表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

命の欠片たち

私の退屈な一日  ~明日が来なければいいのに~

作者: 羽入 満月

 私の一日の始まりを告げる悪魔の音が鳴り響く。目覚まし時計を止めながら、布団の中でため息をつく。


 体は重いし、頭も重いし、気分も重い。そんな重さを引きずりながら布団の中から這い出る。


 重たい体を引きずりながら、取り合えず、洗面所へ移動をする。

 そこで、体操服を着るのだが、まず、部屋の隅に座って固まる。

 なんて言ったって体が重いし気分も重いのである。

 はりきることなんてできるわけがない。

 ひとしきり座って、朝の支度をする。


 何とか着替えて朝食の席に着く。

 用意された朝食を半分ほど食べ、おもむろにトイレへ立つ。

 さりげなく、自然にトイレへ向かい、扉を開け、中に入り、扉を閉め、鍵を閉めると、一気に便器に顔を突っ込み吐く。

 今食べたものをすべて吐いたところで、口をゆすいで、何もなかったかのように残りの朝食を食べる。

 一時期、口に入れることもできなかったことを考えれば上出来である。


 そのまま、制服を着て、学校へ歩き出す。


 ようやく私の退屈な一日の始まりである。


 学校へ向かって歩きながら、髪の毛を縛りなおす。大体、朝、時間が無くなるので、歩きながら髪の毛を縛るのである。


 学校が近づくたびに視線は下がり、足取りも重くなる。

 ただコンクリートを見つめながら、通いなれた道を歩く。

 学校が見えてきて最後の横断歩道までくると、回れ右をして帰りたくなる。

 それでも意地で足を動かし、学校までたどり着く。


 ここからだ。

 ただ下を向いて自分の教室を目指そうと思うのに、靴箱から嫌がらせが始まり、教室につくまでに聞きたくもない言葉を聞かされる。

 自分の机にたどりついたって、視界にはいたずらされた机が現れる。

 よくもまあ、毎日、飽きもせずやるもんだ。と思いながら奥歯をかみしめ、爪が食い込むほどに手を握る。

 こちらからの声なんて聞こえてないふりをされるのに何で私の耳は聞こえないふりをできないんだろう。


 カバンの中から小説を出して、読み始める。

 今、宿題を教卓に出しに行っても、どうせ私の宿題が一番上になって地味に傷つくだけだから。

 でも、小説なんて頭に入ってこない。耳はひたすら悪口を聞いている。

 反応しない私に「耳悪いんじゃない?」「まさか自分のことだとは思ってないんじゃないの」とか言われても泣かないって決めたから。

 泣いたって誰も助けてくれないし、面白がってまたいろいろ言われるだけだから。


 授業が始まれば、消しゴムをぶつけられ、歩けば足を引っかけられて、移動すればキモイと言われて。

 ただ座ってるだけで、存在を否定される。運動が得意じゃないから体育の授業は笑いものだし、グループを作って、ペアになってと言われたら、お約束。必ず一人残る。

 こんな時は、そうやっていうしか自分が上だって自信が持てない私よりかわいそうな奴らだと下に思わなきゃやっていられない。


 私が何をしたっていうの?いじめの始まりがわからない。さして何か大きな理由があったわけでもなく突然始まった苦行なのだ。


 何とか午前の授業が終わったら、次の難関。

 給食だ。

 重たいスープの容器を二人で運ぶはずなのに、なぜか私だけで運んでいることがある。

 ま給食当番だった場合、私のよそった給食は受け取ってもらえない。そして、配膳が終わって自分の机に行くと給食がない。まあ、小食で食べることにあんまり興味がないから自分で量が調節できるからいいんだけど。

 給食当番じゃなかった場合。教室の一番奥の列から公平に順番に配膳しましょう、というルールになっている。

 しかし、みんな自分のを配膳してから、ルールにのっとるのが、暗黙のルールになっている。

 私も自分のを作ってから、教室奥の机からは配膳するが、誰も私の作った給食を食べたくないとたらいまわしにするのである。

 作らなければ、さぼっていると悪口を言われる。


 給食を食べ終わると担任がお代わりにおにぎりを作ってくれる。

 出張に行ったときにふりかけを買ってきてくれることもあり、人気なのだが、私はもらったことがない。

 だって、給食ですらいらないのにおにぎり、いらない。ふりかけ、好きじゃないし。

 担任は、一度も食べてくれたことがない悲しそうな顔をする。


 大体、先生のことを信用してない。

 助けてくれないし、見て見ぬふり出し、事なかれ主義だし。

 そんな奴に悲しそうな顔をされても、私は傷つかない。


 何とか給食が終わる。

 一度悪口に耐えきれず、吐いたことがある。

 トイレまで持たないと思い、でも教室はまずいと窓からベランダに向かって吐いた。

 まあ、その後の罵詈雑言はひどかった。

 だから、学校では、気持ちで乗りきるのだ。


 午後の授業も何とか乗り切り、さっさと帰るのだ。

 いろいろな言葉を聞き流し、靴を変え、早歩きで学校を後にする。

 塾の時はそのまま向かうが、塾のない日はひたすら地面を見ながら家まで歩く。


 家について、玄関を開けて、カバンを投げ捨ててトイレへ直行。


 吐くのだ。

 吐ききるために手を突っ込んで。

 吐きダコもできた。

 塾の日ははかないので、塾があるおかげで、吐きだこは今のところ成長してない。


 トイレから出たら、普通におやつを食べて、宿題をする。

 ここからようやく、平日はしばしのくつろいタイムである。あとは、金曜の夜からサザエさんの時間までだ。


 夜ごはんも普通に食べて、テレビを見る。

 テレビの趣味が世の中の中学生と違うため、話が合わないのだ。まあ、話す相手はいないけど。

 みんながアイドルにきゃっきゃ言っているときに、私はサスペンスを見る。

 恋愛ドラマなんて興味がない。

 小説だって、赤川さんとか内田さんが好きだから話が合わない。漫画はたくさん読むけど少女漫画は読まない。


 ずれていたって、ずれていることを笑いものにされるだけだから、別に口に出さない。


 お風呂に入るころには、またテンションが下がり始める。

 布団に入るころには、最低まで下がってる。


 それからは長い夜の始まりである。

 月を見上げて今日言われたことを思い出す。

 泣き声を上げずにただただ涙だけを流すのだ。

 時には、叫びたくなったり、あばれたくなったりする。

 そしてまた月を見上げて、真仁田を流すのだ。

 そして丑三つ時を過ぎたころ、ようやく眠りについたと思ったら、また憎っくき朝が来る。



 そんな毎日を三年過ごした。

 それでも私は学校(せかい)から逃げることができなかった。

 周りに逃げてもいいよって言ってくれる人はいなかったし、たまに学校で配られる電話相談なんて繋がったことはない。



 --------------


 今悩んでいる人は、その学校が世界のすべてである。

 だから、ほかの世界もあるんだよって教えてあげてほしい。

 別に声をかけてほしいとか、助けてほしいとか言わない。

 ただ、こっちに道があって、ほかの世界につながっているんだいって手招きしてくれるだけでいいと思う。

 だって、今の世の中、それを許してもらえるようになってきているから。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ