ママはパパっ!?
あたしには自慢の綺麗なママ、カッコイイパパがいます。二人はいつもラブラブで、あたしは幸せです。
「ママぁ! 今日のご飯なにぃ? 」
テーブルの上に身を乗り出して聞く。と、ママが振り返って笑う。
「今日はね……焼きそばよ! 」
「えぇ!? また、焼きそばぁ!? 」
もう4日も焼きそばだ。あたしがブーブー言っていると、パパが調理をしようとしているママの所へ行く。
「お前はちっとも料理、駄目だな……成長期の加奈の事を考えろ。」
「じゃぁ、涼ちゃん作ってよぉ」
相変わらず、娘の前にも関わらずイチャイチャしている。
「おい。加奈、何が食べたい? 」
急に問を投げ掛けられる。
「あたしは麺以外だったら、何でもいいよ」
「……そ……そうか」
「ママはねぇ、ハンバーグ食べたぁい」
「お前に聞いてないわ」
ママはパパにデコピンをパコッとされる。
結局、ママの要望でハンバーグとなった。
「凄い。美味しそうなハンバーグ」
ママが作る、焦げ焦げのハンバーグとは違い、パパのハンバーグはレストランで出てくるような完璧な出来映え。綺麗に盛り付けられたソレを口へ運ぶと、魔法みたいに幸せな気持ちになれた。
「涼ちゃんの料理は美味しいわねぇ」
「お前も一応、主婦なんだからご飯くらい作れるようになれ」
「はぁい」
「もぅう、イチャイチャしてないでよっ。イライラするぅ」
「そう思ってんなら、早く見つけろよ。いい男」
パパが言うとママが睨み付ける。ケンカを阻止するべく、話をそらす。
「そういえば、家族で温泉とか、プールに行った事ないね? 」
二人の顔つきが凍る。
「そうだったけぇ? 」
パパが困ったような顔で笑う。
「そうだよ。大人になった、あたしのビキニ姿、見たくないの? 」
「ビキニぃいっ!? 加奈! あんなハレンチな物着ないのっ」
ママが叫ぶ。パパがあたしに跳びかからんとするママを、押さえつける。こんな調子だから、あたしは秘密にしていた。十六歳にして、初めて出来た彼氏の事。
(ここ気になるなぁ)
鏡の前で、おでこに出来た大きなニキビを撫でながら、大きなため息をつく。太ももを摘まむと、セルライトが浮かぶ。
(こんなんなら、サボらないでダイエットしとけば良かった)
「待ったぁ? 」
「う〜ん? ちょっと」
あたしと彼氏の光太郎は、いつも海辺のバス停で待ち合わせして学校に行く。夏の日差しに照されたて、少し日に焼けた光太郎はなんだか少し色っぽい。
「そういえば、夏休み始まるじゃん」
「うん。どうしたの」
「だからさ、近いし……今度の水曜に海行かないか」
「え!? 本当に? 」
「可愛い加奈の水着姿見たいし」
(これは、大変な事態だ! 究極のダイエットモードに入らなければ……)
「どうしたのよっ! こんなに食べないなんて……具合悪いの? 」
「ただのダイエットだよ……」
「いやぁ、涼ちゃぁん。加奈がダイエットなんて言ってるぅ」
「そういう、年頃だろ? 」
「ダイエットなんてしなくても、加奈は可愛い! むしろ、可愛いすぎるっ! 」
「はぁ……じゃぁ、あたしランニング行ってくる」
「え……加奈ぁ!? 」
ママの声を無視して外に出る。夕方の生暖かい風が、身体をつつむ。
(よし)
あたしは走る。恋する力があたしの原動力だ。
約束の前日、あたしは最終チェックに入る。
ニキビ無し
ムダ毛無し
ビキニ良し
体型まぁまぁ
ネイルばっちし
(これで安心して、明日を迎えられるぅ)
あちしが背伸びをして喜んでいると……
ガチャッ
「加奈ちゃん? 何してるのぉ?」
「うわっなっ何!? 」
ママが部屋を覗いてきたので、あたしは急いでビキニをバックに隠す。
「ママに言えない事なの? 」
「いや……ちょっと明日、友達と海行くんだ」
「ふぅうん」
怪しい、とも言いたげな表情でママに見つめられ、あたしは冷や汗が溢れ出る。
「ま、いいや」
バタン
ママは部屋から立ち去った。やっと蛇から解放された様な疲労感がどっと身体を襲う。
(最近、ダイエットとかでも、疲労たまってたし……はぁ、もうダメ)
ジリジリジ
ガチャ
「加奈ぁ? 起きなくて大丈夫ぅ? 」
「あ……やっ!? こんな時間!? 」
あたしは飛び起きる。もう、約束の時間を過ぎている。
「おせぇよ」
「ごめん」
海につくと光太郎は本当に怒っていた。あたしと目すら会わせない。
「遅刻してきた割にはメイクばっちりじゃんか……そんなんやってる位なら早く来いよ」
「メイクがそんなの……? 」
(光太郎に会うために可愛くしてきたのに……)
「だいたい、毎回来るの遅いし……そんなんだったらメイクすんな」
「光太郎……」
「ん? 」
「光太郎のバカぁ! 大っ嫌い」
「そ、大嫌いなら俺は帰るよ」
「……」
光太郎が見えなくなると、あたしはその場に座り込んだ。
(大人げない……あたしが遅刻し続けているのが、原因なんだ)
海を眺めていると、カップルばかりが目に映り、寂しさが増す。
(あんな事言って……もう、嫌われちゃった……)
光太郎に出会った頃、光太郎とデートした事……いろんな思い出が浮かぶ。自然と涙が流れおちる。
「涙は似合わないよ。お嬢さん」
「きゃっ」
目の前に突然、二十代後半くらいの金髪のサーファー風の男が現れる。あたしは予想外の訪問者に腰をぬかす。
「良かったら、一緒に遊ばない? 俺、彼女にドタキャンされて一人なんだよね」
「はぁ……」
「じゃぁ、決まりだね。まずは腹ごしらえといきますか」
「へ!? 」
金髪の男はこちらが返事をしてないのにも関わらず、強引に海の家に引きずりこむ。
「おごりだからジャンジャン遠慮せずに食べてよ」
「あははは」
席にすわるなり、そう言う男からいつ、逃げようか? と試行錯誤していた。
「俺、焼きそば! 彼女も焼きそば? 」
「あっ焼きそばは……」
「嫌いなの?」
「昨日も一昨日も焼きそばだから……」
「じゃぁ、大好物だね。お姉さん、焼きそば2つお願い! あ、あとたこ焼きも」
多分、この男はリスニングのテストをしたとしたら赤点だ。あたしは苦笑いした。
「しかし、凄く可愛いね。おまけにスタイルもいい」
「え……誰が? 」
あたしは思わず聞き返す。
「君の事だよ」
「そんなぁ……全然、ぷにぷにですよッ」
「あれ? 彼氏とかに言われない? 」
「……彼氏ですか……」
(光太郎は今、どうしてるのかな? 帰っちゃたのかな? )
「彼氏いないの? 丁度いいね……俺も今からフリーになった所」
「彼氏はいます……でも……」
「どうしたの?俺なら何でも聞いてあげるから……」
「……え」
男が急に腰に手を回して抱きついてくる。
「静かな所に行こうよ……」
「ちょっと、触らないでくださいっ」
「何いってんだよ? ちょっと手をまわしただけだろ? 」
腰にまわした手が水着の中へ入る。
「離してよっ」
あたしは腕を振り払って男におもいっきり、ビンタをくらわしてやる。
「何すんだよっ! この女っ 」
男が殴りかかる。
そこに、誰かが割って入る。凄く、綺麗な男の人だ。
「加奈ちゃん。大丈夫? 」
(なんで……あたしの名前知ってるの? )
「ちょっと待て! 俺がソイツ殺るんだからなっ!手出すなよっ」
突然の次の声の主を見ると、そこには光太郎がいた。
「光太郎ぅ……」
涙が溢れる。
あたしは、光太郎に抱きついた。
「おっおい……
なんだよ、俺……カッコ悪……」
光太郎を見ると、涙が溢れていた。
「光太郎……大好き」
あたしは、光太郎にキスをする。勿論、唇に。
「加奈ぁ!? 何してるのよっあんたぁ」
「は」
あたし達が抱き合っている間に、必死に金髪男を倒してくれた親切な美形男はまるで、女みたいな声をあげる。
「……あれ、お前の父親だろ? さっき、合流したんだよ」
「しっ知らない……パパは茶髪じゃないし、髪は短いし……あんな変なんじゃないっ」
あたしは、現実を理解するのが嫌だった。
だって、そういう事はママがパパみたいじゃない?
「……何してんだよ、晃ぁっ」
「あら、涼ちゃん」
「げっ何してんだよっ! 加奈いるじゃんかっ 」
新たに現れた人物は、ワンピース風の黒の水着を着てあらわれた。
「ごめんね。時が来たら言おうと思ってたんだけど……本当は、パパはママでママはパパなんだ」
申し訳ない顔で、ママみたいなパパは言う。
「は……」
「良かったな? お前の家楽しそうじゃん」
無責任に光太郎が笑う。
「いや……」
「え」
「もう、どっちでも……あたしの親なんだから、関係ないよ
ママ、守ってくれて、ありがとう」
あたしは、ママに抱きつく。そうだよ。本当はパパだったとしとも、ママはママでパパはパパ。
ちょっと変わった家族だけど、大好きです。パパもママも、みんな宝物です。