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無題  作者: ケケロ脱走兵
40/45

(40)

 ベットに横たわって天井を見詰めていた。あっ、妻とは同じ寝室


ではなかった。それは、私が元気で仕事をしていた頃から、帰宅時


間がまちまちで、更に定まった出勤時間もあってないようなものだ


ったことから、寝入っている彼女の邪魔をしないように自然とそう


なった。さらに告白すれば、元気な頃なら、わずかしかない寝る間


さえ犠牲にしてまでも忙しく彼女の部屋をノックしたものだが、病


気をしてからは、日がな一日無為に過ごしているくせにその気には


ならなかった。恐らく、欲望というものは仕事をするとかの消耗の


後から補われるもので、身体を動かさない不労者は欲望そのものが


減退していく。ということは、原始の世界に於いて、生命体はまず


最初に動いたに違いない、そしてその失ったエネルギーを補うため


に欲望が芽生えたのではないか。つまり、喪失こそが欲望を芽生え


させ、絶望こそが希望へと転換する。人間は欲望に従って生きてい


るというのは倒錯した生態学ではないか。希望がなくては生きて行け


ないなんて嘘だ。生きていれば希望は生まれるのだ。そんなことを考


えていると、ますます睡眠欲が失われて眠れなくなってしまった。


 しばらくまんじりともせず天井を見詰めていると、病院のベット


で考えてたことが甦ってきた。それは、近代社会は終焉を迎えよう


としているのではないか、ということだ。ひと頃のように消費者は


新製品に心騒ぐことはなくなった。かつては、食うことを控えても


どうしても手に入れたいモノがあった。それまでの暮らしを劇的に


に変化させる電化製品や社会インフラに夢が膨らんだものだが、そ


れらもコモディティー(必需品)化して魅力を失うと、何もベンツで


なくたってスズキの軽自動車で充分快適で、ところが、欲望だけが


バブル化して妄想となり、現実は経済成長を新興国に奪われて縮小


する一途にもかかわらず、その想いと現実のギャップに不満が鬱積


している。バブル経済はすでに崩壊して久しいが、我々の欲望のバ


ブルだけは未だ崩壊せずにあるのではないだろうか。これまで科学


技術は人々のバブル化した妄想を叶える夢の技術だったが、我々


の妄想はすでに人間としての限界を越えてしまいバブル化した欲望


に浮き上げられて地に足が着かないでいる。つまり、いまでは我々


の欲望が日常のくらしに耐えられないほどにバブル化してしまってい


るのだ。


 経済評論家や政治家たちは、日本経済を再生させるにはデフレ経


済からの脱却こそが急務だと口を揃えて訴えるが、それでは、その


効果的な政策はとなると誰一人ビジョンを語らない、否、語れない。


弱小チームの監督が最下位からの脱却が急務だと訴えるに等しい。


それではどうするのかと言えば、景気浮揚のための財政緩和を先行


させれば更に債務が膨れ上がり、かと言って消費増税による財政再


建を図れば経済が失速する。つまり、車の前後を塞がれてすでに動


けなくなってしまっているのだ。経済のグローバル化によって新興国


の安い製品が輸入され品質もさほど劣らないとなれば、高価は廉価


に駆逐され経済がデフレ化するのは必然ではないか。つまり、我が国


は出来もしないデフレ経済からの脱却などという幻想を追わずに、出


を減らして地道に負債を減らす他にいったい如何なる再生の手立てが


あるというのだろうか?厖大な負債を抱えた現状を国家存亡の時と


して認識しない限り、つまり、これまでのような放漫財政を改めない限


り債務依存から抜け出すことなどできないはずだが、巨額の債務が


新たな債務を生む借金地獄に陥っているにもかかわらず、構造改革


は口先だけで「ゆで蛙」のように先送りして、やがて、すべての道は「


ギリシャ」に通ずるのは火を見るよりも明らかだ。我々は、経済大国


の夢から目を覚ましていま置かれた現実を見詰めなければならない。


日が昇る前には暗黒の夜を耐えなくてはならないのだ。そうでなけれ


ば、賭博の負けを取り返そうと焦る博徒のように、危ない橋を「渡れず」


に、デフレ経済から脱却するための如何なる試みも更なる負債を積


み増して子供たちに背負わせる結果になることだろう。


 グローバル経済の下で、機械化によって生産されるコモディティ


ー化したあらゆる工業製品は、これからも人件費の安い新興国から


輸入され、先進国の消費物価を押し下げて、デノミ経済のスパイラ


ルから抜け出すことなど困難だろう。そして、それら新興国の経済


成長を支えているのは、実は、この国の格差社会の底辺で暮らす非


正規社員などといった低所得者たちなのだ。つまり、生活弱者にと


っては、デフレ結構、百均バンザイなのだ。そして、その低所得者層


はジワジワと増え続けているいるのだ。

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