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12 でも次からは事前に言ってくれ。

「オラッ! コイツらNPCどもに紛れてコソコソ見てやがったぜ」


 俺はシュナイダーという名前らしい後ろから現れた四人組のリーダーの男に突き飛ばされ、今まさに飛び掛かろうとする騎士達が取り囲むクローディアと秋山と呼ばれていた二人の前に転がり倒れ込んだ。

 リリカとナツミも同じように放り出される。


 俺たち三人は無法者のプレイヤー四人組によって群衆と騎士達が取り囲む大通りに突き出されてしまった。


 全員レベル230という、この世界がゲームであった頃はレベリングと強化に勤しんだであろう廃人プレイヤーだった、今では強大な力を得た好き放題に振る舞う四人の凶悪な無法者に囲まれ、俺は命綱である装備もエリカと連絡を取るための通信機も身につけていない。

 紛れも無い大ピンチだ。


「ふん、レベル120の魔法拳士とレベル100の精霊術士、オマケにレベル1の下級戦士か。これじゃあビビって出てこれねえよなあ」


 クローディアという公衆の面前で全裸になった狂人の女が俺たちのステータスを見たのだろう、レベルとジョブを確認し鼻で笑った。


「ムカつくんだよな、こういうエンジョイ勢ってヤツらは。オレらが睡眠時間を削って攻略してやった情報をあとから掠め取って楽しやがって、クソの役にも立たねえ。このS(ソード)B(ブレイズ)O(オンライン)がサービス終了するかも知れねえってのにマジにならねえでたかがゲームだとかほざきやがって。クソが」

「まあそのせいで今じゃ私たちに楯突く気にもなれないでブルって見てるだけだったんでしょ?自業自得よ。たかが現実にこだわってゲームから手を抜いたせいでこのザマよ」


 シュナイダーと隣の女がそう言って俺たちを蔑んだ目で見下ろした。

 ゲームだった時の鬱憤がこの世界に来て爆発したって訳か。

 俺も別のゲームでは廃人呼ばわりされるほどのめり込んでいたが、コイツらの言う事もやる事も同意出来ない。

 コイツらはどうかしている。


「その三人を解放しろ! その方々はドーラ砦を竜や強大な魔物の大群から守り我らを救ってくれた恩人だ! いや、そうでなくても非武装で抵抗できない人間を傷つけるなど許さん!」


 騎士たちと共に四人組を包囲している姫騎士エヴァンジェリンが剣を向けながら無法者に俺たちの解放を要求した。

 格好は痴女そのものだがその堂々とした態度は心強い。


「ドラゴンか? レベル100そこそこで倒せるドラゴンなんかザコだろ、そんなの倒してNPCに感謝されて英雄気取りだったワケだ。笑えるぜ」

「なあリーダー、そろそろヤっちまっていいか? さっきからお預けばっかりで萎えちまうぜ」

「ウヒヒヒヒ! 萎えるモンなんか付いてねえだろ」

「うるせえ秋山! いちいち茶化すんじゃねえ! 萎えるモンは萎えるんだよ!」


 クローディアの言葉にシュナイダーは少し考えるようなそぶりを見せた後、口元を歪ませて笑った。


「ったく、やり過ぎると街に居づらくなるだろーと思って加減してたがこれじゃもうこの街の連中みんなブルっちまって面倒だし、温泉で混浴プレイは勿体無い気もするがもうこの街の目ぼしい女はヤっちまったしな。次はラレンティアにでも行くか」

「いいねえ、あそこの女王は好みのキャラデザなんだ。楽しみだぜ」

「つーわけで今夜がこの街で最期のお楽しみだな。この三人と姫騎士でシメでいいだろ?」

「ウヒヒヒヒ、そんならオレはそのロリエルフを頂くぜ」

「いいか? 騎士共も街の連中も痛めつけるだけで殺すなよ? 目の前で姫騎士サマと恩人の冒険者サマが犯されるのをたっぷり見せつけてやろうぜ」

「いいねえ、その後また群衆に輪姦されるシチュとかオレの大好物だぜ」

「まったく男ってのは、まあ私も良い子ぶったクソ女が犯されるのは見物させてもらうわ」


 いよいよマズい。

 ここで俺が中身は男だと言っても気にするような連中じゃないし、そもそも一番好色そうなヤツも女だ。リリカとナツミだってこんな連中に辱めを受けるのは耐えられないだろう。

 それにこんな奴らを野放しにはしておけない。しておいちゃいけない。

 一か八か抵抗を試みるか?でもどうやって?


「フッッッザケンなこのクソ共ッッ!! あたしがッッ!! そんなの絶対に許さないッッ!! お前らみたいな薄汚いゴミの好きにさせてたまるかッッ!! お前ら全員ブチ殺すッッ! 手脚もいで両目えぐって舌引き抜いて全世界に土下座させてから殺すッ! 絶対に殺すッ! この! 有坂奈津美(アリサカナツミ)がッ! お前ら四人とも地獄へ叩ッ込んでブッ殺すッッッ!!!」


 キレた。ものすごい勢いでブチキレた。女装ショタエルフの中の人が。

 でも今は状況が悪い。悪過ぎる。


「あん?」


 ナツミの大絶叫に騎士や群衆も含めた全員が一瞬呆気にとられたが、全裸の狂女クローディアがいち早く気を取り直すとナツミに近寄って脚を振り上げた。


「ブッ殺すってどうやるんだよクソ雑魚が、お前が死ね」


 マズい!

 俺の体が反射的にナツミとクローディアの間に飛び込み、世界が回転した。


「クラリスさん!?」

「クラリスにゃん!!」

「おい君!大丈夫か!?」


 どこかで声がする。周りが騒がしい。

 一瞬自分がどうなったのか解らなかったが、どうやらナツミの代わりに蹴り飛ばされた俺をその方向に居た騎士が数人がかりで受け止めたらしい。

 それに気付いてから脇腹に悪寒が走り喉を込みあげて来た赤い液体を吐き出した。

 血を吐くと同時に脇腹の悪寒は激痛に変わり俺は声も上げられずにうずくまった。

 体が勝手に震えて動く事も出来ない。視界も真っ赤に染まり周りの声もくぐもった音と耳鳴りで不明瞭だ。


「おい! そいつレベル1だぞ! 殺しちまったんじゃねえのか!?」

「そいつが飛び込んで来やがったんだから仕方ねえだろ!」

「プレイヤーならパーティーが全滅して神殿送りになれば復活するんじゃない? 気にする事ないでしょ」

「そういう意味じゃねえよ! これから楽しもうってオモチャを壊されたら意味無えじゃねえか! 俺は死姦なんて趣味は無えんだよ!」


 畜生、ふざけやがって…

 怒りが胸の中で荒れ狂いそうになった。


 が、直後脇腹の激痛が急速に引いて視界も聴覚も何もなかったようにクリアになった。震えも止まりこれなら動ける。

 俺はその事に驚いて自分の脇腹をさすって立ち上がろうとした。


「だ、大丈夫ニャ!? 立てるのニャ!?」

「クラリスさん! 良かった! あたしのせいで死んじゃったらどうしようかと…!」

「だ、大丈夫、もう何ともない」


 リリカとナツミが俺に駆け寄って心配そうに手を差し伸べて来たが、俺はそれを制して自分の足で立ち上がった。


「なんだ、生きてるじゃねーか。レベル1のわりにタフだな。クロも手加減できるようになったのか?」

「うっせーよ、そんなつもりは無かったけど、まあオモチャが壊れなくて良かったぜ」


 なおも悪びれる様子も無いクローディアとその仲間たちにリリカとナツミが向き合って構える。


「もうこうなったらやるしか無いニャ! 周りの騎士の人たちと力を合わせれば何とか…」

「何とかならなくてもやります! あたしがクラリスさんの仇を取ります!」


「…ったくメンドくせえなあ、仕方ねえ、前戯代わりにちょっと遊んでやるよ。来な」


 そう言ってクローディアは挑発するように腕を伸ばして手の平を上に向けて煽いで、

 その腕の肘から先が消えた。

 

 一瞬だけ空から閃いた光の線が通った跡を境に、クローディアの左腕の肘から先が地面に落ちたのだ。


「あ?」


 クローディアは間抜けな声を出して肘から先の無くなった左腕を見たが、少しして地面に膝をついて倒れこむと転げ回って絶叫した。


「ああああああ!? 痛ええええ!! 俺の腕が!? 俺の腕がああああッ!?」


「な、何だ!? 魔法か!?」

「何しやがった! お前らがやったのか!?」

「何? 何なの!?」


 四人組の無法者たちは何が起きたのか解らず狼狽えて口々に何か叫んでいるが、俺は星々の瞬く空を見上げた。


 ――――来てくれたのか。


 直後、俺たちと無法者たちの間に()()は降って来た。


 二つ、片方は高さ2メートル以上ある砲弾のような先が尖った円筒形の金属の塊が地面に突き刺さり、

 そしてもう片方は地面の石畳を割り、砂煙とプラズマバリアの放電を巻き上げて着地した膝立ちの姿勢から立ち上がる、白い旧型スクール水着のようなモノを着たショートカットで身長160センチ程の少女。


 少女がこちらを振り向いた。


「体内のナノマシンからのバイタル情報でマスターの身に損傷が確認されたため非常事態と判断し救援に参りました。遅くなったようで申し訳ありません、マスター」

「エ、エリカ…?」

「この惑星における生命体の判断基準の再評価と不明粒子の解析、及び惑星内での任務行動に適した装備の改良を行いました。この体もその一環です」


「エリカにゃん人間になったニャ!? じゃなくてロボニャ!? アンドロイドニャ!?」

「エリカさん本体が居たんですねえ…」

「私の本体と言うべきコアは旗艦エインフェリアの中枢です。この体は惑星内での行動サポート用として急造した端末に過ぎません。原住生物のお二人」


 実体を持って降って来たエリカに驚いて居た俺たちだが無法者がさらに喚き立てた。


「何なんだそいつは! レベルもジョブもステータスも無え! NPCでもねえ! 召喚モンスターか!? 知らねえぞそんなの!」

「オレ達が知らねえ魔法や召喚獣なんかあるわけ無え! チートか!? てめえらズル(チート)してやがったのか!?」


 彼らを一瞥してエリカが言う。


「この原住民はどうしますかマスター。銀河連邦宇宙軍の規定では未開惑星における人間型原住民の殺傷は原則として禁じられていますが、艦隊又は所属人員の独立行動時に危害を加える恐れがある場合その限りではありません。私の判断では殺処分が妥当と提案します」

「…こいつらは多分、見逃してもまた何処かで他人を遊び半分で踏みにじるだろうし生きている限り誰かを傷つけて殺すかもしれない。…でも正直、俺にはまだどうしようもない悪人だからって殺す覚悟も無い」

「銀河中の数々の星系で敵対勢力やテロリストなど、艦隊戦白兵戦合わせて116385人を殺害したマスターの言葉とは思えませんが、了解しました」


 そんなに殺してたのか、殺しすぎだろう(クラリス)


「ですが今は何故か、マスターのそういう所、私は好きです」


 少し笑ったような表情を見せてからエリカは無法者に向き直った。


「現時点での判断は保留。とりあえず行動不能にします。私のマスターを傷つけた分、痛みで償ってもらいますよ野蛮な原住民の皆さん」


 言うや否やエリカは一瞬で間合いを詰め、リーダーのシュナイダーという男を殴りつけた。

 殴られた男の頭が回転しエリカの拳が突き刺さったまま地面に激突して石畳を割った。


「おごぁ!? 痛ええ!! 痛ええ!! 助け! 助けろお前ら!」

「まだ喋れますか、やはりこの惑星の生命体には異常な生命力を持った個体が存在しますね。これなら思う存分殴れます」

「何やってんだ! 魔法だ! 魔法でこのバケモノを殺せ!」


 シュナイダーの声ではっとしたように気づいた秋山ともう一人の女が魔法を使おうとしたのか、両手を胸の前で合わせて何かを念じたが次の瞬間、夜空に一瞬だけ太陽が昇ったような眩しい光が広がった。


「何だ!? 魔法が出ねえ!」

「私もだよ!何で魔法が使えなくなってるの!? さっきの光のせい!?」


「不明粒子が生物体内、主に脳内シナプスの微弱な電気信号に反応して不規則に振動し、周囲の分子に影響して超自然的な現象を発生させる事は解析できました。微弱な電波に反応する粒子の性質上、高高度核爆発によるEMP効果で一時的に粒子の運動を阻害できるものと推定。実証はまだでしたが上手くいったようです」


 魔法を使おうとしていた二人は信じられないと言う顔で両手を見つめている。


「ですが四人を殴り倒すのは手間ですね。マスター、そちらの二人はお任せします。グングニルmk4陸戦アーマーを使用してください。宇宙軍の装備はこの程度のEMPでは影響を受けません」


 エリカが言うと一緒に降って来ていた金属の円筒の一部が開いた。


「アーマーの改良は間に合いませんでしたが着脱装置の小型軽量化とドラグーン及びハミングバードでの運搬を可能にしました」

「わ、わかった」


 俺は円筒の中に入るとハッチが閉じて着ていた浴衣が剥ぎ取られ、代わりに俺の体に次々とアーマーの各部のパーツ装着される。最後にヘルメットが装着されると再びハッチが開きヘルメットのHUDに満タンのシールド残量と少しだけ異常を示すバイタルサインが表示された。


 内腿にチクっとした痛みが走った。


「ついでですので医療用ナノマシンの補充を行いました数分で完治するはずです」

「ありがとうエリカ、でも次からは事前に言ってくれ」


 言って俺は秋山と呼ばれていた男に走った。

 タイムラグ0.001秒以下のパワーアシストによって一瞬で目の前まで距離を詰め、そのまま腹にボディーブローを叩き込む。

 手加減はしたが全力であれば戦車の装甲も貫通するパワーアシストで強化された多層特殊合金の拳によるパンチで秋山は吐瀉物を撒き散らしながらもんどりうって倒れた。


 残った女の方を向くと女は俺を見て恐怖に顔を歪めて叫んだ。


「なんだその鎧! そんなの知らねえぞ! 畜生! 何なんだ! 男どもも役に立たねえ! クソが! 何とかしろよシュナイダー! リーダーだろうがよ! オレが汚ねえチ◯ポまで舐めてやったのにそのザマかよ!」


 こいつも中身は男だったのか? 仲間にも秘密にしていたガチのネカマかよ。


 まあいい、女を殴るのは気が引けると思っていた所だがそれなら気兼ね無く殴れる。

 まあ今は正真正銘女で俺も似たようなものかもしれないが。

 そう苦笑したヘルメットの中でHUDに四角いカーソルが表示され[human]と表示されている。


 だからってなんだって言うんだ。これが人間か?


 なおも口汚く仲間を罵っていた女の顔を殴に多層特殊合金の拳を叩きつけた。


 それにしても呆気ない。レベル230のプレイヤーだからもっと手こずるかと思ったが、最初に腕を切り落とされたクローディアという狂人もそのまま無くなった腕を抱えてうずくまっているだけだし、リーダーの男もエリカにボコボコにされていはいるがまだ体は無事だ。

 ドラゴンや巨大猪の生命力を考えればレベル230のこいつらも相当のHPがあり、それ相応の耐久力はあると考える方が妥当だ。


「クロー…てめえなにやってんだ…聖女なんだから回復魔法を使えぇ…!」

「うるせえェーッ! こんな痛くて魔法なんか使えるワケねえだろ! てえめこそ殴られただけでへばってんじゃねえーッ!」


 そうか、痛みだ。


 体はこの世界で強大な力と生命力を得たが、心は元のPCの前に座っていたプレイヤー自身のままなのだ。体の痛みに慣れていない心はそれに耐えられない。

 俺だって蹴られた時はナノマシンのおかげですぐに痛みが引いたが少しの間動けなかった。あんな痛みがずっと続いていたら戦うどころではない。


 だが念の為でもある、EMP効果が切れた所で気力を振り絞って回復魔法でも使われたら面倒だ。

 まだ四人の中では一番元気そうなクローディアの髪を掴んで引き上げると、少しだけ個人的な恨みも込めてその顔面の中央を殴り抜け石畳に叩きつけて悶絶させた。


 俺は倒れた四人を見下ろし、もう動けない事を確認してから周りを見回した。


 呆気にとられているのか、俺の姿に恐怖を感じているのか、静まり返ってこちらを見ている群衆と騎士達。そしてエヴァンジェリン。

 その中でリリカとナツミが手を取り合って喜んでいた。


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