を包んだ、いや包んではいないが身に付けたこの国の王女、姫騎士エヴァンジェリン殿下である。


「リリカ殿! 話は聞いたぞ! 邪神崇拝の魔術師を打ち倒すために遺跡の調査に向かうそうだな! ドーラ砦とグラスポートでの恩を返す良い機会だ! しかも我が民の安寧のためにもなる事であればこのエヴァンジェリン、喜んで力を貸そう!」


 本人はもう手遅れだとしても、この国の人たちは自分たちの王女がほぼ全裸かボディペイントの亜種みたいな格好でウロついているのを見て何も思うところは無いのだろうか。

 近くにいた門番は緊張した面持ちで直立しているが特に性的興奮を催している訳でもないらしい。


 はっきり言ってしまえば俺がエリカを呼んだり武器を使うのには邪魔だが、嬉々として駆けつけた王女様を無下にする訳にも行かず、俺とリリカとナツミ、そして姫騎士エヴァンジェリンを加えた四人は遺跡の調査に出発した。


 仕方ないのでダンジョン内での戦闘はリリカとナツミに頑張ってもらうしかない。俺はただのビスケットを運ぶオヤツ当番になった。



 街を出て歩いている途中エヴァンジェリンが話し出した。

 お姫様といえど女性はおしゃべりが好きらしい。


「しかしリリカ殿はあんな事があったばかりだというのに、もうまた人々のために働くというのは見上げたものだ。少しは休んでも誰も文句など言わないであろうに」

「んニャ、まあ街でブラブラしてても仕方無いニャ。街の中で色々やってる人達も居るけどそっちでリリカたちが手伝える事もなさそうニャし、少人数の方が気楽で良いのニャ」


 リリカの発言にナツミも同意する。


「まったくです、街の中はプレイヤーが多くてもうこりごりですよ。ずっとこの世界に居るならエルフらしく森の中でひっそり一人で暮らそうかなあ」

「森の中なんかに居たらまた手に負えないモンスターに襲われるかもニャ。やめといた方がいいニャよ」

「あー、エルフは長命なんだからザコモンスターだけ倒してたらそのうちレベルカンストして、いつの間にか無敵の強さを手に入れてたなんて事になりませんかねえ」

「レベルキャップがあるから無理ニャ。それにそうで無くても気の長すぎる話ニャよ。何百年もザコモンスターだけ毎日倒し続けるなんて普通の神経の人間には無理ニャ」

「俺たち田舎でのんびりスローライフなんて柄じゃないしなあ」

「ふふ、ドーラ砦でもそうだったが君は普段そんな風に喋るのだな、クラリス」


 しまった。姫騎士が居るのを忘れてつい素が出てしまった。


「こ、この子は辺境の生まれで奴隷だったから言葉使いが悪いのニャ」

「ええ、はい、まあ、そんな感じです。多分」

「気にすることはない。今は私も君たち冒険者が言うところのパーティーとやらの一員だ。そのままで構わんよ」

「いやまあ、はい、ありがとうございます」

「だが兄上の前に出る時は気をつけてくれ。どうやら兄上は君の事が大層気に入ったらしい」

「それはその、なんというか、努力します」


 寛大な姫騎士様には悪いがその兄上には出来るだけお会いしたくないものだ。


 そんな話をしながら小一時間も歩いたところで途中モンスターに出会う事も無く、小高い丘に囲まれた遺跡の入り口に到着した。


 こんな街の近くにダンジョンの入り口があるのはどうかと思ったが、初心者向けのダンジョンがあまり遠くにあるのもゲームとしては宜しくないだろうし、この世界がゲームだった名残としては仕方無いところなのかも知れない。


「それじゃあ行くニャ。さっさと終わらせてあのマサトっていうギルドマスターに恩を売るニャよ」


 立っているだけでパンツが見える異常に短いスカートと大きく開いた胸元の上にピンク色というふざけたメイド服の猫耳尻尾付き少女。

 ぴっちりとフィットした体のラインがくっきり出る、これまたスカートの短い白いワンピースにニーハイソックスの女装ショタエルフ。

 もはや何かを着ていると呼べる状態では無いが、身に付けているそれはシースルーマイクロビキニアーマーと呼べなくも無い痴女コスチュームの姫騎士。

 そして真っ黒い全身タイツにポンチョを羽織ったTS金髪美少女たる俺。


 どう見ても遺跡の探索とは思えない格好の四人組が、その遺跡であるダンジョンに足を踏み入れた。


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