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無題  作者: ケケロ脱走兵
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(9)

 あくる朝、美咲はかつてそこで働いていた母に連れられて店を訪れ、


店長に謝り、二度としませんと誓約して容赦してもらった。それから


何事もなく過ぎ、やがて受験勉強に追われる日々が始まり、志望校へ


の高校への入学を果たした。その頃から夕方だけコーヒーショップで


アルバイトとして働き始め、高校生活も特に何事もなく過ぎ、三年生


になるとすぐに大学受験が控えていたのでそれどころではなくなった。


当初は自宅から通える都内の大学を受ける予定だったが、ところが願


書を送る直前になって突然京都の大学へ行きたいと言い出した。それ


は、仕送りを求められる親にとっては大きな負担だった。妻から都内


の学校にするように説得してもらったが思い直してはくれなかった。


彼女は子供の頃から頑固で一度言い出したら人の話を聞こうとはしな


い。遂には学費だけ工面してくれればアルバイトをしながらでも通うと


まで言い張った。もちろん彼女の京都への憧れは知っていたがいった


い何故京都の学校なんだ、すると妻が、


「彼氏が京都の大学を受けるのよ」


「何だ、そういうことか。それで上手くいってんのか?」


「今はね」


離婚歴のある彼女にとってそれは含みのある言葉だった。妻が言うと


ころによると、彼氏の実家はそもそもが京都にあった。父親の転勤で


一家で東京暮らしを選んだが、いよいよ年が明ければ京都へ戻ること


になっていた。


「どんな子?」


すると妻が、アルバムを持ってきて美咲の彼氏を教えてくれた。もち


ろん見覚えがなかったが、なるほど美咲の好きになる男とはこういう


青年なのかとシゲシゲと眺めていると、


「ほら、この前の美咲の誕生日に居たじゃない」


「ああ、私が帰って来るのを待っていた奴か」


彼は、次女に「己然」(キサ)と名前を付けた親の顔が見たいと言って


一人残って私の帰りを待っていた。頭を下げた青年は今でいうイケメ


ンだった。私は親の直感からただの友達ではないと気付いたことを思


い出した。もうその頃には、私は美咲から疎まれて話しもしてくれな


くなっていた。それはある朝、便所に入ろうとするとすでに満室で、い


くら待っても施錠が解かれる様子がなく、妻によれば娘が便秘で苦し


んでいると教えてくれたので、それでは「鍵」が明かないと思い馴染み


のコーヒーショップに駆け込んで用を足した。帰り掛けにマスターが「


故障?」と訊くので、確かにクソ丁寧に「娘が便秘で便所から出て来


ない」みたいなことを吐いたのを、巡り巡って何時の間にか当の美咲


の耳にまで届いて、彼女は血相を変えて私に詰め寄り、


「もう、絶対に口を利かない!」


と、ついに絶縁を言い渡されるに到った。

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