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無題  作者: ケケロ脱走兵
3/45

(3)

 私は、一刻も早く死臭が漂うその場から立ち去りたかったので滑り


込んで来た電車に、満員だったが乗客の背中を押し込んでドアの中に


身を収めた。ただ、満員の車内に居てもあの眼が脳裏から消えなかっ


た。吐き気を覚えながらあの眼はどこかで見た記憶があると思ったが、


思い出すことが出来なかった。電車が県境の河を越えて快速電車が止


まる乗換駅に着くと下車してトイレに駆け込んで吐いた。ホームに戻


ると快速電車が入って来たのでそれに乗った。座席を確保して流れる


風景を眺めていると、思い出した。


「そうだっ!靉光(あいみつ)だ、靉光の眼だ!」


画家、靉光の描いた「眼のある風景」は、土塊なのかそれとも腐敗し


た肉塊なのか、シュールなその塊りの中に人間の眼だけが具象的に描


かれていた。その眼は、悦びや哀しみといったこの世で生きる者が抱


く感情を失って別の世界からその絵を観る者を凝視していた。つまり、


その絵を観る者は同時に絵の中の眼に見られていた。何も語らずただ


見詰めるだけの眼だ。私と目が合った頭部だけになった死者の眼はま


さに靉光が描いた眼だった。その鋭いまなざしは生きる者たちのいか


がわしさを訴えていた。私がその視線に耐えられなかったのは自分の


怯懦を見透かされた羞恥からだ。自分のさもしい私欲を暴かれたから


だった。



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