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8 許せない…こんなの絶対に許せない!

 ドーラ砦に迫り来るモンスターの大群にN(ノン)P(プレイヤー)C(キャラクター)の兵士達が城壁に備え付けられていた兵器をそれぞれ複数人で操作して迎撃の準備をしている。

 そうしている間にもはっきりとその姿が確認できる距離までモンスターの群れは近づいていた。


「なにアレ…イノシシ?」

「ギガントボアニャ……推奨レベル120以上、アンダレス山エリアの中ボスニャ…」


 先頭を走る猪のようなモンスターは全長10メートルにも及ぼうかという巨体で大地を揺らしながら走ってくる。すぐに地響きが砦の上まで伝わって来た。


投石機(カタパルト)! 発射用意!」

「「「投石機(カタパルト)! 発射用意!」」」


 姫騎士エヴァンジェリンという、この砦の責任者らしい痴女が号令をかけると等間隔で兵士たちの間に立つ部隊長らしき騎士たちが復唱して号令を伝え、城塞の屋上に設置されて居る投石機(カタパルト)で準備を終えた兵士たちが合図を送る。


「放て!!」

「「「放て!!」」」


 痴女の声と騎士の復唱に合わせて投石機(カタパルト)から大きさのバラバラな岩石が放たれる。

 迫り来るモンスターたちに次々と岩石が降り注いだ。先頭の巨大猪にも大きめの石が命中したが走る勢いは衰えなかった。


弩砲(バリスタ)隊! 撃ち方用意! ギリギリまで引きつけてよく狙え!」

「「「弩砲(バリスタ)! 撃ち方用意!」」」


 続いて城壁に設置されている固定式の弩砲(バリスタ)がそれぞれ3、4人の兵士たちによって操作される。


「撃てッ!!」

「「「撃てーッ!!」」」


 数十の弩砲(バリスタ)から発射された矢よりも槍か銛に近いそれは先頭を走るモンスターに突き刺さり、そのうちの何匹かが光の粒子となって消えた。


「こ、こうして見るとすごいですね…」

「…ニャあ」

「…うん」


 この世界が現実となり、初めて目にした大規模戦闘の迫力に圧倒された俺たち3人は口を半開きにしたままその様子を眺めていた。

 その口が半開きのままの俺に腰の通信端末からエリカが警告してきた。


『マスター、そろそろ離脱の準備を。原住民の原始的な兵器ではあの野生原生生物の群れは止められません』

「そうは言っても放っておけないだろ。アレに対抗できる大量破壊兵器以外の武装は無いか?」

『やむを得ない場合以外での未開惑星の生物同士の生存競争に介入するのは銀河連邦宇宙軍の方針では推奨されていません。現地点からの離脱が最善であると判断します』


 エリカの対応に猫耳(リリカ)が抗議の声を上げる。


「ひどいニャ! エリカにゃん冷たいニャ! 血も涙も無いのニャ!?」

『私はAIなので体液の類は存在しません。それにあなたのような原住生物にとやかく言われるのは不愉快です。有り体に言えばムカつきます』

「あのー、あたしはどっちかって言うと見捨てて逃げても良いんですけどそろそろモンスターの皆さんがご到着しちゃうみたいですよ」


 そんな事を言っているうちにモンスターの先頭集団が砦の外壁に到達してしまったようだ。

 ズシンと衝撃を伴った揺れに城壁の上にいた俺たちはバランスを崩してよろけた。

 巨大猪が砦の門に激突したらしい。


『門が破られるまでおよそ20分。マスター、離脱の準備を』


「とにかくまだ離脱はしない! ドラグーンに集団相手に有効そうな武器とクルセイダーを載せてステルスモードで上空で待機! 指示を出したら武器を投下してくれ!」

『まあ、マスターはそうなさるだろうと思いました。デルタT289星系でもゼータD997星系でもこんな事がありましたね。了解。ドラグーンをステルスモードにて該当地点上空で待機させます。到着までおよそ6分』


 そういえばゲーム中に未開惑星の原住民を救うクエストもあったがエリカにはそんな認識だったのか。


「リリカたちにも武器をよこすニャ!」

『原住生物に宇宙軍の装備を譲渡するのは軍規で固く禁じられています。それに登録されていない人物が持っても起動しません。原住生物は自分でなんとかしてください』

「ひどいニャ! リリカだって宇宙軍少佐でねこねこ☆ミルク艦隊の司令官だったニャ!」

『そのような記録は確認できません。妄言はほどほどにしやがりください』


 そんな事をやっているうちに周りでは既に城壁に取り付いたモンスター達に兵士達が石を落としたり槍で突いたりして応戦している。


 俺は背中のアサルトライフルのストラップを外し両手に持つと、長方形の箱のような形だったそれはゲーム中のアニメーションそのままに変形してバレルやグリップが展開し銃の形になった。

 ファルシオンmk42電磁バレルアサルトライフル。

 やだ、開発者電磁ナントカ好きすぎる…


「登ってきたぞ! 白兵戦準備! 一人で戦うな! 三人一組で各個に迎撃しろ!」


 痴女の声で城壁の上の兵士達が剣や槍を構える。

 そして程無くごく近い場所でモンスターが城壁を登ってきた。


「オークソルジャーニャ! アンダレス山で一番多いザコニャけど推奨レベルは50以上ニャ!」

「兵士のレベルは!?」

「わからないニャ! NPCにはそんなの無いのかもしれないニャ!」


 群がる仲間を踏み台に城壁の上まで登ってきた身長2メートル程の巨体のオークに痴女の命令通り、三人一組となった兵士が武器を構えて取り囲んだ。

 しかしオークの棍棒の一振りで三人もろとも吹き飛ばされて壁に激突し、そのうちの一人が血を吐いて一瞬痙攣したがその後ピクリとも動かなくなった。

 あとの二人も倒れたまま動かない。

 オークが醜い顔を歪め「グギャギャギャ!」と耳障りな声で笑った。


 あれ…もう死んだのか…?


 あっけなさすぎる。目の前で起きたそれが信じられず、俺は銃の引き金を引くことも忘れて呆然とただ眺めるだけだったがオークは俺たちの方を見るとさらに顔を歪めて笑った。


「オークは女を狙う! ここに居たら危険だ! 逃げろ!」


 そう叫んでオークの前に飛び出した兵士が再びオークの棍棒によって吹き飛ばされ、目の前の床に激突した。

 俺たちを追い返そうとした門番のおっさんだった。

 この人までこんな所に来て居たのか。

 助けようと駆け寄ったが首が歪に曲がっているのに気付いて俺は動けなくなってしまった。


「し、死んじゃったニャ? その人死んじゃったのニャ?」

「そう、みたいだ」

「でも、光にならないニャ? なんで普通に死んでるのニャ? こんな風にNPCが死ぬなんて…イベントの時みたい…ニャ…」


 モンスターもプレイヤーも、死ぬと光の粒子となってその場から消えるのにNPCは普通に、現実のように、死ぬ。神殿で復活したり再び湧いて出たりしない。そういう事なのだろうか。

 兵士の亡骸の前で立ち尽くしていた俺と猫耳にオークが迫った。


 だがそのオークは突然の突風で吹き飛ばされた。


「…ひどい…! 人の命を何だと思ってるの…!? 許せない…こんなの絶対に許せない! あたしがこの人たちの仇をとってやる! 許さないぞこの人殺しども!! 切り裂け!アイスニードル!!」


 激昂した女装ショタエルフ(ナツミ)が放った魔法らしい、無数の氷の刃がオークを切り裂き光の粒子へ変えた。


 えぇー……お前がキレるのかよ……

 見捨てて逃げようとか見下ろしてちんちん弄るとか言ってたじゃん……

 しかも魔法の呪文みたいな事まで言ってノリノリじゃん……


 人間、怒ったり悲しんだりした時、近くにそれ以上に激しく怒ったり悲しんだりしている人間がいると案外平静になるもので俺と猫耳(リリカ)はお互い目を合わせた後、頷いて行動に移った。


「登って来たやつらはリリカたちが何とかするニャ! クラリスにゃんは他のを何とかするニャ!」

「わかった! エリカ!ドラグーンは!?」

『目標地点到達まであと1分。もう少しお待ちください』

「到着次第武器を投下してくれ! ロケットとグレネードランチャーだ!」

『了解』


 俺は城壁から身を乗り出して下に蠢いているモンスターたちに向けアサルトライフルを構えた。

 視界に十字のクロスヘアと残弾が表示され、無数の四角いカーソルがモンスターたちに重なりその全てに[unknown]と表示される。

 俺が引き金を引くと一番近くまで迫っていたオークの顔面に三つ小さな穴が空き、取り付いていた城壁から落ちて他のモンスターの波に消えた。

 俺は手動のバースト射撃で城壁に取り付いているオークを撃ち落としたが数が多すぎる。

 他の場所ではもうかなりの数のオークや似たようなモンスターが城壁の上まで登っている。

 兵士達も懸命に応戦しているが状況は良くないようだ。

 唯一ここより東側の城壁だけはリリカとナツミの活躍によって次々とモンスターが倒され、押しとどめられている。


 さすがにレベル120と100のプレイヤーだけあってこの位のモンスターには負けないようだ。ただ、リリカはまだ魔法が使えないらしく素手でモンスターを殴り殺しているが。


『ドラグーン到着しました。兵装を投下します』


 エリカの声とほぼ同時に上空から先の尖った砲弾のような形の武器コンテナが落下してきて城壁の床に突き刺さりその一角が開いた。


「エリカ! ドラグーンの機銃で城壁の上にいる敵対勢力を狙撃しろ! 下から登って来てるバケモノどもだ! それ以外には当てるな!」

『了解。お任せくださいマスター、状況は理解しています』


 エリカに命令するとともにコンテナからアサルトライフルと入れ替えにアロンダイト6連装グレネードランチャーを取り出し、城壁の下のモンスターの群れに向けて六発全てを放った。

 バス、バス、バス、と小気味良い発射音と共に発射された着発信管の榴弾はそれぞれモンスターの群れの中に飲み込まれると同時に轟音を立てて周りのモンスターを吹き飛ばす。

 それに前後して上空から降り注いだタングステンの銃弾が城壁の上に到達していたモンスターの脳天だけを正確に貫き、それらは崩れ落ちた。


「な、何だ!? 何が起きている!? 魔物どもがひとりでに倒れたぞ!」


 突然、脳天から人間のそれよりどろっとした赤黒い血を流して倒れたモンスターを見た痴女が慌ててあたりを見回して、コンテナに弾切れのグレネードランチャーを収納してロケットランチャーを取り出した俺に気付いた。


「そ、そこの冒険者! お前がやったのか!? その武器は何だ!?」

「発達し過ぎたある種の魔法だよ」


 そう言って俺は、下でなおも城門に体当たりを続ける巨大猪に向けてトライデント対装甲二連装ロケットランチャーを発射した。

 ロケット弾は猪の脇腹に命中し炎と爆音をまき散らし、周囲のモンスターを巻き込んで猪の巨体が横倒しなった。止めにもう一発ロケット弾を発射し、猪の頭部が半分ほど吹き飛んだ。


「やったか?」

『やっていません。対象は腹部の筋肉とかなりの内臓、及び脳の大部分を損傷したはずですがまだ生命活動が停止しておらず立ち上がろうとしています。想定外です。生命力という範疇を越えています』


 エリカの報告を聞いて俺はしまった、言ってはいけないことを言ってしまったかと焦ったが城壁の上の敵が居なくなり駆け寄って来た猫耳(リリカ)が言った。


「アイツめちゃくちゃHPが高いって聞いたニャ! たぶんそのせいニャ!」

「HPって…そういう事なのか…?」

「わかんないけど他に思い当たらないニャ!」


 どうやらこの世界のモンスターも予想より厄介らしい。

 だが猪は相当弱っているし、残った他のモンスターもそう多くはない。


「でもまあ、あんだけ弱ってれば後は魔法で……」

「す、すいません…ちょっと…MPを使い過ぎました…もう何もでませんー…」


 そう言って息を切らせながら猫耳(リリカ)の後ろに付いて来た女装ショタエルフ(ナツミ)はへたり込んでしまった。

 まあ頑張ったのだからとやかくは言うまい。


 仕方ない、残りのモンスター共々ドラグーンからの機銃斉射で止めをさそうかと考えていたら、エリカが新たな情報を報告して来た。


『マスター、その原生生物の住処と推定される山から巨大な生物が飛行してそちらに向かっています。その個体と同様に異常な生命力を有している場合、危険度C++以上になると推定。携行火器での対応は困難です』


「巨大な生物が飛行って…なんか、多分アレだろうなって予感がする」

「多分当たりニャ。アンダレス山エリアのボスキャラはアレニャ」

「ボスキャラが配置場所無視して出てきちゃいかんだろ…」

「困ったニャ。これからはドロップ狙いのボス狩りは難しいニャね」


 そう言って見上げた陽が傾き始めた遠くの北の空に、アニメやゲームで何度も見たことのあるシルエットが浮かんでいる。


 もうこうなったらとことんやってやるさ。


「エリカ! クルセイダー投下!」


次回、アレVSアレ

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