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13 やはりメイド服はこうでないと。

「畜生ォォッ! この枷を外せェェッ!」

「ふざけるな! これがこの街をモンスター共から守ってやったオレたちへ扱いか! てめえらNPCの分際で恩を仇で返すのかよ!」


 騎士団によって厳重に拘束された四人の無法者が街の自治を司る役員たちに引き渡される。


 独立した自治区であるこの街で起きた事件と言う事で、その処遇は街の住民達に委ねられる運びとなったのだ。


「何が守ったよ! あなた達のせいでどれだけの人が傷付いたと思っているの! あなた達こそ怪物(モンスター)よ!」


 四人組の一人である狂女クローディアに襲われていた女性が非難して石を投げつけた。それに呼応して他の住民達も石を投げ始める。

 彼女だけではなく他にも多くの住民から相当な恨みを買ったであろう彼らに良い待遇は期待出来そうにない。


「大丈夫かニャ、一応注意しといた方が良さそうな事は教えといたニャけど」

「そうですねえ、あんな連中が逃げ出したり神殿で復活なんて事になったらまた何処で何をするかわかったものじゃないですから」


 全身を鋼鉄の拘束具で固定され、さらには魔法が使えない様に意識が混濁するという毒草から作った薬を使われてなお喚き散らしながら街のどこかへ運ばれて行く四人を俺とリリカとナツミ、そして実体になったエリカが見送った。


「心配いりません、あの四人の生体パターンは登録しました。これからは不穏な動きがあれば即時対応可能です」


 エリカがそう言うのなら、まあ大丈夫だろう。

 どうやって作ったのか、実体を得たエリカの体は一見すると人間と変わりないようにも見えるが、関節やその周囲が細かいパーツに分かれていて動くたびにそれらが可動して僅かな隙間から青い光が漏れ、手袋やブーツを着けているように見える腕と脚の先は白い硬質の装甲で覆われている。


「それにしてもビックリしたニャ。エリカにゃんが実物になって降ってくるなんて想像もしなかったニャ。ヲーファイのゲームを進めるとそういう展開があるニャ?」

「いや…俺も初めて見たし攻略ウィキにもそんな事書いてあるの見た事ない。ゲーム中ではこんな事は無かったはずだ」

「猫耳の原住生物、私は銀河連邦宇宙軍の艦隊運用サポートAIです。ゲームではありません」

「やっぱりエリカも現実になった影響で色々変化してるのかも知れないな」

「マスターまでそのような事を。その原住生物に合わせていては知性が低下する恐れがあります。止めてください」

「だからリリカは原住生物じゃないニャ! 失礼ニャ!」

「ケンカするなよ。名前が似てる同士仲良くしてくれ」


 俺は諌めようとしたのだが二人に睨まれてしまった。

 どうもこの二人は相性が悪い。


「それにしてもそのアーマーもすごいですねえ。カッコいいですねえ。クラリスさんがあの筒に入って出てきたらそんな格好になってて、鉄の男ですね!ア◯アン◯ンですね!」

「今は男じゃ無いけどな」


 俺の着ている陸戦アーマーに興奮してナツミが目を輝かせる。


「色が緑なのが残念です。赤と金のメタリックカラーにしましょうよ」

「……嫌だよそんな派手なの。恥ずかしい」


 実はそのカラーリングのパターンもカラーエディットで作ってあるが艦隊のどこかに存在するのだろうか。


「とにかく、今夜は疲れたしまだ飯も食ってない。もう後の事は街の人たちと騎士団に任せて大丈夫だろう。エリカ、アーマーを脱ぐからコンテナを開けてくれ」

「了解。私としては惑星上に居る間はずっと装着していて欲しいのですが」


 エリカがそう言うとアーマー着脱装置の円筒形コンテナのハッチが開き、俺はそれに入った。

 コンテナ内部でアーマーがパーツごとに体から外され再びハッチが開く。


 俺は生身で微かに硫黄の匂いがする温泉街の空気を吸い込んだ。


「ちょ、クラリスにゃん! 裸ニャ! 素っ裸ニャ! そんなカッコで出てきちゃダメニャ!」

「あわわわ、まだ街の人も騎士さんたちも居るんですよ!?」


 リリカとナツミに言われて、俺は自分の金髪美少女(クラリス)の体が一糸纏わぬ裸体であることに気付き、何処を隠していいのか少し悩んだ末にしゃがみ込んで、とりあえず言った。


「……い、いや〜ん…」


 慌てたリリカに、恐らくはアイテムボックスから取り出したであろうパステルグリーンのポンチョを羽織らされる俺を見ながらエリカが首をかしげて呟いた。


「マスターは艦隊内ではいつも全裸でしたのでそれが普通だと認識していましたが、どこか間違っていたでしょうか」


 いつも全裸の金髪美少女の尻を眺めながらゲームをしていた、PCの前に座っていた頃の俺を少しだけ殴りたい気分になった。



 その後俺たちは宿に戻って遅くなった食事を済ませて休んだ。


 ちなみにエリカはアーマーコンテナを回収して自分も引き上げていった。これから何かある毎にあのスーパーヒーロー着地で降ってくるのだろうか。

 そして宿の食事は内装が日本の温泉旅館そのものの割に粗末なパンとスープであった。どうも街に人が増えて食糧事情がよく無いらしい。



 翌朝になって姫騎士エヴァンジェリンが俺たちの元を訪れた。


「今度こそ、王都のグランシール王城を訪れて欲しい! これまでの礼も兼ねて私の出来得る限りのもてなしを受けて貰いたいのだ!」


 本人は至って真面目な表情だが、日本の温泉旅館の一室にしか見えないこの部屋でシースルーのマイクロビキニアーマー風痴女コスチューム的なパーツ類を体に貼り付けただけの格好で座布団の上に正座している姿はひどく不釣り合いで雑なコスプレ系のいかがわしいビデオのようで見ていて落ち着かない。


「そうは言っても王都ってスタート地点の始まりの街ニャ。他に行く当ても無いニャけどここまで来て引き返すのもニャあ。リリカはこのままラレンティア王国にでも行こうかと考えてたのニャ」

「そこを何とか! 正直に言いますとリリカ殿ほどの大魔法使いに助けれられ、みすみす放っておいたとなれば私の立つ瀬も無いのです! 昨夜召喚した少女のようなあれはホムンクルスというヤツでしょうか!? それにクラリス殿が纏ったあの鎧! 人の命を吸って強大な力を与える鎧などお伽話の中のものだと思っていましたがそのような物が実在したとは!」


 そしてこの痴女は根は本当に真面目なのだろうが、また盛大に勘違いをしているらしい。

 彼女を始め砦から同行している騎士たちには全てがリリカの魔法によるものだと思われて、既に当のリリカも困惑しているが、最初に自分の魔法だと誤魔化しおだてられて調子に乗っていたので自業自得だ。面白いからこのままにしておこう。


「まあ、ラレンティアに行ったところでどうするかなんて思いつきませんし、良いんじゃ無いですか?一度王都に戻って他のプレイヤーの人の話を聞いてみるのも良いかも知れません。何か進展までは行かなくても情報なり気づいた事はあるかも知れませんし」

「そうニャねえ、あそこなら他のプレイヤーもそれなりに居るはずニャしあの四人みたいなバカな真似をするのが出ないように話を合わせておくのも必要かも知れないニャ」


 ナツミに諭されてリリカの気分も王都へ戻る方へ傾いているようだ。


「クラリスにゃんはどうニャ? それでいいニャ?」

「私はリリカ様の所有物なので(あるじ)の決定に従います」


 正直、まだこの世界の事も解っていなければラレンティア王国なる場所の事も何も知らないので意思決定を放棄してご主人様に丸投げしたらそのご主人様に睨まれた。


「それでは王都に来てくれるという事で宜しいのですね!? では早速馬車の準備をさせます!」


 そう言ってエヴァンジェリンは跳ねるように軽い足取りで部屋を出ていった。

 彼女本人のせいでは無いかも知れないが、見ていて落ち着かない姿が目の前から消えて俺はため息をついた。


「まあ、昨夜の騒ぎのせいでこの街にも居づらい雰囲気になっちゃたしなあ」

「そうニャね…街の人みんなリリカたちの事怯えた目で見てるニャ。温泉をもっと堪能したかったけどこれじゃあ返ってリラックス出来ないニャよ」

「あの四人も言ってましたけど、一々怖がられると結構やり辛いものなんですねえ…正直言ってこれからはあんまり荒事に関わらないように慎ましくやって行きたいです」


 目の前で理不尽な事が起きると即座に爆発する瞬間沸騰ショタエルフが言っても全く説得力は無いが、慎ましく目立たないようにしたいのは俺も同じだしリリカもうんうんと頷いている。


「じゃあ他の国の中心都市に行く時は神殿でワープすれば良いニャし、とりあえず最初の街へ戻って他のプレイヤーに話を聞いたりしてこれからの方針を決めるニャ!」


 それからリリカがもう一度温泉で長湯を堪能した後、準備を済ませて待たせてしまっていた騎士団の馬車で俺たちは再び最初の街、グランシール王国の王都へ舞い戻る道程を出発した。


 行きもそれなりに時間がかかったが、帰りも馬車で楽な移動だったとは言え丸二日かかり、途中でリリカが飛行機を使えと駄々をこねたが姫騎士や騎士たちを置いて行ってしまう訳にも行かず俺たちは馬車の中で暇な時間を過ごした。

 ゲームだった時はもっと距離感がアバウトな上にダッシュで走り続けられるので数回のエリアチェンジとロードを挟むが1時間もかからなかった、とリリカは嘆いたがゲームで移動に1時間もかかれば立派なクソゲーの部類ではあろう。

 俺は馬車の窓から遥か遠くまで続く景色を眺めながら、改めてこれがゲームとは別の現実だと感じた。



 ともあれようやく到着した、プレイヤー達には「スタート地点」「最初の街」等と呼ばれ、その名はあまり知られていないと言う王都グランバリアは、旅としては短いながらも旅に出た時よりあちこち騒がしい様子だった。


 出迎えた城の兵士たちにエヴァンジェリンが尋ねた。


「出迎えご苦労、街の中が騒がしいようだが何があった」

「これはエヴァンジェリン姫殿下、ご無事のお帰り心よりお喜び申し上げます。後からドーラ砦に向かった兵の報告より共に魔物を撃退した冒険者とグラスポートに向かったと聞いておりましたがお戻りになられたと知れば王もお喜びになられるでしょう」

「うむ、だが私は街の様子を聞いているのだ。何か工事をしているのか?」

「なんでも冒険者たちが街を住みやすくしたいのだと、ギルドを通して王に訴えましてな。王もグランバリアの城下が発展するのであればと許可を出したところ、早速街のあちこちで工事を始めたようで。粗野な連中故、街の中を滅茶苦茶にしなければ良いのですが……」

「そうか、やはりあの日から何かが変わったようだ。モンスターも冒険者たちも、民も皆今までに無かった行動を起こし始めている。まるで突然世界が動き始めたようだ」

「不吉な予兆で無ければ良いのですが…兎に角、王がお待ちになっております。まずは城へお上りになってください」

「わかっている。私の恩人たちも手厚く持てなさねばならぬ。城へ案内しろ」

「はっ、仰せのままに!」


 俺たちは馬車に乗ったまま下町の大通りを抜け、街を取り囲む城壁より街の奥にある城壁の門をくぐり、日本の江戸時代で言うところの山の手とでも言うべき貴族や上流階級の邸宅が立ち並ぶエリアを通り、さらにもう一つ白い城壁の門を通ってようやく下町の大通りから見えていた白い王城に着いて馬車を降りた。

 最初にこの世界に迷い込んだ時には気付かなかったが想像以上に大きい街だった。


「ふニャあ、街から見えたお城ってこんなに広かったんニャね。ゲームだと門番が邪魔して入れなかったニャ。中のエリアなんて作ってないんだと思ってたニャ」

「案外その通りで世界が現実になった補完でいきなり現れたのかもな」

「不思議ですねえ。なんだかゲームの方がこの世界を中途半端に再現してたんじゃないかって気になってきましたよ」


 ひょっとしたらナツミの言う通りかもしれないがそれを確かめる術は無い。

 俺たちは想像以上に立派でスケールの大きい王城を口を半開きにした間抜けな表情で眺めながら客間らし豪華な部屋へ案内された。


 少しの間豪華なソファーに座り、出された何かの葉のお茶のような飲み物と焼き菓子をつまんで居たがこらえ性の無い猫耳(リリカ)がすぐに飽きて喋り始めた。


「リリカたちはいつまでこうしてればいいニャ? お城へ来たんだから王様に謁見とかするんじゃニャいのニャ?」

「王は今現在エヴァンジェリン姫殿下が謁見なさっておられるはずです。いくら姫殿下の恩人の方々とは言え冒険者などに王と直接謁見する場が与えられる事はまずあり得ません。失礼な物言いだとは承知しておりますがご理解ください」


 ドアの近くに立っていた、猫耳メイドの異常に短いスカートとふざけた色のメイド服とは違う、きちんとしたロングスカートの黒いメイド服を着た侍女が答えた。

 やはりメイド服はこうでないと。

 リリカは何か言いたそうだったが俺はそれを遮った。


「まあ、王様に会ってもセーブしたりできる訳じゃ無いだろうから別にいいだろ。それよりも街の方が気になるから痴…姫殿下の気が済んだらさっさと退散しよう」

「そうですねえ、こういう所はなんだか落ち着かないです」


 ナツミも俺に同意した所で件のエヴァンジェリン姫殿下が部屋に入ってきた。

 相変わらずの痴女コスチュームで、俺はあの格好で王様に謁見していたのかと訝しんだ。


 親子だから構わないのか? いや、それなら余計に自分の娘がほぼ全裸で野外をうろつくのは気にならないのだろうか? というかこの城の人たちは姫殿下のあの格好に何か疑問を抱かないのだろうか。


「済まない、リリカ殿とその配下のお二人、待たせてしまったようだな」

「んニャ、まあそれほど待ってないニャ。お菓子美味しかったニャ。ありがとうニャ。ご馳走になったからリリカたちはそろそろ街へ戻るニャ」

「いやそれは困る。今夜ささやかながらパーティーの準備をさせて貰った。是非大魔法使いリリカ殿とそのしもべの二人にも参加して欲しい。私の恩人なのだ、気兼ね無く楽しんで貰いたい」


 そう言って善意で微笑む姫騎士に、俺たち三人は困惑した表情で顔を見合わせた。


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